機能性低血糖症(きのうせいていけっとうしょう)とは、血糖調節の能力にトラブルが生じ、血糖を引き上げるためのホルモンが分泌されることで、心身が興奮状態になり、様々な不調が表れる病気をいいます。 

機能性低血糖症の人は、食事をとった後に血糖値が急激に上昇し、血糖に反応したすい臓から大量のインスリンが放出されることで、血糖が著しく下がります。そして、血糖値が最低ラインを越えても下がり続けると、体は生命の危機を感じ取り、血糖を上げるために色々な種類のホルモンを分泌します。

このホルモンによって血糖値は回復しますが、血糖を上げるホルモンは心身を興奮させ、攻撃や怒り、恐怖、不安、パニックなど、私たちにとって好ましくない感情や行動を引き起こすきかっけとなります。 

血糖を上昇させるホルモンが多量に分泌された結果、突然に怒りを爆発されたり、理性をコントロールできなくなったり、理路整然とした言動ができなくなったりすることがあります。 人によっては、気分がふさぎ込んで、興味や喜びの感情が喪失するなど、引きこもりやうつの状態になってしまいます。

機能性低血糖症は、糖尿病の治療で血糖降下剤(けっとうこうかざい)を用いる際に、薬の作用が強すぎて急激な低血糖状態になるのとは異なります。

機能性低血糖症は「低血糖」という名前がつくことから、「血糖が常に低くなる病気」と誤解されやすいですが、そうではありません。機能性低血糖症は、血糖値を安定的にコントロールすることができなくなった状態なのです。

つまり、機能性低血糖症はインスリンが正常に分泌されなくなったために血糖調節のシステムが乱れ、それに対応するホルモン分泌量のバランスを欠いてしまったために、様々な症状が引き起こされる病気といえるでしょう。

「血糖の調節に異常をきたす」という意味では、機能性低血糖症とⅡ型糖尿病は、関連性があると考えることができます。機能性低血糖症の患者の中には、Ⅱ型糖尿病を同時に発症している患者がいます。

ここでは、機能性低血糖症というあまり聞きなれない病気について、説明していくことにします。

目次

機能性低血糖症は血糖を一定に維持することができない病気

機能性低血糖症は、食事による血糖の上昇に対して、生体の恒常性(こうじょうせい)を維持するのが困難になった結果、様々な身体的・身体的症状が表れる病気です。

生体恒常性とは、外部から受ける刺激や内部環境の変化に関わらず、私たちの体温や血圧、免疫、血糖などを一定に保つようにする働きをいいます。生体恒常性は、ホメオスタシスとも呼ばれます。ホメオスタシスを維持するためには、呼吸や循環、消化・吸収、排せつ、発汗、解毒といった機能が規則正しく行わなければいけません。

機能性低血糖症は、「血糖のホメオスタシスが乱れたことによって生じる病気」と捉えることができます。

健康な人では、食べ物を摂取したあとに血液の中のブドウ糖(グルコース)が増えて血糖が上昇すると、すい臓にあるランゲルハンス島β(べーた)細胞からインスリンというホルモンを分泌して、時間をかけて緩やかに血糖を下げることができます。

食後、2,3時間が経過すると、血糖は空腹時と同じ値にまで戻ることが基本とされています。インスリンによって細胞内への血糖が取り込まれるために、血糖値が緩やかに下がり、安定した血糖を維持することができます。

空腹時血糖 70~110mg/dl未満
食後2時間血糖 140mg/dl未満

血糖の基準値:日本糖尿病学会の指針より

インスリンは、血中のブドウ糖を肝臓や筋肉、脂肪組織の細胞に取り込むことで、血液中のブドウ糖の濃度を下げます。しかし、機能性低血糖症の人は、インスリンの効き目やインスリンの分泌タイミングに何らかの問題を抱えているため、食事に伴って上昇した血糖を、正常に調節することが難しい場合があるとされています。

そのため、機能性低血糖症の人は、糖質を多く含んだ炭水化物などを食べると、血液の中のブドウ糖(血糖)の濃度が急激に上昇します。そして、高い血糖に反応して、大量のインスリンがすい臓から分泌されます。大量のインスリンが放出されると、血糖は短時間のうちに著しく下がります。

そして、体内で血糖が下がり過ぎると、体は「生命が危機にさらされている」という危険を察知し、全身にそのシグナルを伝えます。体内に十分なブドウ糖がないと、ヒトはエネルギーを作ったり、脳を働かせたりすることができなくなるからです。

私たちの体は急に下がってしまった血糖を回復させようとし、「血糖を上昇させるための様々なホルモン」を分泌し始めます。血糖を上昇させるホルモンによって、再び血糖値は急激に上昇したのち、再びインスリンによって血糖が下降します。

血糖値が安定せずに、ジェットコースターのように上がったり、下がったりを繰り返えすと体は興奮状態に陥り、心と体の健康を害するようになります。

機能性低血糖症の歴史

機能性低血糖症の歴史は大変古く、1924年にアメリカのSeale Harris(シール・ハリス)によって提唱されました。ハリスは、自発的な低血糖状態を引き起こす「インスリンの過剰分泌」という仮説を立て、治療に取り組んでいました。

ハリスは、米国医学会雑誌に「高インスリン症とインスリン機能異常症」という研究論文を発表しています。

その当時、ハリスは「医学界のベンジャミン・フランクリン」と呼ばれ、業界における優れたリーダーシップを発揮し、医学から政治問題に至るまで幅広い分野の研究論文の執筆活動を行うなど、広く知られた存在となっていました。

