貧血は一般的な病気です。特に女性で多く、これといった病気になっていなくとも、自分は「貧血気味だ」ということを漠然と自覚している人は多く見受けられます。

貧血によって生じる症状は多彩です。めまいや立ちくらみ、冷えといった貧血に特有な症状のみならず、下痢や便秘、むくみ、イラつき、食欲の低下、朝起きられない、歯磨きのたびに出血が生じる、ちょっとした困難や環境変化に弱い、といった精神的なものまで及びます。

こうした体の不調は、複数の要素が入り交じり、同時多発的に生じることがあります。また、毎日の生活の中で出現する症状の強さは「揺れ動く」ために、病院を受診しても本当の原因が特定されにくい側面を持っています。

そのため、体調不良に貧血が関わっていることが認識されていないと、一般的な病院では「ストレス」や「自律神経失調症」として片づけられてしまうことがあるかもしれません。患者に精神的な症状が強く出ているケースでは、「心の病気」として診断されることもあるようです。

「はっきりとした原因は分からないけれど、何となく調子が悪い」と感じる場合、分子整合栄養医学では、健康な体を維持するための生体機能(せいたいきのう)が低下している可能性を考えます。

そして、生体機能が低下している要因や結果として、「貧血による鉄代謝の異常」が発生していることを念頭において治療を試みることがあります。

ここでは、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学が、不調を引き起こす貧血をどう捉えているかについて見ていくことにします。

目次

貧血とはどんな病態か

貧血とは、「血液中の赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)が少なくなり、酸素運搬の機能が障害される状態」をいいます。

ヘモグロビンは赤血球に多数存在する物質で、鉄を含んだヘムと呼ばれる赤い色素と、グロビンというタンパク質から構成されています。ヘムには「鉄」が含まれています。

ヘモグロビンは、肺から酸素を受け取り、体内を巡って全身の細胞に酸素を送り届けると共に、全身の細胞で生じた二酸化炭素を回収して肺へ戻す役割を担っています。この働きを「ガス交換」といいます。

通常は「ヘモグロビン」が低下すると、血液検査の「赤血球数」や「ヘマトクリット」などの数値も同時に減少する傾向にあります。

しかし、何といっても、赤血球の主たる機能は「ヘモグロビンによる酸素運搬」であることから、貧血の診断は「ヘモグロビン濃度」を重要な評価指標としています。

WHO(世界保健機関)による貧血の定義として、ヘモグロビンの基準値は男性で 13 g/dl、女性で 12 g/dl未満とされています。そこで、一般的な病院における貧血の診断は、WHOや各検査会社の基準値に照らし合わせ、概ね下記の範囲で判断されることが多いようです。

ヘモグロビンの基準値(※検査会社や医療機関によって異なります。)

属性 基準範囲
成人男性 14~18 g/dL未満
成人女性 12~16 g/dL未満
妊娠中 11 g/dL未満
高齢者 11 g/dL未満

貧血になる原因

貧血の原因は「体内の鉄が不足する」ことです。鉄が不足する背景として、「鉄の需要量や喪失量が供給を超える」ことが挙げられます。

  1. 需要の増加(成長期の子供や妊娠中の女性など)
  2. 鉄の供給量の低下(食事になどによる鉄の摂取不足・吸収不足)
  3. 鉄の喪失(月経、消化器・婦人科疾患に伴う出血、その他の疾患・事象による出血)

1日に汗や便、尿から排せつされる鉄の量は1mgです。

鉄分を豊富に含んだバランスのよい食事から摂取できる鉄の量は10~15mgです。しかし、食事から摂取した鉄は全てが吸収されるわけではありません。食事から摂取した鉄のうち、小腸で吸収されるのは1mgです。この時点で既に、「排泄量」と「摂取量」は同等になっています。

しかし、月経や出血による鉄の喪失、成長、妊娠によって鉄の需要が著しく増大すると、鉄はすぐに不足してしまいます。また、偏ったダイエットや消化器系の病気によって鉄の吸収障害が起きた場合でも鉄のバランスは崩れ、鉄不足に陥ります。

1. 発育に伴う鉄の需要増加


成長期の子供

成長期の子供は、急激に身長が伸びたり、体重が増えたりします。このとき、筋肉や血液量も増えるため、その分だけ多くの鉄が必要になります。成人男性が1日に必要とする鉄の量は10mgです。

しかし、成長期の必要量はその2~3倍以上といわれ、鉄の需要は一気に増加します。

妊娠中の女性

妊娠中は胎児や胎盤を成長させるために鉄の需要が増加します。成人女性は通常1日に12mgの摂取が目安とされています。

その一方で、妊娠時は妊娠していないときよりも8mg多く鉄を摂取しなければなりません。 さらに、出産から半年の間も、妊娠・出産・授乳に伴う鉄の損失を補うために、通常より8mg多い、合計20mgを1日に摂取しなければならないとされています。

