ストレスを感じたときに真っ先にその悪影響を受けるものとして、おなかがあります。

  • 大事な商談の前に緊張でお腹が痛くなって下痢をしてしまう
  • 毎朝会社に出勤するのが苦痛で便秘になってしまった
  • 苦手な上司と会食をすることになったが食欲がまったく湧かない

こうした経験は誰にでもあると思います。

ストレスで気分が落ち込んでしまったときにおなかの調子がおかしくなってしまう背景には、「脳と神経の反応」と「腸内の善玉菌」が関係しています。

私たちの生活を取り巻くストレス自体を減らしたり、なくしたりすることは難しいかもしれません。しかし、気が滅入るような出来事が起きても軽く受け流せるような考え方を持つように心がけ、ストレスが起きてもそれに負けない丈夫な腸内環境を準備しておくことは可能です。

ストレスに過敏に反応して疲れ切ってしまわないよう、自分なりの対処方法を見つけておくことは、心の負担を軽減していく上でも役立つはずです。

ストレスからダイレクトな影響を受ける自律神経

私たちの体には「自律神経(じりつしんけい)」と呼ばれる情報伝達のしくみがあります。自律神経はその働きに応じて2種類に分けることができます。

1つめは興奮や緊張、驚きといった感情が高まったときに活発になる「交感神経(こうかんしんけい)」です。2つめは安心や平穏、心地良さといった感情を覚えるときに活発になる「副交感神経(ふくこうかんしんけい)」です。

良好な健康を維持するには、この2つの神経のバランスが取れていることが重要です。

しかし、ストレスが溜まると、私たちの体では交感神経の働きが優勢になります。その結果、腸をはじめとしたあらゆる器官が正常に働かなくなってしまいます。

そこで外部からのストレスによって自律神経のバランスが乱れてしまうメカニズムを理解し、ストレスの存在をなるべく小さなものに変えていく方法を身につけましょう。そうすれば、自分の感情が振り回されてしまうのを防ぐことができるようになります。

自律神経の基本的な働き

自律神経は具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。

まず、自律神経は自分の意思とは無関係に身体の機能を調整する働きをしています。

たとえば、内臓を動かす、血液を流す、栄養を吸収する、老廃物を回収するといった働きがあげられます。自分の意思によって動かしたり、止めたりすることができない心臓や腸は自律神経によりコントロールされていることになります。私たちが寝ている間に意識せずとも呼吸ができるのも、24時間働き続けている自律神経のお陰なのです。

自律神経には、正反対の働きをする交感神経と副交感神経の2つがあることは既に説明しました。この働きについて、より詳しい内容をまとめると下記の表になります。

名称 気分・感情 体での役割
交感神経 興奮、集中、覚醒 運動機能を高める(アクセル)
副交感神経 安心、冷静、睡眠 内臓機能を高める(ブレーキ)

交感神経は日中活動している時に活発になり、副交感神経は安静時や夜に活発になります。交感神経はエネルギーが体の外側に向かって運動機能を高める役割を果たし、副交感神経はエネルギーが体の内側に向かって内臓機能を高める役割を果たします。

交感神経は身体を活発に活動させるアクセルの働きをして、その反対に副交感神経は身体を休ませるブレーキの働きをすると考えてください。

このとき、両者のバランスを崩壊させてしまう原因のひとつがストレスです。より厳密にいえば、外部にあるストレスを私たちがどう認識するかによって2つの自律神経の動き方やバランスが変わってきます。

脳の反応により、交感神経が優位になってしまう

私たちが身の回りで起きた出来事を認識するのは脳です。そして、人間の脳は大脳、小脳、脳幹の3つの部分に分けられます。

大脳の一番外側には「大脳新皮質(だいのうしんひしつ)」があります。大脳新皮質が発達したことによって、人間は合理的思考や言語、知性、創造性などの複雑な感情を生み出せるようになりました。

大脳新皮質のひとつ内側にあるのが「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」です。大脳辺縁系は、食欲、性欲、眠欲など、生まれたときから備わっている本能に加え、喜怒哀楽などの感情を生み出し、楽しかったことや苦しかったことなどの記憶の呼び起こしを担っています。

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交感神経と副交感神経の2つの自律神経は、大脳の下に位置する「視床下部(ししょうかぶ)」によってその働きが支配されています。

外部からのストレスを受けて不愉快なできごとが生じると、大脳辺縁系に怒りや恐怖、悲しみの感情が芽生え、その情報が瞬時に視床下部に伝えられます。

次に、視床下部は受け取った情報を自律神経に渡し、交感神経が興奮することとで血圧が上がったり、心臓がドキドキしたり、全身から冷や汗が出たりします。

本能的に危険を察知した脳からの情報を受けて、危機に対処するよう全身の状態が一瞬で変化するのです。

一方で、大脳新皮質が大量のストレスにさらされて耐え切れなくなると、突発的な感情や衝動的な行為を抑える能力が弱められてしまいます。普段なら嫌なことが起きても理性的に振る舞い、感情を抑え込むことができるのに、ストレスによって調節が不能になると自分では歯止めがきかなくなってしまいます。

