認知症とは、「生まれてから正常に発達してきた精神機能が、段々と減退・消失することで、日常生活や社会生活を営めなくなってしまう状態」をいいます。

厚生労働省によると、国内における認知症発症者数は2012年時点で462万人となり、高齢者(65歳以上)の15%を占めています。また、認知症の予備軍である軽度認知障害(MCI)の人は400万人ほどいると推定されています。

2025年には、認知症発症者は700万人を越え、高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。しかし、今のところ認知症を完治させる薬は見つかっておらず、患者数の増加に歯止めをかける目途は立っていません。

こうした状況の中、認知症が引き起こす数々の社会問題が浮き彫りになっています。認知症の症状によって起こりやすいトラブルとして、徘徊や孤独死、消費者被害、自動車の運転事故などが挙げられます。

また、介護負担から、介護者から虐待を受ける認知症高齢者は後を絶ちません。反対に、患者を介護する家族にも肉体的・身体的・経済的負担が大きくのしかかります。最悪の場合、無理心中や殺害などに発展するケースもあります。

残念ながら、将来的に見込まれる認知症患者の増加に伴い、上記の社会問題はますます増えていくでしょう。

ここでは、認知症とは一体どのような病気かを見ていくと共に、分子整合栄養医学による認知症予防と改善の可能性について探っていくことにします。

認知症とはどんな病気か

認知症は、脳の細胞が何らかの原因によって障害を受けることによって生じます。脳細胞がダメージを受けると、脳の細胞同士がシグナルを伝達する機能が損なわれます。すると、思考や学習、記憶、行動、感情に大きな影響が及びます。

その結果、認知症では「記憶力の低下」や「思考力の低下」「行動の異常」など、日常生活を妨げる症状が出現します。

認知症と「物忘れ」の違いが分からない人もいるかもしれません。物忘れは、脳の老化による生理的な現象です。誰しもが加齢に伴い、もの覚えが悪くなったり、人や物の名前が思い出せなくなったりします。

一方で、認知症はそういった物忘れとは異なり、何らかの原因によって脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなってしまったりしたことで生じる症状や状態をいいます。そして多くの場合、症状が進行すると共に理解力や判断力が低下し、社会生活や日常生活に支障が出てきます。

認知症で生じる症状は、脳細胞の障害によって生じる中核症状と、本人の元々の性格や生活環境によって症状が大きく左右される周辺症状(行動・心理症状:BPSD)に分けられます。

中核症状

中核症状は大きく5つに区分されます。以下にそれぞれについて説明します。

記憶障害

認知症における記憶障害では、ついさっきの出来事が思い出せないといった特徴があります。これを短期記憶障害といいます。

たとえば、今電話を切った相手にまた電話をかけてしまうなどは、認知症でははよくあることです。本人は「電話をかけたこと自体」を忘れているため、用を済ませようと電話を繰り返しかけてしまうのです。

また、認知症の記憶障害は、「新しい記憶から順に忘れていく」という特徴があります。これを記憶の逆行性喪失(ぎゃっこうせいそうしつ)といいます。

以前、会社で働いていた人であれば、ある日突然スーツを着て出勤しようとする行動が見られることがあります。これは、記憶がさかのぼって、本人は「今」が若い頃の自分であると感じているためにこういった行動をとります。

このような記憶障害は、主に記憶を司る脳の海馬(かいば)が障害を受けて起こります。

失行、失認、失語

認知症では、脳の障害に応じて失行(しっこう)失認(しつにん)失語(しつご)といった症状がみられます。

失行は、手や足が挙がらないなどの運動機能に問題はありませんが、これまで毎日行ってきた「動作の手順」がわからなくなり、一人では目的を果たせなくなります。家事や自動車の運転などの複雑な作業はもちろん、着替えや洗面など、身の回りのことができなくなるのが特徴です。

失認とは、触覚や視覚などの感覚が脳の障害により上手く伝わらず、「誤った感覚で状況を認識してしまう状態」をいいます。たとえば、左半側の空間的な認識が乏しくなると、食事を出された際に、左側に置いてあるものだけを残してしまうことなどがあります。

失語は、聴力や発声自体には障害がないのに言語の理解や表出が困難になる症状です。実際には、話す、書く、読むといった言語に関する行為が難しくなります。そのため、言葉が上手く出てこなかったり、字が書けなくなったりします。

見当識障害

見当識障害(けんとうしきしょうがい)とは、時間や場所、人の把握ができなくなる状態を指します。「今日は何月何日か」「ここはどこか」「自分や家族の名前は何か」などの情報がわからなくなります。

認知症の人は、自分は誰で、ここはどこなのかわからないといった状況に陥り、強い不安を感じることがあります。

判断力の障害

認知症の人では、物ごとの共通点がわからなくなったり、善悪の判断がつかなくなったりする場合があります。

ニンジンやタマネギ自体は理解できるものの、それらに「野菜」という共通点があることはわからなくなります。そのため、「知っている野菜は何ですか?」という質問に対しての答えがなかなか出てこなくなります。

また、お店で買い物をするとき「お金を支払うことの必要性」が理解できなくなって、会計を済ませずに商品をカバンに入れてしまうことがあります。

加えて、相手の話していることの意図がわからず、あいまいな表現の意味を汲むことが困難になります。

実行機能障害

実行機能障害とは、「以前は当たり前にできていたことの手順がわからず、できなくなる障害」をいいます。女性では、認知症の初期に料理や洗濯などの家事が行えなくなります。「手の込んだものが作れなくなっていつも同じ料理になった」、「几帳面だった人の部屋が散らかるようになってきた」という変化が見られたら、認知症の兆候かもしれません。

以上に挙げた中核症状は、脳の障害によるものであるため、症状の出現するタイミングや度合いは違うものの、ほとんどのケースでみられます。

それに対して、周辺症状は必ずしも全員に生じるとは限りません。症状の出方は、中核症状によって生じる不安感や本人の性格、介護者との人間関係など、心理的な要因によって大きく異なります。

次に、周辺症状(以下BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)について説明します。

周辺症状

周辺症状は、近年では「行動・心理症状」と呼ぶのが一般的になりつつあります。

徘徊

徘徊は、見当識障害によって生じる症状のひとつです。

一人で外に出たものの、場所や時間がわからなくなり、元の場所に戻ることができなくなります。はたから見ると、意味もなく歩き回っているように感じますが、多くの場合、本人は「仕事に行く」「買い物に行く」などの目的や動機を持って外出していることが多いようです。

