不妊症とは「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず、一定期間夫婦生活を営んでいるにも関わらず妊娠しない状態」をいいます。

昨今の女性の社会進出や晩婚化によって、結婚や妊娠の時期が昔と比べ遅くなっています。日本では、主に30歳以上のカップルが不妊で悩んでおり、加齢とともに、男女双方において不妊のリスクが高くなります。

こうした現状を反映して、不妊治療を受けている人は増加傾向にあります。また、そうした患者を受け入れる機関として、「不妊治療」を標榜するクリニックも増えています。

不妊治療は、それぞれの患者が置かれている環境や年齢、職業、ライフスタイル、価値観などによって治療の進め方は異なります。ひとり、ひとりのニーズに応じた対応が求められるため、治療の内容や妊娠に至るまでの道のりは様々です。

こうした中、不妊治療では「妊娠が最終目標」とはしつつも、二人の気持ちを確かめ合うことが何よりも重要です。

いつから検査を始めるのか、治療の期間や予算はどうするのか、働きながら治療を続けるのか、本当に赤ちゃんが欲しいのかといったことについて深く話し合い、双方の意見を確認することが不可欠です。

また、どちらか一方だけが治療に取り組むのではなく、カップルで協力することが大前提になります。また、二人の不妊治療がスムーズに行われるよう、家族や親せき、友人、職場からの理解が得られるような環境を作っておくことも大切でしょう。

ここでは、一般的な不妊治療の概要を解説すると共に、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学で行っている不妊治療への取り組みについて紹介します。

目次

不妊症治療に取り組んでいるカップルは増えている

不妊症とは、「健康な男女が避妊をせず、一定期間性交渉を行っているにも関わらず妊娠しない状態」といいます。日本産婦人科学会では、この「一定期間」について最近では「1年~2年が一般的である」としています。

自然に妊娠することが難しく、不妊治療を受けている患者の数は年々増えています。国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第14回 出生動向基本調査」によると、「不妊の検査や治療の経験がある」と答えた夫婦の割合は、2005年の13.4%から2010年の16.4%まで3%増えています。

 

「30~39歳と40~49歳の子供のいない夫婦 」で「不妊の検査や治療を受けたことがある」と答えたのは合計で67.9%(約313人)でした。そのうち「現在不妊治療を受けている」と答えたのは合計で15.9%(約73人)でした。

この調査が実施されたのが10年近く前であることと、調査対象に含まれていないカップルが相当数いることを鑑みると、実際の患者数はこれよりも多い可能性が示唆されます。

不妊治療には、大きく分けて「一般不妊治療」「生殖補助医療(ART)」の2種類があります。ARTは「高度不妊治療」とも呼ばれています。このうち、「生殖補助医療(体外受精・顕微授精)」を実施している施設は、2016年時点で、全国で約560カ所に上るとされています。

平成16年(2004年)には、厚生労働省によって「特定不妊治療費助成事業」が開始され、国が高度不妊治療(ART)治療に要する費用の一部を助成する取り組みがなされています。

こうした社会的背景を加味しても、不妊治療を受けているカップルは確実に増加しており、不妊治療が一般化していることは確かだといえるでしょう。

不妊治療にはガイドラインがない?

不妊症の治療では、日本生殖医学会が発行している「生殖医療の必修知識」があります。2014年に初版が出て2017年に改訂版が出ていますので、これを以て「ガイドライン」とすることはできます。

しかし、先にも述べたように、「治療に取り組む人の不妊の原因や背景が異なり」且つ「治療法が多岐にわたる」ため、ガイドラインがないと錯覚されてしまいます。

また、不妊治療に取り組んでいる人の中には、カップル双方に明らかな原因が見つからない(原因不明)場合も多いことから、画一的な治療方法が適応されにくいとされています。

明確な原因が見つからない場合、医師と患者は手探りの状態で治療を進めざるを得ないことがあるため、それぞれの患者カップルと相談しながら、個別の治療を行っていきます。

よって、不妊治療で行われる治療、検査、費用は各医療機関ごとに異なるため、事前の情報収集が大切です。

病院を選ぶ際には、インターネットで情報を収集したり、医師が執筆した書籍などを読んだりすることで、病院の取り組み内容や特色などを把握することができます。病院が公表している治療実績や不妊検査、設備機器に加え、実際に不妊治療を受けた患者の「口コミ」などを頼りにすることもできます。

書籍やインターネットなどなどを活用し、自分にあった病院を探すようにしましょう。

自然妊娠に至るプロセス(妊娠のメカニズム)

妊娠までの流れは様々な段階に分かれており、それらのステップを全てクリアすることで妊娠することができます。自然妊娠に至るまでの過程を説明する前に「女性と男性の生殖器の構造」について触れておきたいと思います。

女性生殖器の構造

女性の性器は、主な役割ごとに下記の部位から成ります。

名称 役割
卵巣(らんそう) 卵子を長期保存し、排卵までの間に良い卵子を育む役割を有する
卵管(らんかん) 排卵した卵子を受け取り受精させ、胚を育みながら子宮に運ぶ
子宮(子宮体部)(しきゅうたいぶ) 胚盤胞を受け取り、胎児を育てると供に、外的衝撃から胎児を守る
子宮内膜(しきゅうないまく) 胚盤胞が孵化して胎児細胞群が内膜の中に潜り込む部位。
妊娠中は胎盤と脱落膜となる。
娠が成立しない場合は、内膜が剥がれ落ちて血液と一緒に排出され月経血となる。

排卵の仕組み

正常な「排卵のメカニズム」は、下記のとおりです。

  1. 視床下部(ししょうかぶ)から、卵胞刺激ホルモン放出因子(Gn-RH)が分泌され、下垂体(かすいたい)を刺激して、卵巣に向けて卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌します。
  2. 卵胞刺激ホルモン(FSH)に卵巣が反応すると、原子卵胞(げんしらんほう)が成熟し始めます。この卵胞が成熟する過程で卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌します。
    原子卵胞(げんしらんほう)は、ゴナドトロピン(FSHやLH)の影響を受けずに一定速度で前胞状卵胞まで育ちます。この前胞状卵胞は排卵の3ヶ月前に多く見られ、卵巣刺激ホルモン(FSH)の刺激を受けながら成熟します。この卵胞が成熟する過程で、大きさに比例して卵胞ホルモン(エストロゲン E2)を多く分泌するようになります。
    このエストロゲンに反応して子宮内膜(しきゅうないまく)が増殖して厚くなり、受精卵を受け入れる準備が整います。
  3. エストロゲンが十分に分泌されると、下垂体から黄体化ホルモン(LH)が分泌され、これに反応して成熟した卵胞が破れ、中から卵子が排出されます。これが排卵です。
    「排卵日」に性行為をすると、卵子と精子が出会う確率が高くなります。よって、排卵日にタイミングを合わせて、性交渉をするように指導されます。
  4. 卵子が飛び出たあとの卵胞は、顆粒膜細胞群が黄色くなり、いわゆる黄体に変化します。黄体からは妊娠を維持するために絶対必要な黄体ホルモン(プロゲステロン P4)が分泌されます。この黄体ホルモンには体温を上昇させる作用があるため基礎体温は高くなります。また、排卵による炎症も体温を上げる作用を助けています。
  5. 妊娠して受精卵が子宮内膜に着床すると、胎児の絨毛細胞が出すホルモン(hCG)によって黄体は活性化され(妊娠黄体)、子宮内膜は卵巣からの高濃度のエストロゲンやプロゲステロンの作用によって厚みが増し、妊娠を維持するように働きます。
  6. 高温期の6~7日までに受精卵(胚)が着床しないと、黄体はゆっくりと白体へと変わり、同じようにゆっくりと黄体ホルモン(P4)卵胞ホルモン(E2)が減少し、高温期の12〜14日頃には月経が始まります。月経期では、エストロゲンとプロゲステロンが急激に減って子宮内膜のアポトーシスがおこり、子宮内膜がはがれ、血液と共に体外へ排出されます。

排卵周期

 

卵巣での排卵サイクル

男性の生殖器の構造

男性の生殖器は、主な役割ごとに下記の部位から成ります。女性の生殖器が複雑な構造をしているのに対して、男性の生殖器は比較的単純な作りをしています。

名称 役割
精巣(せいそう) 精巣は毎日約1億匹の精子を作るとされている。そのため膨大なエネルギー産生があり、表面積をかせいで冷却できる「しわくちゃな陰嚢(いんのう)」の中に収まっている。
精巣は精細管がぎっしり詰まった多房性の構造をしている。
そこでは、精細管の基底膜で増殖した精母細胞が分裂して精子細胞、その細胞質がアポトーシスを起こして核だけになり尻尾が生えた精子細胞になるまでの精子が産生される。
生まれたばかりの精子細胞はまだ泳げないので、精管から精巣上体に運ばれて成熟を迎える。
精管(せいかん) 精巣上体から始まり、膀胱の下で前立腺を貫いて尿道に合流する。
精嚢(せいのう) 精管が尿道に開く直前についていて、精液の成分の半分以上を占める「精嚢液(せいのうえき)」を作る。
精嚢液には果糖が入っていて精子の運動エネルギーになる。
男性の尿管は約15㎝と長いので、精管から出てきた精液をペニスの先まで送り出す役目をする。また、アルカリ性なので膣内の酸性を和らげ、精子が生き延びられるようにしている。

妊娠までのプロセス

以下に妊娠に至るまでのメカニズムを説明します。

1. 射精
腟内に射精された精子は、子宮頚管から子宮内へ移動し、卵管に進みます。このとき、精液に含まれる精子数は約2~3億個といわれています。この精子が、頚管粘液内に約1割入れるとされています。

2. 排卵と受精
月経開始頃に、直径2〜7ミリほどの小卵胞が左右の卵巣合わせて約20個現れます。

下垂体からのゴナドトロピン(FSHやLH)によって発育が促されますが、大きくなるにつれて下垂体のゴナドトロピンの分泌量が減少し、一番大きい卵胞が13ミリ前後になると2番目に大きい卵胞以下はアポトーシスを起こして閉鎖卵胞になります。

次に卵胞ホルモン(E2)が100pg/ml以上の高値を2~3日持続すると逆に下垂体からゴナドトロピン(LH,FSH)が急激に増え(ポジティブフィードバック)、1個の細胞だけが生理から約2週間で18〜20mmほどに成熟します。

この頃になると十分な卵胞ホルモン(E2:200~300 pg/ml)を産生するようになり、下垂体から排卵刺激ホルモン(LH)が1~2日間分泌されて(LHサージ)細胞間の結合を切る酵素が生成されます。卵胞内に卵胞液が急激に増加し、卵巣の表面が裂けて顆粒膜細胞群と一緒に押し出されます。これを「排卵」といいます。

排卵する卵子は顆粒膜細胞を周囲につけてフワフワとした状態で、卵管采(らんかんさい)に取り込まれ、そこで受精が起こります。卵子を排出した卵胞では血液が一部流出し、顆粒膜細胞が黄体化し、黄体ホルモンを分泌して、子宮内膜が着床しやすい分泌期内膜にします。

3. 受精・分割
卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)に辿り着いた「約200個の精子」と「1つの卵子」が出会い、精子が卵子を取り囲みます。約200個の中から1個の精子が卵子の周囲の透明帯(とうめいたい)を破って卵子の中に入ります。そして、その精子が卵の細胞膜に付着すると細胞膜表面に存在するカルシウムイオンが全体に放出されると同時に卵子にバリアが張られ、他の精子は入れなくなります。

4. 着床
卵管膨大部で受精した受精卵は2細胞、4細胞、8細胞、桑実胚(そうじつはい)へと細胞分裂を繰り返しながら、約5日かけて子宮へ向かいます。子宮内に到達した受精卵は、排卵から5~7日目に胚盤胞(はいばんほう)になり、子宮内膜にもぐり込んで着床します。

着床後は、子宮内膜細胞から栄養を貰いながら、さらに盛んに細胞分裂を繰り返します。

受精から3週間後(妊娠5週)には、子宮腔内で着床した妊卵が発育して、超音波検査で胎嚢(たいのう)が確認できるようになります。

不妊症の様々な原因

以前は、不妊の原因は女性にあるという見方がなされてきました。しかし、昨今では、男性に何らかの原因がある不妊症も増えています。

WHO(世界保健機関)によると、不妊検査に訪れるカップルのうち、女性のみに不妊原因がある場合が41%、男性のみに不妊原因がある場合が24%、原因不明が11%と報告されています。

つまり、男性不妊が48%、女性不妊が65%。うち24%のカップルが夫婦の双方に不妊原因があるため、夫婦で一緒に不妊治療に取り組む必要があります。

女性に原因がある場合

女性の不妊症の原因としては、下記が挙げられます。不妊症の原因として頻度が高いのは、上から3つです。

因子 具体例
排卵因子(はいらんいんし) 排卵障害、受精障害
子宮因子(いきゅういんし) 着床障害、子宮筋腫、子宮内膜症、先天奇形
卵管因子(らんかんいんし) 閉塞、狭窄、癒着
頸管因子(けいかんいんし) 子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常
免疫因子(めんえきいんし) 抗精子抗体