しかし、今日の日本の医学界では、機能性低血糖症はまったく知られていません。一般の医師は、医学部で機能性低血糖症について学ぶ機会はありません。また、医学辞典にも載っていないため、機能性低血糖症に対する知識を持っていない人がほとんどのようです。

機能性低血糖症による症状

  • 疲れやすい
  • 頭痛がする
  • 日中とても眠い
  • 集中力がない
  • イライラする
  • よく眠れない、眠りが浅い
  • めまいやふらつきがある
  • 不安になる
  • 忘れっぽい
  • 目のかすみがある
  • 落ち込みやすい
  • 気が遠くなることがある
  • 手足が冷える
  • 神経質である
  • 呼吸が浅い
  • 怒りっぽい、キレやすい
  • すぐにお腹がすく
  • アレルギーがある
  • 体のどこかに痛みがある
  • 恐怖感がある
  • 急に泣きたくなることがある
  • 死にたいと思うことがある
  • 耳に膜がはる感じがする
  • 甘い物がむしょうに食べたくなる
  • つまらないことで悩んでしまう
  • 情緒が不安定である
  • 悪い夢を見る
  • 胃腸が弱い
  • 目の奥が痛む
  • 原因不明の失神を起す
  • 決断力がない
  • 動悸がする
  • 月経前にイライラする、または悲しくなるなどの症状がある
  • 満腹である
  • 落ち着きがない
  • 食事を抜くと具合が悪くなる
  • 朝起きるのがつらい
  • ため息・生あくびをする
  • 原因のわからないけいれんをする
  • 手・指の震えがある
  • 夕方以降にパニックになったり、突然キレたり、暴言を吐くなど激変する
  • 過食が止まらなくなる
  • 日光や蛍光灯に敏感
  • 感情が抑えられなくなり、怒りが爆発してしまう
  • 心と体が常に緊張しているように感じる
  • 完璧主義で何事も100%やらないと気が済まない
  • 何かに失敗すると、自分をとことん責めてしまう
  • 自分の健康に対して興味・関心がない

矢崎智子著 なぜあなたは食べすぎてしまうのか‐低血糖症という病より引用・一部改編

機能性低血糖症とうつ病との関連性

機能性低血糖症は血糖のコントロールに問題が生じるため、体内の血糖が不安定な状態になります。このとき、乱れた血糖を改善するために分泌されるホルモンは、私たちの精神を興奮させ、心と体に大きな刺激を与えます。

その結果、感情の起伏が激しくなったり、理論的に考えることができなくなったり、分別のある行動をとることができなくなったり、的確な判断をしたりすることが困難になってしまいます。

人によっては、気分の落ち込みや強い不安を感じ、他人と接するのが恐ろしくなってしまうことがあります。

このように、機能性低血糖症は、私たちのメンタルにも変調をきたすようになります。そのため、機能性低血糖症に特徴的な精神症状を抱える人が「精神科」や「心療内科」を受診すると、うつ病や統合失調症、パニック障害と診断されることがあります。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する医師の中には、血糖調節の異常によるホルモンの分泌が、精神に何らかの影響を及ぼしていると考える人がいます。そして、機能性低血糖症がうつ病や統合失調症の発症に関わるなど、何からの関連性を疑う場合があります。

血糖の調節に関わるホルモン

体内の血糖を一定に保つために働くホルモンとして、下記があります。

ホルモン 作用
ペプチドホルモン インスリン ・血糖を低下させる
・体内での糖の利用を促進させる
グルカゴン ・血糖を上昇させる
・グリコーゲンをグルコースに分解する(筋グリコーゲン分解には関与しない)
・糖新生を促進する
・脂肪酸合成の抑制
ソマトスタチン ・血糖を上昇させる
・インスリンやグルカゴン、成長ホルモンの分泌を抑制する
成長ホルモン ・血糖を上昇させる
・筋肉でのグルコースの利用を抑制する(取り込み低下)
・脂肪を分解する
副腎髄質ホルモン ノルエピネフリン
エピネフリン
(カテコラミン)
・血糖を上昇させる
・血圧や心拍数を上昇させる
・ストレスにより分泌が促進される・(特にエピネフリンは)肝臓と筋肉のグリコーゲンの分解を促進する
副腎皮質ホルモン
(ステロイドホルモン)
コルチゾール ・血糖を上昇させる・グリコーゲンをグルコースに分解する
・筋肉でのグルコースの利用を抑制する(取り込み低下)
・血圧を上昇させる
・タンパク質を分解する
・糖新生を促進する
・ストレスに対する抵抗力を強化する

原始時代、ヒトにとって食料を確保することは、生命を営む上で最も重要なことでした。現代のように、いつでも好きなときに、好きなだけ食べられる環境ではなかったため、太古の人々は、飢餓に対する恐れや不安に脅(おびや)かされていました。

栄養不足に陥った際にいち早くその危険を察知し、血糖を上げることで体を守る必要がありました。そうした理由から、私たちの体には、血糖を上げる様々なホルモンを分泌する能力が備わっていると考えられています。