食行動異常

認知症では異食(いしょく)盗食(とうしょく)過食(かしょく)拒食(きょしょく)などの食行動の異常が現れることがあります。

異食とは、紙や石けん、便などの「食べ物ではないもの」を口に入れたり、飲み込んでしまったりすることをいいます。

盗食は、他人の食事を盗んで食べてしまうことです。

しかし、認知症の人は、その食べ物が「自分のもの」だと思い込んでいます。よって、本人には他人の食べ物を盗んだという意識はまったくないケースもあります。

認知症の人は、判断能力や理解力が著しく低下していることがあるため、「他人の食事に手を伸ばすことがなぜいけないのか」を理解することが困難になっていると考えられます。

他にも、満腹中枢の障害や記憶障害から、食事の量や回数が異常に増え、過食になることがあります。一方で、お腹がすかない、食べること自体を忘れるなどの理由から、拒食状態になるケースもあります。

失禁・失便

失禁、失便とは、尿や便をもらしてしまうことです。

認知症の人は、「トイレの場所がわからない」「尿意や便意を感じにくい」「トイレに行く途中で何をしていたのかわからなくなった」などの理由から、失禁や失便が生じることがあります。

また、弄便(ろうべん)を行う患者もいます。弄便とは便をいじる行為です。認知症の人は、便を便だと理解ができていないことがあり、手で丸めたり、口に入れてしまったりすることがあります。

おむつの中に便が出てしまい、それが不快なために自分で何とか対処しようとした結果、こうした行為に及んでしまいます。

拒否

認知症の周辺症状としてみられる「拒否」は、介護者にとって大きな心理的ストレスの原因となるものです。認知症の方の中には薬の服用や着替え、入浴などを強く嫌がる人がいます。

ただ多くの場合、本人がやみくもに拒否しているわけではありません。ほとんどのケースで、「なぜ、それをしないといけないのかがわからない」「誰だか知らない人からは触られたくない」などの理由があります。

妄想

認知症の初期症状として現れやすいものに「物盗られ妄想」があります。本人が物をしまった後、そのを忘れてしまった際に「大切にしていたものが知らない間に誰かに盗まれた」と勘違いしてしまいます。

こうした妄想は、記憶障害や不安などが原因となって生じます。家族や介護ヘルパーなどの身近な人が疑われることが多いです。

幻覚、錯覚

幻覚とは、実際には存在しないものを見たり、聞いたり、感じたりすることをいいます。

部屋に誰もいないのに、「子どもがたくさん遊んでいて騒がしい」などと訴えることがあります。認知症で現れる幻覚のほとんどは、人や子ども、動物などで、人によって様々な感じ方があります。

錯覚とは、物を見間違えたり、聞き間違えたりすることです。「床に落ちているゴミが虫に見える」「携帯の着信音が何かの警報音に聞こえる」などです。

これらの勘違いは誰にでも起こることですが、認知症の場合、一度思い込んだものを上手く訂正することができなくなります。また、錯覚に妄想が伴うと、さらに思い込みが強くなり、パニック状態になることがあります。

睡眠障害

認知症の方の中には、脳内の神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)の分泌異常や日中の活動性低下などから、睡眠サイクルが乱れ、昼夜逆転する人が多くいます。

神経伝達物質とは、脳の細胞と細胞の隙間を行き来する化学物質のことです。この物質が神経細胞の末端から放出されることでその先の神経細胞に信号が伝わり、情動や記憶、学習、睡眠などが調節されます。

抑うつ

気分が落ち込む、いろいろなことが心配になる、やる気が起きないなどの症状が現れた状態を抑うつ状態といいます。認知症の初期に現れやすい症状です。

認知症と間違えられやすい病気の一つとして、精神疾患である「うつ病」があります。

しかし、一般的なうつ病の好発年齢は中高年です。老年期に入ってからの抑うつは認知症の可能性を考慮に入れておいた方が良いでしょう。

暴言、暴力

認知症になると、以前は温厚な性格であった人でも、暴言や暴力を振うようになることがあります。その原因は、脳の障害によって理性をコントロールする力が低下するためです。

たとえば、着替えを手伝っているときに関節に痛みが出た場合、それを「介護者のやり方が悪いためだ」などと、異常に怒ることがあります。

このような感情的な行動は、現状を受け入れられないために生じる不安やいら立ちなども原因となって引き起こされます。

認知症の代表的な種類・各々の原因や症状の特徴

認知症は、原因や症状によって大きく5つの種類に分けられます。以下にそれぞれの特徴を詳しく説明していきます。

1. アルツハイマー型認知症

認知症の中で、最も発症割合が多いのがアルツハイマー型認知症です。その割合は5割程度とされています。

多くは、65歳以上に発症しますが、まれに30~60歳の若年者でも発症するケースがあります。この場合、若年性アルツハイマー型認知症と呼ばれます。

アルツハイマー型認知症は、脳全体にアミロイドβ(ベータ)タンパク質といった特殊なタンパク質が蓄積し、神経細胞が障害されることで発症するといわれています。

アミロイドβタンパク質が蓄積する要因として、加齢や遺伝などが指摘されていますが、明確な原因は未だ明らかにされていません。ただ、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を患われている人の方が、発症率は高まることがわかっています。

アミロイドβタンパク質以外にも、アルツハイマー病を悪化させる物質があります。

脳の老廃物であるアミロイドβタンパク質が蓄積し、その後、神経細胞内でタウと呼ばれるタンパク質の変化が生じます。これを神経原線維変化(しんけいげんせんいへんか)といい、タウがもつれるようにして絡み合った状態になります。(=タウのもつれ)

タウタンパク質が糸くずのように集まり、脳の神経細胞が変性したり脱落したりすると、脳が萎縮してしまいます。

 

一方で、若年性アルツハイマー病については、ほとんどが遺伝性であることがわかっています。

アルツハイマー型認知症の主な症状として、記憶障害、判断力低下、見当識障害、徘徊や拒否などの周辺症状があります。これらの症状は、進行とともに変化していきます。

軽度の時期には、日にちや曜日、人の名前がわからなくなるなどの症状がみられることが多いです。また、最近の出来事を思い出すことが難しくなります。

同時に、「病気への受容」が本人の中でできていない時期でもあるため、「忘れたことを隠す」ために積極的に作り話をすることがあります。

身の回りのことは、時間がかかることもありますが1人で行えることが多く、介助を必要とするケースはあまりありません。

症状が中度にまで進行すると、徘徊や暴言、暴力などの危険行動が見られるようになる人もいます。運動能力の低下は比較的少ないものの、中核症状の悪化と共に、ますます不安感が大きくなるために、他人に対して厳しい態度を取るような症状が現れやすくなるとされています。

