近年、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支ぜん息などのアレルギーを持った子どもが増加しています。こうした病気は、母親の腸内環境が悪化し、それが子どもに遺伝することで発生する場合があると考えられています。

将来妊娠を希望している人や現在妊娠中の人、または乳幼児を子育て中の人は、「我が子がアレルギーにならず、元気に健やかに育って欲しい」と願っていることと思います。

妊娠中は新しい命を宿して幸せな気持ちに包まれていますが、それと同時に、生まれてくる子供の健康状態に関して不安があるかもしれません。

そうした不安を取り除き、お腹の赤ちゃんや乳幼児が健康に発育するよう、親として「知っておくべきこと」や「実践できること」はないか、考えてみることにしましょう。

妊婦の腸内環境の悪化が及ぼす子どもへの影響

近年、国内で生まれてくる赤ちゃんの5人に1人が、アトピー性皮膚炎などのアレルギーを持つといわれています。このように、アレルギー症状を持った子どもは急激に増えています。

アレルギーの爆発的な増加に対し、世界各国で様々な研究が進められています。こうした中、「妊婦の腸内環境の悪化が、生まれてくる赤ちゃんの健康状態に影響を与える」ことが相次いで報告されるようになりました。

腸内細菌には、体に良い働きをする善玉菌(ぜんだまきん)と増えすぎると体に悪い働きをする悪玉菌(あくだまきん)の大きく2種類が存在します。

妊娠中の腸内環境が悪いと、腸内に生息する悪玉菌の数が増えてしまうため、母子と胎児の両方に様々な悪い影響をもたらしてしまう危険性が高まります。

そのひとつとして、妊婦の腸内細菌の悪玉菌がアトピー性皮膚炎の発症に深く関与していることが挙げられます。

腸には70%以上の免疫細胞が集中しています。免疫細胞は、私たちの体を外敵から守る働きをしています。ところが、腸内環境が悪化して体のバリア機能が低下すると、病原菌やウイルスなどの外敵が体内に侵入してきます。

その結果、体内に入り込んできた外敵(異物)に対して体が過剰に反応するため、身の回りにある多種多様なものにアレルギー反応を示すようになってしまいます。

いくつかの研究では、母親の腸内細菌の数が少なく、多様性が低いと、生まれてくる子供は食物アレルギーやぜん息などを症状しやすくなることが示されています。

ママから赤ちゃんへ引き継がれる腸内環境

生まれる前の胎児の腸には腸内細菌が存在していないため、母親の子宮にいる胎児は無菌状態で生きています。

出産の際、赤ちゃんは、母親の肛門のすぐそばにある産道の壁に口や鼻が触れることで、母親の腸内細菌を受け継ぎます。これが、赤ちゃんが初めて「外部の細菌」と出会う瞬間です。

母親の産道には、腸内に生息する細菌も多く存在しており、産道と腸内は似たような環境になっています。

出産が近づくと、母親の膣の中でラクトバチルスなどの乳酸菌(乳酸菌)が繁殖します。乳酸菌は善玉菌の一種で、乳酸(にゅうさん)という物質を合成します。

乳酸によって膣内は酸性になります。膣内を酸性の環境に維持することで、病原菌が繁殖しにくい状態を作り出します。さらに、母親の膣では、乳酸菌を増やすために、乳酸菌のエサとなるグリコーゲンを含んだ分泌液を出します。

グリコーゲンとは、ブドウ糖が連なった化合物です。体がエネルギーを必要とするときに、ブドウ糖を取り出してすぐに使えるように貯蔵しておくための物質です。

このようにして、母体が乳酸菌を増やすのは「自分の産道を外敵から守る」という目的の他に、乳酸菌が「赤ちゃんを保護するため、産道から最初に取り込まれる菌として機能している」からだと考えることができます。

母親の腸内に生息する細菌は、激しい縄張り争いをしながら厳しい生存競争の中で生きています。したがって、腸内細菌にとって、他の菌よりも先に腸内に入ることは、自分に有利になるよう縄張りを広げ、定着することに繋がります。

母親から受け継いだ腸内細菌は、赤ちゃんの腸内に常在菌として定着し、生後1年ほどかけて腸内フローラを形成していきます。腸内フローラとは、様々な種類の腸内細菌が、それぞれの役割に応じてコミュニティーを形成している状態をいいます。