血糖を下げるのはインスリンのみ

上記に示した血糖の調節に関わるホルモンの中で、インスリンだけが、血糖を下げるための唯一のホルモンであることが分かります。

インスリンは、血液中にあるブドウ糖(グルコース)を細胞の中に取り込むことで、血液中のブドウ糖の濃度を下げる働きをしています。

インスリンの作用によって細胞にブドウ糖が取り込まれる対象となるのは、主に肝臓、筋肉、脂肪細胞です。これらの組織を標的器官(ひょうてききかん)といいます。標的細胞がインスリンに対して反応することを「インスリン感受性」といいます。

ブドウ糖はインスリンによって各組織の細胞に取り込まれたのち、私たちが活動を行うのに必要なエネルギーとして直接利用されます。

肝臓はインスリンがなくてもグルコースを取り込める

すい臓から分泌されるインスリンは、血中に存在するブドウ糖を細胞内に取り入れる働きをしています。しかし、肝臓はインスリンの作用を受けなくとも、自由にブドウ糖を取り込むことができます。 

肝臓の細胞の表面には、GLUT2(グルットツー:グルコーストランスポーター2の略称)とよばれるブドウ糖を細胞の中に運び入れる輸送体(グルコーストランスポーター)があります。

GLUT2は、血中のグルコースの濃度が高まると自動的に細胞内にグルコースを取り込むように働きます。つまり、GLUT2は、インスリンの作用に関係なく肝臓の細胞にブドウ糖が取り込めるのです。

その一方で、骨格筋や心筋などの筋肉や脂肪組織は、インスリンに素早く反応して、GLUT4(グルットフォー:グルコーストランスポーター4の略称)の輸送体を介して細胞内へブドウ糖を取り込みます。

肝臓はGLUT2によって、血中のブドウ糖が多くなれば、自然にブドウ糖を取り込むように働くものの、インスリンの作用を多少受けることが観察されています。インスリンが関与する肝臓のGLUT2への割合は低いものの、インスリンは肝臓での糖取り込み率を増加させることが分かっています。

すいぞう臓からインスリンが分泌された場合、各組織の取り込み率は、骨格筋85%、脳9%、肝臓5%、脂肪1%であると報告されています。

BBRC, 1997. Wang L et al. .Nature Genet., 1998. Ebina, Accili et al. Diabetes, 2004. Yuasa et al.)

インスリンが血糖を下げる仕組み

インスリン受容体は、細胞膜に貫通して存在する膜貫通型糖タンパク質(まくかんつうがたとうたんぱくしつ)です。

インスリンがインスリン受容体に結合すると(図①)、受容体の「自己リン酸化」(図②)が生じます。

リン酸化によって活性化された受容体は、細胞内にある他の酵素を次々とリン酸化させます。この現象をリン酸化カスケードといいます。(図③)

リン酸化カスケードとは、「ホルモンと受容体(レセプター)が結合した信号」が伝わることで、細胞の中で次々とリン酸化を引き起こし、ホルモンの効果を発現する仕組みのことです。

リン酸化カスケードによって、細胞内のPKBやPKCといったリン酸基転移酵素(キナーゼ)が活性化され、グルコース輸送体のGLUT4を脂肪細胞や筋細胞の膜の表面へ移動させます。(図④)

GLUT4が細胞膜にはまり込むと、ブドウ糖(グルコース)を細胞の中に取り込みます。(図⑤)

インスリン抵抗性

機能性低血糖症の人では、(糖尿病の人と同じように)インスリン抵抗性が引き起こされているケースがあります。

インスリン抵抗性とは、「インスリンが十分に分泌されているのに、筋肉や肝臓で十分に作用しなくなること」をいいます。

インスリン抵抗性になると、標的細胞にブドウ糖を取り込む能力が低下し、血液中のブドウ糖の濃度は下がらなくなります。その結果、高血糖の状態が続いてしまいます。

すると、膵臓はたくさんのインスリンを分泌する必要があると判断し、ますます多くのインスリンを分泌するようになります。しかし、こうした状態が続くと、やがて膵臓は疲れ果てインスリンを分泌する機能が衰えてしまうことがあります。

機能性低血糖症の人では、インスリン抵抗性があるため、血糖値の調節がうまくいっていない場合があります。

肝臓と筋肉に貯蔵されるグリコーゲン

グリコーゲンとは、全身の細胞内に取り込まれずに血液中に余ったブドウ糖を、肝臓や脂肪組織、筋肉に一時的に蓄えておくための物質です。

グリコーゲンは、複数のブドウ糖が複雑につながった多糖類(たとうるい)と呼ばれる化合物です。グリコーゲンは空腹時のエネルギー源になるため、「動物でんぷん」とも呼ばれています。

肝臓では重量の8~10%のグリコーゲンを貯蔵することができます。しかし、筋肉(骨格筋)では重要の2~3%のグリコーゲンしか貯蔵することができません。 体重60Kgの人では、肝臓には120~150gのグリコーゲンがあり、筋肉には300g~400gのグリコーゲンがあることになります。(※体格や筋肉量によって個人差があります。)

食べ物から摂取した糖質(炭水化物)は、分解されてブドウ糖(グルコース)として小腸から吸収されます。小腸で吸収されたブドウ糖は肝臓に入り、その後、インスリンによって肝臓や脂肪組織、筋肉の細胞内に取り込まれます。

このとき、インスリンは、肝臓や筋肉でのグリコーゲンの合成を促進します。

グリコーゲンは、私たちが空腹時でも活動を行ったり、血糖を維持したりできるよう、ブドウ糖の供給源となります。つまり、食事からブドウ糖を取り入れることができなくても、グリコーゲンをブドウ糖に分解することで、生体エネルギーの材料として使うことができるというわけです。