高度の時期に移行すると、脳の障害範囲はさらに広がります。歩いたり、座ったりすることが難しくなり、ほぼ寝たきりの状態になります。また、表情が薄くなり、家族や周囲の人が誰なのか判断することができなくなります。

個人差はありますが、これらの進行過程は2~3年ごとにステージが移行していくとされています。一般的には、発症から5~8年で高度の状態になることが多いといわれています。

若年性アルツハイマー病の場合は、進行スピードはもっと早いことがわかっています。

2. レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症が全体の5割を占めるのに対して、レビー小体型認知症は、脳血管性認知症と並んで、高頻度で現れる病気です。その割合は、認知症全体の約2割とされています。

アルツハイマー型認知症が女性に多く発症するのに対して、レビー小体型認知症は男性に多くみられます。

レビー小体型認知症の原因は特定されていませんが、脳全体にレビー小体という特殊なタンパク質が出現することで発症するとされています。

レビー小体が脳に集積する場所では神経細胞が減少し、神経伝達物質や電気信号がうまく伝わらなくなる結果、認知症の症状が起こると考えられています。

レビー小体の集積は、以下のような場所に見られます。

大脳皮質(だいのうひしつ)は、視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚、触覚、随意運動、思考、記憶、推理など、脳の高次機能を司ります。

脳幹(のうかん)は、大脳からの指令が脊髄に伝わっていく径路であるほかに、眼球運動や嚥下、顔面感覚といった首より上の機能を司ります。また。呼吸や心拍、血圧、消化など内臓の働きを調節する役割を担っています。

特徴的な症状として、幻覚や錯覚、認知機能の日内変動、パーキンソン病様症状、抑うつ、妄想などの周辺症状が挙げられます。

「認知機能の日内変動(にちないへんどう)」とは、記憶力や判断力、見当識などが、「時間帯によって変わる」状態をいいます。つまり、レビー小体型認知症では、認知機能が保たれている時間帯と上手く働いていないときの差が出てくるという特徴があります。

また、パーキンソン様症状(ぱーきんそんようしょうじょう)とは、脳神経疾患の一つであるパーキンソン病に似た症状のことをいいます。

パーキンソン病では、「歩くときに初めの一歩が出にくい」「歩きだしたら止まれない」「小刻みに歩く」「全身の動きや表情が硬くなる」「指先が一定のリズムで震える」などの特徴的な症状がみられます。また、立ちくらみや発汗異常、便秘などの自律神経(じりつしんけい)の障害が生じることもあります。

このような症状は、他の認知症タイプには出にくい症状であり、レビー小体型認知症と診断する際の判断材料となります。

レビー小体型認知症では初期に、便秘や抑うつ、幻覚、軽い物忘れなどの症状が主にみられます。ただ、記憶力や運動能力はあまり障害されていないため、介助を必要とすることはほとんどありません。

中期になると、上記の症状が進行すると同時に、パーキンソン様症状が出現します。そのため、歩くことが不安定になります。

認知機能が低下している時間帯が増え、運動能力も低下するため、身の回りのことにも手助けが必要になってきます。幻覚や妄想も顕著に見られるようになり、周囲からの声掛けが重要な時期になります。

後期になると、脳の障害が重度化します。よって、歩くことが困難になり、車いすやベッド上での生活が中心になります。認知機能が正常に働いている時間帯はほとんどなくなり、身の回りのこと全てに介助が必要となります。

レビー小体型認知症の進行スピードには個人差がありますが、アルツハイマー型認知症と比べるとやや早い経過をたどることが多いとされています。

3. 脳血管性認知症

脳血管性認知症(のうけっかんせいにんちしょう)は、脳梗塞(のうこうそく)や脳出血など、脳血管の障害によって神経細胞に酸素や栄養が上手く供給されなくなることで生じる認知症です。脳の障害部位や範囲により、障害される機能と保たれている能力がはっきりと分かれます。

脳血管性認知症では、記憶力はある程度維持されているが、見当識は低下しているといったケースも見られます。

また一日の中でも、意識がはっきりとしていて認知機能が正常に働いているときもあれば、さっきはできていたことが急にできなくなるなど、症状の出方が変わることもあります。このような特徴から、脳血管性認知症は「まだら認知症」とも呼ばれます。

また、理性や感情を司る部分が障害されると感情の上下が激しくなり、何気ない言動で泣いたり、怒ったりすることがあります。当然、脳血管障害による運動麻痺や高次脳機能障害も見られます。

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症が徐々に進行していくのに対して、脳血管性認知症では、脳梗塞や脳出血などを繰り返すたびに、症状が段階的に悪化していきます。脳血管性認知症における男女での罹患比は、男性の方が多くなっています。

4. 前頭側頭葉変性症

前頭側頭葉変性症(ぜんとうそくとうようへんせいしょう)は、脳の前頭部にあたる前頭葉と側頭部に位置する側頭葉が何らかの原因で障害され、萎縮(いしゅく)することで発症する認知症です。50~60代で発症することが多いとされています。

判断力や理性などをコントロールしている前頭葉と言語機能を司る側頭葉が障害されるため、記憶力の低下よりも性格の変化、注意力の低下、こだわりの強さなどの症状が目立って現れます。

 

症状が進行すると、身勝手な行動が増え、マナーや常識はずれな言動が見られることがあります。記憶力や判断力も少しずつ低下していきます。さらに進行すると、家族とすら関わりを持とうとしなくなる場合もあります。

また、万引きやセクハラなどの反社会的な行動や信号無視などの危険行動に注意する必要が出てきます。本人は、このような行動が悪いことだとは認識できないため、何度も繰り返してしまいます。

また食行動異常なども多くのケースで見られるようになり、介護者は常に気を配っておかなければいけない状態になります。

さらに、意欲の低下や感情の喪失などから徐々に活動性が低下し、運動能力も低下していきます。その結果、身の回りのことに対して手助けが必要な場面が増えていきます。

5. その他

認知症の中で、「症状を誘発している病気」がある場合、その病気を治療することで治る認知症があります。

脳脊髄液(のうせきずいえき)によって脳が圧迫される正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)や血腫(けっしゅ)によって脳に圧がかかる慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)などです。

