潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)とは、大腸が広範囲にわたって傷つき、血の混じった便や下痢が出たり、お腹に痛みが出たりする病気です。主に20歳から30歳の若い人に対して多く発症する病気で、日本国内の患者数は急増しています。

潰瘍性大腸炎は治療がとても難しい病気であり、難病に指定されています。この病気になると、症状が一時的に良くなる寛解(かんかい)と症状が再び悪化する再燃(さいねん)が繰り返えされます。そのため、患者はひとたび潰瘍性大腸炎が治まっても、再び症状が出ないように注意する必要があります。

潰瘍性大腸炎が起こる原因は特定されていません。いくつかの仮説として、体を外敵から守る仕組みである「免疫システム」が過剰になることやストレスの蓄積、西洋型の食生活、大腸菌が作り出す毒素が原因として考えられています。

ここでは潰瘍性大腸炎の症状や原因、治療法について説明すると共に、ストレスを減らし、食事や腸内環境を改善することで、この病気を軽減する方法を探っていきたいと思います。

潰瘍性大腸炎とはどんな病気か

潰瘍性大腸炎とは大腸の周辺に炎症が起こる病気です。この病気になると、大腸の粘膜が深く傷つく「潰瘍」や大腸の粘膜がただれて浅く傷つく「びらん」をきたします。

潰瘍性大腸炎は、大腸の中でもS状結腸(えすじょうけっちょう)や下行結腸(かこうけっちょう)、横行結腸(おうこうけっちょう)に出現し始めることが多いとされています。

潰瘍性大腸炎に似た病気として「クローン病」があります。クローン病は大腸ではなく小腸を中心に潰瘍が生じたり、食道や胃、肛門などの他の消化器官にも「病気による組織の変化(病変)」が起こったりします。

潰瘍性大腸炎とクローン病は共に消化器系の全域に発生する病気であり、症状が回復したり、再び悪くなったりを繰り返す慢性的な病気であることが共通しています。この2つの病気は、炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん:IBD)と呼ばれています。

潰瘍性大腸炎は総理大臣の任期中であった安倍晋三氏が2007年に発症した病気として知られています。当時の安倍総理大臣はこの病気を発症したために退陣を余儀なくされたことから、潰瘍性大腸炎は全国的に有名になり、認知度があがりました。

潰瘍性大腸炎の症状

潰瘍性大腸炎の主な症状として、激しい下痢や血液が混ざった便、腹痛、発熱などが起こります。さらに症状が進むと、肛門から出血したり(下血:げけつ)、粘液と血液が混じったドロリとした便(粘血便:ねんけつべん)が出たりすることがあります。

下痢が何度も続くと脱水症状が起きて体の水分が不足したり、本来吸収されるべき栄養素を取り込むことができなくなり、栄養失調になったりするケースがあります。腸は食べ物から摂取した栄養素を吸収する働きを担っていますが、潰瘍性大腸炎になると、こうした役割を果たすことができなくなってしまいます。

また、潰瘍性大腸炎になると通常の心拍数より脈が速くなってしまう頻脈(ひんみゃく)や強い疲労感、関節痛、体重の減少、貧血などを生じる場合があります。

潰瘍性大腸炎が起こる原因

潰瘍性大腸炎の発症メカニズムについてはまだ解明されていません。一説には、免疫バランスの異常がこの病気を引き起こしていると考えられています。

そして、こうした免疫が過剰になってしまう背景には、腸内に住む悪玉菌(あくだまきん)が増ええすぎていることが指摘されています。悪玉菌とは、腸内細菌の一種で、増えすぎると体に対して悪さを働く菌です。

この悪玉菌による腐敗物質として「硫化水素(りゅうかすいそ)」が作られると、体内にある異物を排除しようとして免疫反応が必要以上に過剰になります。すると、免疫に関わる細胞が自分の臓器である腸を「自分の敵」だと勘違いして攻撃してしまい、潰瘍性大腸炎が発症するといわれています。

そのため、潰瘍性大腸炎は自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)の一種と認識されることがあります。

この他に、ストレスの多い生活や遺伝的な問題、ファーストフードや肉・乳製品などの食品が普及したことで日本人の食事パターンが西洋化していることが、潰瘍性大腸炎の爆発的な増加に繋がっているとされています。