その反対に、食事をして血液中に十分なブドウ糖があるときは、グリコーゲンを分解しなくとも、血中に十分な量のブドウ糖が存在することになります。 そのため、食事によって血糖が上昇しているときには、グリコーゲンの分解は抑制されると共に、次の空腹(飢餓)に備えてグリコーゲンの合成は促進されます。

「肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成」や「肝臓や筋肉細胞へのブドウ糖の取り込み」が終わっても血液中にブドウ糖が余っている場合、ブドウ糖は中性脂肪として脂肪細胞の中に取り込まれます。これが、糖質を過剰に摂取すると太ってしまう理由のひとつです。

グリコーゲンの分解

血糖が下がったときに、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは酵素(こうそ)によって分解されて、ブドウ糖(グルコース)に変わります。

グリコーゲンが分解されてブドウ糖となると、体のあらゆる細胞に届けられて、生命を維持するエネルギーを生み出したり、活動を行ったりするのに使われます。

筋肉に存在するグリコーゲン

筋肉に貯蔵できるグリコーゲンは、筋肉の量が多ければ多いほど増えます。筋肉がたくさんあると、インスリンによって筋肉の細胞にブドウ糖は取り込まれやすくなります。そのため、運動を行って筋肉量を増やすことで、血糖値を安定化させることが大切です。

しかし、筋肉には、肝臓のようにグリコーゲンをブドウ糖に変換するための酵素がありません。筋肉には、グリコーゲンをグルコースに変換するグルコース6ホスファターゼという酵素がないため、筋肉ではグリコーゲンを乳酸(にゅうさん)という、中間物質までしか分解することができません。

そのため、筋肉にあるグリコーゲンは、筋肉運動のみによって使われます。筋肉のグリコーゲンはピルビン酸になったのち、解糖系(かいとうけい)などに利用されます。

血糖を上昇させるホルモンによって気分や性格が変わる

血糖値が急激に上昇し、すい臓のβ細胞(べーたさいぼう)から大量のインスリンがでると、血糖は速いペースで落ちていきます。

このとき、体の中では急速に低下した血糖を回復させようと、ホメオスタシスが働いて、血糖を上げるための様々なホルモンが分泌されます。それが、先に述べたエピネフリンやノルエピネフリン、コルチゾールなどです。

これらのホルモンは血糖を引き上げると当時に、神経を興奮させ、私たちの感情や行動に大きな影響を及ぼします。

エピネフリンとノルエピネフリンは、副腎髄質(ふくじんずいしつ)から分泌されます。エピネフリンとノルエピネフリンは、交感神経を優位にし、体を緊張状態に導きます。

また、エピネフリンとノルエピネフリンは脳でも分泌され、神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)として働きます。神経伝達物質とは、脳の細胞と細胞の間(シナプス)を行き来する化学物質です。

神経伝達物質がシナプス間に放出されて神経細胞に電気信号が走ることで、感情や記憶、理性、学習などがコントロールされます。

神経を興奮させるエピネフリンとノルエピネフリン

エピネフリンとノルエピネフリンは、私たちの感情を興奮させる作用があります。

そのため、機能性低血糖症によってエピネフリンとノルエピネフリンが過剰に分泌されると、怒りや苛立ち、憎しみ、敵意、我慢の限界、焦り、不安、恐れ、落ち込み、自殺願望、希死念慮(きしねんりょ:死ななくてはいけないと思い込む)といった感情面の興奮と混乱を引き起こす場合があります。

副腎髄質から分泌されるカテコラミンのうち、約80%はエピネフリン(アドレナリン)です。残りの大部分はノルエピネフリン(ノルアドレナリン)です。

ドパミン

低血糖の状態が長く続くと、ノルエピネフリンやエピネフリンに加え、ドパミンが脳から分泌されます。ドパミンも副腎髄質で作られるホルモンであり、神経伝達物質でもあります。しかし、副腎髄質で作られるドパミンの量は極めて少ないです。

ドパミンは「好奇心や学習意欲が湧いたとき」や「目標や夢を叶えたとき」に満足感や達成感をもたらします。また、ドパミンには、私たちの行動に意味づけをする役割も担います。 

勉強に励んだり、運動を頑張ったり、仕事や家事に精を出したりするとき、その行為をすると決めた動機が存在します。クラスでトップの成績を収めたいから徹夜で勉強するとか、甲子園で優勝したいから野球を猛練習するといった具合です。目的意識や活動の意義を見いだすのがドパミンの作用です。

ノルエピネフリンとエピネフリン、ドパミンの3つのホルモンを合わせてカテコラミンといいます。

カテコラミンの代謝

ノルエピネフリンとエピネフリン、ドパミンのカテコラミンは、フェニルアラニンとチロシンというアミノ酸が代謝されて作られます。

カテコラミンの影響

カテコラミンには、血管や心臓、気管支、腎臓の血管の細胞に作用し、血管を収縮させたり、冠動脈を拡張させたり、気管支を広げたりする働きがあります。

カテコラミンは、心身の異常事態に対処するために投与されることがあります。例えば、救急外来などでは、低血糖、精神的ストレス、アレルギー、ショック、不眠、発熱、寒冷の回復を目的として投与されることがあります。

