分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する歯科医の中には、安全なアマルガム除去を推進している人たちがいます。

歯科の修復材料として100年以上使用されてきた歯科アマルガムですが、水銀が含まれているために米国や欧州を中心に様々な健康被害が報告されています。そのため、日本でも歯科アマルガムの使用に対して疑問視する声が出されてきました。

しかし、歯科アマルガムに含まれる「水銀」に関しては、歯科医の間でも、その取り扱いや安全性に関して見解の相違があります。

また、「安全なアマルガム除去」は日本では自費治療となります。一般的な歯科治療と比較して治療費は高くなる傾向にあり、患者は全額負担しなくてはなりません。

こうした点が、「安全なアマルガム除去」に対する理解を浸透させていく上での障壁になっていると考えます。

「安全なアマルガム除去」を実践するにあたり、歯科医は然るべき教育を受け、安全な除去法を学びます。また、治療中の患者のみならず、歯科医や補助スタッフが「蒸発した水銀」にさらされないよう徹底した防御対策を講じます。

そのため、歯科アマルガムを取り除く治療費は、1本あたり数万円と設定している歯科クリニックが多いようです。

治療費には水銀汚染から防護するための設備や備品、解毒を促すための点滴、サプリメント、アフターケア、食事指導、内科医との連携など、一連のサービスが含まれているケースが大半です。

しかし、残念ながら多くの歯科医は、「安全なアマルガム除去」を提供するに至るまでの理由や理論、影響について知る機会はほぼありません。

そのため、「安全なアマルガム除去」は「一部の歯科医が経済的な動機に基づいて、利益を得るために推進している」という偏った情報として語られていることが散見されます。

ここでは「安全なアマルガム除去」が、世間一般からどのように認識されているかについて考察してみると共に、「安全なアマルガム除去」を実践する歯科医がどのような思想を持って治療に取り組んでいるのかをご紹介したいと思います。

アマルガムに対する現在の歯科業界の状況

歯科アマルガムは、過去1世紀以上にわたって使用されてきたという圧倒的な実績があります。

歯科アマルガムは、下記のようなメリットがあるために、歯科治療で長らく使用されてきました。

  • 材料費が安価
  • 水銀の永続的な抗菌作用が期待される
  • 型取りが不要で、治療の当日にすぐ詰められる
  • 治療した後に虫歯になっても痛みが出にくい

歯科アマルガムのデメリットとしては、審美性が圧倒的に悪いことが挙げられます。上から被せ物をしない限り、歯科アマルガムを詰めただけでは、金属が露出して「銀歯」が他の人から見えてしまいます。

歯科アマルガムは保険が適用される上に、治療を行う医師にとって取り扱いが比較的簡単な素材であったために、「含まれる無機水銀が安全である」という誤った知識から、水銀が含まれているにも関わらず広く普及しました。

一般的な歯科医は、歯科アマルガムの危険性についてはほとんど知りません。若い世代(2017年の時点で30歳未満)の歯科医の中には、歯学部での実習や実際の臨床現場を含め、「歯科アマルガム」に触れたことがないという人もいるでしょう。

40代以上の医師であれば、歯学部の実習で歯科アマルガムを取り扱った経験があったり、治療として患者や自身の歯に歯科アマルガムを詰めたりしたことがある人は、相当の割合で存在すると考えられます。

2017年の時点で、歯科アマルガムを用いて治療を行っている歯科医院はほとんどありません。

「歯科医が好んで歯科アマルガムを用いている場合」や「小さな子供が暴れるために、処置の時間を短時間で済ませたい場合」、「患者が歯科アマルガムの使用を強く希望する場合」などの特殊なケースを除いては、患者にアマルガムを使うことはまずないといってよいでしょう。

また、日本では、2016年4月の保険制度の改正により、アマルガムは保険診療の対象から外れました。よって、「歯科アマルガムが新しく歯に詰められる」ことはなくなりつつあります。