潰瘍性大腸炎の治療法

潰瘍性大腸炎を治すには、薬による治療が中心になります。その際に使われるのは、炎症を抑える薬や腸を整える整腸剤、免疫抑制剤、ステロイド剤などです。

また、潰瘍性大腸炎の症状が重症になると、血液から免疫機能に関わる白血球を取り除いたり、大腸を摘出する手術に踏み切ったりするケースがあります。

ここでは潰瘍性大腸炎の治療法として適用される代表的なものについて記載します。

薬剤の使用

潰瘍性大腸炎の治療では、大腸の炎症を抑える薬として「サラゾピリン」と「ペンタサ」という薬が一般的に用いられます。サラゾピリンには大腸の細菌を死滅させたり、大腸に起きている炎症をしずめたりする働きがあります。ペンタサには小腸から大腸にかけての炎症を抑える働きがあります。

潰瘍性大腸炎が重症の場合は、「ステロイド剤」が用いられる場合があります。ステロイドとは副腎(ふくじん)という臓器から作られるホルモンの一種です。ステロイドホルモンは体内の炎症反応をしずめたり、過剰になった免疫反応やアレルギー反応を抑えてくれたりする働きがあります。

ステロイド剤の中で「プレドニン」と呼ばれる薬が広く使われており、潰瘍性大腸炎の治療薬として選択されることが多いです。しかし、プレドニンのようなステロイド剤には強い副作用があります。ステロイド剤を一旦使用し始めると、減薬するのが難しい場合が多く、使用するには注意が必要です。

ステロイド剤による副作用の例として、吹き出物や、骨粗しょう症、糖尿病、難聴、むくみ、白内障、脱毛、生理不順、動脈硬化、高脂血症などがあります。また、人によっては強い不安感や恐怖感などの精神症状が出る場合があります。

血球成分除去療法(けっきゅうせいぶんじょきょほう)

潰瘍性大腸炎の患者では、血液中の白血球が異常に活性化している場合があります。白血球は病原菌やウイルスから体を守る免疫細胞の一つとして働いていますが、潰瘍性大腸炎の患者では何らかの原因によってこの白血球が増えすぎたり、必要以上に活性化していたりすることがあります。

そのため、白血球が作り出す「炎症を引き起こすタンパク質(炎症性サイトカイン)」を減らすために、血液中の白血球を除去する方法がとられます。

これを血球成分除去療法といいます。血球成分除去療法は潰瘍性大腸炎の患者に対して一定の効果をあげているようですが、静脈にカテーテルと呼ばれる管を通したり、週に数回病院に通ったり、入院が必要になったりします。

そのため、こうした治療は患者にとって精神的や肉体的なプレッシャーになるだけでなく、経済的負担にもなります。

大腸切除手術

潰瘍性大腸炎では症状が深刻になると、大腸をすべて摘出する手術が行われます。大腸を切除し、小腸と肛門をつなぐ手術が標準的な手術とされています。

こうした手術は、潰瘍性大腸炎で大量出血がある場合や大腸の壁に穴があいてしまった場合(穿孔:せんこう)、そして、大腸がんが同時に発症した場合に行われることが多いです。

大腸切除を行うことで、潰瘍性大腸炎に伴う下痢や下血などの苦しみから解放されたり、薬の投与による副作用を回避できたり、大腸がんのリスクが減ったりするなどの利点があります。

しかしその一方で、潰瘍性大腸炎の手術は通常数回にわたって行われる場合が多く、患者によっては人工肛門にしなければならない場合があります。また、潰瘍性大腸炎の手術を行える病院は限られており、国立病院や比較的大きな私立病院などに入院しなくてはなりません。

潰瘍性大腸炎の手術を受ける場合、一回目の手術を終えた後の療養、そして、二回目の手術を終えた後の療養を経て、最終的に社会復帰するまでに約3ヶ月かかります。

潰瘍性大腸炎を改善するための生活習慣

潰瘍性大腸炎になった場合、先に述べた医療行為以外に、ストレスや食事に注意し、炎症や腸内改善に効く栄養素の補給を行うことで症状を軽減することができます。

潰瘍性大腸炎になると、いつお腹の具合が悪くなるか分からないために、常にトイレの場所を把握しておかなくてはいけません。そうした不便な生活が続くと、精神的なストレスも溜まるようになるでしょう。可能な限りストレスを減らし、毎日をはつらつとした気分で過ごすことは、生活の質を高める上で重要になります。