カテコラミンは適度な量が分泌されることで、体がホメオスタシスを維持できるように働きます。しかし、低血糖状態などのストレスが起きたり、生命の危機に直面したりすると、体は自分を守ろう(生体の防御作用)として多量のカテコラミンを分泌します。

カテコラミンはストレスに対抗するために必要なホルモンですが、過剰に分泌されると高血圧や頻脈、動悸、過度の発汗が生じ、交感神経が緊張した状態になります。また、精神にも影響が及び、パニックや大きな不安に襲われたような感覚になります。

反対に、カテコールアミンが不足すると、心身の脱力感や意欲の低下が起こり、抑うつ状態を招きやすくなると考えられています。

カテコラミンの中で、副腎髄質(ふくじんずいしつ)で作られるエピネフリン(アドレナリン)は「攻撃ホルモン」とも呼ばれ、生命が危機に直面したときに、闘争心をかき立てます。

カテコラミンは、私たちがストレスに立ち向かい、敵と戦い生存するために必要なホルモンです。しかし、カテコラミンが長期にわたって多量に分泌され続けると、情動を司る脳の働きに影響が出ることがあります。

私たちは外敵に突然襲われたり、食糧や領地を巡って争いをしたりする際に「戦うか、逃げるか」(fight-or-flight)を瞬時に決定し、迅速に行動を起こさなくてはいけませんでした。

こうした状況で、エピネフリンが大量に分泌されます。エピネフリンは敵に立ち向かっていく「戦闘モード」を全開にするホルモンです。

エピネフリンは、興奮した合図を全身に発信し、心臓を興奮させて心拍数を増やしたり、血圧を上げたり、瞳孔を拡大させたり、血糖値を上昇させたりすることで、攻撃する体制を作ります。

エピネフリンが出ている間は、痛みをあまり感じなくなり、ケガや骨折をしても、痛さに対して鈍感になるといわれています。同時に、エピネフリンによって感情が高ぶるため、怒りやイライラ、不安、恐怖、敵意、恨み、憎しみの感情が芽生えます。

コルチゾールの分泌

体が低血糖状態になったとき、体内の血糖を上げるためにコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールは、副腎皮質(ふくじんひしつ)で作られます。

副腎から分泌されたコルチゾールは、肝臓に働きかけてグリコーゲンを分解したり、体内のアミノ酸を利用してブドウ糖(グルコース)を作り出したりすることによって、血糖を上昇させます。

多くの組織でグルコースを分解してピルビン酸を作るしくみを、解糖系(かいとうけい)といいます。そして、アミノ酸や脂肪を利用してブドウ糖を作る仕組みを糖新生(とうしんせい)といいます。

解糖系と糖新生の2つのシステムが備わっているお陰で、血中のブドウ糖の濃度を安定的に保つことができるのです。

また、コルチゾールには、血中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きをするインスリンの分泌量を抑制する作用があります。

つまり、コルチゾールは、糖新生によって体内でブドウ糖を合成するのと同時にインスリンを抑制することで、体内の血糖値を上昇させます。

加えて、副腎のコルチゾールはノルエピネフリンやエピネフリンと同じように、「戦うか、逃げるか」を瞬時に判断する「闘争か逃走反応」に深く関与しています。

そのため、低血糖状態になってコルチゾールが分泌されると、ノルエピネフリンやエピネフリンが分泌されたときと同じように身体は興奮状態になります。

カテコラミンの分泌リズムに即した夕方からの体調悪化

ドパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンを合わせた「カテコラミン」は、朝の4~5時頃に分泌が始まります。カテコラミンは午前10時を分泌のピークとし、その後は徐々に減少していき午後3時には分泌はほぼ終わり近づくとされています。

これをカテコラミンの日内変動(サーカディアンリズム)といいます。副腎皮質から分泌されるコルチゾールにも日内変動があることは、副腎疲労症候群の章で述べたとおりです。

日中はカテコラミンやコルチゾールが多く分泌されるため、低血糖状態になっても、血糖を引き上げてくれるホルモンたちがバックアップしてくれるため、明らかな症状が出にくい傾向にあります。

しかし、午後4時を過ぎて夕方近くになると、カテコラミンやコルチゾールの分泌量は自然に下がっていきます。すると、濃度が低下した血糖を維持するためのホルモンが働きにくくなり、機能性低血糖症の症状が出現するリスクが高まります。

機能性低血糖症の人は夕方になると、深刻なだるさやこらえ切れない眠気、気分の落ち込み、全身の震えといった症状を訴えることがあります。こうした背景には、カテコラミンやコルチゾールの分泌リズムが関わっているのです。 

人によっては、夕方ごろに低血糖で急にパニックになってしまい、電車やバスなどの公共交通機関を利用することができなくなったり、会社や学校、自宅などで人が変わったように性格が激しくなってしまったりすることがあります。

低血糖症状が表れる前に食べ物を口に入れておく

機能性低血糖症では、血糖が低下しはじめたときには、既に症状が出現している場合があります。疲労感や眠気、だるさなどの低血糖症状が出てから食事をとっても、カテコラミンやコルチゾールは既に分泌されてしまっている可能性が高いと考えられます。

こうした状況を防ぐためには、午後から夕方にかけて血糖が低下してしまう前に、血糖を安定的に維持できる食品をこまめに摂取することが医師から指導される場合があります。チーズやナッツ、あたりめ、とろろこぶ、玄米おにぎり、プロテインクッキーなどを少しずつ頻回に摂取すると効果的です。