これらの病気は、手術によって脳への圧迫を取ることで、症状を緩和または改善させることができます。

その他にも、脳腫瘍や甲状腺機能低下症、栄養障害、薬物やアルコールに関連するものは、「完治の見込める認知症」として挙げられます。

認知症の兆候・検査・診断

認知症を早期に発見することで、症状の進行を遅らせたり、症状を改善していくための治療計画をじっくり練ることができたりします。なにより、本人の希望に沿った治療方針や今後の人生設計も話し合うことができます。

認知症かどうかを判断するためには、すぐに病院で検査を受けることが大切です。仮に認知症と診断された場合、どの種類の認知症かを知ることで、適切な治療を開始することができるようになります。

また、早期に発見できることで、「自分と相性の良い主治医」を探すための時間を確保することができるようになります。

0. 兆候の察知
認知症の兆候にいち早く気づくためには、家族や親せきなどの身近な人がちょっとした「サイン」を見逃さず、そのまま放置しないことが大切です。

「いつもと違う」「以前と違う」「何か様子がおかしい」「ぼーっと考え事をすることが多くなった」「喜怒哀楽の表情が薄れた」などの変化に敏感に気づくことができるか否かによって、その後の対応が大きく変わります。

認知症が出現し始めたときや認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)では、下記の兆候が出るとされています。

  • 同じことを何度も繰り返して言ったり、聞いたりする
  • 日付、曜日、月がわからない
  • いつも通っている近所の道で迷ってしまう(方向感覚がなくなる)
  • 人の名前や物の名称が出てこない(あれ、それが多くなる)
  • 探し物や忘れ物が多くなる
  • 話の中で勘違いや誤解が多発し、意思疎通が難しくなる(話がずれる、噛み合わない、空気が読めない)
  • 相手の意見を聞かなくなる、一方的に否定する
  • 些細な失敗が重なり、そのたびに言い訳や作り話をする
  • 判断や意思決定をすることができなくなる
  • イライラして落ち着かず、感情的になる
  • 約束の日時や場所を間違える
  • 買い物や預金引き出しなど、お金の使い方がわからなくなる、散財する
  • 身だしなみに気を遣わなくなる
  • ぼんやりと考え事をしていることが多くなった
  • 単純な計算や作業に時間がかかる

1. 問診
認知症を疑って病院を訪れた際には、「どのような症状があるか」「その症状はいつからみられるか」「これまでどのような病気にかかったか」など、本人の様子やこれまでの病歴について医師と話をします。

このとき、普段の本人の様子を知っている家族が同行し、医師に正確な情報を伝えることが大切になります。このとき、本人が医師からの質問に答えている途中で、家族が内容を訂正することは控えなければいけません。

本人の自尊心を傷つけたり、的確な診断ができなくなったりする可能性があるためです。

万が一、診察中に本人が事実とは異なることを医師に伝えた場合は、検査の前後など、本人がいないタイミングを見計らって医師や看護師に正確な情報を伝えたり、該当する事柄をメモに記して渡したりすることで、本人を傷つけることなく正確な情報を知らせることができます。

2. 認知機能検査
認知機能を調べる検査として、最も多く用いられているものに「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」があります。

「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」では、「年齢や日付、場所などの見当識」「簡単な計算力」「物や言葉の記憶力」など、認知症を発症すると低下しやすい認知機能に対する問題を質問形式で答えます。

インターネットにも公開されているため、簡単な自己チェックとして利用することができます。

評価スケールの問題は9つあり、それぞれの問題に点数が割り振られています。改訂長谷川式簡易知能評価スケールでは、合計30点のうち、20点以下だった場合、認知症の可能性が高いと判断されます。

しかし、この診断結果はあくまでも参考です。数値が低かったからといって、認知症であるとは言い切れません。また、レビー小体型認知症など、認知症の種類によっては症状が進行するまで点数がなかなか下がらない場合があり、認知症が見逃されるリスクがあります。

よって、できるだけ医師の元でテストを受け、然るべき診察を受けるのが望ましいです。

3. 画像診断
問診や認知機能検査の結果から、認知症が疑われる場合には、CT(コンピューター断層装置)やMRI(核磁気共鳴コンピューター断層装置)、SPECT(脳血流シンチグラフィ)などの画像検査を行い、脳の状態を調べます。

CTやMRIでは、脳の形状や血腫、腫瘍の有無、梗塞や出血の有無、脳の萎縮の状態などを確認することができます。

SPECT(スペクト)は、脳の血流を診ることで、脳のどの部位が機能していないのかを判断することができます。通常、機能が低下している場所では、血流が悪くなっています。

認知症になりやすいタイプ

認知症を発症するまでには、約20年かかるとされています。その間、様々な要因が複合的に重なって、少しずつ脳に変化が生じた結果、認知症の症状が現れます。

以下に認知症になりやすい性格、生活習慣をご紹介します。

性格

認知症になりやすい人には、性格に次のような特徴があります。

  • 几帳面
  • 真面目でがんばり屋さん
  • 我慢強い人
  • ネガティブ思考
  • 心配症
  • 人見知り
  • 短気

このように、認知症は真面目で責任感が強く、ストレスを貯め込みやすい性格の人に発症しやすい傾向が指摘されています。

生活習慣

また、認知症の発症を促す要因として、次のような生活習慣が挙げられています。

  • 甘いものが好き
  • 満腹になるまで食べる
  • 高脂肪食
  • 飲酒量が多い
  • たばこを吸う
  • 運動習慣がない
  • 睡眠時間が短い
  • 知的な活動が少ない
  • 人と会う機会が少ない

偏食や過食などの食生活の乱れ、運動不足などは認知症のリスクを高めることがわかっています。しかし、こうしたタイプは万人に当てはまるとは限りません。個人差があることは理解しておきましょう。

認知症の改善の見込み

現代の認知症治療では、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫のように手術によって治る認知症を除くと、ほとんどの認知症は完治させることが難しいのが現状です。

その一方で、投薬やリハビリテーションなどを実施することで、進行を遅らせることができる場合があります。

治療を施すことで認知症の進行スピードを緩やかにしたり、症状を軽くしたりすることは、患者のQOL(Quality Of Life:生活の質)の向上や介護負担の軽減へとつながります。

認知症の一般的な薬物療法

認知症では多くの場合、医師の診断の元、内服によって進行の抑制を図ります。

主に使用される薬として、アリセプト(ドネペジル塩酸塩)、メマリー(メマンチン塩酸塩)、レミニール(ガランタミン)、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ(リバスチグミン経皮吸収型製剤)などがあります。

ここでは、アリセプトとメマリーを取り上げます。これらの2つの薬は、認知症(アルツハイマー病)の発症に、コリン仮説グルタミン酸仮説という2つの仮説が提唱されたことから開発されました。

