女性の心と体の状態はホルモンのバランスや生理周期によって大きく揺れ動きます。特に、毎月の生理前には女性ホルモンが作られる量が変わるため、ホルモンバランスが乱れて心身に不調をきたすひとが多くなります。

このように、生理が開始される約10日前に生じる様々な症状を月経前症候群(げっけいぜんしょうこうぐん:PMS)と呼びます。月経前症候群は、生理が始まると症状が軽くなって徐々に消えますが、人によっては生理の期間中でも辛い症状が持続する場合があります。

ここでは女性ホルモンの働きと月経前症候群の症状に加え、この病気を緩和できると期待されている栄養素について解説していきます。

女性の体を支えるホルモンの働き

ホルモンとは血圧の調節や体温維持、栄養素の消化・吸収、脂肪の蓄積などを行う働きがあり、体の外部や内部で変化が起きた時でも、身体の状態が一定に保つための機能を持っています。

こうしたホルモンの中で、女の人では女性ホルモンが活発に分泌されます。女性ホルモンは、生殖器である卵巣(らんそう)で作り出されます。

女性が男性に比べて丸みを帯びた柔らかい体格をしていたり、乳房がふくらんだり、毎月生理が起こるのは女性ホルモンが合成されるからです。また、女性ホルモンは、女性が安全に妊娠や出産ができるように、子宮内の準備を整える働きもします。

女性らしさを生み出し、妊娠に備えるホルモン

女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)と呼ばれる2種類のホルモンがあります。

エストロゲンは、女性らしさを生み出すホルモンです。肌や髪にツヤを与えたり、骨や血管を丈夫にしたり、新陳代謝を活発にして痩せやすくしたり、自律神経を安定させたりする働きがあります。

プロゲステロンは、女性の体が妊娠しやすいように働くホルモンです。そのため「母のホルモン」と呼ばれています。

精子と卵子が結合して受精卵(じゅせいらん)が誕生すると、エストロゲンによって子宮内膜(しきゅうないまく)が厚くなったところに、受精卵が着床(ちゃくしょう)します。プロゲステロンはこの受精卵が育ちやすいように、子宮内膜の環境を整えることで妊娠を維持します。

下記に女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの役割をまとめます。

エストロゲン(卵胞ホルモン) プロゲステロン(黄体ホルモン)
・子宮内膜を厚くする
・月経を起す
・肌や髪を艶やかに保つ
・骨や血管を丈夫にする
・新陳代謝を活発にして痩せやすくする
・自律神経を安定化させる
・体温を下げる
・子宮内膜に受精卵が着床しやすい環境を作る
・妊娠を維持する
・水分を溜め込む
・食欲を増進させる
・血糖を調節する
・性欲を増大させる
・体温を上げる

2つの女性ホルモンと生理が起こるしくみ

上記で述べたように、女性ホルモンは女性の体を妊娠・出産しやすくするように働いています。それに伴って、卵巣で作られる卵子と子宮内膜の厚さは、1ヶ月単位で周期的に変化します。

この周期内に妊娠すると、女性の体は出産に備えて本格的な準備をしていきます。その反対に、周期内に妊娠しなければ、子宮内膜が剥がれて月経(生理)が生じ、新たなサイクルが再びスタートします。

このようなホルモン分泌や子宮内膜の変化、卵胞が成熟していくリズムを月経周期(生理周期)といいます。一般的に月経周期は、生理が開始してから次の生理が始まる前日までのおよそ28日間を指します。

下記の図に示したように、月経周期は、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4つに分かれます。

月経周期の概要

月経周期によって女性の体内では、2種類のホルモンの分泌量が変化し、それと同時に子宮内膜の厚さや体温が変動します。

卵胞期
卵胞期は体温が低くなり、エストロゲンの分泌量が増えていく時期です。エストロゲンは卵巣で生産されますが、その量やタイミングをコントロールしているのは脳の下垂体(かすいたい)から出される卵胞刺激ホルモン(FSH)です。卵胞刺激ホルモンの指令を受けて大量のエストロゲンが放出されます。