1. 排卵因子(排卵障害)

排卵障害(はいらんしょうがい)とは、明確な定義はありません。

しかし、月経周期を有している女性の95%が生理から21日以内に排卵しているため、22日経っても排卵できないことを排卵障害とすると、女性不妊の約3割が排卵障害を持つと考えられています。

排卵障害の原因は様々ですが、主に下記の要因が考えられています。

  • 視床下部・下垂体の異常
  • 卵巣性
  • 心因性
  • 高プロラクチン血症
  • 多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん:PCOS)
  • 甲状腺ホルモンの低下

・視床下部異常
排卵が起こるまでのプロセスとして、まず、視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が律動的に分泌されます。その刺激を受けて、脳下垂体から卵胞を育てる卵胞刺激ホルモン(FSH)や、排卵を促す黄体形成ホルモン(LH)が律動的に分泌されます。

これらのホルモンが卵巣に働きかけることで、排卵が起こります。しかし、この指令系統のバランスが崩れると、排卵障害が起こります。

指令系統に異常が生じる原因として、ストレス、肥満、痩せすぎ、甲状腺機能障害(こうじょうせんきのうしょうがい)、高プロラクチン血症、重症なものとしてはアスリートなどの過度の消耗性の運動や摂食障害などがあります。

・卵巣性
卵巣機能不全をきたすターナー症候群などの遺伝性疾患や40歳未満で閉経状態になる早発閉経(早発卵巣機能不全)、卵巣手術、放射線治療や抗がん剤による後遺症などにより排卵が起こらなくなります。

・心因性
精神的な悩みやストレスがあると、自律神経(じりつしんけい)が乱れます。

自律神経とは、自分の意思とは無関係に働く神経のことです。自律神経は、外部からの刺激や環境の変化に対して呼吸や心拍数、血圧を調節して、体を一定の状態に維持するように機能しています。

自律神経が乱れると、視床下部が脳下垂体に対して卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体化ホルモン(LH)の分泌も乱れるため、排卵が起こらなくなります。

・高プロラクチン血症

下垂体から分泌される乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)は、乳腺(にゅうせん)を刺激して母乳の分泌を促進する働きがあり、通常高温期には分泌が亢進してやや高値になり、妊娠すると更に多く分泌され乳腺の発達を促します。

しかし、妊娠していないときに分泌があるとFSHやLHの分泌を抑制してしまい、卵胞の成長を阻害し、排卵を抑えて無排卵になってしまうことがあります。

プロラクチンが過剰に分泌されている状態が「高プロラクチン血症」です。

まずは、プロラクチンを上げるような抗うつ剤や安定剤、胃潰瘍の薬などを服用していないか調べ、服用していない場合は下垂体の腫瘍を疑い下垂体のMRIを撮り、腫瘍が小さければ、プロラクチンの分泌を抑える薬(テルロンやパーロデル)を投与します。腫瘍が大きく視野障害などの症状もある場合は、経鼻的手術で腫瘍を摘出することもあります。

高プロラクチン血症になると、受精卵の着床(ちゃくしょう)に影響が出ます。また、プロラクチンの分泌を促す甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を静脈注射し、プロラクチン値が高値を示す「潜在性高プロラクチン血症」というものもあります。

しかし、排卵障害をもたらさなければ、通常は治療の必要はありません。

 

・多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん:PCOS)

生殖年齢の6~10%にみられ、症状としては排卵障害による月経異常や不妊症として問題になります。

「日産婦診断基準2007」での診断基準は、月経異常(無排卵、希発月経、無排卵周期症)、多のう胞性卵巣(少なくとも片側に2~9mmの卵胞が10個以上)、血中男性ホルモン高値またはLH高値(FSHは正常)の上記3つとも満たす場合をPCOSとしています。

妊娠を希望しない排卵障害に対しては、ピルによる治療療法が勧められます。

また排卵誘発は肥満がなければクロミフェンによる誘発を行い、それ以外は個別に対応するなど、治療で苦慮することが多いのが現状です。

多嚢胞性卵巣症候群の原因ははっきりと分かっていません。

しかし、排卵障害に対しては、20年以上も前から卵巣を楔状に一部切除したり、最近では卵巣に電気メスで10個以上の穴を卵巣に開けたりする(Ovarian drilling)物理的障害を与えると、卵巣の間質に一時的に脱線維化がおこり(リモデリング)排卵が回復し、良好卵が排出して自然妊娠しやすくなることが知られています。

そのようなことから、有力な仮説としては、「黄体化ホルモン(LH)や男性ホルモン(テストステロン)が分泌されると、卵巣の間質の線維化が進み、2次卵胞以降の高次卵胞が血流の良い間質に移動して成熟できないために排卵できるような卵子が成育せず、次第に卵巣の表皮が硬くなり、排卵しにくくなる病気である」ことが提唱されています。

また、「インスリン抵抗性を持つ女性は、多嚢胞性卵巣症候群を発症するリスクが高くなる」ことが報告されています。

若い女性のうち、20~40%が多嚢胞性卵巣を示しますが、排卵障害がないので上記と区別が必要です。

・甲状腺ホルモン異常

甲状腺の病気は圧倒的に女性に多く、もっとも多い疾患は「橋本病」で、中年女性の10人に1人は罹患しているとされています。

甲状腺ホルモンは全ての細胞の代謝を司るホルモンなので甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、卵胞が成長せずに排卵が起きづらくなります。

甲状腺ホルモンは、初期絨毛や胎盤の黄体ホルモン合成を促しているため、甲状腺ホルモンの低下は、流産や早産と関係があると言われています。 不育症患者の6.8%に機能異常が認められたという報告もあります。

また、甲状腺は妊娠7週以降における胎児の脳の発達に重要な役割を示し、児の知能に影響する事も知られています。

そのため甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、一般的には2.5mIU/L以下にコントロールすることが望ましいとされています。甲状腺ホルモンがたくさん分泌される機能亢進症も流産や早産、胎児発育遅延と関連があるとも言われています。

2. 子宮因子

子宮内膜(しきゅうないまく)は、子宮の内側を覆っている粘膜です。子宮内膜は、月経周期に合わせて変化します。

月経から排卵までの間に徐々に内膜が厚くなり、排卵後は黄体ホルモンの影響で、内膜は徐々に厚みを増して柔らかくなり、受精卵を迎える準備をします。子宮内膜に受精卵が着床すると妊娠が成立します。

しかし、何らかの理由によって着床できないことがあります。これを「着床障害」といいます。

・子宮筋腫

子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)とは、「子宮にできる良性の腫瘍」です。30歳を過ぎた女性では、20~30%(4~5人に1人)が持っているありふれた病気です。

子宮筋腫には、漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)筋層内筋腫(きんそうないきんしゅ)粘膜下筋腫(ねんまくかきんしゅ)の3種類があります。筋腫が大きくなるにつれて「月経異常」や「不正出血」「月経痛の増悪」などが起こる場合があります。

特に子宮腔の変形をもたらすような大きな(多くは直径6cm以上の)筋層内筋腫、小さくとも子宮底や卵管開口部付近の粘膜下筋腫では、受精卵の着床を妨げてしまい、不妊症になる可能性があります。

・子宮内膜症

子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)とは、子宮内膜が子宮以外の組織や臓器にできてしまい、増殖と剥離(はくり)を繰り返していく病気です。

子宮内膜以外にできた子宮内膜症の組織は、本来の機能と同じように生理周期に合わせて出血が生じます。すると、炎症やそれによる癒着(ゆちゃく)が起こって排卵や受精を妨げたり、卵管にダメージを与えて排卵した卵をうまく卵管に取り込めなくなったりするため(Pick Up 障害)、不妊症になる可能性があります。

前述したように、子宮内膜症は、体のいたるところに発生し得る病気です。

特に、子宮や卵巣、卵管、腸などの表面を覆っている腹膜(ふくまく)、直腸と子宮の間のダグラス窩(だぐらすか)、卵巣や卵管に発生することが多いです。

この中で、もっとも頻繁に発生するのが卵巣です。卵巣にできた子宮内膜症による「嚢胞性(のうほうせい)の病変」をチョコレート嚢胞(ちょこれーとのうほう)と呼びます。

子宮筋層にできるものを子宮腺筋症と呼び、強い生理痛に悩まされることがあります。

・子宮形態異常

子宮は、「洋ナシを逆さにしたような形」をしており、中は空洞で左右に卵管が伸びています。子宮形態異常とは、生まれつき子宮の形が本来の形と違っている先天性の異常のことです。

子宮形態異常には、重複子宮(ちょうふくしきゅう)、双角子宮(そうかくしきゅう)、中隔子宮(ちゅうかくしきゅう)、単角子宮(たんかくしきゅう)などがあります。

子宮形態異常は、不妊症の直接的な原因にはならないと考えられていますが、妊娠しても着床や妊娠初期継続が難しいことがあります。子宮腔が小さい単角子宮などは、切迫早産の可能性が高いので注意が必要です。

3. 卵管因子

卵管(らんかん)は、子宮底から左右に伸びている約10cmほどのラッパのような管です。卵管の先端は卵管采と呼び、排卵した卵を受け止めて、それに繋がる卵管膨大部という太いところで受精が行われます。

その先の一番細い部位は、峡部と呼ばれ直径0.4~1mmしかありません。

受精卵は卵管を約5日間で分割して成長しながら子宮の方へ移動し、5-6日目には胚盤胞となり、卵管口から出て子宮内膜に到達し、着床します。

しかし、卵管に何らかの詰まりや炎症が生じているために管が細くなっていると、卵子や精子が通過できず、妊娠に至りません。

卵管が詰まっていたり、より細くなっていたりする場合を「卵管障害」といい、原因不明不妊の25〜35%に認められ、その原因の50%以上が「卵管炎」によるものだとされています。

また、炎症が生じている部位には受精卵が間違って着床してしまい異所性妊娠となってしまいます。異所性妊娠の約95%は、卵管に生じます。

4. 頸管因子

子宮の入り口部分を子宮頚管部(しきゅうけいかんぶ)といいます。排卵期近くなると卵胞ホルモン(エストロゲン)の増加により子宮頸管から頸管粘液(けいかんねんまく)を活発に分泌するようになります。

この頃の頚管粘液は卵白みたいに糸を引く柔らなものになり、この頸管粘液の中を精子はスムーズに泳いで子宮腔内に到達することができます。

しかし、頸管粘液が痰のようだったり、細菌が多かったりという異常があると、精子が子宮や卵管に侵入できなくなります。

頸管粘液は不妊症と深い関わりがあります。子宮頸管粘液の分泌が少ないと、精子が子宮内に入り込む力が弱くなってしまいます。

また、頸管粘液は排卵期に弱アルカリ性になります。精子は弱アルカリ性であるため、精子に最適な環境を提供し、子宮腔に円滑に侵入できるようにするためです。

頸管粘液がアルカリ性から酸性に傾くと、精子の侵入が阻害されてしまいます。

因みに、正常女性の膣の中はデーデルライン桿菌が多く、膣内を弱酸性にして大腸菌などの不快臭を出す菌などが入らないようにして、膣内を清潔に保ってくれています。

5. 免疫因子(抗精子抗体)

抗精子抗体(こうせいしこうたい)とは、女性の体が男性の精子を病原菌やウイルスのような「異物」とみなし、免疫システムによって抗体を作ることで攻撃してしまう状態をいいます。この抗体は、子宮頚管粘液から分泌され、射精された精子の動きを悪くし、受精を妨げます。

抗精子抗体は、精子同士をくっつけて塊にして動けなくする「精子凝集抗体(せいしぎょうしゅうこうたい)」と、精子そのものの運動能力を奪う「精子不動化抗体(せいしふどうかこうたい)」の大きく2つに分けられます。

不妊症に悩む女性の約3%に「血中精子不動化抗体」が存在することが確認されています。しかし、抗体ができる原因は未だ解明されていません。

抗精子抗体価が少なければ人工受精で妊娠可能ですが、高い場合は体外受精や顕微受精をした方が良いです。

不思議なことに、抗精子抗体陽性の方の体外受精の妊娠率は良いとされているため、落胆する必要はありません。

加齢と共に卵子の数は減少する

男性は精巣で新たらしい精子を作ることができます。精巣にある幹細胞(かんさいぼう)が、死ぬまで分裂を続けるため、毎日、精子を作りだすことができるのです。(加齢に伴う、精子の数や運動機能の低下は次章をご覧下さい。)