ただし、食品を食べたときの血糖の上がり方には「個人差」があります。また、乳製品や小麦にアレルギーがある場合は注意が必要です。

脂肪肝の人は糖新生ができていないケースが多い

肝臓では空腹時に血糖を上げる方法として、解糖系と解糖系という仕組みが備わっていることは既に説明しました。また、これ以外に、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンを分解して血糖を維持する仕組みなどがあります。

糖新生は、肝臓でグリコーゲン以外のものからグルコースを合成し、エネルギーを作り出すシステムです。糖新生では、グルコースを合成するための材料として下記を利用します。

  • 肝臓自身のタンパク質や筋肉に存在する乳酸(にゅうさん)、ピルビン酸、糖源性アミノ酸(とうげんせいあみのさん)
  • 脂肪細胞に存在する中性脂肪

糖新生は肝臓の他に腎臓でも行われています。その割合は肝臓が80%、腎臓が20%といわれています。

空腹の時間が長くなると、グリコーゲンを分解して血糖を維持しようとします。しかし、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンは、100g程度しかないため、すぐに底をつきてしまいます。そのため、空腹時に血糖が低くなった場合、糖新生を利用して効率よく体内の血糖を上げようとするのです。

しかし、肝炎、肝硬変、脂肪肝などの肝機能障害があると、肝臓の機能が低下しているため、糖新生を正常に行うことができなくなってしまいます。

脂肪肝は糖質やアルコールの摂り過ぎ、運動不足などが原因で生じます。脂肪肝は、肝臓の細胞に中性脂肪が多く蓄積した状態をいいます。「フォアグラ状態の肝臓」とも表現されます。

健康診断の数値に問題がなく、痩せ形の人であっても脂肪肝になっていること(隠れ脂肪肝)があります。このような人は、糖新生によって一定の血糖を維持することが難しくなる場合があります。

機能性低血糖症を調べる5時間糖負荷検査

機能性低血糖症かどうかを調べるためには5時間糖負荷検査(とうふかけんさ)を行います。この検査は、OGTT(Oral Glucose Tolerance Test)と記載されることがあります。

5時間糖負荷検査では、75gのブドウ糖を含んだ検査用の飲料を摂取します。

施設によって異なりますが、ブドウ糖の摂取前と、ブドウ糖を摂取してから15分・30分・60分・90分・120分・150分・180分・240分・300分経過した時点の、合計10回にわたって体温を測ったり、採血を行ったりします。

5時間糖負荷検査を行うことで、患者にどのような症状が表れるかを観察し、ブドウ糖の代謝に対する自律神経やホルモンの状態を調べます。

5時間糖負荷検査は、前日から12時間以上の絶食した状態で行います。患者は、5時間に及ぶ検査の間一切飲食を行わず、75gのブドウ糖を飲むことだけが許されます。

この検査は、ブドウ糖に対して患者がどんな反応を示すかを調べるために実施されます。しかし、5時間糖負荷検査を受けようとする患者は、「血糖コントロールの不具合により、肉体的・精神的な症状をきたしているのかもしれない」と既に自覚している人が多いです。 こうした人を「人為的に低血糖状態させる」ことには、様々なリスクが伴います。

人によっては、検査の最中に極めて深刻な低血糖症状が出てしまい、激しく興奮してパニックになったり、気を失いそうになったりしてしまう人がいます。そうした場合には、糖負荷検査はただちに中止されます。また、検査が終了してからも自律神経の乱れによって、しばらくの間、体調が崩れることがあります。

医師によっては、今の健康状態では患者が検査に耐えられなかったり、心身に大きな負担を課したりしてしまうと判断し、5時間糖負荷検査を見合わせることがあります。

患者に対する問診や患者が訴える症状から、「機能性低血糖症による影響は明らか」と判断された場合には、5時間糖負荷検査をせずに、「機能性低血糖症の可能性がある」ことを前提とした診断がなされたり、今後の治療計画が練られたりすることがあります。

5時間糖負荷検査は、あなたが希望すれば、基本的にどの医療機関でも行ってくれます。

しかし、この検査は、自由診療(自費治療)となる上に、5時間もの間、病院で拘束されるハードな検査です。5時間糖負荷検査を検討する場合には、各クリニックに「検査の注意点」や「検査の流れ」をよく確認した上で決めましょう。

機能性低血糖症の血糖値のパターン

5時間糖負荷検査による血糖値の変動例を下記に示します。実際の5時間糖負荷検査では、インスリンの分泌量と血糖値に加え、体温を測ることがあります。体温の変動から、交感神経の緊張状態などを読み取ります。

健康な人の血糖値の曲線パターン
空腹時(食事をする前と食後3時間の血糖値がほぼ同じ値:90前後)

矢崎智子著 なぜあなたは食べすぎてしまうのか‐低血糖症という病より引用・一部改編

 

反応性低血糖症
50代女性。他院でうつ病、高血圧症の診断を受けて抗うつ薬と降圧剤を服用していました。ブドウ糖負荷試験を行い、インスリン分泌が血糖値のピークを越えたあとから上昇しはじめ、3時間後に血糖値が74mg/dlと低値となりました。その後、交感神経が興奮し、今度は182mg/dlまで上昇しました。

乱高下型低血糖症
70代の女性。回転性のめまいと吐き気、動悸が発作的に起こり、耳鼻科でメニエル病と診断されました。薬を飲んでもめまいが治らないために分子整合栄養医学のクリニックを受診。ブドウ糖負荷試験を行うと、血糖値とインスリンは、上がったり下がったり、上下動を繰り返しました。