このとき、子宮内膜は徐々に厚くなっていきます。エストロゲンによって子宮内膜が厚くなるのは、受精卵を迎えるためのふかふかのベッドを用意するようなものです。

排卵期
エストロゲンの分泌がピークを過ぎると、次に脳から黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。そして、卵巣にある卵胞(らんほう)から卵子が飛び出します。これを排卵日(はいらんび)といいます。この排卵日に性行為をすれば、卵子と精子が出会う確率も高くため、妊娠しやすい時期といえます。

黄体期
卵子が飛び出たあとの卵胞は、黄体に変化します。そして、黄体からプロゲステロンが分泌されます。プロゲステロンには体温を上昇させる作用があるため、この時期の基礎体温は高くなります。

もし、卵胞期から黄体期の間に妊娠して受精卵が子宮内膜に着床すると、黄体から多量のプロゲステロンが分泌されるため月経は始まりません。このとき、子宮内膜はエストロゲンやプロゲステロンの作用によって厚さを増し、妊娠をサポートできるようにします。

月経期
卵胞期から黄体期までの間に妊娠しないと、次の月経期のサイクルを迎えます。月経期では、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が激減します。そして、不要になった子宮内膜がはがれ落ち、血液と共に体外へ排出されます。

月経前症候群とは

これまで述べてきたように、女性の体は約28日のサイクルで妊娠に向けた準備が繰り返されています。そして、次の周期を迎えるまでに、2つの女性ホルモンが分泌される量は変動します。

こうしたホルモンの分泌バランスが崩れると、生理前の体に様々な症状が現れる場合があります。これが月経前症候群です。

月経前症候群になると、心と体の両方が不健康になります。人によっては日常生活や仕事、勉強ができなくなるほど体調が悪化し、寝込んでしまうケースがあります。

月経前症候群の症状

月経前症候群の症状は多岐にわたり、100種類以上あると考えられています。つまり、生理前に生じるあらゆる体調不良が月経前症候群だと認識されているのです。月経前症候群の症状として代表的なものがいくつかあり、主に身体的な症状と精神的な症状に分けることができます。

身体的なPMSの特徴:
下痢・便秘が起こる、下腹部に痛みを感じる、腰が痛い、頭が痛い、体が重くだるい、乳房が張る、顔や足がむくむ、肌があれる、ニキビが出る、のぼせる、とてつもなく眠くなる、食欲が止まらなくなる。

精神的なPMSの特徴:
イライラする、怒りっぽくなる、言動が攻撃的になる、ぼーっとして集中できなくなる、気分が落ち着かない、ふさぎこむ、孤独な気持ちになる。

月経前症候群の患者の中には、腹痛や吐き気、頭痛などに耐え切れずに寝込んでしまう人がいます。すると、職場や学校に通えなくなったり、日常生活を起こることが困難になったりします。

このように、社会生活が営めないほど深刻な症状を、月経困難症(げっけいこんなんしょう)と呼び、PMSとは別の病気として認識しています。

月経前症候群の原因

PMSが発症しまう背景にはいくつかの原因があります。その例をいくつかご紹介します。

ホルモンバランスの乱れ:
黄体期に分泌されるエストロゲンとプロゲステロンのホルモンバランスが乱れると、月経前症候群が発症すると考えられています。女性ホルモンはごくわずかな量であっても全身に作用します。

そのため、黄体期でのホルモンの分泌量に急激な変動が生じ、このときに体が対応しきれなくなると、月経前症候群として様々な症状が起こると考えられています。

血糖の調節異常:
黄体期では、プロゲステロンがインスリンの働きを低下させることが知られています。インスリンは膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込むように働くホルモンです。

インスリンの働きが低下すると、体内の血糖値は上昇します。そのため、体がインスリンをより多く分泌して血糖を下げようとした結果、今度は血糖値が下がりすぎてしまいます。すると、体は再び血糖を上げようとします。こうして、血糖の上昇と低下が繰り返されることになります。