一方、女性は卵巣に生まれたときからずっと同じ卵子の細胞を持ち続けていて、新たな卵子を作ることはできません。

女性は年齢を重ねるにれて、卵母細胞(らんぼさいぼう:卵子の元となる細胞)の数は減っていきます。

新生児のときに約200〜300万個あった卵母細胞は、初潮を迎える頃には約30万個に減り、それ以降は、月経ごとに約1,000~2,000個ずつ減り続けます。

45歳で約1万個になり、50歳前後で閉経を迎える頃には1,000個ほどになります。こうした卵母細胞の減少や老化が、女性における不妊症の原因のひとつと考えられています。

男性に原因がある場合

男性における不妊症の原因として、下記が挙げられます。

  1. 造精機能障害
  2. 精路通過障害
  3. 性機能障害
  4. 加齢による影響など

1. 造精機能障害

造精機能障害(ぞうせいきのうしょうがい)とは、精巣における精原細胞から精子形成に至る過程または精子が成熟する過程に何らかの障害があるもので,男性不妊の原因の約90%が造精機能障害といわれています。そして、その内の60%が特発性(原因不明)とされています。

この病気では、精巣や内分泌系(ホルモン分泌)の障害により、精子を上手く造り出すことができなくなります。

最近はスマートフォンで精子の簡易検査ができるSeem(シーム)TENGA MEN’S LOUPEも販売されていますので、とりあえず精子検査を自分でしてみるのも良いきっかけになると思います。

造精機能障害は、下記の3タイプに区分されます。

  • 無精子症(むせいししょう):精液中に精子が全く存在しない場合をいう。精子の通り道(精路)が閉塞している「閉塞性無精子症」と、精巣の精子形成に問題がある「非閉塞性無精子症」の2種類がある。
  • 乏精子症(ぼうせいししょう):精液中の精子数が少ない(15×106/ml未満)
  • 精子無力症(せいしむりょくしょう):精子の数は正常ではあるものの、精子の運動性が低下している

また、精子を造る働きに障害が出る原因には、次のような病気があります。

・精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)

精索静脈瘤はWHO(世界保健機構)によると、精液所見が悪い男性の25.6%に、また精液検査が正常の男性でも11.7%で精索静脈瘤が認められたと報告しています。

この精巣機能低下は進行して行きますので、二人目不妊の78%の原因となっています。ですから、2人目不妊の場合は男性不妊検査を必ずすべきです。

精索静脈瘤が大きく精液所見も悪い場合、手術を行えば精子所見だけでなく、男性ホルモンも大きく改善することが多いとされています。

また、精索静脈瘤は造精機能障害の原因のうち、約30%を占めるといわれています。

精子は毎日1億匹ほど作られているとされ、その膨大な数の精子をつくるために大量のエネルギー産生が起こるため、精巣は体温より2度低い温度が最適だとされています。

また、エネルギー産生のための十分な栄養の供給と精巣内ミトコンドリアのエネルギー産生に伴う活性酸素の発生もあるため、精巣は肝臓や腎臓と同じように血流が豊富な臓器です。

しかし、精巣を流れる静脈のうち、左側の静脈は腎静脈に入り、その手前で腎動脈に圧迫されているため、血液がスムーズに流れにくい構造になっています。そのため、血液が逆流しやすく、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)という塊ができることがよくあります。これは、睾丸上部に流れる静脈が異常に拡張して、怒張した状態を指します。

静脈の血流がうまく戻らなくなると、活性酸素も多く発生したり精巣内の温度が上昇してしまい、精子の生成がうまく行えなくなります。

・クラインフェルター症候群

通常、男性はXとYの染色体を一本ずつ持っています。しかし、クラインフェルター症候群の場合、X染色体を過剰に持っており、それ故「女性化」とみられる特徴を有し、数が多いほど障害の傾向が強く見られます。 

頻度は500〜600人に一人とされています。比較的頻度の多い染色体異常で、社会生活への支障は殆どないため、セックスレスや不妊症がきっかけで診断に至ることが多いです。

クラインフェルター症候群では、精巣が固くて小さく、男性ホルモンも小量しか分泌されません。多くの場合、精子の数が極端に少ないか無精子症となります。

また、この病気では、精巣萎縮による不妊や女性化乳房(乳癌の発生リスク高い)などの症状が認められます。

・停留精巣(ていりゅうせいそう)
男性の精巣は、胎児期には腎臓に近いところに位置していますが、発達とともに下降し、生後30~32週までに陰嚢(いんのう)の中に降りてきます。陰嚢とは、睾丸(こうがん=精巣)を包むコブ状の突出部のことです。

この精巣の移動が途中で止まり、陰嚢の中に精巣が入っていない状態を停留精巣といいます。男児の先天的な異常の中では発生頻度が高く、新生児の3~5%に認められます。人によっては、生後半年の間に自然に下降してくるケースがあります。

2. 精路通過障害

精路通過障害(せいろつうかしょうがい)とは、精子の通り道である精巣上体(せいそうじょうたい=副睾丸)精管(せいかん)に何らかの問題が生じ、精路がふさがったり、狭まったりしている状態をいいます。

この障害では、射精された精液に精子が含まれていなかったり、数が少なくなっていたりします。

精路通過障害の原因としては、次のようなものがあります。

  • 精巣上体の炎症
  • 先天的な精巣上体の発育不全
  • 鼡径(そけい)ヘルニア手術による精管の閉塞やパイプカット
  • 先天性精管欠損症
  • 尿道炎や外傷
  • 射精管閉塞症(しゃせいかんへいそくしょう)

3. 性機能障害

性機能障害とは、精子を送り出す機能の異常を伴う病気で、以下の3つに分類されます。

・性交障害
ED(勃起障害)は、加齢とともに増加する病気です。

実際の臨床では、不妊治療によって「性交渉のタイミングを合わせなければならない」という精神的な負担が生じたために、EDを発症してしまうケースがあります。このような状態を「タイミングED」とも呼ばれます。

EDの原因には、喫煙や高血圧、糖尿病、肥満、薬剤(降圧剤、精神薬、抗潰瘍薬、抗男性ホルモン薬)の投与による影響などがあります。そのため、EDを発症している場合は、他の疾患が隠れていないかをしっかりと検査することが大切です。

・射精障害
射精障害とは、「勃起は正常であるものの、膣内での射精が上手く行えない」状態をいいます。EDと同様に、タイミングを合わせることへの精神的負担や誤ったマスターベーションなどによって発症することが多いとされています。

・逆行性射精(ぎゃっこうせいせいしゃ)
射精時に精液が尿道口から排出されずに、膀胱の方に流れてしまう状態です。
本来であれば、男性の体は射精の際に、膀胱に精液が流れ込まないよう、膀胱と尿道の間の膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)が閉じることで逆流しない仕組みになっています。

しかし、逆行性射精の場合、この膀胱頸部が上手く閉じずに精液が膀胱へ排出されてしまいます。

逆行性射精には、オーガズムや射精管はあるものの精液が全く出ない「完全逆行性射精(かんぜんぎゃっこうせいしゃせい)」と射精量が少ない「部分逆行性射精(ぶぶんぎゃっこうせいしゃせい)」があります。

逆行性射精の原因としては、糖尿病や手術後遺症による末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)がほとんどです。また、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)に対する投薬によっても生じることがあります。

4. 加齢による影響

男性は「生涯を通じて精子を作ることができる」というのは、先にも述べたとおりです。しかし、作り出される精子の数や運動性は加齢と共にゆっくりと低下していきます。

「一般社団法人日本生殖学会」による研究から、30歳代と50歳代を比較した場合、加齢に伴って精液の量は3~22%、精子運動率は3~37%、精子正常形態率(せいしせいじょうけいたいりつ)は4~18%低下することが分かっています。

こうした「精子機能の低下」は不妊の原因になります。

カップルのいずれにも不妊症の原因が見られない場合

不妊症は、男女それぞれに原因があることはこれまで述べてきたとおりです。

その一方で、不妊治療に取り組むカップルの中には、卵管や卵巣、子宮、精子などの生殖器に全く異常が認めらない場合があります。こうした原因不明の不妊症は、全体の約3分の1を占めるといわれています。

また、前述したような不妊の原因となる病気は、医療の発展と共にその存在は判明してはいるものの、「それらの病気がなぜ発症するのか」といった根本的な原因は解明されていないのが現状です。

しかし、次世代遺伝子増幅装置や高精度の質量分析器等の検査機器の発達により、戻す胚の選別や無菌状態と信じられていた子宮内が「乳酸菌」で満たされていていなければなかなか妊娠出来ないことや、日和見菌(ひよりみきん)とされるカンジダ菌が腸内で異常増殖をしているために、ホルモンの低下や代謝の低下などが引き起こされていることがわかってきています。

不妊治療で実施される問診・検査

不妊治療を始めるにあたって、最も効率的な治療手段を選択するために、まずは詳しい問診を行います。

カップル双方に聞かれる項目として、結婚の期間、妊活期間、運動の習慣や睡眠時間、仕事の状況、パートナーとの性生活、飲酒や喫煙の有無、普段のメンタル面での感情の起伏などについて質問されることがあります。

女性に対しては、初潮、現在の月経周期・期間、規則的に来ているかどうか、過去の妊娠歴(流産・死産 自然分娩 帝王切開 子宮外妊娠 中絶など)や、既往、日常生活について質問されることがあります。不妊治療歴があれば、その期間や治療内容についても詳しく聞かれます。

男性に対しては生殖に関わる既往(おたふく、睾丸の外傷、パイプカット手術、感染症)や勃起の状態、射精までの時間、健全な性欲があるか、精子の数を減らしてしまう薬の服用などについて質問されることがあります。

これに加え、分子整合栄養医学(オーソモレキュラー医学)を実践している医療機関では、日頃の食事内容(栄養素の不足状況)や特定の食品を食べた後に体調不良が生じていないか、腸内環境は良好か、原因が分からない不定愁訴がないかなどに関して、詳しくヒアリングされることがあります。

こうした詳細な問診を経て、今後の治療方針や実施される検査について主治医から提案や指導がなされます。検査を受けた場合は検査結果を踏まえながら、具体的にどう治療を進めていくのかを話し合うことになります。

女性に対して実施される検査

・基礎体温

基礎体温とは、「生命を最小限維持するためのエネルギーしか消費していないときの体温」で、簡単に言うと、「心が平穏で運動していないときの体温、つまり起床してすぐの体温」です。

一般的に、女性の基礎体温は生理から排卵までの低温期が2週間くらい続いた後に、排卵が起こり、その後高温期が順調なら2週間程度みられます。

 

この低温期と高温期を合わせた「24~32日間を1つの周期」として、月経が繰り返されます。

低温期には卵胞が徐々に大きくなり、それに従って基礎体温は徐々に下がります。排卵する3日程前頃から卵の白身のような透明から白色の帯下が多くなり、排卵が済むと帯下は出なくなります。

その後10~14日間の高温期が続きます。排卵した卵は卵管采に捕捉され、そこで待っていた精子により受精が起これば、5〜6日かけて卵管内を胚発育しながら移動してゆき、高温相5~6日目頃に子宮内に着床して妊娠が成立すれば、高温相が0.2度ぐらい更に上昇し非常に安定します。

これは生物学的な反応で、尿の妊娠判定薬が陽性になる前の早期に妊娠していることがすぐに分かります。

妊娠が成立しなければ、高温相中期より子宮は月経の準備を始めます。すなわち子宮内の蠕動運動が始まり、フカヒレのような内膜が剥がれて細かくなってドロドロの月経血になる様に変化しますので、敏感な女性は「PMS」のような症状が出るようになります。

基礎体温を測定することで、妊娠に不可欠な排卵の状態を確認するのに有用だとされています。そのため、不妊症を疑った際には、初めに基礎体温を毎日取り、表にすることが推奨されています。

基礎体温表からは「排卵の有無」「排卵日の予測」「黄体機能不全の有無」「不正出血の原因の推測」などを読み取ることができます。

従来は、自分の排卵日を把握するために必ず行われていた基礎体温の測定ですが、現在は少し状況が変化しているようです。

クリニックによっては、基礎体温の計測は必須ではないとする医師たちがいます。

近年では、様々な診断技術が発達したことから、ホルモン測定や超音波検査などで、月経周期を把握したり、排卵の有無を確認したりすることが可能になっているので基礎体温をグラフ化することを重要視していない医師もいます。

しかし、基礎体温は女性自身の体の変化に気づくきっかけとなり、自己管理することを毎日意識させてくれます。また、超音波やホルモン検査、排卵検査薬などの費用のかかる検査をしなくても排卵の有無は多くは分かります。

ですから、基礎体温の測定については、患者の「自己管理」として付けるようにアドバイスする事が勧められ、もし生理が来るたびに落ち込んで悩んでしまう場合は、無理に付けなくても良いと考えます。詳細は主治医に相談してみてください。

・内診・経腟超音波検査

経腟超音波検査(けいちつちょうおんぱけんさ)とは、膣内に入れた先が丸くて棒状のプローブ(探触子)から超音波を出し、その反響陰影で卵巣や子宮の状態を描画し、非侵襲的に確認できる安全な検査です。