以下にそれぞれの働きについて詳しく解説します。

・アリセプト(ドネペジル)
アリセプトは、アルツハイマー型認知症への有効性が認められた世界初の認知症治療薬です。また、2014年には、レビー小体型認知症への効果も正式に承認されました。

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、アセチルコリンという神経伝達物質の量が減っていることがわかっています。

人が正確な思考や判断を行ったり、それを動作に反映させたりするには、脳内の細胞から細胞へ、情報をスムーズに伝える必要があります。その際に、細胞を刺激して次の細胞へ情報を伝達しているのが神経伝達物質です。

そのため、アセチルコリンが十分に作られないと、記憶力や思考力が低下したり、運動能力が落ちたりします。

アリセプトは、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害し、脳内のアセチルコリンを増加させる作用があり、認知機能や運動機能の低下の抑制が期待できます。

アリセプトは、脳内のアセチルコリン濃度の低下を防ぐ薬で、「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」に分類されます。そして、アリセプトの服用によって、認知機能や運動機能の維持や低下抑制が図れることが期待できます。

アリセプト(ドネペジル)の副作用は、脳以外でアセチルコリンが作用している消化器官や心臓、泌尿器系に出現しやすくなります。

多く見られる副作用として、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、腹痛、興奮、不眠などがあります。

・メマリー(メマンチン)
メマリーは、中等度から高度アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果のある薬です。

アルツハイマー型認知症が発症する原因の一つに脳内のグルタミン酸濃度の上昇があります。

グルタミン酸とはアミノ酸の一種で、神経伝達物質の一種でもあります。グルタミン酸には思考力や記憶力を向上させる作用がありますが、グルタミン酸が増えすぎてしまうと、脳に障害を与えてしまいます。

脳内のグルタミン濃度を調節している受容体のひとつに、NMDA受容体(えぬえむでぃーえーじゅようたい)があります。NMDA受容体は、グルタミン酸が結合する脳神経細胞の受容体です。

NMDA受容体は海馬などに存在し、記憶や学習に関与していると考えられています。

健康な人では、NMDA受容体が正常に働くため、細胞内に入り込むグルタミン酸やカルシウムの量が適度にコントロールされています。

しかし、アルツハイマー病の患者では、脳内のグルタミン酸が過剰になる傾向が高くなり、NMDA受容体チャネルが過剰に活性化しています。

グルタミン酸濃度が高くなると、グルタミン酸と一緒に、カルシウムイオンが神経細胞の内部に過剰に流入してしまいます。これによって、神経細胞の障害や細胞死が生じるとされています。

メマリーは、NMDA受容体を選択的に阻害し、過剰なグルタミン酸による神経障害を防ぎます。また、脳の興奮を抑えることができるため、暴言や暴力などの周辺症状の軽減が図れる場合があります。

メマリー(メマンチン)の主な副作用として、めまい、便秘、体重減少、頭痛、過沈静(かちんせい:やる気や意欲が低下する)などがあります。

 

認知症に対するリハビリテーション

認知症に対しては、一般的に薬物療法とリハビリテーションを併用して、症状の緩和や維持が図られます。「リハビリテーション」と聞くと、「回復」「改善」といったイメージを持人が多いと思います。

たとえば、肩を骨折されて、骨はくっついたものの肩が挙がりにくくなった人がいたとします。その場合、肩を挙がりにくくしている要因を考え、それに対して積極的にリハビリを行い、骨折前の状態にまで可能な限り近づけようとします。

しかし、認知症におけるリハビリテーションは、そのような考えの元で行われるものではありません。「できないことをできるようにする」よりはむしろ「本人がそのときにできることを活かし、できるだけ脳の機能を維持し、日常生活の障害となる症状を減らしていく」といった考え方に基づいて行われるケースが多いようです。

最近のできごとを覚えておくことは難しいものの、昔のことであれば思い出すことができるという患者がいたとします。

もし、その人が以前に農業をしていたのであれば、農業についての話をしてコミュニケーションをとったり、実際に簡単な農作業を行ったりすることで、活動性の向上や精神的な安定を図るような関わり方をします。そういった関わり方を続けることで、症状の進行を遅らせたり、緩和させたりすることを念頭に置きます。

認知症に対しては、本人の持っている残存能力に着目し、それを最大限に活かしたリハビリテーションを行うことで、運動能力や認知機能、精神機能の維持、向上を目指します。

リハビリの種類としては次のようなものが挙げられます。

・音楽療法
好きな歌を歌ったり、楽器を弾いたりすることで、脳の活性化を図ります。また、心地よい脳への刺激は、体と心を癒すリラクゼーション作用もあります。特に、童謡などを歌いながら、回想法を組み合わせると、より効果的になります。

・回想法
回想法は、本人に過去の懐かしい思い出を話してもらうことで、脳を活性化させたり、精神を安定させたりする効果があります。

抑うつがみられる患者に、昔の写真を見ながら、そのときのできごとついて話してもらうようにします。すると、古い記憶がよみがえり、豊かな感情表現が見られるようになったりします。

また、誰かと会話をするといった行為は、精神的な安定だけでなく、脳を活性化させ、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

・アニマルセラピー
アニマルセラピーとは動物との関わりを通して、精神的な安定を図る治療法です。

認知症の人の多くは、日中活動することが少なくなったり、周りに介護される側になったりすることで、気持ちがふさぎがちになります。そうすると、運動能力や脳の機能が低下し、ますます症状が悪化していくことになります。

そういった状況を解消する際に、アニマルセラピーは役に立ちます。日頃介護される側である患者が、動物の世話をする側になることで、自分の役割を見出すことができます。また、言葉が上手く出ない人であっても、動物であれば、表情や動作だけでコミュニケーションを取ることができます。

動物との触れ合いを通して、人間らしい感情が生まれたり、意欲が増したりするなど、精神面での改善が期待できます。

・芸術療法
芸術療法では、絵画や粘土細工、陶芸、写真、俳句、ダンスなど、本人の好きなことに取り組んでもらいます。そのような作業を通して、言葉では表現しにくい気持ちや不安などを表すことで、精神的な安定を図ります。

また、完成した作品を周りの人に評価してもらうことができれば、本人の自信にもつながり、意欲の向上も期待できます。

・作業療法
作業療法とは、言葉通り、なんらかの作業を通して、身体機能や認知機能、精神機能の維持、向上を図る治療法をいいます。

このようないい方をすると、専門的な知識を持った人でないとできない治療なのではないかと考える方も多いかと思います。しかし、認知症に対する作業療法には、家庭でも取り組みやすいものが多くあります。