その結果、緊張して頭が真っ白になったり、凍りついて動けなくなったりするなど、パニックに陥ってしまうのです。

人間には、目の前に差し迫った危機や敵に対して「逃げるか」「戦うか」を判断する闘争・逃走反応が本能として備わっています。このとき、私たちの体はストレスが生命を脅かす緊急事態だと認識するために心拍数や呼吸が早くなり、筋肉が縮んで緊張することで臨戦態勢に入るのです。

普段の日常生活において、直接的に命を脅かすようなストレスが発生することは滅多にありません。しかし、小さなストレスであっても、それが長期間続くと交感神経を休みなく刺激することになります。その結果、副交感神経が正常に働かず、本来体が必要とする休息や回復の機能が落ちてしまうのです。

捉え方を変えることでストレスの存在を小さくする

身の回りで起きた出来事がストレスになるかどうかは、その人の「感じ方」次第で変わります。ある出来事に対して嫌悪感を抱いたりショックを受けたりする人もいれば、まったく気にも留めない人もいるからです。多くの場合、経験した出来事がマイナスの感情をもたらしたことがきっかけとなり、それがストレスだと自覚されるようになります。

起きた出来事の捉え方が脳に影響を与え、自律神経のバランスを崩す原因になっているのだとしたら、まずは脳での感じ方を変えてみることは意義があります。

例えば、職場で苦手な業務をしなくてはいけない場合や顧客から理不尽なクレームが来て対処しなくてはならない場合、これをストレスではなく、自分に課せられた挑戦だと捉え直すことができます。「挑戦に挑んで問題を解決すれば、人として大きく成長できる」と考え方を変えれば、ストレスそのものではなく業務内容に集中することができます。

つまり、ストレスをどうやって解消するかではなく、仕事をどうやって成し遂げるかに自分の意識をシフトさせるのです。

ストレスの捉え方を変える以外に、自分が相手より上のステージに立って、高い次元から状況を観察してみる方法も有用です。

友人や同僚から身に覚えのない悪口や噂話をされたとき、相手の感情につられて自分も怒ってしまうと状況は悪化するばかりです。まずは一呼吸おいて、離れた場所から第三者の視点で見てみると、相手が言っていることはひがみややっかみでしかないことがわかります。

冷静な視点から見つめ直すことができれば、相手に対して怒りの感情が芽生えることはなくなります。むしろ可哀想な人だと哀れみの精神で相手を見たり、心の中で一切無視したりすることができるようになるので、相手の幼稚な言動にいちいち反応しなくて済みます。

これ以外にも、好きなことや得意なことに熱中することで、ストレスを対処することに費やされていたエネルギーを違う方向に向けてストレスの存在感を薄くしていくことができます。

交感神経が優位になることで生じる腸の機能低下

自律神経は交感神経と副交感神経の両者がバランスよく働くことで、自律神経の調和が保たれます。しかし、このバランスが崩れると、自律神経の支配下にある腸の働きが変調をきたし始めます。

今まで述べてきたように、ストレスを受けると興奮に関わる交感神経が活発になるため、胃や腸など内臓の働きは制限されます。こうなると十分な胃酸が分泌されずに食欲が低下したり、胃もたれをしたりすることがあります。反対に胃酸が出過ぎて胃が痛むこともあります。

同様に腸の調子もおかしくなります。食べた物を消化しやすい大きさまで分解し、栄養素を体に取り入れる機能が弱まることがあります。

また、腸が伸びたり縮んだりしながら入ってきた食べ物を肛門まで移動させて、便として排泄する「ぜんどう運動」にも支障をきたすようになります。

ぜんどう運動が減少し、腸内で便の通過速度が遅くなることで便が長時間滞留し、必要以上に腸内で水分が吸収されるために便秘になることがあります。

場合によっては、その反対にぜんどう運動が増加し、便が直腸へ運ばれる速度が速くなったために腸から体内に水分が十分吸収されず、泥状の便や水っぽい便が出たり、下痢になったりする人もいます。

副交感神経が優位になる工夫をする

ストレスの影響を受けて交感神経が体を支配してしまうと、心が張り詰めてしまい腸の機能が低下します。このようなとき、乱れたバランスを取り戻すためには、当然ながら副交感神経を活性化する必要があります。

ストレスを解消し、リラックスする方法にはさまざまなものがありますが、その中でも副交感神経を高める方法を探し、簡単に実践できるものから取り入れるのが効果的です。

例えば、すぐに行えるものとしてアロマセラピーや公園の散歩があります。

アロマオイルによるセラピーは、ヨーロッパを中心に古くから伝わる植物から抽出した香りを用いた治療法です。神経の高ぶりや不安感をしずめ、副交感神経を刺激してリラックスさせる作用があると言われています。