また、潰瘍性大腸炎による炎症を抑えたり、不足しがちなエネルギーを補なったりするための栄養素を意識して摂ることも、潰瘍性大腸炎を軽減するのに有効な手段です。

さらに、腸内環境を改善し、腸内細菌バランスを整えることで潰瘍性大腸炎を和らげることができます。

ストレスを小さくすることで潰瘍性大腸炎の症状を上手にコントロールする

潰瘍性大腸炎の発症に、ストレスが関わっていることが知られています。カナダで行われた研究では、様々な心理的ストレスが潰瘍性大腸炎をはじめとした腸のトラブルのリスクを高め、その症状を悪化させていることが示されています。

ストレスだけが原因で潰瘍性大腸炎が発症するという科学的根拠は得られていないものの、ストレスが潰瘍性大腸炎に少なからず影響を与えていることは確かだと言えそうです。

ストレスに対処するために、自分なりのストレス解消方法を見つけておくことは、潰瘍性大腸炎と上手に付き合っていく上でとても有利になるでしょう。

一般的なストレス解消法と同じように、生活の中で様々な工夫を凝らすことができます。例えば、声を出して笑えるようなテレビ番組を見たり、リラックスした気持ちになれる音楽を聞いたり、絵画や読書、家庭菜園などの趣味に没頭する方法があります。

潰瘍性大腸炎の患者は、常に便意を感じていたり、急にトイレに行きたくなったりするため、自分の近くにトイレがないと心配になります。そのため、外出することに不安や抵抗を覚えたりします。また、激しい運動を行うと腹痛が起きたり、他の症状が悪化したりしてしまうために、ジムでの運動やスポーツを控えている人がいます。

しかし、上記に記したような自宅で行える趣味であれば、トイレのことを心配せずに気軽な気持ちで始められます。日常のストレスだけでなく、潰瘍性大腸炎の症状によって生じているストレスも解消できるよう、負担のない息抜きを取り入れてみましょう。

消化に負担のない食事を心がける

潰瘍性大腸炎の患者では、個人によって症状の現れ方や深刻度が違うため食事の内容も異なります。そのため、自分がどんなものを食べたときに下痢や便秘、腹痛が起きるのかを把握しておくことは大切です。

潰瘍性大腸炎を治療する場合の食事で気を付けるべきことはいくつかありますが、多くの患者に共通していることは下記の4点です。

1. 低脂肪の食事
2. 低刺激の食事
3. 食物繊維が少ない食事(低残渣:ていざんさ)
4. 十分なカロリーが摂取できる食事

上記の1~3は、消化器官に負担をかけないために低脂肪や低刺激、低残渣の食事が推奨されています。

低脂肪の食品に関しては、肉であれば脂身が少ないヒレ肉やささ身などを選ぶようにします。アイスクリームやチーズ、高脂肪牛乳など、脂肪分が多い食品は控え、低脂肪や無脂肪の牛乳や豆乳、ココナッツミルクなどを使います。

また、カフェインやアルコール、香辛料など、腸に刺激を与えるものも避けるようにします。

一方で、白身魚や豆腐、おかゆなどは、誰が食べても症状が悪化しにくい食品とされています。

また、潰瘍性大腸炎の患者では消化器官の働きが弱っているために、十分な栄養補給ができていません。そのために、高カロリーの食品を選択することが望ましいです。

特に、子供が潰瘍性大腸炎になった場合には、成長に影響を及ぼさないように、しっかりと栄養素を補給するように指導されます。子供にとって食べやすい食品はリンゴやバナナ、モモなどの果物です。栄養価が高く、消化に優れているために腸管にも負担がかかりにくいとされています。

こうした果物には食物繊維が含まれていますが、食物繊維の中でも水溶性食物繊維(すいようせいしょくもつせんい)という種類です。水溶性食物繊維には腸内の食べカスの水分を取り込み、適度な柔らかさの便を作ってくれる作用があります。その人の体質に合った果物を適度に食べるようにして下さい。

このような食事を続けることで、潰瘍性大腸炎の症状が寛解することが期待できます。食事療法を実践する中で、体調が良いときには健康な人と変わらぬ食事をすることができる場合があります。