音を水はよく通し、空気は余り通さないので、ガスが腸管にたまっていて卵巣が腸管内にあると卵巣がよく見えないことがあります。

また、固い子宮筋腫は音波を通さないので黒い塊に近いものとして、チョコレート嚢胞は嚢胞内の小さな赤血球が音を反射するので、磨りガラスのように見えます。このような特性を使って医師は子宮形態異常や子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腺筋腫、黄体機能不全、多嚢胞性卵巣などの有無を調べることができます。

また、基礎体温の測定だけでは見落としがちな、黄体化非破裂卵胞(おうたいかひはれつらんぽう:LUF)の発見にも経腟超音波検査は有効的です。

黄体化非破裂卵胞は、卵子が排卵されることなく黄体化してしまう状態をいいます。

黄体ができると「プロゲステロン」が分泌されてやや低い高温期に入るため、基礎体温表上では注意しないと「排卵が起こって正常な周期でホルモンが働いている」と誤って判断されてしまうことがあります。

経腟超音波検査で卵胞の直径を測定し、その直径が18~22mmになると多くは排卵するので、排卵の時期を正確に予測することができます。タイミング指導や人工授精の際に、基礎体温表だけでなく経膣超音波検査を併用すれば、妊娠の確率がさらに高くなります。

・子宮卵管造影検査

子宮卵管造影検査(しきゅうらんかんぞうえいけんさ)は、1914年に始まり、1924年には今のようなリピオドールを用いたものとなり、約100年近い歴史があります。

子宮内にヨードを含んだ造影剤を注入し、子宮や卵管への造影剤の広がり方をレントゲン上で確認する検査です。

この検査によって、子宮の形態異常や筋腫の内膜圧迫や子宮内癒着(アッシャーマン症候群)、卵管の詰まりや狭窄、癒着があると骨盤内の炎症や卵管水腫の有無などを調べることができます。

この検査を行うことによって卵管閉鎖が解放されたりして、数ヶ月から半年間は妊娠する可能性が上がるというメリットがあります。デメリットとしては、卵管炎を起こしていれば腹膜炎を誘発してしまう可能性、希に造影剤による血栓症のリスクなどがあります。

具体的には次のような手順で検査が行われます。

  1. 子宮内にバルーンカテーテルを入れて先端を膨らませ、カテーテルが抜けない様にすると同時に造影剤が漏れないようにする。
  2. カテーテルが入らないときは、円錐形の形をした特殊な器具を子宮口にあてがい、子宮頚部を単鈎で把持して造影剤を注入する。
  3. 造影剤が子宮内で広がる様子をレントゲン上で確認し、子宮内が満たされたところで写真を1枚、卵管から出たところで1枚、一般的には24時間後に腹腔内に造影剤が広がった状態になったところで1枚写真を撮る。

子宮卵管造影検査は、月経終了後から排卵前までに行う必要があります。

注意事項としてはもし排卵後に検査を行った場合、造影剤やレントゲンが受精卵へ悪影響を及ぼす可能性があるため、排卵前に行い、また検査終了までは避妊するようにします。

・血液検査

不妊症における血液検査では、血中のホルモン量や甲状腺疾患、クラミジア感染の有無などを診るケースが多いです。また、血液検査では抗精子抗体(こうせいしこうたい)の有無を確認することもできます。

血液検査の中で、ホルモン量を調べることは不妊症治療にとても重要な要素となります。

血中のホルモン量は月経周期によって変化するため、「低温期」、「排卵期」、「高温期」の各期において検査を行います。

それらの各期におけるホルモンの変化を基に、他の疾患が発症している可能性の有無を判断したり、排卵日を予測したりすることができます。

また、月経周期が規則的である場合には、月経開始2~4日目に血液検査を実施し、卵巣刺激ホルモン(LHやFSH)や卵胞ホルモン(エストロゲン)などの基準値を測定します。

この時期は、下垂体ホルモンと卵巣ホルモンの相互作用が最も少ない期間であるため、正確な数値が得られやすいとされています。

さらに「抗ミュラーリアンホルモン(AMH)」という特殊なホルモンの値を調べるケースもあります。

このホルモンは、主に生理から2ヶ月前の2次胞状卵胞から発育してくる卵胞の「顆粒膜細胞(かりゅうまくさいぼう)」から主に分泌されており、卵巣の予備能力の指標になるといわれていますが、妊孕性(にんようせい)とは関係ありません。

他のホルモンが月経周期に合わせて大きく変動するのに対して、抗ミュラーリアンホルモンはあまり変わることがありませんが、長期にピルを服用していると半減したりします。

このホルモンは年齢とともに減少し、30歳で4.2ng/ml、40歳で2ng/ml程度とされています。

このホルモン値が低いからといって卵子の性質が悪いとは言い切れません。あくまで小さな発育してくる胞状卵胞の数を反映するものであり、不妊治療における目安とします。

・腹腔鏡検査

へその近くに空けた小さい穴から直径0.5~1.0cmの内視鏡を挿入し、子宮や卵巣、卵管の状態を調べる検査です。子宮内膜症などの病状や卵管の状態を把握することができます。

検査と同時に卵管の通過性を確認する通色素法(卵管疎通検査法(らんかんそつうけんさほう))を行ったり、更に手術鉗子を2~3本挿入して卵管の癒着剥離や卵管形成術、子宮筋腫の摘出をしたりすることも可能です。

・子宮鏡検査
細くやわらかい直径3mmほどの子宮鏡を子宮内に挿入し、子宮や卵管の状態を調べる検査です。有茎性の子宮内膜ポリープなどが見つかれば検査と同時に除去することも可能です。

・MRI検査

磁気の力と電波を利用して、様々な角度から体の断面を画像化することで、体の内部の様子を調べる検査です。 子宮や卵巣などは心拍動や呼吸により影響を受けにくい位置にあるため、MRI検査で正確な結果が得られやすい臓器です。

特に、子宮や卵巣に発生する腫瘍性病変に対しては、超音波検査やCT検査よりも病状を詳しく把握することができます。たとえば、腫瘍の大きさ、位置や腫瘍内に貯留している液体の性状などです。

男性に対して実施される検査

・診察
病歴や性生活の確認に加えて、精巣のサイズなど、外陰部の状態も診察します。特に不妊症の原因として最も頻度の高い精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)がないかを確認することは、診察においてとても重要です。

精索静脈瘤とは、睾丸上部に流れる静脈の異常肥大のことをいいます。

・精液検査

精液検査は、1回の射精で得られる精液量と精液内の精子の機能性を調べる検査です。2~3日間、射精しないようにし、その後マスターベーションによって射精します。その後、射精した精液を採取し、精子の濃度や運動性、奇形性、クラミジアなどの感染がないかを調べます。

男性の精液は、毎日およそ1億匹作られますが、データの変動が大きいので3回ほどは日を違えて分けて検査をし、総合的に判断する必要があります。

・血液検査

血中の男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、抗ミューラリアンホルモンなどを検査します。また女性と同様に、血液検査で男性側の抗精子抗体の有無を確認することができます。

・染色体、遺伝子検査

精子数が極端に少ない方や無精子症の可能性がある場合に行われます。染色体や遺伝子の異常が精子形成を障害する原因となっているケースもあります。

また、この検査で精巣内の精子を採取できるかどうかを把握するができるため、その後の治療の可能性を検討する上では、重要な検査になります。

・その他
精嚢や射精管の形状を調べるMRI検査や精巣での精子形成の状態を詳しく調べる精巣生検などの検査も必要に応じて行います。また、勃起能力を確認する検査などを実施するケースもあります。

カップル双方に対して実施される検査

上記した体内の状態を把握する検査の他に、性欲の状態や性行為の回数など、器質的な問題以外への検査を行います。

不妊症検査においては、ライフスタイルや食生活などへも目を向ける必要があります。生活習慣を把握することは、不妊治療を行う上で、とても重要になります。

不妊治療の流れ

不妊治療には一般不妊治療と高度不妊治療があります。

一般不妊治療は、タイミング法や人工授精です。高度不妊治療は、体外受精や顕微授精です。高度不妊治療は生殖補助医療とも言われ、これをART(アート:Assisted Reproductive Technology)と言います。

名称 内容
一般不妊治療 タイミング療法、人工授精
高度不妊治療(生殖補助医療:ART) 体外受精、顕微授精
それぞれについて見ていくことにしましょう。

タイミング法

タイミング法とは、超音波検査やホルモン検査、基礎体温表、排卵検査薬などによって排卵日を正確に予測し、その日に性交渉することで自然妊娠をめざす方法です。「自然周期によるタイミング療法」と「排卵誘発剤を用いたタイミング療法」があります。

まずは、自然周期によるタイミング療法を行います。排卵日に合わせて性交渉をすることで、受精の機会が高まります。

自然周期によるタイミング療法を数ヵ月継続しても妊娠しない場合は、排卵誘発剤を用いたタイミング療法に切り替えます。飲み薬や注射薬を使用することで卵巣を刺激し、妊孕性の高まった卵を複数個排卵するように促します。

クリニックや病院での超音波検査で卵胞の成長を観察しながら排卵日を特定し、性交渉を行うよう促します。

人工授精(AIH)

タイミング法がうまくいかなかった場合は、人工授精(AIH 配偶者間人工授精 artificial insemination with husband’s semen)にステップアップしてみます。人工授精とは「細いチューブを用いて、精子を女性の子宮、あるいは、卵管に人工的に送り込んで妊娠を試みる方法」です。

排卵した卵子が卵管に取り込まれ、自然に精子と受精して妊娠する過程は自然妊娠とほとんど変わりはありません。

人工授精では、運動性が高く、質の良い精子が選別されます。

体外受精(IVF)

体外受精(たいがいじゅせい)は、タイミング法や人工授精からさらにステップアップした治療法です。体外受精は、子宮内での受精が自力では難しい場合に用いられます。

体外受精では、子宮内から取りだした卵子を体外で受精させ、受精卵を数日間培養した後に子宮内に戻します。

人工的に作り出した受精卵(胚)を子宮や卵管に戻すことを「胚移植(ET :embryo transfer)」といいます。また、体外受精や胚移植など、生殖に関わる高度な技術を総称して「生殖補助技術(ART)」と呼びます。

体外受精には、受精後2~4日間培養した後に子宮内に戻す「初期胚移植」と、5~6日間培養して胚盤胞(はいばんほう:着床前の胚形成初期に形成される細胞)の状態まで受精卵を成長させてから戻す「胚盤胞移植」の2種類があります。

「胚盤胞移植」の方が、着床率は高くなります。4日目以降の胚はに精子の遺伝子も活発に働くようになり、代謝が上がり、ATP産生の増大に伴って産生される代謝水が卵割腔を形成し始めます。

胚盤胞とは、その卵割腔形成後から着床前の胚ことです。

胚盤胞は、内側に胎児成分である内細胞塊を持ち、胚盤胞を殆ど形成している外細胞塊は栄養膜細胞(en:trophoblast)となって胎盤が形成されます。

顕微授精(ICSI)

体外受精で妊娠出来ないくらい精子が少ない方や受精障害の方の治療方法として、顕微授精(けんびじゅせい)があります。顕微授精とは、卵子の細胞内に精子を人工的に注入する治療法です。

通常の体外受精では、卵子と精子が自然に受精するのを待ちます。そのため、「受精」という漢字が当てられています。

それに対して、顕微授精では、顕微鏡下で針を用いて精子のミトコンドリアがある体部を挫滅(ざめつ)して精子を動かなくしてから卵子の中に直接精子を注入して受精させます。ですから「授精」という漢字を当てます。

顕微授精では、通常の体外受精と同様に、受精卵を培養した後に子宮内に戻します。

なぜ、精子のミトコンドリアを挫滅しなければ授精が起こらないか、詳しいメカニズムは分かっていませんが、これが顕微授精の重要なポイントです。

恐らく、排卵するまで卵細胞は周りの顆粒膜細胞からATPを貰って、活性酸素による遺伝子損傷がなく数十年の長きにわたり卵巣の中で保存されていましたが、排卵すると周りの顆粒膜細胞がバラバラに剥がれてエネルギー産生が絶たれると、自分のエネルギー産生システムを起動して、受精の準備をする卵細胞と似てくる事が精子にも起こっているのではないかと推察されます。

そして、受精とは卵の遺伝子が女性前核になり、精子の遺伝子がほどけて男性前核になり、あたかも男女の二人が卵の中でお見合いをしているようです。

その女性前核と男性前核が程なくして合わさって見えなくなり、数時間後にはじめの細胞分裂がおきます。この、前核同士が合体し消失するまでが一般的に受精とされます。

しかし、精子を動かなくして卵子にしっかりいれる顕微受精をしても、男性前核と女性前核が見えない、すなわち「受精とはならない」場合があります。その様な方には、卵の活性化が必要とされ、Caイオノフォア や ストロンチウム、電気刺激法などが検討できます。