たとえば、リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)といって、見当識に対してアプローチする方法です。

具体的な方法としては、「現在の季節」「今日の日付」「今日の予定」などを本人の見える場所に提示して、毎日一緒に読み上げながら確認します。そうすることで、見当識が失われるのを遅くしたり、見当識が低下することへの不安感を軽くしたりすることができます。

また、料理や農作業など、本人の興味のある作業を行うことで、身体機能や精神機能の向上を図る方法もあります。こういった役割のある作業を行うことは、意欲を向上させ、自尊心を保つことにつながります。

・レクレーション
レクレーションでは、周りの人と一緒に作業やゲーム、体操などを楽しむことで、さまざまな効果が期待できます。

レクレーション自体を楽しむことはもちろん、誰かとコミュニケーションを取りながら活動することは、認知症の進行予防にとても大切です。相手の話を聞いたり、それに合わせて話の内容を考えて返事をしたりすることは、脳にとても良い刺激を与えるからです。

 

このように、認知症に対するリハビリテーションにはさまざまな方法があります。これらの多くは、リハビリの専門家だけでなく、家族でも行えるものです。

認知症の介護は、時間に関わらず、常に気を配り続けなければいけないケースも少なくありません。そのため、介護を行う家族は心身ともに疲れやすく、本人との関係がこじれてしまうときがあるかもしれません。

そのようなときに、歌を歌ってみたり、写真を一緒に見てみたりすると、いつもとは違った関わり方ができる時間が持て、本人だけでなく介護者側も心を落ち着かせることができるかもしれません。

認知症のリハビリテーションは、決まった時間にマニュアル通りの内容をしなくてはいけないというものではありません。本人や家族にとって無理のないペースで行っていくことが最も大切です。

コウノメソッドとは

認知症に対する治療法の一つとして、「コウノメソッド」という方法があります。これは、認知症の治療に長年取り組んでこられた河野和彦医師によって提唱された薬物療法です。

河野医師は、「認知症で問題が大きいのは、中核症状よりも周辺症状である」と考えています。というのも、認知症の介護を続けていく上で、もっとも介護者を苦しめるものは、中核症状ではなく、徘徊や暴力、暴言などの周辺症状であるためです。

中核症状は進行しても、周辺症状は投薬によって抑えることができます。また、周辺症状が改善すると、中核症状も回復してくるケースも少なくありません。このような考え方から、河野医師は、周辺症状の改善を重視した治療を行っています。

コウノメソッドでは、治療において次の3つの視点を大事にしています。

1. 介護者保護主義
本人の症状だけでなく、介護者側の状態をしっかりと把握し、必要に応じて介護者の介護負担が軽減できるような薬を優先して処方する。

2. 家庭天秤法
薬の副作用を出さないために、医師の承諾、指示のもと、介護者が投薬量を調整する

3. 健康補助食品の活用
保険対象内の薬よりも確実に効果を示すサプリメントを勧める

コウノメソッドでは、一般的に行われる薬物療法の目的とは違った部分に重点を置くことで、本人や介護者の健康を維持しています。

コウノメソッドの考え方は多くの医師から支持を得ており、全国に広がりつつあります。認知症治療のアプローチのひとつとして、コウノメソッドは今後も発展していくことが予測されます。

名古屋フォレストクリニックHPより引用

分子整合栄養医学による予防策・進行を食い止める手段

認知症の発症リスクを高めるものとして、食生活や運動などの生活習慣の乱れがあります。認知症の症状が出るまでには約20年かかるとされていることから、この間における生活習慣の見直しが認知症予防には重要であることがわかります。

特に、誰もが毎日行う食事は、全身の細胞を作る材料そのものである栄養素を得るための大切な行為です。どのような栄養素を摂るかによって、体の中の状況は異なってきます。

そのため、食事は認知症を予防し、症状の進行を抑えるためにも、注意したい要素となります。

ここでは、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学の観点から、認知症を予防または改善する効果が期待できる栄養素について説明します。

分子整合栄養医学の観点から認知症予防・改善に効果があるとされている栄養素

認知症については、未だ不明な部分が多く、様々な分野で研究が進められています。認知症予防、改善に効果的な栄養素については、研究数は少ないものの、両者に関係性があることがわかっています。

今回は、これまでの研究から、認知症予防、改善に対して特に重要と予測されている、以下の4種類の栄養素に着目して解説します。

ビタミンB群(葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12)

ビタミンB群は、認知機能の低下や認知症の予防に大きく関わっていることがわかってきています。ビタミンB群の中でも特に葉酸やビタミンB6、ビタミンB12は、ホモシステインを無毒化する代謝に深く関与する栄養素です。

ホモシステインとは、血中に存在するアミノ酸の一種で、必須アミノ酸であるメチオニンを代謝していく上で産生される中間代謝物です。

葉酸やビタミンB6、ビタミンB12が不足すると、ホモシステインの正常な代謝が滞ります。すると、人によっては、ホモシステインの血中濃度が上昇することがあります。

ホモシステインからは、再度メチオニンが作られます。また、美白に関わるシステインや抗酸化物質や解毒物質として働くグルタチオンを生成するなど、重要な役割を担っています。

前駆体とは、体内で特定の化学物質が合成される「前の段階」の物質のことをいいます。下記の図では、ホモシステインの前駆体は、メチオニンやSAMe(サミー)、SAH(ソー)です。

メチオニンの代謝過程で不完全な代謝や代謝バランスの乱れが生じると、ホモシステインが産生されます。

増加したホモシステインは酸素や水と反応し、活性酸素(かっせいさんそ)を生み出します。活性酸素はガンをはじめとする生活習慣病の原因にもなります。

発生した活性酸素は、動脈硬化(どうみゃくこうか)を引き起こすだけでなく、血管内皮細胞(けっかんないひさいぼう)を傷害することで血管拡張物質(一酸化窒素:NO)の働きを抑え、動脈硬化を促進することがわかっています。

さらにホモシステインは、血液中の血小板の凝集機能異常を引き起こすとされています。ホモシステインの濃度が高い場合、過剰に血小板が凝集し、血管内壁を埋めてしまうことがあります。こうなると、血流が低下し、硬化した血管は破裂し、出血する可能性があります。

このような背景から、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12を摂取することで、生活習慣病の予防が図れ、それらによって引き起こされる認知症の発症防止にもつながると考えられています。

抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、ポリフェノール類)