単純に計算すると、妊娠中と出産後6ヵ月間の女性は、成人男性が必要とする2倍もの鉄を補給しなくてはいけないということになります。

2. 鉄の供給量の低下


食事になどによる鉄の摂取不足
鉄分が豊富に含まれた食事をすると、エネルギー1,000kcalあたり5〜6mgの鉄を摂取することが可能とされています。

しかし、インスタント食品や加工食品、でき合いの総菜、外食などを利用する頻度が多かったり、間違ったダイエットや食事制限によって栄養バランスが偏ったりすると、鉄不足に陥りやすくなります。

特に、カロリーを制限し、食べる量を減らすダイエットでは食事の内容が偏ります。すると、鉄分が含まれたタンパク質や鉄の吸収を促進するビタミンやミネラルが十分に摂取できないため、鉄不足は深刻になります。

3. 鉄の喪失

月経

日本人女性の場合、毎月の平均月経量は約60mlとされています。この中に含まれる鉄の量は約25~30mgです。

これを1ヶ月で割ると「1日あたり約1mgの鉄を失っている」ことになります。月経時の出血量が多くなれば、喪失する鉄の量は増えます。

生理期間中にめまいがしたり、体力が落ちたり、息切れしたりしてしまうのは、鉄が大幅に減少したことで全身が酸欠状態に陥っているからです。

手術後の鉄の吸収不良

胃や小腸の切除術を行ったり、鉄吸収を妨げる薬物を服用したりすることによって、鉄の吸収障害が生じます。

例えば、胃・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)に対して処方される「H2ブロッカー」や「プロトンポンプインヒビター」などの制酸剤(さんせいざい)は、胃のpH(ピーエッチ/ペーハー)を上昇させアルカリ性へと傾けます。

pHとは「水素イオン指数」のことで、物質の酸性とアルカリ性の度合いを示すものです。物質を水に溶かした(水溶液)の性質とも言われます。

pHの変域は0.0 (強酸)から14.0 (強アルカリ)まであり、中性はpH7.0です。したがって、pH7.0以下であれば酸性、pH7.0以上であればアルカリ性になります。

食事から摂取する鉄には、大きく分けて2種類があります。

  1. 動物性のタンパク質に含まれる「ヘム鉄」
  2. 穀類や豆類、野菜などの植物に含まれる「非ヘム鉄」

2つのうち、「ヘム鉄」はpHが7付近(中性またはアルカリ性)でも比較的容易に吸収されます。しかし、「非ヘム鉄」は、胃腸で消化されにくい繊維質(せんいしつ)に結合しているため、非ヘム鉄を吸収するには「強い酸」が必要になります。

そのため、制酸剤や胃薬を飲むと、食事やサプリメントから摂取した非ヘム鉄の吸収率が著しく低下することがあります。ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収経路に関しては、のちほど詳しく解説します。

慢性的な出血

痔核(痔)、鼻血、消化器系のがん(胃がん、大腸がんなど)、消化管ポリープ、潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)、膀胱腫瘍(ぼうこうしゅよう)、腎腫瘍(じんしゅよう)、子宮筋腫、子宮ポリープ、子宮内膜症やこれらの婦人科疾患に伴う過多月経や不正出血が生じると、体から鉄(血液)が失われてしまいます。

一過性の出血

外傷、出産、血管破裂、手術など 

貧血によって出現する症状

貧血になると全身の細胞に酸素が十分に届かなくなるため、「酸欠状態」になります。酸欠状態に陥った体は少しでも酸素の量を増やそうとし、呼吸数を増加しようとします。その結果、呼吸が浅くなり、心拍数が増えて動悸や息切れが生じることがあります。

また、赤血球を作るための栄養素が不足しているため、脳や心臓、皮膚など、全身に様々な症状が引き起こされます。

主な貧血の症状は以下です。

  • 冷え
  • 月経不順
  • 肌荒れ・ニキビ(特にあごや口の周り)
  • 動悸、息切れ
  • 疲れやすい
  • 顔色が悪い(口の粘膜や目の粘膜なども白くなる)
  • 抜け毛が多い
  • イライラ
  • 落ち込み
  • やる気の低下
  • 集中力の欠如
  • 頭痛、めまい
  • 食欲不振

さらに貧血の症状が進むと、次のような症状が現れることがあります。

  • 舌の表面にある味蕾が無くなり、物を食べるとしみる
  • 口角炎、舌炎
  • 嚥下障害(えんげしょうがい:食道の粘膜が縮んで物を呑み込むのが困難になる)
  • スプーン状爪(爪の甲が内側にへこんでしまう症状)
  • 異食症(いしょくしょう:氷や石、木炭、粘土、土など栄養価がなく、硬いものが無性に食べたくなる病気)