櫻本 薫・櫻本 美輪子 糖質革命‐現代病の原因は「低血糖症」にあったより引用・一部改編

 

無反応性低血糖症
食事をしても血糖値が十分に上昇しないタイプ。インスリンは上がったり下がったりしており、インスリンの影響によって、血糖値がなかなか上昇しません。10代~30代前半の人に多く見られます。脳や筋肉など、体にエネルギーを供給する時間帯が作れないのが特徴的です。

こうした血糖値の曲線パターンを描く人は、疲労感がひどく、体が常にだるいことが多いです。朝起きられずに学校や仕事へ行けなくなります。また、脳へのエネルギーが絶対的に不足しているために、思考力が低下し、抑うつ症状を訴えることがあります。
溝口徹 「うつ」は食べ物が原因だった!より引用・一部改編

血液検査から類推する機能性低血糖症の可能性

機能性低血糖症は、5時間糖負荷検査(75g OGTT)の結果に基づいて診断されます。しかし、先に述べたように、既に機能性低血糖があると自覚している人や副腎疲労症候群(ふくじんひろうしょうこうぐん)が併発している人では、医師の判断で糖負荷検査を実施しない場合があります。

こうした場合は、問診や血液検査の結果から、機能性低血糖症を発症している確率が高いと判断することがあります。

血液検査の血糖値から類推する機能性低血糖症

血液検査では、機能性低血糖症であるかどうかを判断するために、下記の項目を参照する場合があります。

項目 基準値 備考
空腹時血糖 80~110mg/dl  -
食後2時間血糖 140mg/dl未満
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー) 4~6% グルコースと結合したヘモグロビン。過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する
GA(グリコアルブミン) 11~16% グルコースと結合したアルブミン。過去1か月前(特に直近の2週間前)から採血日までの平均的な血糖値を反映する
FRA(フルクトサミン) 205~280μ mol/l 血液中の糖とタンパクが結合してできる物質。過去2週間の平均的な血糖値を反映する
1.5-AG(イチゴーエージー、1.5アンヒドログルシトール) 14μg/ml以上 過去数日間の平均的な血糖値を反映する。糖尿病の人では、尿中に多くの糖が排出されるため、高血糖状態が続くと1.5-AGは低くなる

HbA1cやグリコアルブミン、フルクトサミン、1.5-AGは採血する前の食事や運動からの影響を受けません。

血糖に関連する項目は、過去の血糖のコントロール状態をさかのぼって推察することができます。そして、これらの検査項目を見ることで、血糖コントロールに異常があるかどうかを把握することができることがあります。

空腹時血糖が70を下回っていれば、血糖調節に問題があると捉える医師もいるようです。また、採血をしたときの血糖値が基準値の範囲内だったとしても、1.5-AGが低ければ過去数週間の期間中に高血糖になり、尿糖が出ていた時間があったことが分かります。

さらに、HbA1cやグルコアルブミン、フルクトサミンなど、中・長期的な期間で区切った血糖値には問題がないように見えても、機能性低血糖症のリスクが潜んでいると指摘される場合があります。「乱高下した血糖値が平均化され、凹凸がならされた状態にマスキングされている」可能性があるからです。

血液検査の遊離脂肪酸から類推する機能性低血糖症

低血糖やエネルギー不足の状態では、血糖値を引き上げるための成長ホルモンや、甲状腺ホルモンなどにより、脂肪が脂肪酸に分解されやすくなります。その結果、中性脂肪が低下し、遊離脂肪酸(ゆうりしぼうさん)の数値が高くなる傾向があります。

中性脂肪は、脂肪を分解する酵素のリパーゼによって体内でグリセリン(グリセロール)と遊離脂肪酸に分解されます。

グリセリンはグリセロール3-リン酸からピルビン酸となり、グルコース(ブドウ糖)へと変えられます。(糖新生)

脂肪酸は、ミトコンドリアでβ酸化を受けたのちにアセチルCoAとなってTCAサイクル(クエン酸回路)に入り、エネルギーを作り出します。

しかし、TCAサイクルに入ることができるアセチルCoAには限りがあるため、一部はケトン体となり、全身の細胞でエネルギー合成に利用されます。

遊離脂肪酸は、機能性低血糖症や糖尿病、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)などで体内の脂肪の分解が進むと上昇する項目です。

その他、機能性低血糖症の人では、コレステロールや総タンパク(TP)、アルブミン(ALB)、カリウムなどの数値が低くなる傾向があることが示されています。

機能性低血糖症の治療

機能性低血糖症の治療方法として、確立された手法やガイドラインは存在しません。

ひとくちに「機能性低血糖症」といっても、患者によって出現する症状の種類や重さには違いがあります。また、治療を施す医師によっても、治療のアプローチや優先順位、摂るべき栄養素に関する指導は異なるでしょう。

機能性低血糖症に併せて、糖尿病や副腎疲労症候群など、他の病気を発症していたり、病気を治すための別の薬を飲んでいたりする場合など、個別に応じた対処が必要になります。

また、普段の食事にプラスして、補食(ほしょく)を摂るタイミングや食べるものに関して、細かく指示がなされることがあります。食事だけでは必要な栄養素が補えない場合には、サプリメントにより栄養補給が検討されます。

機能性低血糖症の治療を進めていくにあたっては、あなたの症状や体質、服用している薬との飲み合わせなど、主治医とよく相談するようにしましょう。

機能性低血糖症の人は糖質制限をすべきか?