顕微授精による妊娠・出産の実績については、各クリニックに問い合わせしてみましょう。

治療の費用

不妊症の治療にかかる費用を下記にまとめます。

治療内容 費用 妊娠率
タイミング法 5千~1万円 5~6%
人工授精 1~3万円 7~9%
体外受精・顕微授精 30~60万円 30~45%

不妊原因を探るための「一般不妊検査」や「タイミング法」などの一般診療であれば、健康保険が適用されます。しかし、「人工授精」、「体外受精」、「顕微授精」など生殖補助技術は保険の適用外となります。高度な技術を必要とする面から高額な費用が必要になります。

一般的不妊治療から高度不妊治療に進むのは大変大きなステップアップとなることが多いです。体外受精や顕微授精などの高度不妊治療は、治療に要する費用や時間も大きくなり、カップルにとっては精神的な負担も増えます。

また、治療による妊娠の成功率や症例もクリニックによって異なります。詳細は各クリニックに確認しましょう。

人工授精による妊娠では、双子や三つ子が生まれやすい

一般不妊治療では、妊娠の可能性を上げるために排卵誘発剤によって排卵の数を増やして治療することがあります。通常、女性は1ヶ月に1つだけ排卵しますが、排卵誘発剤を使うと、一度に複数個の卵胞を排卵してしまうからです。

また、体外受精や顕微授精でも、ひとつの受精卵を移植するのみでは妊娠率が低いために、一度に複数の卵子を子宮内に入れる場合があります。また、受精卵を胚盤胞まで培養して子宮内に戻すと1個移植でも20~30%の妊娠率になるので、胚盤胞移植をしたりする場合があります。

こうしたことから、妊娠率を上げようとした結果、不妊治療によって「双子や三つ子」といった多胎妊娠(たたいじにんしん)になる傾向が高くなります。

現行の国内における不妊症のガイドラインでは、「子宮に戻す受精卵は原則一個のみ」というのがコンセンサスになっています。

しかし、高齢出産や短期間で妊娠・出産する必要があるなどのやむを得ない事情がある場合は、患者との合意の上で、受精卵(胚)を2個以上子宮へ移植するケースもあります。

多胎妊娠では、30週未満の早産や出産後の出血、前置胎盤(ぜんちたいばん:胎盤が正常より低い位置に付着し、胎盤が子宮の出口を塞いでいる状態で、出産時大量出血と胎児仮死が必発なため帝王切開分娩が避けられない)といったリスクが高まるとされています。また、妊娠高血圧症候群の可能性も高まります。

加えて、新生児に脳性麻痺や未熟児網膜症、自閉症・発達障害などの先天性疾患が生じるという危険性を示唆する声もあります。

多胎児妊娠が分かったとき、当初から双子や三つ子を望んでいたカップルならば、それは喜ばしいことですが、一人だけ生んで育てることを望んでいるカップルにとっては、複数の子供を同時に育てていくための「心の準備と複数の良き協力者」が必要です。

双子や三つ子を育てていくには、睡眠不足や子育てのストレス、経済的な負担も多くかかるため、家族や親戚、同僚、育児施設からの協力を得なくてはなりません。

不妊治療に取り組むにおいては、多胎児妊娠の可能性やリスク、メリット・デメリットに関して、事前に主治医と詳しく相談しておく事が望ましいです。

代理母出産や精子提供

日本では、代理母出産や精子提供は公には認められていません。

しかし、法的整備が追い付いておらず、また、妊娠を切実に望むカップルが多いことから、例外的に国内でこうした方法に踏み切るカップルや海外でこうした不妊治療を行うカップルは増えています。

代理母出産・代理懐胎

代理母出産(代理懐胎:だいりかいたい)とは、子宮体癌や頚癌などの理由で子宮を摘出してしまい、妊娠・出産ができない女性が、他の女性に妊娠出産してもらうことをいいます。代理母出産の方法にはいくつかの種類があります。

区分 内容 妊娠・出産する人 引き継がれる遺伝子
サロゲートマザー 人工授精によって代理母の子宮に依頼者の夫の精子を注入し、代理母が妻の代わりに妊娠・出産する 代理母 夫と代理母の遺伝子
ホストマザー 体外受精によって依頼者カップルの受精卵を作り、代理母の女性に受精卵(胚)を移植し出産して貰う 代理母 夫と妻の遺伝子
卵子提供オーサイトドネーション)  体外受精によって依頼者の夫と提供卵子で受精卵を作り、妻に受精卵(胚)を移植し、妻が妊娠・出産する  妻 夫と卵子提供女性の遺伝子

日本では、倫理的な反論が根強く残っており、代理母出産は実質的に禁止されています。しかし、生殖補助医療を規制する法的な整備が遅れているのが現状です。

日本産科婦人科学会からは「代理懐胎に関する見解」が公表されていますが、学会の自主規制という色合いが強いです。

日本学術会議は、2008年4月に、代理懐胎の法規制と原則禁止などを盛り込んだ提言を行っています。
日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会 (2008-04-08). 対外報告 代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題—社会的合意に向けて (Report). 日本学術会議 2013年8月2日閲覧。

一方で、日本国内初の代理母出産を実施したケースとして、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が2001年5月に公表するなど、独自で「代理出産」や「非配偶者間体外受精」の臨床実績を重ねているクリニックがあります。

国内での代理母出産に対する法整備が追いついておらず、殆どの産婦人科施設が学会のガイドラインに沿って代理母出産を実施していないことから、海外に渡って代理母出産を試みるカップルもいます。

多くのケースでは、代理母出産に比較的寛容な米国に渡航する例が多く、また、経済的なメリットからタイやインドネシア、台湾で代理母出産を行うカップルもいるようです。

諸外国をみてみると、代理出産を禁止する国と許容する国にわかれています。

代理出産を禁止している国には、フランス、ドイツ、イタリア、スイス等があります。

全面的ないし部分的に代理出産を許容している国には、イギリス、アメリカ(一部)、オランダ、ベルギー、カナダ、ハンガリー、フィンランド、オーストラリア(一部)、イスラエル、デンマーク、ギリシャ、ルクセンブルク、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インド、ニュージーランド、ベトナム等があります。

知っておきたい代理母出産の問題点や日本の現状より一部抜粋

海外で代理母出産して産まれた子供の国籍は殆どが出生国の国籍になるため、産んでもらって日本へ連れてきた子供の国籍を日本国籍には現法律ではできないという問題があります。

日本国籍にするためにはどうしたらよいかという問題が生じています。

精子提供・非配偶者間人工授精

精子提供とは、男性が有償、もしくは無償で自身の精液を第三者に提供することです。

主に、夫が無精子症であった場合に人工授精や体外受精を目的として、妊娠を望む女性に対して第三者の精子が提供されます。海外では多くは精子バンクと呼ばれる施設を通して行われています。

妻の子宮内に第三者から提供された精子を注入して妊娠を試みる不妊治療を、非配偶者間人工授精(AID)といいます。

精子を提供される対象として、不妊治療を行っているカップル(男性不妊)、シングルマザーとして子供を望んでいる女性、LGBT(同性カップル)などの人たちがいます。

日本では、非配偶者間人工授精は日本産科婦人科学会に認められており、学会登録施設が行っていますが、施設数も限られており、紹介状を書いて貰っても初診受付予約が半年から1年近く待つことになることが多く、妊娠率も凍結精子を用いるため運動率がどうしても低くなりがちなため、一般の人工受精(8-11%)と比べると2~3%と低いのが問題です。

また日本では提供精子を用いた体外受精は日本産科婦人科学会が認めていないため、卵管性不妊や免疫性不妊などにおいても、腹腔鏡下の卵管形成手術や癒着剥離などをして、ひたすらAIDをしなければならないという問題もあります。

非配偶者間人工授精は1940年代後半から実施されており、非配偶者間人工授精によって誕生した人たちは、これまで国内で数万人に及ぶとされています。

非配偶者間人工授精による妊娠・出産では、精子提供者は匿名であり、提供者自身にも「自分の精子が誰に提供されたのか」、「子どもが生まれたのかという」情報は与えられていないことがほとんどです。

また、生まれた子供の幸せを考える点から、自分の父親を知る権利が子供側にあるのではないかとの倫理的な問題も上がっています。

日本産科婦人科学会は、倫理的な側面からこの治療法について検討を重ね、「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解を公表しています。

卵子の凍結保存

卵子の老化は、30歳を過ぎたあたりから緩やかに始まるとされています。

しかし、30代を過ぎてもパートナーがいない女性や今すぐに妊娠を希望しない女性は大勢います。また、癌などの治療によって、妊娠する能力が低下してしまう可能性がある女性もいます。

こうした女性たちが将来のどこかのタイミングで妊娠・出産する計画を立てられるようにするために、卵子凍結保存という選択肢があります。

卵子凍結では、一般的に排卵誘発を行って卵を多数採取し、それを凍結保護剤による処置をした後に液体窒素の中に入れて、卵子を凍結保存します。

凍結卵子を使って妊娠する場合は、凍結卵子を融解し、パートナーの精子を用いて顕微授精させます。そこでできた受精卵(胚)を女性の子宮に移植し、妊娠・出産に導きます。

卵子の凍結保存は、将来の妊娠に備えるための有用な手段のひとつになり得ます。

その一方で、卵子を凍結保存したとしても、受精率の低さや受精卵ができたとしても必ず妊娠・出産に至るとは限りません。そのため「出産にはつながらない」として、卵子の凍結を中止したクリニックも存在します。

また、日本産科婦人科学会のガイドラインでは、女性の年齢が42歳に達したら、それ以降の妊娠出産においては危険が伴うため卵子凍結保存を中止すべきとの勧告に従って、せっかく保存しておいた卵子を廃棄するようになっています。

卵子凍結のために数十万から数百万円かけても、それまでに婚姻を結び挙児(きょじ:妊娠・出産を希望するという意味)を得る境遇にならなければ無駄になってしまいます。

卵子凍結のメリットとデメリット、リスクについては、上記の様な点も考慮に入れて各クリニックに詳細を確認するようにしましょう。

妊娠を妨げる疾患や体調不良の例

妊娠しにくい体質になってしまう要因として、他の病気になっていたり、慢性的な体調不良が起きていたりすることが考えられます。ここでは、不妊症の女性に見られる病気や体調不良について、一部の例を紹介します。

尚、ここに挙げた症状を抱えているからといって、必ずしも不妊症になるとは限りません。もし、今現在、不妊治療に取り組んでいる人で、下記の症状について心当たりがある場合は主治医に相談してみて下さい。

無排卵月経

無排卵月経(むはいらんげっけい)とは、月経があっても排卵していない状態をいいます。

無排卵月経の人に見られる特徴として、下記があります。

  • 生理周期がバラバラ
  • 生理周期が極端に短い
  • 月に2回以上生理がある
  • 少量の出血がダラダラと長引く
  • 経血量が極端に多くこめまにナプキンを取り替えないと間に合わない
  • 生理痛がない

無排卵月経かどうかは、基礎体温をつけることで推察できます。

正常な月経周期の女性では、排卵が起きるとプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌され、基礎体温が上がります。

しかし、無排卵月経では卵胞発育に伴う排卵がないためプロゲステロンが産生できず、低体温と高体温の2相に分かれないため、基礎体温はずっと低温のままになります。

基礎体温を一定期間付けてみて体温が低温相のままだったり、体温が常に乱高下している場合は、無排卵月経の可能性があります。

自分が無排卵月経がどうかを調べるためには、「基礎体温」「血液検査」「超音波検査」などを使って調べる方法があります。

基礎体温では、先ほど述べた低温期と高温期に分かれているかを調べます。

血液検査では、黄体ホルモン値が正常(10-20ng/ml)かを確認します。

超音波検査では、排卵する卵胞の大きさを測定することによって、比較的正しく排卵時期を予測することが可能になります。

また、排卵の前後で2回超音波検査を行い、排卵の有無を1回は調べると良いでしょう。

生理不順・不正出血

不正出血とは、月経時期以外に生じる出血をいいます。基礎体温をつけていると、その出血が生じている時期を見ることで、出血の原因を予測することができます。

たとえば、排卵時には卵胞ホルモン値が200-300ng/mlの高値から、一過性に70 ng/mlほどの低値になり、それが100-200 ng/mlにまた戻ります。

この卵胞ホルモンの乱高下のために、子宮内膜から少し出血することがあります。

また、妊娠初期に起こる着床出血(受精卵が子宮に着床したときの出血)で、出血することもあります。着床出血は、生理予定日の1週間ほど前から生理予定日までに起こることが多いです。

その他、子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮内膜症で不正出血が生じることがあります。これらの病気の場合、不正出血が長期間みられ、下腹部痛などが生じる場合があります。

黄体機能不全

黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)とは、黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌する黄体が上手く機能しなくなる病気のことです。