貧血になりやすい人

貧血は日本人には多く見られる病態です。特に、女性は月経があるため、男性よりも貧血になりやすくなります。

また、加齢に伴って、体内でのヘモグロビンの産生能力は低下します。そのため、高齢者ではヘモグロビンの数値が低くなる傾向があります。

先にも触れたように「妊娠中に貧血になる女性」は大勢います。妊娠中の女性は、出産時の大量出血に備えて母体で大量の血を作ります。このとき、血液の液体成分である血漿(けっしょう)は最大で約50%増加するのに対し、血液に含まれる赤血球は約20%程度しか増えないとされています。

血漿に対して作られる赤血球の数が相対的に少ないため、血液の濃度が薄まった状態になります。その結果、貧血を引き起こしやすくなるとされます。

また、妊娠中は胎児に十分な栄養を送るために、妊娠していないときよりも多量の血液が必要になります。しかし、つわりが原因で食事の内容が偏ったり、食事の量が減ってしまったり、肉や魚などのタンパク質の摂取が減ると、十分な栄養素が摂取できずに鉄不足になります。すると、貧血になるリスクが上昇します。

貧血を診断する際の血液検査の「基準値」について

冒頭で述べたように、「貧血は、血液中のヘモグロビン濃度が基準値よりも低い状態」と定義されています。

そのため、一般的な病院では血液検査からヘモグロビンの濃度を測定し、「基準値や標準値」に照らし合わせて貧血と診断します。しかし、この「基準値や標準値」は各検査会社や研究機関によって幅があり、大きく異なります。

血液検査を提供する検査会社が設けている「基準値や標準値」は、健常者(被験者)の検査値を統計処理し、その95%の人が含まれる範囲を「基準範囲」とし、この中に納まる結果を「基準値」と設定しています。

つまり、健康と想定される集団の血液データを統計処理し、平均値±2SDの範囲を「正常値」としているのです。※SD(Standard Deviation:標準偏差)

このとき、検査会社が任意で選ぶ被験者の集団は、企業の判断で選定します。被験者の集団を「20代から30代の若くて健康な人」と「50代から70代までの人(健康かもしれないし、病気をしているかもしれない)」とした場合では、自ずと導き出される「基準値」は違ってきます。

また、各検査会社が採用した被験者が「その検査会社の社員」になっていることは多く、その母集団の数が「私たちが想像するよりもはるかに少ない」ことは珍しくありません。しかし、このことは、医療関係者であっても知らない人が多いです。

こうしたことから、「正常値」「基準値」「標準値」は病院ごとや検査会社ごとに異なる場合があります。最近では「正常値」というピンポイントの数値に替わり、「基準範囲」という幅を持たせた指数を使うケースが多いようです。

生化学検査の「基準値」や「基準範囲」は、あくまで統計的な数値に過ぎません。特に、貧血の診断に関しては、診断で重要となる「基準」が確固たるものではないため、「貧血の定義は曖昧だ」というのが実情といえるでしょう。

いわずもがな、各種の検査における「基準範囲」は、病気の診断や治療計画の策定を左右する重要な指標となります。しかし、そうした検査データを読み取る際は、「基準範囲」は参考にしつつも、絶対視しない姿勢が求められます。

検査データの背後にある「患者の身体状況」を推察すると共に、年齢や性別、既往歴、現在の病態、遺伝的特性などを考慮した上で、数値の意味を汲み取らなくてはいけません。

また、たとえ検査結果が「基準範囲外」であっても、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学の観点では、必ずしも「異常」や「問題あり」とは判断しないケースがあります。反対に、「基準範囲内」であっても、健康状態が最適とは言い切れないこともあります。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学は、全身の健康状態を把握するという観点から検査結果の数値を総合的に解析します。そのため、ひとつの数値をめぐる解釈は、一般的な読み方と異なる場合があります。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、後述する様々な検査項目や患者の症状、栄養素の摂取状況や消化能力などを勘案して「貧血」を診断し、患者が望む治療計画を立てていきます。

貧血の種類

「貧血」は症状や病態であり、また、赤血球の疾患です。貧血を確定する場合は、貧血の種類ごとに「○○性貧血」という名称を付けます。下記に主たる貧血の種類を記します。

鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)

赤血球を構成するヘモグロビンに含まれる「鉄」が不足することで起こる貧血です。

鉄欠乏性貧血は、貧血症状の半数以上を占める大変メジャーな貧血です。鉄欠乏性貧血が生じる原因として、病気に伴う消化管や泌尿器からの出血や妊娠・出産、過多月経などによる出血が挙げられます。

巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)

巨赤芽球性貧血は、赤血球が分化する過程で「核」の成熟に必要なビタミンB12葉酸(ビタミン9)が不足することで生じる貧血です。巨赤芽球性貧血では、赤血球が正常に成熟しなくなり、赤血球のサイズが大きくなります。

通常よりも赤血球が大きくなると、骨髄(こつずい)での造血能力は上がります。しかし、赤血球になる前に壊れてしまう、無効造血(むこうぞうけつ)という状態になります。無効造血とは、骨髄の中で作られた芽球(がきゅう)が赤血球として成熟する前に、骨髄内でアポトーシス(細胞死)を起している状態をいいます。