代表的なアロマの香りとして、ラベンダー、オレンジ、ヒノキ、カモミールなどがあります。自分が心地よいと感じる香りを選んでお風呂に数滴垂らしたり、専用ポットで焚いたり、ディフューザーを使って部屋に香りを充満させて楽しむことができます。

また、近所の公園を散歩するのも手軽な方法です。公園に行くとたくさんの緑に触れられ、小鳥のさえずりや川のせせらぎなど自然が作り出す音を聞くことができます。

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自然の発する音には高周波が含まれています。この音と聞くと、私たちの脳の中で「α波(アルファー波)」と呼ばれる電気信号(脳波)が生じます。

α波は、集中力が高まっているときや気分がリラックスしているときに多く出る脳波だと考えられています。実際、私たちが自然の中に身をおいた時に心が癒され爽快な気分になるのは、α波の効果によるものだと言えます。

近くに公園がない場合や天気が悪くて外出することができない場合は、動画共有サイトなどでα波に関連する動画を見つけて音を聞くことができます。α波には眠気を促し、熟睡へと導いてくれる効果もあるため、寝る前に音を聞くのはお勧めです。

腸内の善玉菌を増やすことでストレスによる腸トラブルに備える

普段から腸内環境を整えておくことも有用です。私たちの腸内には、体にとって有益な善玉菌と悪さを働く悪玉菌、そして善玉菌と悪玉菌の優劣に応じて自らの働き方を変える日和見菌(ひよりみきん)の3種類が住んでいます。これらを総称して「腸内細菌(ちょうないさいきん)」と呼びます。

善玉菌は腸内の働きを高め、病原菌やウイルスなどの攻撃から体を守る役割があることから健康維持には欠かせない存在です。しかし、ストレスを受けたり下痢や便秘になったりすると、腸の中に住む善玉菌が減ってしまうことが確認されています。

宇宙飛行士を対象としたこの実験では、ストレスの多い訓練プログラムを受けた後の宇宙飛行士たちの便の成分が分析されました。その結果、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が減少し、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増加していることが観察されました。

悪玉菌が増えて善玉菌が減ったということは、病原菌やウイルスなどの攻撃から体を守る免疫力が弱まったことを意味します。

また、腸では精神状態を安定させ、幸福感をもたらす「セロトニン」という物質が作られています。このセロトニンは、腸内の善玉菌を増やすことでより効率的に作ることができると考えられています。

腸内の善玉菌が減ってしまえば、腸で作られるセロトニン量は減ります。そうなると、ストレスをより悲観的に捉えるようになり、物事を前向きに捉えられなくなり、精神的に打たれ弱くなります。また、自律神経のバランスも簡単に崩れるようになってしまいます。

加えて、腸内細菌のバランスは、食べ物のカスを腸から肛門まで運ぶぜんどう運動にも深く関与しています。

善玉菌の一種である乳酸菌やビフィズス菌は、乳酸(にゅうさん)、酢酸(さくさん)、酪酸(らくさん)と呼ばれる「有機酸(ゆうきさん)」を作り出します。善玉菌が作り出す有機酸は、腸内を弱酸性にしてくれます。

腸内が酸性に保たれることで腸の細胞が刺激され、ぜんどう運動が活発になります。反対に、悪玉菌が多ければ腸内はアルカリ性となり、腸の細胞は刺激を受けずにぜんどう運動は起こりにくくなります。その結果、食べた物のカス(便)が長時間体の中に滞留するため悪玉菌が腐敗し、有毒な物質を発生させます。

これらの一連の流れをまとめると下記のようになります

  • ストレスにより自律神経のバランスが崩れ、交感神経が優位になる
  • ストレスそのもので善玉菌が減り、悪玉菌が増える
  • ストレスに負けない強い精神を支えるセロトニンが減る
  • 善玉菌が作り出す有機酸が減り、腸が酸性からアルカリ性になる
  • ぜんどう運動が少なくなる
  • 腸の機能が低下し、下痢や便秘になる

これらは同時にいくつも発生するケースもあれば、ある一つのことが原因となって悪循環を生み出すケースもあります。

このように、善玉菌はストレスに負けない精神力を養うことを手助けしてくれる大切な存在です。加えて、ストレスの増加や自律神経の乱れによる腸の働きが低下するのを防ぐ役割も果たしています。

ストレス自体をゼロにすることはできないため、ストレスを軽減できるような体にしなければいけません。ストレスによる精神的なダメージを軽減し、腸内環境が変化したときでも耐えられるような健康を保ち続けるのです。その方法の一つとして、普段から腸内を善玉菌でいっぱいにしておく手段があります。