この黄体ホルモンは、主席卵胞が排卵する頃から少しずつ上昇し、排卵後は顆粒膜細胞と莢膜細胞の両方から産生されるようになります。

黄体ホルモンが適切に分泌されると、基礎体温が上昇し、子宮内膜が増殖期内膜から分泌期内膜になって妊娠しやすい体になります。

しかし、なんらかの理由で黄体に障害が生じると、月経周期が崩れ、妊娠しにくい状態になってしまいます。

【黄体機能不全の診断基準】

  • 高温期の持続が9日以内
  • 低温期と高温期の温度差0.3℃以内
  • 子宮内膜の厚さ8mm以内
  • プロゲステロン10ng/ml未満

甲状腺疾患

甲状腺(こうじょうせん)は「喉ぼとけ」の付近に存在する臓器です。重さは16~20g、大きさは縦4.5cm、横4cmです。

甲状腺では、甲状腺ホルモン(T3、T4)と呼ばれる、体に必要不可欠なホルモンを合成しています。

甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進するホルモンです。甲状腺ホルモンの分泌が亢進(こうしん)している状態を、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)といいます。

甲状腺機能亢進症では、ちょっとしたことでも大量のエネルギーを消費するため疲れやすくなったりる、大量の汗をかく、体重が減少する、イライラしやすくなるどの症状が見られます。

一方、甲状腺ホルモンの分泌機能が低下している状態を、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)といいます。甲状腺機能低下症では身体の冷えやむくみ、体重の増加、便秘などの症状が見られます。

また、甲状腺ホルモン低下症(こうじょうせんほるもんていかしょう)では、卵胞が成長せずに排卵が起こりにくくなります。甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、脳の視床下部はTSH放出ホルモン(TRH)を分泌して下垂体に送ります。

これを受けた下垂体からは甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されます。TSHは甲状腺に働きかけ、甲状腺の値を正常に戻そうとします。

甲状腺ホルモンを正常に戻すためにTSH放出ホルモンが上昇すると、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン:PRL)にも影響が及びます。

TSH放出ホルモンの上昇に伴いプロラクチンの分泌が増え、同じ下垂体前葉から分泌される性腺ホルモン(ゴナドトロピン;FSH, LH)の分泌が影響を受けて分泌が抑制され、その結果、卵胞が成長せずに排卵障害になります。

加えて、甲状腺ホルモンは「妊娠の維持」にも、重要な役割を果たしています。甲状腺ホルモンの異常は、不育症や流産とも関係すると言われています。

妊娠初期に、切迫早産(せっぱくそうざん)の兆候が見られた妊婦の「血中甲状腺ホルモンレベルと切迫早産の関係」を調査したデータがあります。

切迫早産とは、早産しそうな状態になることをいいます。子宮の収縮が高頻度で生じ、子宮口が開いて胎児が出てきそうな状態になったり、破水してしまったりした状態をいいます。

本来であれば、まだ母親の胎内に留まって生育すべきなのにも関わらず、胎児が生まれそうになってしまうのです。

切迫早産の原因は多岐にわたりますが、甲状腺ホルモンに異常が生じることによって、胎盤の作用が十分に発揮されないために起こるとも考えられています。

前述の調査データによると、「切迫早産をした妊婦は、妊娠を維持した妊婦と比較して、血中の甲状腺ホルモン濃度が有意に低い」ということが示されていました。

また、妊娠の初期から中期にかけて母体の甲状腺ホルモンが低いと、胎児の精神発育に影響する(IQが低くなる)という研究データが発表されています。母体の甲状腺ホルモンは、胎児の発育(特に精神・知能・神経などの発達)に不可欠であると考えられています。

適正体重

女性ホルモンは、体重に大きく影響を受けます。そのため、太り過ぎても、痩せすぎても妊娠しにくい体になってしまいます。適性体重を知るには、BMI(Body Mass Index)を用います。

BMIとは、WHO(世界保健機構)によって定められた肥満を調べるための指標です。性別や年齢、身長を基に、簡単な計算を行い、その人にとって適切な体重を割り出します。

具体的には、次の計算方法によって求めます。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

一般的な女性の標準体重の目安がBMI 18.5~25.0なのに対して、妊娠しやすいとされている体重の数値はBMI 20.0~24.0です。22.0を目標に捉えるといいとされています。

栄養不足(偏ったダイエット)

不妊治療に取り組んでいるカップルは、男女ともに栄養失調になっていることが、臨床上のデータから示されています。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践している産婦人科では、不妊治療に取り組むカップルに対して、詳細な血液検査を行うことで、潜在的に不足している栄養素を把握します。

私たちの体は、日々新しい細胞によって作り替えられています。しかし、体が栄養不足では、新しい細胞を作り出す能力が低下してしまったり、作られた細胞の機能が弱かったりすることがあります。

こうした「栄養失調」になってしまう原因として、様々なことが考えられます。

偏ったダイエットで栄養不足になると、全身の機能が低下します。また、糖質の過剰摂取によるタンパク質やビタミン・ミネラルの不足も、妊娠しにくい体質になってしまう原因となり得ます。

他に、ストレス、炎症、感染などによって体が消耗し、栄養素が枯渇してしまう場合があります。さらに、腸内環境が悪いため、せっかく食事から摂った栄養素が、体内できちんと消化・吸収・利用されていないケースも多く見られます。

このような状況になると、男性では新しい精子を作り出すことができなくなってしまったり、精子の活力が低下してしまったりするリスクを生み出してしまいます。女性の方は、生まれたときからもっている卵子細胞の「老化スピード」を早めてしまうことにも繋がります。

不妊しにくい体質を改善し、妊娠を目指すために必要な栄養素については、後の章で述べることにします。

高齢化に伴う妊娠・出産のリスク

日本産科婦人科学会の定義では、35歳を過ぎての初産を「高齢出産」としています。

加齢に伴って体が老化するため、出産時の年齢が高齢になればなるほど、母子ともにリスクが高まります。特に、流産や奇形の発生率が上昇することが知られています。

妊娠・分娩の適齢期

妊娠・分娩に最適な年齢は20歳代、遅くとも35歳までと考えられています。

30歳を超えると女性が自然に妊娠する可能性は少しずつ低下し、35歳くらいから急激に低下します。また、35歳以上では流産やダウン症などの染色体異常が多くなるともいわれています。

妊娠・出産を希望する場合は、35歳から40歳の間に通院開始して、検査を受けたり、医師の助言を受けたりするのが望ましいとされています。

奇形・発達障害

奇形児は、ダウン症などに代表される染色体異常を有した受精卵が着床し妊娠した場合にみられます。また奇形が生じる他の原因には、卵子の加齢や葉酸の不足、喫煙やアルコール摂取、放射能物質の影響なども挙げられます。

日本では、心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)や口蓋・口唇裂(こうがい・こうしんれつ)、ダウン症などの奇形が多いです。

染色体異常の胎児は生存するための遺伝子の部分が不足したりしているため生命力が非常に弱く、10~15%が流産してしまいます。この確率は高齢出産の場合、20~40%にまで高まります。

また、染色体異常が原因の一つとして考えられている自閉症などの発達障害の発症率も、高齢出産では高まります。

流産・死産

日本産婦人科学会では、妊娠22週未満の胎児が娩出(べんしゅつ)されることを「流産」と定義しています。

流産の中でも妊娠12週未満の流産を前期流産と呼び、妊娠12週から22週未満の流産を後期流産と呼びます。また、妊娠22週以降の死児の出産を「死産」と定義しています。

不育症

不育症(ふいくしょう)とは、妊娠はするけれども、流産、死産や新生児死亡などを繰り返すことを指します。

不育症は、習慣流産(しゅうかんりゅうざん)や反復流産(はんぷくりゅうざん)とも呼ばれます。一般的には2回連続した流産・死産があれば不育症と診断されることが多いようです。

流産が生じる理由の多くは染色体の異常や胎児に何らかの問題があるために、体が自然淘汰を選んだことだと考えらえています。

妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は、不育症とは見なされません。

自然流産は全妊娠の約15%に発生するとされています。

そして、自然流産になる原因の大半を占めているのが、染色体異常による流産だといわれています。主に、卵子の老化で染色体異常が発生するため、女性の年齢が上昇するほどリスクは高まるとされています。

また、カップルのいずれかに染色体の構造に異常(転座型染色体異常:てんざがたせんしょくたいいじょう)がある場合、その異常が受精卵に受け継がれるために流産となることがあります。

染色体転座(せんしょくたいてんざ)とは、「染色体の一部がちぎれて他の染色体に結合した状態」をいいます。染色体に転座があると、遺伝子が通常よりも「余分」だったり、「欠落」したりします。

染色体相互転座を持つ人でも、正常に発育し、健康な成人として生きている人は存在します。しかし、妊娠を望むカップルのいずれかが染色体相互転座を持っていると、流産する確率は高くなるとされています。

染色体相互転座があるかどうかを調べるには、遺伝子検査や染色体分析(カリオタイプ)を行います。

もし染色体相互転座があると分かった場合は、主治医や遺伝子カウンセラーなどと相談し、今後の治療についてよく話し合うようにしましょう。

※X染色体を過剰に持っているクラインフェルター症候群に関しては、「男性に原因がある場合」を参照して下さい。

精神的負担を軽減するために

不妊治療を行っていく上で、金銭的な負担はとても大きいです。ただ、不妊治療が長期化すればするほど、金銭面だけでなく、精神的なストレスを抱えるカップルも少なくありません。

このような状態になれば、さらに妊娠しにくい体になってしまうこともあります。これを「不妊治療不妊」といいます。

たとえば、タイミング法を試みているカップルの場合、排卵日を意識しすぎてしまい、義務的な性交になってしまい、お互いにストレスを感じることがあります。また、体外受精や顕微授精を行っている夫婦は、セックスレスに陥りやすい傾向があります。

セックスレスになると、「相手から愛されていないのではないか」「異性としてみられていないのではないか」と悩み、ストレスを貯め込んでしまいます。これでは、夫婦間も険悪な状態になりやすく、精神的負担をさらに大きくする悪循環が生まれます。

また、不妊治療中は、生活習慣も見直さなくてはいけません。妊娠しやすい栄養素を意識した食事や禁煙、禁酒、運動など、体の中から健康な状態を作る必要があります。

このような行為は、不妊症治療の効果をより高めたり、根本的な原因を解決したりすることができるため、とても重要です。

ただ、生活習慣を見直すことの意味をしっかりと理解しないまま、禁煙や食事制限などをはじめると、その行為を続けることが後々大きなストレスとなります。このような状態では、不妊治療に対して逆効果となってしまいます。

国による不妊治療への支援

不妊治療ではタイミング法以外の高度なステップになると、健康保険が適用されないケースが大半です。そのため、治療費は自己負担となり、不妊治療に取り組むカップルにとって、経済的な負担が大きくなります。

不妊治療に取り組むカップルを支援し、また、国の少子化政策を推進する一環として、国と地方自治体が治療費の一部を助成しています。

国からの補助金は一律ですが、市区町村では不妊治療の助成金制度が若干異なる場合があります。また、年齢によって助成回数が異なったりすることもあります。不妊治療を受けるカップルの年間所得額にも、一定の基準が設けられています。

詳細は、厚生労働省のウェブサイトや各市区町村のウェブサイトを確認してみて下さい。

ここでは、助成金について案内しているウェブサイトの例を紹介します。

不妊治療費助成指定

不妊に悩む方への特定治療支援事業

不妊症に悩むカップルの金銭的な負担を軽くするために、厚生労働省が実施している事業です。体外受精や顕微授精などの高度不妊治療のみに対して、治療費の一部を助成してもらえます。

全国どこでも受けられる制度ですが、自治体に指定された医療機関で治療を受ける必要があります。指定を受けている医療機関は、厚生労働省のwebサイトで確認することができます。

不妊専門相談センター

全国の不妊専門相談センター一覧

厚生労働省では、不妊専門相談センターを各都道府県、指定都市、中核市に設置しています。

不妊専門相談センターでは、不妊症で悩むカップルに対し、不妊に関する医学的な相談や心の悩みなどについて医療の専門家が対応しています。

医師や不妊症看護認定看護師、助産師などの専門職者に相談することで、これからの治療方法を前向きに捉えることができます。また、診療機関ごとの不妊治療の実施状況などに関する情報も提供しているため、信頼のできる病院を探す際にもとても有効です。

その他の参考ウェブサイト

産科婦人科内視鏡学会 技術認定医

婦人科内視鏡手術の豊富な実績を持つ全国の技術認定医を紹介してるウェブサイトです。不妊症に関連する疾患の、内視鏡手術を検討している方は、参考にして下さい。

日本生殖医学会 生殖医療専門医 都道府県別一覧

高度な不妊症を行う専門医を養成するための「生殖医療専門医制度」に合格した医師を探すことができます。

分子整合栄養医学による不妊治療の考え方

不妊治療において、妊娠しやすい体をつくることはとても大切です。どんなに良い治療を行っても、体内の環境が悪ければ、妊娠はできません。また妊娠したとしても、体内環境によっては胎児が順調に育ってくれない可能性もあります。