ビタミンB12欠乏

赤血球は骨髄で合成される際に、材料として「鉄」と「ビタミンB12」を必要とします。そして、鉄の吸収には「胃酸」を必要とし、ビタミンB12の吸収には胃で分泌される「内因子(ないいんし)」というタンパク質を必要とします。

したがって、胃の摘出手術をした人や胃の機能が低下している高齢者などで、ビタミン B12欠乏による貧血が生じる確率が高くなります。

ビタミンB12欠乏による貧血は急速に進行するため、悪性貧血(あくせいひんけつ)とも呼ばれます。

葉酸欠乏性貧血

葉酸欠乏性貧血はアルコール依存症で見られることがあります。また、妊娠中に多量の葉酸を必要とする妊婦にも、見られる場合があります。

葉酸はDNA合成に欠かせない栄養素です。妊娠中に葉酸欠乏性貧血になると、新生児は二分脊椎症(にぶんせきついしょう)などの重篤な先天性欠損症(せんていせいけっそんしょう)を発症するリスクが高まると指摘されています。

再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)

骨髄での造血機能そのものが低下し、血液の全ての成分(赤血球、白血球、血小板)が減少する病気で、我が国の難病に指定されています。

「血液中の赤血球、白血球、血小板の全ての細胞成分が全体的に減少する状態」を医学用語で汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)といいます。

再生不良性貧血では造血幹細胞が減少するため、赤血球の生産が著しく低下します。また、白血球や血小板も減少します。

赤血球は肺から取り込んだ酸素を全身の細胞に運搬します。白血球は細菌などから身体を守る免疫細胞として働き、血小板はケガが生じたときに出血を止める役割を果たします。

そのため、赤血球の減少によって動悸や息切れ、強い疲労感、頭の重さ、顔色が悪くなるといった症状が起こります。また、心臓が酸素欠乏に陥るために、狭心症で生じるような胸の痛みが起こることもあります。加えて、全身の酸素欠乏に対処しようとして呼吸が速くなったり、心拍数が多くなったりします。

さらに、白血球が減ることによって細菌感染症にかかりやすくなります。熱や咳などが多くなり、場合によっては肺炎や敗血症(はいけつしょう:血液に細菌が入り込む感染症)のリスクが高まります。

加えて、血小板の減少によってアザができやすくなったり、鼻からの出血や歯肉からの出血が起こりやすくなったりします。脳出血、血尿、下血(げけつ)などが生じるケースがあります。

再生不良性貧血には先天性と後天性があります。後天性では、原因不明の原発性再生不良性貧血(げんぱつせい)が約 80%を占めています。原発性とは、その病気が他の病気の結果として引き起こるのではなく、「その臓器の病変によって生じる病気」をいいます。

その他の後天性の再生不良性貧血の原因としては、放射線治療、抗ガン剤、鎮痛薬、抗生物質などによる 二次性再生不良性貧血が約20%を占めるとされています。

再生不良性貧血の治療は、病気の重症度を判定した上で、ステージに応じて免疫抑制療法や骨髄移植、タンパク同化ステロイド(アンドロゲン)の投与などが行われます。

溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)

赤血球の寿命は 約120 日(4ヶ月)です。寿命を迎えた赤血球は脾臓(ひぞう)で貪食(どんしょく)されたのち、体にとって必要な材料としてリサイクルされます。

しかし、溶血性貧血になると、「赤血球の破壊スピード」が速くなってしまいます。溶血性貧血では、赤血球の寿命が1/10 程度と極めて短くなります。

溶血性貧血の中で最も多いのは「自己免疫性溶血性貧血(じこめんえきせいようけつせいひんけつ:AIHA」です。自己免疫性溶血性貧血は、赤血球を破壊する抗体(こうたい)が体内で作られてしまうことで生じます。

抗体とは、体内に侵入した病原菌やウイルスなどの「異物」に結合して、その異物を体内から速やかに除去するタンパク質です。生体を守るための仕組みである免疫反応(めんえきはんのう)に不可欠なのが抗体です。

しかし、免疫機能に異常が生じると、異物を認識して排除するためのシステムが、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応して攻撃してしまいます。こうした免疫システムの破たんによって生じる病気を自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)といいます。

自己免疫性溶血性貧血は自己免疫疾患のひとつであり、わが国では難病に指定されています。

自己免疫性溶血性貧血になると、疲労感や動悸、息切れ、めまい、頭痛のほかに、黄疸(おうだん)が出たり、脾臓(ひぞう)が腫れたり、胆石症を合併したりすることが知られています。

黄疸は、赤血球が壊れた際に漏出する「ヘモグロビン」が体内処理されるときにビリルビンという黄色い色素を大量に出すために出現します。

自己免疫性溶血性貧血の治療では、副腎皮質ステロイドホルモン薬や免疫抑制薬の投与や輸血などが行われます。また、赤血球を破壊する役割を担っている「脾臓の摘出」がなされるケースがあります。