既に詰められている歯科アマルガムとどう向き合うか

歯科治療の現場からほぼ姿を消した歯科アマルガムですが、ここで問題となるのは、「既に歯にアマルガムが詰められている状態」をどう捉えるかです。

アマルガム充填は、2016年まで保険適用になっていました。しかし、「除去」に関しては、未だ保険が認められています。

一般的な歯科医は、既に詰められているアマルガムについては、審美的な理由や虫歯などの二次的な要因がなければ、あえて除去する必要はないと考えている人が多いようです。その理由として、「歯科アマルガムに含まれる水銀は、合金の粉末と混ざり合っている。極めて安定した状態なので、溶けだすことはない。」としているようです。

また、歯科アマルガムを容認している歯科医は、アマルガムに含まれている水銀が「無機水銀」であることを理由に、安全性が担保されていると考えているようです。

このように、一般的な歯科医の多くは、現在口の中に入っているアマルガムに関して「水銀の危険性は心配する必要はない。アマルガムの劣化や消耗が少なく、患者が支障なく生活できているのであれば除去する必要はない。」と捉えていることが多いです。

そのため、「歯科アマルガム」が原因で様々な体調不良が起きていることに対して、歯科医師の意識が向かう機会は少ないようです。

仮に、歯科アマルガムを除去することになった場合、安全な措置を行っていないと、患者はもとより治療にあたる歯科医や補助スタッフは水銀にばく露してしまいます。

歯科アマルガムの金属をドリルなどで削り出した際には、目に見えない水銀粒子や水銀蒸気が飛び出し、治療室から離れた受付や待合い室にまで飛散することが報告されています。

水銀蒸気や水銀粒子がどのくらい空気中に飛散したのかは、水銀ガス測定器などの機械があれば、空気中の水銀レベルを容易に計測することができます。

治療中に水銀が飛び散らないよう防護を行うことは必須ですが、こうした措置を怠った場合、同じ環境にいた全員が一定以上のレベルで水銀にさらされていることになります。

しかし、個人によって健康に被害が出たり、出なかったりするために、歯科アマルガムに対する危機意識が共有化されていないのかもしれません。

歯科アマルガムの危険性に対する認識の違い

海外では歯科アマルガムの危険性が、何十年も前から叫ばれています。スウエーデンでは妊婦に使うことが禁じられ、イギリスやデンマークでは全面的に使用が禁止されています。

我が国では、1956年に熊本県で発生した「水俣病(みなまたびょう)」の原因物質として、水銀が中枢神経や内分泌器、腎臓などの器官に障害を与えることが広く知られています。

世界的規模での環境に配慮し、また、過去に生じた公害に対する反省から、水銀そのものを地球規模で廃絶しようという風潮が強まっています。

また、既に述べたように、日本では30年ほど前から歯科アマルガムの使用は徐々に減り始めており、現在ではほとんど使用されていません。保険適用の対象からも外れています。

しかし、歯科アマルガムの危険性に対する認識が広がっているとは言い難く、同じ歯科治療に携わる治療家からも「安全なアマルガムの除去」に対して異論が噴出しています。

水銀がもたらす危険性に関して、歯科業界の主流は注意喚起を促しているものの、「歯科アマルガム」そのものの危険性や完全撤廃に関しては言明を避けているようです。

こうした背景があるため、歯科アマルガムを容認している歯科従事者や専門団体からは、「安全なアマルガム除去」に対する理解や共感は得られにくい状況になっています。事実、歯科医療の業界からは、「歯科アマルガムの危険性」に関するコンセンサスは得られていません。

歯科アマルガムの危険性に懐疑的であることと、そして、除去費用が患者の自己負担となることから、「安全なアマルガム除去」の取り組みに対して否定的な立場を取る人たちが大勢いるというのが実情です。

歯科アマルガムの使用は問題ないと捉える歯科医からは、「歯科アマルガム除去に含まれる水銀に対して過剰に反応している」と見られることもあるようです。

また、既に詰められている歯科アマルガムを不必要に除去することによって、歯科アマルガムから水銀が蒸発し、それを吸い込むために健康が害されると述べている歯科医もいます。つまり、既に詰められた水銀に関しては、そのままにしておいた方がよいという立場を取る歯科医も存在するということです。