そして、出来上がった腸内フローラは赤ちゃんの生涯のパートナーとなります。

腸内細菌が母から子へと引き継がれるのですから、母体の腸内環境が良好に保つことで、ベストな状態の腸内細菌を赤ちゃんへ受け渡すことができます。反対に、母親の腸内環境が不良であれば、赤ちゃんへ引き継がれる腸内細菌も有害菌が多いものになってしまいます。

帝王切開で生まれた子供の腸内細菌は数や種類が少ない

自然分娩で生まれた赤ちゃんは、母親の産道を通ることで母親の腸内細菌に触れます。

では、産道を通らない帝王切開で生まれた赤ちゃんはどのようにして腸内細菌を獲得するのでしょうか?

帝王切開で生まれた赤ちゃんの場合、分娩に関わった医師や助産師などの病院スタッフの皮膚に存在している細菌を取り込むと考えられています。そのため、自然分娩の場合と比べて、赤ちゃんが取り込む細菌の数や種類は少なくなる傾向にあります。

その後、帝王切開で産まれた赤ちゃんは、自然分娩で生まれた赤ちゃんと同じように、母乳やミルク、離乳食の摂取を通して食物から細菌を取り込み、腸内フローラを形成していきます。

しかし、帝王切開で産まれた場合、出生直後の腸内環境は自然分娩の赤ちゃんとは大きく異なります。帝王切開で生まれた赤ちゃんは腸内細菌の種類が少ないため、腸内フローラの多様性が確立されるのが遅く、肥満やアレルギー発症のリスクが高くなると考えられています。

たとえば、2015年に科学雑誌「Pediatrics」に掲載された論文では、「帝王切開で生まれた子供は、自然分娩で生まれた子供よりも、ぜん息や炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)などに罹患する割合が高い」と報告されています。

この要因のひとつに、「腸内細菌が影響しているのではないか」と仮説が提唱されています。

帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内環境が、自然分娩で生まれた赤ちゃんよりも必ず悪いとは限りません。

しかし、帝王切開で出産した場合やこれから帝王切開で出産予定の場合、可能な限り腸内環境を良くした状態で赤ちゃんを生みたいと思うはずです。

今から実践できる方法として、「生まれた赤ちゃんと積極的にスキンシップを図る」ことがあります。意識的に赤ちゃんと触れ合い、母親の皮膚にいる常在菌(じょうざいきん)を受け渡すと良いとされています。

赤ちゃんが取り込む細菌の数や種類を増やすことで、腸内細菌に多様性が生じ、免疫力が向上することで肥満やアレルギーなどの疾患リスクを引き下げる効果が期待できます。

母乳にはビフィズス菌が豊富に含まれている

近年、母乳による育児が見直されており、「我が子を母乳で育てたい」と思う母親は増えています。

赤ちゃんは、胎内から外界に出て様々な細菌に接触します。出生直後すぐに腸内に棲みつく細菌は乳酸菌や大腸菌が多いとされていますが、生後5日目までに、赤ちゃんの腸内はビフィズス菌で90%以上覆いつくされます。

善玉菌の1種であるビフィズス菌には、まだ十分に免疫システムが発達していない赤ちゃんを病原菌から守る働きがあります。そのため、ビフィズス菌を多く獲得し増やすことは、赤ちゃんの身体を守る上でとても重要です。

ビフィズス菌を増やすのに最適なのが「母乳」です。

母乳にはビフィズス菌自体も多く含まれている上に、ビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖も含まれています。

生まれたばかりの赤ちゃんは、オリゴ糖を消化することができないとされています。なぜ母乳にオリゴ糖が多く含まれているのかというと、直接的に赤ちゃんの栄養に利用されるのではなく、腸内に生息する善玉菌の栄養源となるためです。

実際、母乳で育てられた赤ちゃんの腸内では悪玉菌は増えにくく、腸内フローラが安定しています。

また、母乳には、赤ちゃんの成長に欠かせないタンパク質やビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。

このように、母乳は赤ちゃんの健康的な発育に必要な栄養を提供すると共に、「赤ちゃんを守る腸内細菌」も育てることができる、大変理に叶った「天然の栄養素」といえます。

一方で、粉ミルクで育った赤ちゃんは、母乳で育った赤ちゃんよりも悪玉菌の数が10倍も多いことが、一部の研究から報告されています。

事情により粉ミルクで赤ちゃんを育てなければならない場合は、赤ちゃん用の粉ミルクにオリゴ糖を加えてビフィズス菌を増やすようにしたり、幼児期の食事を工夫したりして、子供の腸内環境を良好に保つよう心がけましょう。