続発性貧血(ぞくはつせいひんけつ)/ 二次性貧血(にじせいひんけつ)

続発性貧血(二次性貧血)とは、骨髄や赤血球の異常ではなく、各種の病気が原因となって生じる貧血をいいます。

病気としては腎炎(じんえん)や慢性腎不全(まんせいじんふぜん)などの腎疾患、結核などの慢性感染症、慢性炎症疾患(まんせいえんしょうしっかん)、膠原病(こうげんびょう)、内分泌疾患(ないぶんぴつしっかん)、がんなどの悪性腫瘍、肝硬変などの肝臓病、脾臓の病気、慢性関節リウマチなどです。

続発性貧血は上記の病気以外に、「妊娠中に生じた貧血」も含みます。続発性貧血では、原因となる疾患の治療をすることで貧血の改善を図ります。

失血性貧血(しっけつせいひんけつ)

失血性貧血には大きく分けて2つあります。慢性失血性貧血(長時間にわたり少しずつ続く出血)と、急性失血性貧血(一過性の事象による大量出血)があります。

出血後しばらくの間は、血液の単位容積当たりのヘモグロビンや赤血球数は減少しません。しかし、長時間の出血に伴って、全身を巡っている循環血液の総量は減少します。

失血性貧血では、出血の原因を治療することで貧血の改善を図ります。 

血液の成分

血液は、水を主成分とする液体部と血液細胞が混ざり合ってできています。

採取した血液に「血液凝固を阻害する薬物(抗凝固薬)」を加え、遠心分離機にかけると、液体は3層に分かれます。

血漿:血液の約55%を占める
約91.5% 水分
約7%  タンパク質(アルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、リポタンパクなど)
約1.5% その他の物質(アミノ酸、脂質、糖質、無機塩類、酵素、抗体、ホルモンなど)

血球成分:血液の約45%を占める
約41% 赤血球
約4%   白血球+血小板

血球の分化-骨髄での造血の仕組み

様々な役割・形をした血液細胞(血球)は、造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)と呼ばれる1種類の細胞から作られます。

「多能性幹細胞(たのうせいかんさいぼう)」のひとつである造血幹細胞は、骨髄の中で細胞分裂を繰り返し、それぞれの役割に応じた細胞へと成長していきます。この過程を分化(ぶんか)といいます。

多能性幹細胞とは「万能細胞(ばんのうさいぼう)」とも呼ばれ、ヒトの身体を構成するあらゆる種類の細胞に分化する能力(分化能)を持った細胞をいいます。

そして、造血幹細胞は様々な血液細胞を作り出すだけではなく、常に新しい自己を生み出す自己複製(じこふくせい)の能力を有しています。

造血幹細胞は「分化」と「自己複製」という2つの機能によって造血を行っています。

赤血球の成熟過程と必要な栄養素

幹細胞が何回か分裂して、赤血球のもとになる前赤芽球(ぜんせきがきゅう)という細胞が合成されます。

前赤芽球が分裂を繰り返し、ヘモグロビンへと成熟すると、徐々に細胞内のヘモグロビン量が増えていきます。そして、造血の最終段階で脱核(だっかく)が起き、核が抜け落ちて赤血球になります。

赤血球は、水やタンパク質あるいは脂質といった物質から構成されています。そのため、赤血球が作られるには、様々な栄養素が必要です。

下記に赤血球の合成の流れ(分化)とそれに必要な栄養素を記します。

栄養素 役割
ビタミンA 遺伝子情報を制御し、細胞の分化を促進する。
ビタミンB12 細胞のDNA 合成に関わり赤血球の細胞が分裂する過程で必要。B12が不足するとDNAの合成が阻害され、赤芽球が巨大化した巨赤芽球(きょせきがきゅう)が作られてしまう。巨赤芽球は正常な赤血球に分化することはできない。
葉酸 B12と共に働いて赤血球の分裂に関わる。葉酸が不足すると B12不足と同様に、巨赤芽球が作られてしまう。
亜鉛 タンパク質が赤血球膜として合成される際に、亜鉛が必要となる。
銅はヘモグロビンを合成するのに必要な鉄を「必要な場所に運ぶ」役割を担い、鉄とヘモグロビンの結合を補助する。
ヘモグロビンの構成材料であり、赤血球が成熟するのに欠かせない。ヘモグロビンの合成に必要な鉄が不足すると、赤血球は小型になる(小球性貧血:しょうきゅうせいひんけつ)。
タンパク質 赤血球を構成する主成分であるヘモグロビンの構成材料となる。
ビタミンB6 ヘム合成の初期の段階で必要であり、不足するとプロトポルフイリン環が産生されずにヘムの合成障害をきたす。
マンガン 活性酸素を除去し、酸化を防ぐ。
セレン 活性酸素を除去し、酸化を防ぐ。
ビタミンC 活性酸素を除去し、酸化を防ぐ。赤血球の合成に重要な役割を担う葉酸の働きを高める。
ビタミンE 赤血球の膜を強化する。