特に、私たちの体の構成し、それぞれの器官の働きを調節している「遺伝子や細胞の働きを高める栄養素」を十分に摂取することは大切です。そのためには、日頃の食事を見直して、妊娠しやすい体質へと変えていくことは意義のあることだと考えます。

体の機能を回復させ、妊娠しやすい体にするために、「どのような栄養素が有効で、自分にはどの栄養素が不足しているのか」を知ることができれば、不妊症を改善して妊娠できる可能性があります。

その一方で、食事やサプリメントなどから十分な栄養を摂取したとしても、体内できちんと消化・吸収・利用することができなければ、栄養素を体内で効率よく使うことはできません。

食べ物を分解して健康的な体を維持するための化学反応(代謝反応)が低下していたり、水銀や鉛などの有害物質が体内に蓄積されているために、正常な代謝活動が行われていないケースも考えられます。

また、腸内環境が悪化して、下痢や便秘、膨満感、消化不良になっていると、摂取した食べ物から栄養素をうまく消化・吸収することはできなくなります。

こうしたことから、分子整合栄養医学では不妊症に対して詳細な生化学検査を実施し、その結果をもとに「摂取すべき栄養素を積極的に摂取すると共に、滞っている代謝活動を修正するために、糖質制限やデトックス、腸内環境の改善」などを標準的な治療に組み合わせることで、双方のカップルの体の機能を高め、女性が自然により健康的な形で妊娠していくよう試みます。

栄養素が不足することで妊娠にどのような悪影響があるのか

毎日の食事から摂る栄養素ですが、この栄養素が不足した場合、どのような悪影響がでるのでしょうか。妊娠・出産に関係しているものとしては次のような変化がみられます。

  • 子宮内環境の悪化
  • 卵子、精子の機能低下
  • 細胞分裂時のトラブル
  • ホルモン分泌異常
  • 性欲低下など

ここでは、不妊症を引き起こしてしまう可能性がある栄養素について代表的なものを挙げて、妊娠に関連する各々の機能を解説しくことにします。

タンパク質

私たちの体は60兆個の細胞から構成されています。全身の細胞の主な成分はタンパク質です。筋肉や内臓、血液、髪の毛、爪、ホルモンなどはタンパク質からできています。生殖器においても同様で、子宮や卵子、精子はタンパク質からできています。

そのため、たんぱく質が不足すると、子宮の機能が低下したり、精子の量が減ったりすることにつながります。

また、タンパク質が不足してホルモンを合成するための材料が不足すると、排卵のリズムが狂ったり、無排卵や生理不順になったりしてしまいます。

タンパク質を摂取するためには、肉や魚、卵、豆腐などの動物性・植物性タンパク質を摂取する必要があります。必要に応じて、プロテインやアミノ酸のサプリメントを用いても、効率的に栄養素が摂取できるでしょう。

コレステロール

コレステロールとは脂質の一種です。コレステロールは、肉や魚・卵などの動物性食品から摂取することができ、体を構成する細胞膜の成分となったり、胆汁酸(消化液)を作ったり、筋肉やホルモンを合成する原料となります。

高コレステロール血症は心筋梗塞や動脈硬化の原因になるため、コレステロールに対してあまり良くない印象を持っている人が多くいます。実際、スーパーなどで売られている食品には、「低コレステロール」をうたったものがたくさん販売されています。

しかし、食事から得られるコレステロールは約20%に過ぎず、残りの約80%は、私たちの摂った糖質が肝臓で合成されて作られたものです。しかも体内で使われるコレステロールの量を調節しながら、必要な分量のみを、私たちの体は作っているのです。

十分な量のコレステロールが作られなくなると、妊娠するために必要な性ホルモンを作り出すことができなくなります。

女性ホルモンのみならず、男性ホルモンの合成と分泌にも影響を及ぼす可能性があります。分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する医師の中には、詳細な血液検査やホルモン検査を行うことで、ホルモンの分泌状況を正確に把握する人がいます。

ホルモンの分泌は、副腎疲労症候群や機能性低血糖症、水銀や鉛、ヒ素などの有害重金属の体内蓄積によって、機能が低下することも知られています。

ホルモンが正常に分泌されているか不安な場合は、主治医に相談してみましょう。

病院によって、副腎疲労症候群や機能性低血糖症、毛髪メタル検査(有害金属)、尿メタル検査(有害検査)、一般ホルモン検査などを導入しているところもあります。

アルギニン

アルギニンは、男性の生殖細胞の約80%を占める栄養素です。そのため、不足すると精子の数が減少したり、運動性が低下したりする可能性があることが示唆されています。

肉類や魚介類、ナッツ、大豆、玄米、レーズンなどに多く含まれています。特に、かつお節やしらす干し、エビ、カニ、湯葉など豊富に含まれています。

アルギニンのサプリメントもありますが、海外製のものが多いようです。

亜鉛

亜鉛は微量ミネラルのひとつで、「セックスミネラル」と呼ばれています。

亜鉛は、健全な性欲を生み出すと共に、質の良い精子を作ってくれます。亜鉛を積極的に摂取することで、精子の量を増やす効果があることも示されており、不妊治療に取り組む男性には不可欠な栄養素です。

また、亜鉛は粘膜を作る材料にもなります。性交渉をスムーズに行ったり、妊娠に向けた健康的な子宮の環境を整えるのにも活躍してくれます。

さらに、出産したのちに赤ちゃんは母親の母乳から亜鉛を摂取することになります。母親が亜鉛不足では、赤ちゃんにも十分な亜鉛を届けることができなくなってしまいます。その結果、新生児の発育が遅れたり、皮膚にトラブルが出たりするリスクが高まります。

不妊治療に取り組むカップルで、インスタントフードやコンビニの弁当などを頻繁に食べているなど、食生活が偏っている場合は、亜鉛が不足しがちになります。

健康的な体を取り戻して妊娠を目指すためには、日頃の食生活を見直すと共に、女性、男性に関わらず「亜鉛を摂取すること」が推奨されます。

亜鉛は、牡蠣やカニ、うなぎ、魚卵・魚の白子、ナマコ、レバー、煮干し、肉類に多く含まれています。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を導入しているクリニックでは、亜鉛のサプリメントを常備している医療機関もあります。

不妊症に取り組んでいる女性のうち、貧血になっている人が多くいます。

特に、女性では月経があるために、鉄が対外に排出されることが多いです。さらに、子宮筋腫や子宮内膜症で過多月経になっている人は、より多くの鉄が流出している可能性が高いです。

貧血は体内の鉄が不足している状態になり、酸素運搬能力が低下してしまいます。その結果、酸素を使ってエネルギーを作り出すことができなくなるため、疲れやすくなったり、怠くて気力が落ちてしまったりします。

冷え性や、肩こり、頭痛、めまい、重度の疲労感、そして時に偏頭痛も貧血(鉄の欠乏)が原因になっていることがあります。

こうした体調不良があると、妊娠しにくい体になってしまいます。

そして、妊娠した後もお腹の胎児とそれを守る胎盤の育成には、多量の鉄が必要になります。妊娠期間中は、臍帯(さいたい)や胎盤、そして胎児へとたくさん血液を循環させる必要があります。

この時に鉄分が不足して血液の濃度が薄まり、母子共に健康に対する悪影響が出てしまいます。

また、男性の場合で貧血になっているときは、強い運動をされて汗から出たり、消化管からの出血や痔による出血などが考えられます。

貧血や何らかの出血によって鉄分が不足していると感じられる場合は、その原因を特定すると同時に、十分な量の鉄分を食事から補うようにしましょう。

鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、「ヘム鉄」の方が吸収性が高いです。「ヘム鉄」は、レバーやヒレ肉、もも肉、砂肝、かつお、まぐろ、イワシなどに多く含まれています。

一般的な病院では、貧血は血清鉄やヘモグロビンの数値を基準に診断されることが多いです。

その一方で、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践しているクリニックでは、ヘモグロビンの他に、フェリチンや赤血球数(RBC)やヘマトクリット、フェリチンなどの数値を総合的に勘案した上で、貧血を診断します。

分子整合栄養医学の観点からの「貧血」の診断や「ヘム鉄と非ヘム鉄を含む食品」などについては下記を参照してください。

分子整合栄養医学の観点からの「貧血」の診断について 監修:桑島靖子

ビタミンB群

ビタミンBには、様々な種類のものがあります。ビタミンB3(ナイアシン)やビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12などです。

ビタミンB群は、私たちが生命活動を維持するために必要な、あらゆる代謝活動に関わっています。

たとえば、タンパク質、炭水化物(糖質)、脂質を消化・吸収し、必要とする部位で利用されたり、ひとつひとつの細胞機能を高めるために、ビタミンB群が重要な仲介役を果たしています。

学習や記憶、判断、動機づけ、感情の創出などを司る脳の働きにも、ビタミンB群は欠かせません。ノルアドレナリンやアドレナリン、ドパミン、セロトニンといった脳内の電気信号を調節する物質を神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)といいますが、ビタミンB群は、神経伝達物質を合成したり、分解したりする際にも登場します。

そのため、ビタミンB群が不足すると、胎児の脳や神経の発育に悪影響を与えることになります。

ビタミンB群は、肉や魚、野菜などに含まれています。

ビタミンB群はそれぞれの種類が単体で働くのではなく、他のビタミンB群と協力し合うことで、最大限の効果が発揮されます。よって、サプリメントとして摂取する場合は、複数のビタミンB群が合わさったものである「マルチビタミン」や「ビタミンBコンプ」などを摂取するのが良いでしょう。

ビタミンE・ビタミンC

ビタミンEとビタミンCは優れた抗酸化作用を持っています。

冒頭でも述べたように、男性では精子が毎日新しく作られるのに対して、女性は生まれたときに卵子のもととなる卵母細胞を抱えた状態で誕生します。

新生児のときに約200万個あった卵母細胞は、初潮を迎える頃には約30万個に減り、それ以降は、月経ごとに約1,000~2,000個ずつ減り続けます。

卵母細胞が減少することを止めることはできません。

しかし、ビタミンEやビタミンCを積極的に摂取することで、その抗酸化力により、卵子の老化をある程度防ぐことが期待できます。

特に、ビタミンEには、自律神経を整えて、ホルモンバランスを調節してくれる働きがあります。血行を促進する効果があることも知られています。生理痛や月経不順、冷え、むくみ、生理前のイライラなどに悩んでいる女性には、役立つ栄養素だといえるでしょう。

ビタミンEは、ピーナッツやアーモンド、うなぎ、カニ、エビなどに多く含まれています。ビタミンCは、レモンやイチゴ、キウイフルーツなどの果物に多く含まれています。どちらも、サプリメントとしてはポピュラーな栄養素です。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践しているクリニックの中には、「高濃度ビタミンC点滴」を取りいれているところがあります。「高濃度ビタミンC点滴」による抗酸化を試してみたい場合は、主治医に相談してみましょう。

分子整合栄養医学における高濃度ビタミンC点滴に関しては、下記の記事を参照して下さい。

高濃度ビタミンC点滴 監修:御川安仁

栄養素のまとめ

ここまでご紹介した「不妊治療に役立つ栄養素」に関しては、各記事を参照して下さい。各栄養素ごとに、自分で買えるサプリメントも記載しています。参考にしてみて下さい。

タンパク質
亜鉛

ビタミンB群
ビタミンE
ビタミンC
分子整合栄養医学で使用するサプリメント

葉酸に対する考え方

葉酸(ビタミンB9)は、胎児の脳や神経の発育に欠かせない栄養素であるため、妊娠・出産を望む女性や、妊娠中・授乳中の女性に対して、積極的な摂取が呼びかけられています。

厚生労働省は、二分脊椎(にぶせきつい)や脳瘤(のうりゅう)、無脳症(むのうしょう)などの神経管閉鎖障害の発症リスクを下げることを目的に、妊娠を計画している女性に対して、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間、1日あたり0.4mg(400μg)の葉酸を摂取するよう推奨しています。

厚生労働省:
神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について<参考資料3>

上記資料には、下記の一文があります。

…神経管閉鎖障害の発症が葉酸の摂取不足のみから生じるものではなく、葉酸摂取は神経管閉鎖障害の発症リに関する一因子であるという観点から、我が国において葉酸の摂取により神経管閉鎖障害の発症リスクが低減する確実な証拠があるとはいいがたいものの、葉酸の摂取により一定の発症リスクの低減がなされるものと考えられることから…

葉酸の効果に関しては不確定な要素があるものの、妊娠を望む女性や妊娠中の女性が葉酸を摂取することが望ましいというのが世の風潮になっています。

葉酸が含まれる食品

葉酸は、ほうれん草や小松菜、レタスなどの葉物野菜に多く含まれています。しかし、こうした野菜は火(加熱)に弱く、葉酸の栄養分が低下してしまったり、吸収性が若干劣ることから、サプリメントによる葉酸の補充が推奨されています。