このとき、脳では体内の血糖を一定に保とうとしてアドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモンを分泌します。こうしたホルモンはイライラやパニック、不安、攻撃といった気分を引き起こすため、人によっては精神状態が不安定になります。

セロトニンの低下:
月経が始まる直前では、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が低下しており、これに伴って、脳内のセロトニンが低下すると考えられています。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれ、リラックスした感情や平和で幸福な気持ちなど、気分に良い影響を与える作用があります。

そのため、エストロゲンとプロゲステロンの影響で脳内のセロトニンが低下すると、うつ症状や恐怖感、イライラ、疲労感が引き起こされるといわれています。

プロゲステロンの作用によるむくみ:
プロゲステロンには体内に水分を溜めようとする働きがあります。そのため、生理前になると顔や手足がむくんでしまう場合があります。

食生活:
生理前にカフェインや砂糖を食べると月経前症候群が悪化する場合があります。カフェインには神経を興奮させる作用があるために、イライラや攻撃性が強くなります。また、精製された砂糖を含んだお菓子などを食べると、体が冷えてしまいます。

過剰な糖分の摂取によって急激に血糖値が上昇します。すると、身体は血糖を下げようと働きますが、このときに体温まで一緒に下がってしまいます。

また、砂糖が大量に含まれた炭水化物を食べると、体内で消化・吸収されるのに大量のビタミンB群が消費されます。ビタミンB群は、体がエネルギーを作りだすのに欠かせない栄養素です。

そのため、砂糖の摂り過ぎによってビタミンB群が不足すると十分なエネルギーを作ることができなくなり、体温を上げたり、発熱したりする力が弱まります。

加えて、ビタミンB群は血液の主成分である赤血球の合成に関わっています。ビタミンB群が不足することで丈夫な赤血球を作ることができなくなる上に、砂糖を含んだ赤血球は血液をドロドロの状態にさせます。すると、血液は毛細血管を通りづらくなり、血液の循環が悪くなって体温が低くなります。

この他にも、月経前症候群を引き起こしたり、症状を悪化させたりする要因として、ストレスの増加や運動不足、自律神経の乱れ、貧血などがあると言われています。

月経前症候群を緩和させる方法

前述したように、月経前症候群が発症する原因には多種多様な要素があり、月経前症候群の症状の現れ方も個人によって大きく異なります。したがって、生理前に引き起こる不快な症状を軽減させるには、状況に応じた対策が必要です。

一般的なアドバイスとしては、ストレスを減らしてリラックスした生活を心がけ、塩分が多い食品やカフェインが含まれた食品、精製された砂糖類は避けることが望ましいとされています。また、散歩や軽い運動を行うことで、体のだるさが取れたり、頭がすっきりしたり、あるいは、生理痛が軽減したりします。

ここではそうした生活習慣の他に、月経前症候群の症状を軽減させることができる栄養素について触れていきます。

月経前症候群を緩和させる栄養素

イソフラボン
大豆製品に含まれているイソフラボンはエストロゲンと化学構造がよく似ています。そのため、イソフラボンは体内でエストロゲンと同じ働きをし、月経前症候群や生理痛、更年期障害による症状を緩和してくれるとされています。

そのため、こうした病気で悩む女性には積極的にイソフラボンを取ることが推奨されています。しかし、イソフラボンを摂取する際にはいくつか注意しておきたい点があります。

イソフラボンの中でエストロゲンと類似した分子構造を持っているのは、「アグリコン型イソフラボン」と呼ばれる吸収性の高いタイプのイソフラボンです。通常の大豆製品に含有されている「グリコシド型イソフラボン」という種類は、イソフラボンと糖が結合しているため、糖が分解されないと体内で吸収されにくいという特徴があります。

そのため、イソフラボンが入った食品を食べる際には「アグリコン型イソフラボン」を摂った方が、効果は高いとされています。

また、人によってはイソフラボンが含まれた製品を大量に摂取したことで、かえって月経前症候群の体調が悪化したというケースもあります。体質に合わなかったり、過剰な摂取が逆効果になったりしたのかもしれません。