赤血球の寿命

120日で寿命を迎えた赤血球は、脾臓や肝臓で捕らえられ、マクロファージ(白血球の1種で単球から分化した細胞)によって貪食(どんしょく)されたのちに分解されます。

このとき、赤血球から漏れ出たヘモグロビンは、ヘムとグロビンに分解されます。

タンパク質から構成されるグロビンはアミノ酸まで分解され、再びタンパク質として利用されます。

一方のヘムは、鉄とビリベルジンに分解されます。ビリベルジンは、ビリルビンに変換されて肝臓に運ばれます。ヘムに含まれていた鉄は血漿タンパク質によって骨髄まで運ばれ、再びヘモグロビンの合成に利用されます。

赤血球の構造とはたらき

赤血球は、血液の主成分で鉄を含む血液細胞です。赤血球の寿命は120日(約4ヶ月)です。赤血球は60%が水分から成り、残りの40%はタンパク質やリン脂質、コレステロール、カリウムなどの固形成分から成っています。

その40%をさらに細かくみると、90%がヘモグロビンで構成されています。

ヒトをはじめとした哺乳類の赤血球は、細胞でありながら核やミトコンドリアを持っていません。ヒトの赤血球は造血の最終段階で脱核(だっかく)するよう進化しました。赤血球は脱核した後に、ミトコンドリアとリボゾームも失います。

つまり、「成熟した赤血球は核を持たず、ミトコンドリアによるエネルギー生産をも行わない」特徴を持っています。赤血球は「体内の酸素・二酸化炭素交換」に特化した細胞として機能しています。

赤血球はミトコンドリアを持たず、自らエネルギーを合成することができないため、グルコース(ブドウ糖)をエネルギー源とします。

赤血球が脱核することによるメリットを、下記にまとめます。

  • 円盤状の柔軟性:赤血球に特徴的な円盤状の形になることで、毛細血管に入りやすいように折れ曲がることができ、体内循環に有利である
  • 細胞の小型化:赤血球そのもののサイズが小さくなることで、狭い毛細血管も通過できるようになる
  • 酸素運搬の効率化:核があると球状になるが、核が失われたために円盤状になり、赤血球膜の表面積を広くすることでガス交換の効率が上がる(核がなくなった分のスペースに、より多くのヘモグロビンを保持することができる)

赤血球の変形能

ヘモグロビンのはたらき

ヘモグロビンとは、赤血球の主要成分で血色素(けっしきそ)とも呼ばれている「色素タンパク質」のことです。鉄を含む「ヘム」という赤い色素と、「グロビン」というタンパク質が4つ結合し構成された複合タンパク質です。

ヘムは鉄と結合していることにより、酸素と結合し酸素を運搬することができます。

ヘムに酸素が結合するとき、1つのヘムに酸素が結合したことをきっかけに、グロビンタンパクの全体構造が変化します。すると、他のヘムにも酸素が結合しやすくなります。これをアロスティック効果といいます。

血液検査のために採血を行うとき、血液はとても鮮やかな色をしています。しかし、血液が赤く見えるのは含まれる赤血球が赤いからではなく、赤血球の中に含まれているヘモグロビンが「赤い色素のヘム」を持っているために、赤色に帯びて見えます。

ヘモグロビンが酸素と結合すると鮮やかな赤色となり動脈血(どうみゃくけつ)の鮮やかな赤色になります。反対に、酸素を離して還元ヘモグロビンになると静脈血(じょうみゃくけつ)の「赤黒い色」や「暗い青紫色」の血液になります。

貧血を調べる血液検査の項目

自分が貧血になっているか、またどのようなことが原因で貧血になっているのかを調べる場合には、血液検査を行います。詳細な血液検査を行うと、貧血の有無に加えて、貧血の「重症度」も把握することができます。

貧血を調べる場合は、先に示した「ヘモグロビン濃度」のほかに、「ヘマトクリット値」、「赤血球数」の3項目を基本として診断がなされます。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、これらの数値以外に、さらに他の検査項目を調べることで貧血を診断する場合があります。

ここではひとまず、一般的な血液検査で測定される項目について見ていくことにします。

赤血球数(RBC)

静脈を流れる血液1μL中に存在する赤血球の数を測定します。

通常、赤血球の数を測定するときは、ヘモグロビン量(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)、赤血球指数(赤血球恒数:MCV、MCH、MCHC)、白血球数(WBC)も同時に測定します。

赤血球数の基準値は、成人男性で430~570万/μl、成人女性で390~520万/μlです。(検査会社によって基準値は異なります。)

妊娠中の女性は基準値の範囲内で低めの数値となります。また、喫煙者は高くなる場合があります。

赤血球数の数が少ない(300万個以下)場合は、貧血と診断されます。反対に、赤血球の数が増えすぎる(600~800万個以上)になると赤血球増多症(多血症)の可能を疑います。