その際には、小児科医や専門の管理栄養士による管理・指示に従って行うのが安全です。

子供が3歳になるまでに腸内環境を整えることが大切

近年の研究から、「腸内フローラは生まれた瞬間から作られ始め、3歳までにほぼできあがる」ことが明らかになりました。つまり、3歳までの食事内容が、その子供が生涯付き合う腸内フローラを形作るのです。

もし、この時期に人工甘味料や加工品、レトルト食品、添加物などの人工的な食品を多く摂ってしまうと腸内環境は乱れやすくなります。こうした添加物を大量に摂取したことで腸内環境が悪化し、肥満やぜん息などのアレルギーになるリスクが高まったとする研究発表もあります。

この背景のひとつとして、悪玉菌が増え、免疫システムを正常にコントロールする善玉菌が減ってしまったことが考えられます。

したがって、丈夫で元気な子供を育てるには、乳幼児期から腸に良い食事を食べさせ、有用な菌が定着しやすい腸内環境を構築するのが大事です。

子供の腸内環境を良好にする食事

自分が出産したときを振り返り、妊娠前や出産時の腸内環境が悪かったとしても、子供の腸内環境を改善するために、今からできることがあります。

子どもの腸内環境は離乳食以降の食生活で大きく改善できます。そのための方法として「和食」中心の食事を心掛けることができます。

離乳食後期(生後9~11ヶ月)頃から「発酵食品」を意識的に取り入れた食事を作ると良いです。発酵食品には、腸内の善玉菌を増やしてくれる働きがあります。

このとき注意したいのが、味噌や塩麴に使われている塩です。安価な味噌や塩麹には、人工の塩である「塩化ナトリウム」が使われていることが多く、生活習慣病のリスクを高めることが示唆されています。

体への影響が心配な人は、天然のミネラル塩が含まれたものを選ぶと良いでしょう。天然の塩には、マグネシウムやカルシウム、ヨウド、ケイ素などが含まれています。こうしたミネラルは、健康的な体を作るために必須の栄養素です。

味噌や塩麴のほかに、納豆や甘酒などの発酵食品を取り入れることでも、腸内の善玉菌を増やすことができます。

また、食物繊維(しょくもつせんい)の多い野菜を一緒に摂取すると、腸内環境が綺麗になります。食物繊維とは、人が消化することができない繊維成分です。食物繊維は、善玉菌のエサとなり、規則正しい排便を促してくれる効果もあります。

カボチャやサツマイモ、バナナをペーストにしたもの」や「煮豆をすり潰したもの」、「ワカメやコンブなどの海藻類」などには食物繊維が多く含まれ、調理も簡単で食べさせやすいです。

このように、離乳期以前の赤ちゃんに対しては、母乳や粉ミルクからビフィズス菌を増やすような食事を与え、離乳期以降の赤ちゃんに対しては、継続的に善玉菌を増やすような食事をさせることで、健康的な腸内環境を維持することができるようになります。

先に述べたように、子供に食べさせる食事に関しては、食物アレルギーに注意しながら、医師や管理栄養士など、然るべき専門家のアドバイスに従って献立を考えるようにしましょう。

抗菌グッズは子供の免疫力を弱めてしまう

最近の赤ちゃん用品やおもちゃは、「除菌」「抗菌」を謳ったものが多く販売されています。可愛い我が子のためと思い、除菌・抗菌グッズを購入する方もいるかもしれません。

しかし、人間の自然治癒力や免疫力を高めるためるためには、「腸内細菌の多様性とバランス」が重要です。より沢山の菌に触れることで、雑菌や外敵に対する抵抗力が高まり、免疫力も強化されます。

アトピー性皮膚炎を発症している赤ちゃんを対象にした研究によると、4割の赤ちゃんの腸内に、大腸菌が全く存在しなかったという結果が報告されています。

大腸菌は悪玉菌の1種ではありますが、まったく存在しないというのも問題です。大腸菌はあくまでも増えすぎることが問題なのであり、免疫力をつけるためには適度なバランスで生息している必要があります。