その際には、特定の食品を食べた後の自分の体調をよく観察し、必要に応じて主治医や管理栄養士に相談してみましょう。

炎症を抑える栄養素と不足している栄養素を追加する

潰瘍性大腸炎になると腸が炎症を起こしている状態になります。そこで、炎症を抑える栄養素を摂取することで、症状を軽減させることができます。

青魚や植物から摂取されるオメガ3系脂肪酸には、炎症を抑制する働きがあります。オメガ3系脂肪酸は、イワシ、本マグロ、ブリ、サンマなど以外に、しそ油やえごま油、亜麻仁油などに豊富に含まれています。

潰瘍性大腸炎の患者では脂肪を極力控えるようにすべきと言われますが、こうしたオメガ3系脂肪酸を少量摂取することは効果があると考えられています。

また、潰瘍性大腸炎の患者は腸の機能が低下し、栄養素の消化・吸収が行われなくなっているために、栄養失調に陥っている傾向があります。特に、ビタミンやミネラルといった栄養素の消化不良が起きていることが多いです。

潰瘍性大腸炎の患者で不足しがちなものとして、ビタミンA、D、E、K、B12、葉酸があります。ミネラルの不足としては、鉄や亜鉛、カルシウム、カリウムなどが足りなくなります。

こうしたビタミン・ミネラルの不足を補うには、ビタミンやミネラルを含んだ食品を摂取するように心がけましょう。

ビタミンA、D、E、K、B12、葉酸は、緑黄色野菜や牛乳、卵、肉類などの動物性食品に含まれています。鉄や亜鉛、カルシウム、カリウムなどのミネラルは、海藻類やほうれん草、納豆、雑穀類に含まれています。

しかし、これらの食品には脂肪分や食物繊維が含まれているため、潰瘍性大腸炎の患者が食べる場合には注意が必要です。そのため、こうした食品を摂取する場合は事前に医師や管理栄養士に相談し、状況に応じてサプリメントで代用するなどの工夫を行いましょう。

腸内環境を改善することで症状を和らげる

海外で実施された複数の研究から、潰瘍性大腸炎は腸内細菌と密接に関係していることが明らかになっています。腸内に住む細菌の集合体である腸内フローラのバランスが崩れると、潰瘍性大腸炎になるリスクが高まるのです。

実際に、潰瘍性大腸炎の患者では、腸内に住む善玉菌(ぜんだまきん)が少なくなっていることがいくつかの研究から確認されています。善玉菌とは体にとって良い働きをする菌で、腸の働きをサポートします。

この研究では、潰瘍性大腸炎の患者の腸内ではビフィズス菌の一種である「ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム」が減少していることが判明しました。

また、国内で実際された研究から、「ビフィズス菌が含まれた発酵乳(製品名:ミルミル)の摂取により潰瘍性大腸炎の再発を防ぐことが可能」とした報告がなされています。

さらに、乳酸菌にも潰瘍性大腸炎のリスクを軽減する働きがあることが知られています。代表的乳酸菌である「ラクトバチルス・ラムノサス」を摂取することで、潰瘍性大腸炎の症状が軽減されたことが示されています。

このように、ビフィズス菌や乳酸菌を摂取することが潰瘍性大腸炎を防ぐ鍵になるとして、この2つの善玉菌に注目が集まっています。

善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌がどのようにして潰瘍性大腸炎の症状を軽減させているのか、その詳しいメカニズムは分かっていません。しかし、善玉菌は腸全体にとって有益な働きをするため、積極的に摂取して問題がないと考えられます。

ただし、ビフィズス菌や乳酸菌を食品から摂ろうとすると、ヨーグルトや漬物、チーズ、味噌、納豆などを食べなくてはいけません。これらの食品には脂肪分や食物繊維が多いため、潰瘍性大腸炎の患者が摂取する際には注意が必要です。

上記に記した食品を食べる場合は、比較的自分の体調が良いときを見計らって、少量ずつ食べるようにして下さい。

もし、ヨーグルトや漬物、チーズ、味噌、納豆などを食べることで潰瘍性大腸炎の症状が悪化してしまう場合は、「ビフィズス菌や乳酸を含んだ善玉菌のサプリメント」を摂る選択肢も視野に入れてみましょう。サプリメントから善玉菌を取り入れれば、食品を食べるよりも腸に負担がかからなくて済みます。

サプリメントを飲む場合はカプセルを割って中のパウダーを半分だけ飲んだり、錠剤を細かく割ったりして少量ずつ摂取する方法があります。潰瘍性大腸炎の症状が悪化しないよう、様子を見ながら徐々に体を慣らしていくことが大切です。