ヘマトクリット

ヘマトクリットとは(一定量の)血液中にどれくらい赤血球が存在するかを見る項目です。つまり、ヘマトクリットとは「血液中に占める赤血球の体積の割合」を示す数値です。そのため、ヘマトクリット値の増減は、赤血球の量に左右されます。

ヘマトクリット値が高いということは「血液に占める赤血球の濃度が濃い(赤血球の量が多い)」と考えてよいでしょう。反対に、ヘマトクリット値が低ければ、「血液に占める赤血球の濃度が薄い(赤血球の量が少ない)」ということが示唆されるため、貧血が疑われます。

ヘマトクリットの基準値は、成人男性で 39.8~51.8、成人女性で 33.4~44.9です。(検査会社によって基準値は異なります。)

MCV、MCH、MCHCとは

MCV、MCH 、MCHCは、赤血球恒数(せっけっきゅうこうすう)と呼ばれ、貧血の種類や原因を診断する際の項目となります。

赤血球恒数は、赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット値の3つの検査の値を組み合わせた計算式から算出されます。

MCV、MCH 、MCHCを求める式を考える場合、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリットを、それぞれ「数」と「量」と「体積(濃度)」と考えるとイメージがしやすいでしょう。
(赤血球:「数」、ヘモグロビン:「量」、ヘマトクリット:「体積」)

MCV(平均赤血球容積)

赤血球1個が持つ平均的な容積を示します。(赤血球の容積の平均値)容積が小さい場合は、赤血球が運搬できる酸素の量が少なくなることを表します。

基準値より高ければ大球性、低ければ小球性、基準値内であれば正球性です。

計算式:ヘマトクリット(%)×10÷赤血球数(×百万/μl)
MCV基準値:84〜98(fL)

体積(ヘマトクリット)÷ 数(赤血球)なので、「赤血球1個あたりの大きさ」を表していることを考えると、式の意味が理解できます。

MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)

赤血球1個に含まれるヘモグロビンの「平均値」を示しています。

計算式:ヘモグロビン(g/dl)×10÷赤血球数(×百万/μl)
MCH基準値:26〜35(pg)

量(ヘモグロビン)÷数(赤血球)として考えます。

MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)

赤血球1個に含まれるヘモグロビンの「濃度」を示しています。基準値より低ければ低色素性、基準値内であれば正色素性です。

計算式:ヘモグロビン(g/dl)×100÷ヘマトクリット(%)
MCHC基準値:31〜35(g/dL)

量(ヘモグロビン)÷体積(ヘマトクリット)として考えます。

体内に存在する鉄の種類

鉄は体内で様々な形状で存在しています。

鉄の形態    はたらき
貯蔵鉄 肝臓や骨髄、脾臓などに「フェリチン」として蓄えられている。機能鉄が不足した際に、フェリチンを取り崩して補われる。
血清鉄 血清に含まれる鉄。鉄を輸送する「トランスフェリン」というタンパク質に結合している。
組織鉄 髪の毛や爪、皮膚(コラーゲン)などの組織成分になっている。
機能鉄 ヘモグロビン、ミオグロビン、チトクローム、カタラーゼなどの成分として使われる。

血清鉄とは

血清鉄(けっせいてつ)とは、血清中に含まれる鉄の量です。血液検査では血清鉄は、「Fe」や「血清鉄(Fe)」と記されます。これまで述べてきたように、鉄はヘモグロビンの材料となり、酸素と結合することで全身に酸素を送り届けています。

血液中の鉄分である血清鉄は、トランスフェリンと呼ばれる「タンパク質の輸送体」と結合することで血中内に存在しています。体内で鉄が必要になったとき、トランスフェリンが鉄を運ぶことで、骨髄でヘモグロビンが合成されます。

したがって、血液検査で見ている血清鉄とは、「トランスフェリンに結合した鉄(血清鉄:Tr – Fe)」のことです。

トランスフェリンが鉄分と結合できる総量をTIBC(総鉄結合能:Total iron-binding capacity)といいます。

そして、まだ鉄分と結合していないトランスフェリンの量をUIBC(不飽和鉄結合能:Unsaturated iron binding capacity)といいます。UIBCは、あとどれくらい鉄と結合できるかのという「結合余力」を示した指標です。

総鉄結合能(TIBC) = 血清鉄(Tr–Fe) + 不飽和鉄結合能(UIBC) 

血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映する

体内の鉄は、約3分の2が赤血球中のヘモグロビンに存在し、酸素を全身に運んでいます。残りの大部分の鉄は、貯蔵鉄(ちょぞうてつ)として蓄えられています。

この貯蔵鉄は、フェリチンの形で存在しています。フェリチンとは、体内に鉄を貯蔵できる「水溶性の球状タンパク質」のことです。

フェリチンは、便宜上、「貯蔵鉄」と同義で語られることが多いですが、正確には「貯蔵鉄と結合しているタンパク質」のことをいいます。

フェリチンは、主に肝臓や脾臓、心臓、骨髄、小腸の粘膜などに存在します。フェリチンは、こうした組織の細胞に存在していますが、水に溶けやすい性質であるため、微量ながら血中に逸脱してきます。