歯科アマルガムの危険性を示すエビデンスの欠如

歯科アマルガムが人体に悪影響を及ぼし、病気の原因となっていることは各種の研究論文から示されています。

米国ではIAOMT(国際口腔毒物学会)という学会組織があり、ここでは歯科アマルガムが体に及ぼす影響について、様々な科学的エビデンスをもとに啓蒙活動を行っています。また、歯科医が集う年次総会では、アマルガムを除去した患者の症例を報告しています。

しかし、これらの文献は比較的小規模な研究成果であったり、マイナーな専門誌に掲載されたりするものが大半です。Nature(ネイチャー)やScience(サイエンス)といった科学のトップジャーナルに掲載された研究論文ではありません。

そのため、歯科アマルガムが、身体的疾患・精神的疾患の両方に悪影響を及ぼしているという因果関係を示すには、根拠が乏しいと見なされています。

IAOMTでデータベースには、歯科アマルガムに含まれる水銀が、うつ病や統合失調症、自閉症、認知症、アルツハイマーを引き起こすとした文献が存在します。また、妊婦の歯の中に詰められている水銀が胎盤や血液を通じて胎児に移行し、奇形や発達障害、流産を起す可能性があることに関しても示唆されています。

しかし、欧米でも日本でも、医学界の主流からは、「こうした疾患と歯科アマルガムとの関連性は低い」と認識されています。

歯科アマルガムの危険性を認めることは「自己否定」になり得る

「歯科アマルガムの危険性」を認めることは、ある意味で、歯科医が培ってきた経験や実績、自信を自ら損ねるということにも繋がりかねません。

歯学部の授業や実際の臨床で歯科アマルガムを使うことを推奨されてきた歯科医の中は、歯科アマルガムを良かれと思って患者のために詰めてきた人がいます。

そのため、これまで間違った情報を患者に伝え、治療として提供してきたことを心苦しいと感じる人もいるようです。

これは、金属アレルギーを引き起こす他の金属性の詰め物に対しても同じことが言えます。

しかし、歯科アマルガムには水銀が含まれているため、他の金属とは異なる側面があります。大掛かりな設備投資をした上で安全な除去を施すことは、歯科医本人に様々な心理的影響を与えるようです。

歯科医を取り巻く環境はそれぞれ異なります。そのため、歯科医の中には、歯科アマルガムの危険性を認識してはいるものの、危険性について情報発信することを躊躇(ちゅうちょ)したり、安全なアマルガムの除去法を学ぶことに消極的になっていたりする人もいると聞いています。

安全な歯科アマルガムの除去に取り組む歯科医が信じていること

これまで述べてきたように、「安全なアマルガム除去」に取り組む場合は、理論を学び実践を経ながら、患者が水銀にばく露しないよう何重にも及ぶ安全措置を実施することが前提となります。

そのためには、日頃からの訓練や治療を通じた経験や実績の蓄積が欠かせません。また、各種の学会や勉強会などに参加し、最新の情報交換を行うことが推奨されます。

歯科クリニックでは、様々な設備や備品(水銀計測器、防護服、ガスマスク、ゴム手袋、水銀吸着クリーム、点滴製剤、サプリメントなど)のために投資を行います。こうした設備投資は、最低でも数百万円以上のコストがかかります。

こうした「万全の態勢」を築く目的は、患者だけではなく、治療を行う歯科医自身に危険が及ばないようにすることです。

さらに、病院スタッフに対する教育や実習も定期的に実施しなくてはいけません。患者に対する説明責任を果たし、的確な接遇を行うためには、スタッフの協力が欠かせないからです。

「安全なアマルガムの除去」を行っている歯科クリニックの中には、スタッフ一丸となって、水銀を解毒するための食事やサプリメント、薬、生活習慣などについて学ぶため、総合的な教育プログラムを実施しているところもあります。