機能性低血糖症の治療では、主治医から「糖質制限」を行うように指導される場合があります。

パンやパスタ、白米、清涼飲料水、菓子などは、精製された炭水化物や砂糖が含まれているため、血糖を急激に上昇させる食品です。そのため、機能性低血糖症の治療では、こうした食品をなるべく避けて、代わりに血糖をゆるやかに上昇させる食品を食べるようアドバイスされます。

糖質制限をどのくらいの期間で、どこまで厳格に行うかは、個人の症状や体質に応じて異なります。主治医とよく相談した上で、あなたがベストだと思うやり方を選択しましょう。

医師の中には、機能性低血糖症の治療は「糖質制限食だけでは不十分」と捉えている人がいるようです。機能性低血糖症で糖質制限を実施した場合、「食後高血糖とその後の反応性の低血糖は防げるが、空腹時や就寝時の低血糖を防ぐのは難しい」ことを、経験しているベテランの医師たちがいます。

機能性低血糖症の治療を行う場合は、様々な要素を多角的に観察する必要があります。「糖質に敏感に反応してしまう患者の体質」に加え、インスリンの分泌量や副腎の機能、肝臓の機能、神経伝達物質の合成能力、交感神経のバランス、筋肉量などを、総合的に勘案して治療を進めることが求められます。

尚、糖質制限は、肝機能障害や腎機能障害、すい臓障害がある場合や長鎖脂肪酸代謝異常症(ちょうさしぼうさんたいしゃいじょう)の人に対しては禁忌(きんき)とされています。 

また、糖尿病の治療として血糖降下剤やインスリン分泌を促進するSU剤(スルフォニル尿素薬)、糖新生を抑えるBG薬(ビグアナイド薬)などを服用している人は、糖質制限は行ってはいけないとされています。

また、リーキーガット症候群の人は、糖質制限を実施しても問題がないか、予め医師に確認しましょう。

厳格な糖質制限を行うと、普段の食事は「高たんぱく・高脂質」になります。そのため、リーキーガット症候群によって腸管の粘膜細胞が壊れていると、腸の壁を越えて、体内に未消化のタンパク質が入り込んでしまいます。すると、体は未消化のタンパク質を異物として認識するため、過剰な免疫反応や炎症が生じる恐れがあります。

さらに、腸内環境が悪化している人も、糖質制限の実施は慎重に選択すべきです。腸内細菌のバランスが乱れていると、腸内に悪玉菌が増えている可能性があります。

腸での正常な消化・吸収活動が行えていないにも関わらず、スーパー糖質制限を行ってタンパク質が多く含まれた食事をすると、悪玉菌はタンパク質や脂肪を腐敗させて、アンモニアや、硫化水素(りゅうかすいそ)、インドール、スカトール等の有害な悪臭物質を作り出します。

その結果、消化不良や膨満感、ガスや便が臭くなる、便秘、下痢といった症状が出現することがあります。

機能性低血糖症の治療の一環として糖質制限を行う場合は、現在抱えている病気や飲んでいる薬、体質などを主治医に正確に伝えた上で、どのように治療を行っていくのが最適かを話し合うようにしましょう。

糖質制限の第一人者である江部康二先生は、自身のブログで「機能性低血糖症の場合、炭水化物依存症レベルが重症のとき、糖新生能力が低下していることがあり、まれに低血糖症を生じますので注意が必要です。」と言及しています。

機能性低血糖症は病気の原因なのか、結果なのか?

機能性低血糖症が生じる原因には、様々な要因があると考えられています。機能性低血糖症とは、血糖値を正常な範囲にコントロールできなくなることで生じる病気であるため、「なぜ血糖値の調節に問題が生じているのか」を考える必要があるでしょう。

  • インスリンの分泌障害
  • 過剰な糖質の摂取
  • 自律神経の乱れ
  • 神経伝達物質やホルモンの合成のアンバランス
  • ホルモンの材料となるタンパク質不足
  • エネルギーを合成するためのビタミン・ミネラル不足
  • 糖尿病や甲状腺疾患など、血糖調節やホルモン分泌に関わる病気の併発
  • アルコールやタバコ、コーヒーなどの刺激物の過剰摂取
  • 度重なるストレス
  • 糖新生や解糖系の能力低下

「諸々の原因が積み重なった結果として機能性低血糖症が生じている」のだとすれば、この病気を改善するために、原因をひとつひとつ解決していくことが求められるでしょう。

その一方で、低血糖に伴うホルモン分泌によって、肉体的・精神的に安定した状態が崩壊すると捉えた場合、「機能性低血糖症は、体調不良を招く原因のひとつ」と考えることができるでしょう。

こうした場合、血糖を上げるためのホルモンが分泌されないように、血糖値を一定に維持するための対策が必要になります。

いずれのスタンスに立った場合においても、肝心なのは「機能性低血糖症で苦しんでいるあなたの体調を回復させること」です。そのためには、最善の治療法を主治医を共に検討し、一日も早い回復に向けて、根気強く治療に専念していきましょう。

機能性低血糖症に関する書籍

機能性低血糖症に関して詳しく書かれた書籍があります。下記の記事をご覧下さい。

・栄養療法の書籍レビュー 機能性低血糖症(書籍)

監修:新宿溝口クリニック 溝口徹