私たち人間は、生存のために呼吸によって酸素を取り込みます。このとき体内に取り込まれた酸素の一部は、エネルギー代謝の過程で還元され、活性酸素に変化します。

この活性酸素は、本来、細菌やウイルス感染時におけるマクロファージの病原体排除機構をはじめとする生体防御に関わるなど、健康維持に重要な役割を果たしています。

しかし、反応性が非常に高いため、ひとたび過剰になると、体内のタンパク質や脂質、あるいはDNAなどの高分子と反応してタンパク質の変性や過酸化脂質の生成、遺伝子障害などを起こし、生活習慣病の発症や老化を促進させると考えられています。

このような体内での過剰な酸化を抑えるためには、抗酸化作用を持つ栄養素を積極的に摂取することが良いとされています。

代表的な抗酸化栄養素には、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA(β-カロテン)、ポリフェノール類などが挙げられます。

これらの栄養素をしっかりと摂取することで、酸化反応による神経細胞の損傷や細胞死を抑制でき、認知症の予防や改善が図れることが期待できます。

オメガ3脂肪酸(α-リノレ酸、DHA、EPA)

認知症の予防や改善に、このオメガ3系脂肪酸は大きな効果が期待できます。多価不飽和脂肪酸の一つであるオメガ3脂肪酸は、神経細胞膜のリン脂質の主な成分であり、脳の発達と機能に不可欠なものであるためです。

また、オメガ3脂肪酸は、神経細胞膜の組成と流動性に果たす役割ばかりでなく、神経炎症を調節する作用があり、神経変性の病理に関わっていることがわかっています。

認知症や精神疾患患者には、脳細胞における神経の炎症が見られることが明らかとなっています。DHAやEPAには、この炎症を抑える作用があります。

アレルギーを促進させる酵素にシクロオキシゲナーゼがあります。このシクロオキシゲナーゼは、体内で炎症を引き起こすプロスタグランジンE2を産生します。DHAやEPAは、このシクロオキシゲナーゼの働きを抑制し、炎症を鎮静化する働きがあります。

このように、オメガ3脂肪酸には、脳の神経細胞の構成成分となるだけでなく、脳神経細胞の過剰な炎症を抑える効果があります。

レシチン

レシチンとは、卵黄や大豆、酵母、カビなどに含まれるリン脂質の一種で、フォスファチジルコリンとも呼ばれます。リン脂質は他の脂質とは異なり、エネルギー源になるだけでなく、体内で多様な働きをしていることがわかっています。

レシチンは人間の体内に存在するリン脂質としては最も多く、人間の体を構成する細胞すべての細胞膜を構成している主成分です。その細胞個数は、約60兆個にもおよびます。

特に、脳内においては、約30%のレシチンが存在し、千数百億個ともいわれる脳細胞の活動を支えています。そのため、レシチンは「脳の栄養素」ともいわれます。また、レシチンは神経伝達物質であるアセチルコリンの材料の一つです。
レシチンの特徴は、水と油の両方の性質を併せ持っていることです。

レシチンは、「リン酸」「コリン」「グリセリン」「脂肪酸」の4つの要素で構成されています。リン酸とコリンは親水性で水になじみやすく、グリセリンと脂肪酸は親油性で油になじみやすいため、どちらともなじみやすいレシチンは水と油を混ぜ合わせる乳化作用を持っています。

この乳化作用によって、細胞内の水溶性物質と脂溶性物質を溶け合わすことができ、細胞内に栄養素を取り入れたり、細胞から老廃物などを排出したりすることが可能になります。また、レシチンの乳化作用によって血中のコレステロールを溶かし、余分なコレステロールが血管壁に付着するのを防ぐことができます。その結果、高脂血症の改善や動脈硬化の予防が図れます。

レシチンは、大豆レシチンと卵黄レシチンの2つに大別されます。両者の働きや効果には大きな違いはありませんが、目的によって使い分けされています。

・大豆レシチン
大豆に多く含まれる大豆レシチンは、血液中に長く留まることができるという特徴を持っています。そのため、動脈硬化や脳卒中、高脂血症や心臓病などへの予防に効果を発揮します。

・卵黄レシチン
卵黄に含まれる卵黄レシチンは大豆レシチンに比べ、神経系に関与する成分のホスファジルコリンが多く含まれていることから、脳機能改善への効果を得意としています。

このように、レシチンはオメガ3脂肪酸とともに脳細胞膜を構成したり、神経伝達物質の材料となったりすることで、脳の健康を維持するためには欠かせない栄養素です。また、生活習慣予防の観点からも積極的に摂取することが大切です。

認知症予防に効果的な食品

認知機能の低下や動脈硬化などの生活習慣病予防には、ビタミンB群や抗酸化栄養素、オメガ3脂肪酸、レシチンの摂取が効果的であると考えられています。そのため、これらの栄養素が多く含まれた食事をバランスよく摂ることで、認知症の予防、改善が図れると期待できます。

各栄養素が多く含まれている食材の例を下記に記します。

ビタミンB群

  • 葉酸・・・レバー、のり、枝豆、アスパラガス、ケール、そらまめ、ブロッコリー、ほうれん草、アボカド
  • ビタミンB6・・・にんにく、マグロ、カツオ、酒粕、ごま、鶏肉、いわし、レバー
  • ビタミンB12・・・貝類、レバー、のり、いくら、いわし、さんま、いか

抗酸化栄養素

  • ビタミンA(β-カロテン)・・・大葉、人参、パセリ、モロヘイヤ、バジル、大根の葉、にら、かぼちゃ、小松菜
  • ビタミンC・・・アセロラ、キウイ、イチゴ、柿、グレープフルーツ、トマト、パプリカ、にがうり、ブロッコリー、さつまいも
  • ビタミンE・・・アーモンド、菜種油、いくら、鮎、いわし、モロヘイヤ、うなぎ、大根の葉、かぼちゃ
  • ポリフェノール・・・ブルーベリー、すもも、イチゴ、ぶどう、ワイン、コーヒー、緑茶、紅茶、カカオ豆、大豆食品

オメガ3脂肪酸

  • α-リノレン酸・・・えごま油、アマニ油
  • DHA、EPA・・・さんま、うなぎ、さば、いわし、ぶり、あじ、あんこう、マグロ

レシチン

  • 大豆食品、枝豆、レバー、ピーナッツ、卵黄、ごま油

このように、認知症予防に重要な食材は、私たちの周りに多く存在します。これらの食品をバランスよく継続的に摂取することで、認知症予防、改善が図れる可能性があります。

パーキンソン様症状に対する高濃度グルタチオン点滴

グルタチオン点滴は、アメリカを中心に、パーキンソン病の症状を遅らせることを目的として多くの医療機関で取り入れられています。そして、日本では、レビー小体型認知症の患者で、パーキンソン様症状を持つ人に対して「高濃度グルタチオン点滴」が実施されることがあります。