また、患者に対して、定期的に病院内でのセミナーを開催し、「栄養素のはたらき」や「体のしくみ」について、啓蒙活動を実施しているところも多いです。

しかし、一般的な医師は、「安全なアマルガム除去」を実現するまでの「道のり」や「労力」を、一部始終理解しているわけではありません。

単に「安全なアマルガム除去」の治療費が高いことを理由に、「経済的な合理性だけを追求した治療」として否定している人もいます。

こうした状況は、「安全なアマルガム除去」に従事する歯科医にとって、この治療法の普及活動を推進する上での心理的圧力となる可能性があります。

同時に、「歯科アマルガムが原因で体調不良に陥っている患者に正しい情報が行き届かない」というリスクにも発展します。

「安全なアマルガムの除去」を提供する医師は、海外からの最新情報や臨床現場から、水銀による健康被害を目の当たりにしています。

そして、患者の中には、歯科アマルガムを除去したことによって、症状が大きく改善し、見違えるようになった人も存在します。

そのために、患者にとって不利益となる状況は何としても是正しなければならないという考えを持っています。

一人でも多くの患者を助けたいという想いに突き動かされた歯科医たちは、あらゆるリスクを承知の上で、「安全なアマルガムの除去」に取り組んでいるのです。

決断するのはあなた自身

歯科アマルガムの危険性に関する情報をどう解釈するかは「個人の自由」です。

歯科アマルガムの危険性を認知した際に、「歯科医として安全な除去法を習得し患者に提供するのか」、あるいは、「患者として安全な方法でアマルガムを取り除くことを希望するのか」は、個人の選択に委ねられます。

しかし、歯科アマルガムの危険性に関する客観的な情報公開がされないことで患者の知る権利が奪われ、自分の健康を害した原因について知ることができないとすれば、それは大変残念なことです。

そして、「安全なアマルガム除去」を提供することを志した歯科医の理念や信条、使命感が、外部からのプレッシャーによって抑圧されてしまうことは、あってはならないことだと考えます。

「安全なアマルガム除去」に取り組む歯科医たちは、困難が予想される環境に突き進むことを理解した上で、敢えて「安全なアマルガム除去」による治療を啓蒙しています。

そのことは、是非知っておいて頂きたいと思います。

安全なアマルガムの除去を検討する場合

もしあなたが「アマルガムに含まれる水銀が人体に及ぼす影響」や「安全なアマルガム除去」について興味・関心を持ったならば、インターネットや書籍で調べてみましょう。

「安全なアマルガム除去」を実践している歯科クリニックのウェブサイトで、より詳しい情報を発信している場合があります。

また、実際に治療を受ける場合、費用や治療の流れ、含まれるサービスに関しては、各クリニックに直接お問い合わせ下さい。

歯科医としてこれから「安全なアマルガム除去」の理論やハンズオンを学びたいと考えている場合は、認定制度を導入している各学会組織に問い合わせ下さい。

内科医と歯科医の連携による一人の患者の治療

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する内科医の中には、歯科アマルガムによる健康被害を強く認識している人がいます。

そうした医師たちは、内科的疾患が発生する原因のひとつに「水銀中毒」が潜んでいると捉えます。

水銀をはじめとした有害金属によって生体の様々な代謝が阻害され、健康な体を維持するための機能が低下してしまうことは、分子整合栄養医学を実践する医師の間では「常識」だからです。

医師が患者の中に金属の詰め物があると認めた場合、それが歯科アマルガムであるかどうかを確認するために、然るべき歯科医院へ紹介を行うことがあります。

内科医は、口の中の歯に詰められた金属が歯科アマルガムかどうかを判断することはできません。歯科医のみが、判断することが可能です。

そして、患者の希望に応じて「安全なアマルガムの除去」を行います。「安全なアマルガムの除去」を行ったことで、内科的疾患が改善された例が臨床で多数報告されています。

こうした医科と歯科の連携による治療が広がっています。

監修:歯科医師・医学博士 高野仁男