そのため、妊娠を計画する女性や妊娠中の女性をターゲットとした「葉酸サプリメント」や「葉酸入りの粉ミルク」などの、機能性食品も市場に多く出回っています。

人工葉酸の摂取に対する慎重な姿勢

葉酸という栄養素は、胎児の発育や母親の健康的な体作りのために不可欠な栄養素です。
食品から摂取する限りにおいては「葉酸が過剰」になることはないため、葉酸の摂取による副作用が出ることはまずないといえます。
こうした中、サプリメントや葉酸強化食品に含まれる「人工の葉酸」が、胎児の発育に悪影響を及ぼしていると唱える海外の専門家たちがいます。

人工の葉酸は英語でFolic Acid(フォーリック・アシド)といいます。
天然の葉酸は英語でFolate(フォレート)といいます。天然の葉酸は「アクティブ・フォレート」と記載されることもあります。大半の場合、サプリメントに用いられるのは人工の葉酸(Folic Acid)です。

葉酸は体内で分解され、吸収されたのちに、私たちの体にとって必要な様々な物質へと変換していきます。この代謝経路を葉酸回路(ようさんかいろ)といいます。

葉酸回路を経て作られた物質は、DNAを合成したり、私たちの遺伝子の振る舞いを調節したり、解毒を行う物質を作ったりします。

食品やサプリメントなどから摂取された葉酸がスムーズに代謝され、然るべき働きを持つ物質へと変換され、役割を終えた後にすぐ処理されるのであれば問題ありません。

しかし、人工の葉酸(Folic Acid)は、体内で吸収されるスピードが比較的遅いことが知られています。

加えて、お酒に強い人と弱い人がいるように、自分の遺伝子タイプによって「人工の葉酸を代謝する力が弱い体質」である場合、過剰な葉酸が代謝されないまま体内に蓄積してしまうことが一部の研究結果から示唆されています。

そのため、過剰な人工葉酸が女性の健康を損ねてしまったり、胎児に影響を及ぼしたりする可能性があると、警鐘を鳴らす専門家も存在します。

アメリカでは、パンやパスタ、シリアルなどの穀物に葉酸を添加することが法律で義務付けられました。そのため、過剰な人工葉酸を摂取した女性の不育症や流産の率が上昇し、新生児に発達障害が多く見られることが確認されています。

ただし、人工葉酸の過剰摂取が女性や胎児に及ぼす影響に関しては、明確な科学的エビデンスは得られていません。

大規模な研究成果も発表されていないため、全世界においてその認知度は低く、医学の主流学会からはこの治療の有効性について認められていません。

メチレーション治療の効果は未知数

メチレーションの機能に着目した治療に関しては、アメリカで統合医療を実践する医師や自然療法士たちが、自身の学会や臨床上でデータを蓄積しながら、個別に患者対応しているというのが実情です。

日本国内におけるメチレーション治療も、ようやくここ数年前から海外の「治療理論」が伝えられたばかりです。

そのため、海外の動向を踏まえ「葉酸サプリの過剰摂取」や「葉酸の代謝異常」があるという症例を頭の片隅に入れながら、栄養療法による治療やサプリメント処方をする際の参考にしている医療機関がほとんどです。

こうした中、自閉症や発達障害などの精神疾患を専門とする医療機関では、いち早く「メチレーション治療」の理論を学び、臨床に取りいれているところがあります。このようなクリニックでは、人工葉酸である「Folic Acidのサプリメント」ではなく、天然葉酸の「Folateのサプリメント」を処方している場合があります。

不妊治療を行っている栄養療法の病院でも、フォレートのサプリメントについてアドバイスが受けられる所があるかもしれません。葉酸について聞きたい場合は、医療機関に問い合わせをするか、主治医に相談するようにしてみましょう。

メチル化の詳しい仕組みについて

葉酸の代謝システムや葉酸をうまく代謝することができない遺伝子タイプについては、メチレーション(メチル化)の章で説明しています。下記の記事や動画を参照して下さい。

メチレーション(メチル化)

メチレーションとは
メチレーションによる治療
メチレーション検査
MTHFRのサイト
メチレーション治療は分子栄養学を飛躍的に進歩させ得るのか
葉酸について考えてみる
MTHFR677と1298 (遺伝子多型・SNPs)

エピジェネティクス

エピジェネティクス
ウィリアム・ウォルシュ エピジェネティクスセミナー
うつ病には5種類の生化学的タイプがある

動画(YouTube)

メチレーションの基礎知識
エピジェネティクスについて

分子整合栄養医学で実践されるその他の取り組み

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践しているクリニックでは、栄養素を補充することのみならず、栄養素を効率的に利用できる体作りを目指します。

腸内環境の改善

先にも触れたように、いくら食事を改善して、医療用サプリメントを大量に摂取したとしても、腸内環境が悪いままでは摂取した栄養素が吸収されずに無駄になってしまいます。

栄養療法による効果を最大限に発揮させるには、腸内環境が健全で、毎日決まった便通があることが前提になります。スルリとしたバナナ状の便が安定して出ているか、ガスが溜まり、悪臭がしていないかも腸内環境の状態を指し図るバロメーターになります。

もし、便秘や下痢、膨満感、ガス溜まりが慢性的に生じている場合は、腸内環境が悪化している可能性があります。

腸内環境を改善するためには、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどの善玉菌(ぜんだまきん)を増やすサプリメントを摂取すると共に、発酵食品や食物繊維を積極的に食べるようにすることで改善が図れます。

詳細については、主治医やカウンセラー、管理栄養士に相談するようにしましょう。

胆汁酸や胃酸の分泌状況の把握

不妊治療に限らず、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、「タンパク質」を積極的に摂取するように指導されることが多いです。特に、肉や魚、卵などは体を構成する材料になるだけでなく、血糖値を上げにくい食品でもあるため「糖質制限」に取り組む場合に必ず登場する食品といえます。

しかし、胃酸や胆汁酸の分泌量が少ないにも関わらず、「糖質制限の実施による高タンパク質な食事」をすると、胃腸で動物性タンパク質の消化が行えず、膨満感や胸やけが生じたり、ガスが臭くなったり、便秘気味になったりする人がいます。

胃酸(塩酸)は主にタンパク質を分解する働きがあります。また、胃酸はタンパク質を分解する酵素であるペプシノーゲンを活性型のペプシンに変換させます。

胃酸を作るには、カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルが欠かせません。

胆汁酸は、胆汁に含まれる有機酸で、肝臓で合成され、十二指腸に分泌されます。この胆汁酸はコレステロールやリン脂質(レシチン)から合成され、胆汁酸の働きによって、食品に含まれる脂肪を石鹸のようにミセル化して吸収しやすい形に変換します。

胃酸と胆汁酸が十分に分泌されるためには、これらの成分となる蛋白質も積極的に摂るようにしましょう。クリニックによっては、タンパク質の消化を助ける、消化酵素を処方してくれる場合があります。

主治医に相談してみて下さい。

有害重金属の蓄積

不妊治療に取り組むカップルの健康に影響を与える要因として、有害重金属の蓄積が潜んでいる場合があるかもしれません。水銀や鉛、ヒ素、カドミウムなどの金属が高い濃度で体内に蓄積すると、体の代謝システムを狂わせてしまいます。

その結果、正常なタンパク質合成や脳神経の伝達、栄養素の吸収、毒素の排泄が妨げられてしまう場合があります。

特に、水銀は全身の細胞機能を低下させてしまう、強い毒性を持った物質です。妊娠中の女性が水銀にばく露すると、胎児に悪影響が及ぶことが知られています。

水銀はマグロやカツオ、ブリ、クジラなどの大型魚に含まれているほか、歯科アマルガムにも大量に含まれています。

水銀をはじめとした有害金属が体内にどのくらい蓄積しているのかは、毛髪メタル検査や尿メタル検査などで測定することができます。検査の結果、高濃度でこれらの物質が検出された場合は、解毒やキレートによる治療も選択肢として考えることができます。

有害金属については、下記の記事を参照して下さい。

尿中メタル検査
毛髪メタル検査
アマルガムの検査
歯科アマルガムとは
妊婦のアマルガム水銀は胎児に移行する
歯科アマルガムを安全に除去する

カンジダ症

カンジダとはカビの一種で、どんな人の体にも生息している常在菌です。腸内細菌の一種でもあり、普段は悪さを働くことはない「日和見菌(ひよりみきん)」です。

しかし、腸内環境が乱れて善玉菌が減って、悪玉菌が増えると、日和見菌は悪玉菌に加担し、健康を害するような振る舞いを始めます。

カンジダが異常増殖すると、カンジダ菌からアセトアルデヒドやエタノール、アンモニアなどの様々な毒素が分泌されるようになります。すると、集中力の低下や記憶力の低下が起きたり、腸管の粘膜細胞の損傷、免疫力の低下、アレルギーの発症、おりものの増加、ホルモンバランスの乱れなどが起きる可能性があります。

カンジダ感染しているかどうかは、カンジダ症に関連する問診からも把握することができます。より確定的なデータを見たい場合は、有機酸検査やカンジダ抗体検査、便検査などからカンジダ感染の状況を推察することができます。

詳しい検査やカンジダ除去の方法については主治医に確認するようにして下さい。

カンジダに関する詳しい記事は、下記を参照して下さい。

カンジダの基礎知識
カンジダ菌が増えてしまう様々な要因
カンジダ感染を調べる検査や治療法
有機酸検査
カンジダ除去
カンジダ友の会「結果にコミットメントしないカンジダ除去」

分子整合栄養医学による不妊治療の限界

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学による不妊治療では、栄養素を用いた副作用のない治療を受けることができます。十分な栄養素を摂ることで卵子や精子の老化を食い止め、より妊娠しやすいコンディションへと変身していくことを目指していきます。

過去に栄養療法による不妊治療を経て出産された方などはブログやSNSに、そうした個人の体験談を書かれている人もいます。また、医師によって書かれた書籍には、栄養素を至適量摂取してから、わずか短期間で妊娠できた人の症例が紹介されていることもあります。

確かに、これまで潜在的に栄養不足だったカップルが、十分な栄養素を摂取することで、すぐに妊娠することができたというケースは数多く存在します。

その一方で、単純に栄養素を摂取しただけでは妊娠に至らず、腸内環境の改善やカンジダ除去、有害金属のデトックス、運動習慣、漢方、針、メンタルの改善など、あらゆる手段を試して、ようやく妊娠することができた人もいます。

体に必要な栄養素を摂取することは、自然妊娠しやすい体の土台を作るにおいて最善の手段です。あなたに本来備わっている自然治癒力や免疫力、細胞の機能を高めるという成果が得られます。

しかし、こうした明らかな改善があったとしても、中には妊娠・出産に至らないカップルは一定の割合で存在します。栄養療法による不妊治療において生じる、様々な事柄への負担の感じ方も個人差が大きいといえます。

栄養療法による不妊治療の成功率は、大規模な統計や科学的エビデンスがないため、個々のクリニック単位で実績や症例を蓄積しているのが現状です。

また、主治医によっても治療方針や得意とする領域が異なるため、「栄養療法をやれば確実に妊娠する」という過度な期待を持つと、治療中の些細なできごとに一喜一憂してしまい、あなた自身の本当の幸せを見失ってしまうことに繋がりかねません。

ですから、まずは自分の体の仕組みや栄養素の働き、料理の仕方など、「健康のこと」について楽しく学ぶことをスローガンにして、この治療に取り組むようにしてみて下さい。

そして、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学による治療は、あなたの体を丈夫にするだけでなく、より充実した日々を過ごせるような安定した気分をもたらしてくれます。

何が何でも妊娠するという強い束縛にとらわれるのではなく、「どうすれば自分らしい、幸福な毎日を過ごせるか」を念頭におきつつ、リラックスして、楽しみながらこの治療法に取り組むようにしましょう。

不妊治療の成功例

不妊に悩む、ある30代女性の方で、分子整合栄養医学を用いて治療を行った結果、約5カ月後に妊娠したケースがあります。この方は、妊娠後もサプリメントによる栄養素補給を継続し、つわりや切迫流産、早産、腰痛などのトラブルもなく、無事に出産を迎えられました。産後も母乳で育て、夜泣きもほとんど経験せずに過ごされています。

また、40代女性の症例では、同様に不足している栄養素を継続的に補給した結果、約9カ月後には妊娠が認められました。この方も妊娠中のトラブルはほとんどなく、良好な経過で出産を迎えられました。

その他にも、検査の結果、歯科アマルガムの蓄積が認められたため、除去し、水銀デトックスを行ったところ、即座に妊娠したという40代女性の症例があります。

このように、不足している栄養素を補ったり、有害物質を除去したりすることで、妊娠しやすい体をつくることができた症例があります。

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