自分にイソフラボンが合っているか、そして、症状が軽減されるかを判断した上で、様子を見ながら量を増やしていくことが大切です。

DHA・EPA(オメガ3系不飽和脂肪酸)

月経前症候群や生理期間中では、お腹がはったり、下腹部に痛みが生じたりする人がいます。このようなとき、体内でプロスタグランジンという痛みを発生させる物質が過剰に作られている可能性があります。

月経前症候群や生理痛の原因となるプロスタグランジンを抑制するには、DHA・EPAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)を摂るのが効果的です。DHA・EPAは体内で炎症や痛みを和らげる物質を作り、痛みの原因となるプロスタグランジンを抑える働きがあります。

DHA・EPAはマグロやイワシ、カツオなどの青魚に多く含まれています。DHA・EPAのサプリメントも販売されているため、そうした補助食品を摂取するのも便利です。

エクオールが月経前症候群を軽減

大豆に含まれるイソフラボンが、女性ホルモンと同じような働きをすることは先に述べたとおりです。そして、最近の研究から、このイソフラボンが腸内細菌によって分解されるとエクオールという物質に変化し、月経前症候群や生理痛、更年期障害に効果的であることが証明されました。

しかし、このエクオールは、腸内細菌の中に「エクオール生産菌」がないと作り出すことができません。そこで、エクオールの成分が含有されたサプリメントに注目が集まっています。

その一方で、エクオールに関する調査から、同じ日本人でも世代が若くなると、腸内に住むエクオール生産菌の数が減少していることが判明しました。

この原因は、食習慣にあるとされています。若い世代になるほど大豆の摂取量が減っているため、腸内細菌の種類が変化し、その働きが弱くなっているのではないかと考えられています。また、欧米型の食事や不健康な食生活が、若い世代の腸内細菌に変化を及ぼしていることが推察できます。

自分の腸内にエクオール産生菌が住んでいるかどうかを知りたい場合は、「腸内細菌の遺伝子検査」で調べることができます。しかし、現時点で判明しているエクオール産生菌は数種類のみといわれています。したがって、遺伝子検査をしたとしても、自分がエクオールを作り出せる体質かどうかを判断するのは難しいです。

そこで、エクオールを増やしたい場合は、味噌汁や納豆、豆腐などの大豆製品を中心にした和食を食べるようにしましょう。このような和食に切り替えることで体調が改善すれば、体内でエクオールが十分に作り出されていると考えられます。

または、市販のエクオールのサプリメントを飲んでみて、月経前症候群の症状が軽減されるかどうかを確かめるというのも有用です。

腸内環境を改善すると月経前症候群や生理痛が改善される

エクオール生産菌の他に、善玉菌(ぜんだまきん)を増やして腸内環境を整えると、月経前症候群や生理痛が軽くなることが臨床から報告されています。善玉菌とは、体にとって有益な働きをする腸内細菌の総称です。

腸内環境の状態が月経前症候群や生理痛に及ぼす科学的なメカニズムは明らかになっていませんが、腸内の善玉菌が増えると全身の機能が向上し、様々な病気の回復スピードが速くなることが知られています。

実際に腸内の善玉菌が増えて腸内環境が改善されると、ホルモンバランスが安定し、血糖値の急激な変動が穏やかになることが分かっています。その結果、生理周期が安定し、月経前症候群の症状が和らぎます。

腸内の善玉菌を増やすには、野菜や海藻、キノコなどの食物繊維をたくさん摂取するようにしましょう。食物繊維には、善玉菌を増やす働きがあるからです。

また、善玉菌の一種であるビフィズス菌や乳酸菌(にゅうさんきん)を豊富に含んだ食品を摂ることも有用です。ビフィズス菌や乳酸菌(にゅうさんきん)は、味噌やしょう油、納豆、ヨーグルト、チーズなどの発酵食品や乳製品に多く含まれています。

このように、月経前症候群の症状で悩んでいる場合は、症状を緩和させる栄養素と善玉菌を意識して摂取するようにしましょう。栄養素を上手に取り入れることで、月経前症候群による体調不良が緩和されることが大いに期待できます。