赤ちゃんは様々な雑菌と接触し、それらを取り込むことで多種多様な腸内細菌が生息するバラエティ豊かな腸内フローラを形成します。

個人的な意見として、子どもの身の回りのものを何でもかんでも除菌・抗菌し続けることには、少し疑問を覚えます。子供がすぐに風邪を引いてしまったり、病気にかかりやすくなったりするのを防ぐためにも、過度な除菌・抗菌の生活を見直してみてはいかがでしょうか。

家族の腸を整えることで子供の腸内環境も健康的に

3歳までに形成された腸内フローラは、ほとんど変化しないと言われています。しかし、善玉菌の1種であるビフィズス菌の割合は加齢により激減することが分かっています。乳児の頃のビフィズス菌の量は100億個以上にも上るとされています。

しかし、離乳後から成人になるとその数は10~20%減り、高齢者になる頃にはピークの1%以下になってしまうことがあります。また、加齢だけでなく、ストレスや偏食などの悪習慣によりビフィズス菌の数はますます減少し、腸内では悪玉菌が優勢になってしまいます。

このように、大人の腸内環境は日ごろから意識的に整える努力をしなければ、最適な腸内環境を維持することは難しいです。

自分の子供には良い食事を与えても、大人がジャンクフードやスナックなどの不健康なものを食べていては説得力がありません。また、子どもは大人が食べているものを覚え、同じものを欲しがるようになります。

子供を含めた家族全員の食事に気をつけて、実践することで、みんなの腸内環境を整えることができ、快適な毎日を送ることができるようになります。

大人になってから腸内フローラを改善する方法

家族の中で、既に成人になっている人が、腸内フローラを改善するにはどうしたら良いのでしょうか。特に、これから出産を控えた人には、気になるトピックだと思います。

まずは、善玉菌が好む発酵食品を摂取するように心がけましょう。発酵食品の代表的なものとしてヨーグルトがあります。スーパーやコンビニエンスストアなどで購入できるため、誰でも手軽に始めることができます。

しかし、ヨーグルトに含まれる菌種がたくさんあり、製品の種類も日々変わるため、どれを選べば良いか分からない方も多いと思います。

選んだヨーグルトが自分の体質に合っているかどうかを実感するには、最低でも2週間ほど継続して摂り続けることが必要です。この間に、体調の回復や便通の変化などの改善があれば、ヨーグルトに効果があると判断することができます。

人間の腸内フローラは、指紋と同様に一人として同じものはありません。他の人に効果があったヨーグルトでも、自分に効果があるとは限りません。

ヨーグルトを食べるときには、しばらく継続する必要がありますが、相性が良いものを探し出すことができれば、自分の健康を支える大きな味方になってくれます。

ヨーグルトだけじゃない、腸を健康にする発酵食品たち

先に述べたように、ヨーグルトは腸内環境を整えてくれる発酵食品のひとつです。しかし、ヨーグルトは人によっては体質に合わなかったり、カロリーや脂肪分を気にしたりする人もいるかもしれません。

こうした場合、ヨーグルト以外にも、発酵食品として乳酸菌を多く含む食材があるので食事に取り入れてみて下さい。

味噌や醤油、漬物、納豆、塩麹、醤油麹、キムチ、チーズなどは、日本人にも馴染みの深い発酵食品です。中でも、味噌や醤油、漬物、納豆は、和食中心の食事に切り替えると、必然的に摂取できます。

また、漬物やキムチは白菜や大根、きゅうり、セロリ、カブ、オクラ、にんじんなどの野菜を使います。こうした野菜には、食物繊維もたっぷり含まれています。

特に、ぬか漬けには大量の乳酸菌が含まれています。スーパーで「ぬか」を買ってきて、そこに好きな野菜を入れるだけでぬか漬けが完成します。様々な野菜や果物を使ってぬか漬けをアレンジできますし、自分で塩加減を調整することもできます。

これまで説明してきたように、妊娠中の母親の腸内環境は、お腹の赤ちゃんにダイレクトな影響を及ぼします。そのため、日頃から腸内環境を整えるよう、腸を健全にする食事を意識して実践することが重要です。

そして、離乳期以降の子供の腸内環境を健康的にするために、周囲の大人が食べているものに気を配り、家庭の中で「食育」の場を提供することが理想的だと考えます。

家族全員が腸内環境の重要性を知ることで健康への意識が高まり、大人も子供も元気で健やかに過ごすことができるようになります。