パーキンソン病患者の脳内において、この重要な物質であるグルタチオンが減少していることが知られていました。

そこで、イタリアのSassari大学の研究者がパーキンソン病患者にグルタチオンを点滴投与したところ、顕著な改善が認められたとの報告がなされています。

Reduced Intravenous Glutathione in the Treatment of Early Parkinson’s Disease, “Prog Neuro-Psychopharmacol & Biol Psycoiat 1996;20:1159-1170

グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸が結合したペプチド(化合物)です。

グルタチオンは、ヒトが体内で合成することができる解毒物資・抗酸化物質のひとつです。体内の有害物質や活性酸素を除去してくれるほか、脳を酸化ストレスから守る重要な働きを担っています。

グルタチオン点滴は、患者の症状に応じて週に1~3回の頻度で行われます。通常は低濃度から開始して、徐々に濃度を増やしていきます。

高濃度グルタチオン点滴によってパーキンソン様症状の改善が認められた場合は、患者の希望に応じて継続します。

しかし、一般的にグルタチオン点滴の効き目は徐々に薄らいでいくことが多いようです。また、患者によっては、点滴による大きな改善効果が全く見られないケースもあります。

高濃度グルタチオン点滴を実施する場合は、主治医に相談した上で、メリットとデメリットを確認した上で行うようにしましょう。

分子整合栄養医学のデメリット・治療の限界

私たちの体は、毎日の食事から得る栄養素によって作られています。そのため、食事内容の工夫や見直しを行うことで病気の発症を予防したり、症状を改善したりすることができると考えられます。これは、認知症でも同じです。

このようなことから、認知症と食生活の関係性に着目して研究を行っているケースも増えています。最近では認知症と食生活をテーマとした講演が開かれるなど、関心が高まっています。

しかし、実際の認知症治療の場面において、具体的な食生活の指導まで行っている医師は、まだ多くないようです。現行の認知症治療の枠組みの中では、ほとんどの認知症の場合、根本的な原因が明らかになっていないため、やむを得ず症状や病気の進行を抑える投薬治療が中心になっています。

しかしながら、このような対処療法は、時に副作用を生じさせ、症状を悪化させる可能性があります。

将来的には、認知症の治療において、食事指導やサプリメントの活用など、より根本的な原因に対するアプローチを行う医師は増える可能性はあるでしょう。栄養素を用いて認知症を予防し、副作用を避けた治療を行うことは、新しい形の取り組みとして臨床導入する意義があると考えます。

その一方で、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー精神医学による治療にも限界はあることは知っていなくてはいけません。

食事やサプリメントによる認知症の治療は、あくまでも補助療法のひとつでしかありません。

今のところ、「栄養素を大量に摂取したことによって認知症が完治した」という症例は報告されていません。また、栄養素の摂取によって、認知症の患者が劇的な改善を遂げたことを示す「研究論文」や「有意な統計データ」は発表されていません。

そのため、ビタミンB群やオメガ3系脂肪酸といった栄養素の摂取に対して、過度な期待は抱くべきではありません。したがって、予防措置や一時的な改善という意味合いが強いものであることを理解しておくことが必要です。

加えて、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学による認知症の治療を試みる場合、治療は自費になります。患者やその家族に経済的な負担がかかることは認識しなくてはいけません。

さらに、治療の一環として大量のサプリメントが処方されたとしても、患者が決められた分量を毎日忘れずに飲むことが困難なケースが想定されます。患者自身がサプリメントを飲むのを拒否したり、吐き出してしまったり、嚥下障害によって飲みこむのが難しかったりする場合もあるでしょう。

サプリメントによる栄養素の補給に関しては、患者のモチベ―ジョンを維持することに加え、家族や介護に携わる人たちの協力が絶対的に必要となります。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学による認知症治療に関しては、どのように進めていくのがベストなのかを、主治医やカウンセラーとよく相談してから決めるようにしましょう。

家族や介護者の負担を軽減するための方法や公的支援

「介護は本人を主体としたものである」ということは言うまでもありません。本人の症状に合わせながら、その方らしい生活や関係づくりを行っていくことが大切です。

しかし、前述したように、認知症の介護は、昼夜時間を問わず、常に気を配り続けなければいけません。また、認知症の症状は多岐にわたり、介護者を悩ますものも多いです。特に、周辺症状への対応は難しく、介護者へ心身ともに大きなストレスを与えます。

自宅で介護している場合、そのような状況が続くと、本人と介護者である家族との関係が徐々に悪くなり、症状がさらに進んでしまったり、家族が疲れきってしまったりし、共倒れの状態に陥ります。

そのような状況を避けるためには、まずは介護者が相談できる相手を作ることが大切です。家族やかかりつけ医、介護支援専門員(ケマネージャー)などに相談し、然るべき支援を要請することができます。

介護支援専門員とは、介護制度においてケアマネジメントを実施する専門職です。相談をもとに、その方に合った介護保険サービスの内容を検討してくれます。認知症に対するサービスの種類には、次のようなものが挙げられます。

  • 訪問看護、介護
  • デイサービス(通所介護)、デイケア(通所リハビリテーション)
  • ショートステイ(短期入所)
  • グル―プホーム

症状の進行や家族の身体状況に合わせて、どのサービスをどれくらいの頻度で利用するのかを介護支援専門員と一緒に決めていきます。また、また、かかりつけ医に情報を提供して投薬などの見直しを検討してもらうこともできます。

そのほか、地域によっては、「認知症家族の集い」、「認知症カフェ」など、認知症の方を介護している家族同士が集まって、悩みを打ち明け合ったり、解決策を話し合ったりする場が設けられているところもあります。同じ境遇にある人だからこそわかりあえることも多く、介護者の心のケアが図れるとても良い機会です。

誰かに話を聴いてもらうだけでも、自身の本当の気持ちを知ることができたり、次の解決策が見つかったりするかもしれません。

認知症に関わらず、介護は一人で行えるものではありません。本人を中心に、家族や専門職と支え合いながらチームとして続けていく必要があります。介護負担を一人で抱え込まずに、誰かと共有することで、本人も介護者も心が落ち着いて、良い関係を築いていけると思います。

監修:ブレインケアクリニック 今野裕之