そのため、血液中のフェリチンを測定することで、細胞内に蓄えられているフェリチンの量を類推することができます。これが、私たちが血液検査で測定している「血清フェリチン」です。

血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映します。血清フェリチン1ng/mLは、貯蔵鉄8~10mgに相当します。

しかし、一般的な病院ではこの血清フェリチンを測定する機会はほとんどないようです。そのため、貧血の診断では、ヘモグロビンやヘマトクリット、血清鉄、MCV、MCH 、MCHCの値が参照されるケースが多いです。

医師や看護師などの医療従事者であっても、明らかな貧血にならない限り、「血清フェチリン」を測定することの意義を認識している人は少ないのかもしれません。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、「血清フェリチン」を貧血を診断する際の重要な項目として捉えています。

ヘモグロビンと血清フェリチンの値をひとつの「評価軸」として用い、さらに詳しく貧血の状態を探っていきます。その際の参考基準として、下記の数字が用いられることがあります。

ヘモグロビンと血清フェリチンから判断する貧血
正常 ヘモグロビン > 12.0 g/dl   フェリチン値  > 12 ng/mL
貧血でない鉄欠乏 ヘモグロビン > 12.0 g/dl   フェリチン値  < 12 ng/mL
鉄欠乏性貧血 ヘモグロビン < 12.0 g/dl   フェリチン値  < 12 ng/mL

分子整合栄養医学で着目する鉄欠乏の段階的な変化

鉄欠乏は全身の鉄が不足した状態であることは、繰り返し述べてきたとおりです。分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では「鉄欠乏に伴う各種の鉄の変動」を踏まえ、複数の段階に分けて病態の進行を把握します。

食事などから摂取した「鉄」は、その3分の2が赤血球中のヘモグロビン(機能鉄)に存在します。その他には、貯蔵鉄や血清鉄、組織鉄として使われます。

正常な状態

 

鉄欠乏に伴う鉄の変動

前潜在性鉄欠乏性貧血 潜在性鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血 軽度-中度 鉄欠乏性貧血 軽度-高度
第Ⅰ期 第Ⅱ期 第Ⅱ期

第Ⅰ期 前潜在性鉄欠乏性貧血(ぜんせいざいせいてつけつぼうせいひんけつ)

肝臓、脾臓、骨髄などに貯えられている貯蔵鉄が失われ始めた状態です。このとき、血清フェリチン値は、20ng/ml以下の低値を示す場合があります。

第Ⅱ期 潜在性鉄欠乏性貧血(せんざいせいてつけつぼうせいひんけつ)

貯蔵鉄が枯渇し、血清鉄(Fe)も減少している状態です。貯蔵鉄は血清鉄がこれ以上不足しないよう血液中に鉄を輸送し、ヘモグロビンの合成に当てます。

しかし、貯蔵鉄の減少に歯止めがかからないと血清鉄はさらに減少し、体内への鉄の供給が減るために「ヘモグロビンの合成障害」がますます悪化します。

そして、鉄と結合していないトランスフェリン(鉄と結合して鉄の体内輸送を行うタンパク質)の量を示すUIBC(不飽和鉄結合能)が上昇します。つまり、鉄の量が減少したために、鉄を運ぶための「トラック」の荷台が空になったままということです。

血液中のトランスフェリンが鉄と結合できる総鉄量を示すTIBC(総鉄結合能)も、血清鉄の減少によって上昇します。

潜在性鉄欠乏性貧血になっている時点で、人によっては動悸や息切れ、強い疲労感、めまいといった症状が出ることがあります。

しかし、貯蔵鉄が減少した状態であっても、ヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Ht)が正常範囲に収まっていることも多いです。そのため、一般的なクリニックで血液検査を行っても、「貧血を伴わない鉄欠乏状態」が見逃されてしまうと、「貧血」と診断されないことがあります。

加えて、一般的な健康診断や病院での血液検査では「血清フェリチン」を測定しないケースがほとんどです。こうした理由からも、早期の貧血の発見が遅れる可能性があります。

貧血の症状は緩やかに進行するケースがあるため、貧血症状が悪化して「明らかな貧血だと気がついたときには、病態はかなり進行している」ことがあります。

第Ⅲ期 鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)

鉄欠乏性貧血には、軽度~中程度の「鉄欠乏性貧血」と、高度の「鉄欠乏性貧血」があります。

ここまで貧血の病態が悪化すると、検査結果の数値を見ても明らかに「ヘモグロビン合成に障害がある」ことが分かります。

ここでようやく標準的な検査項目(ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHCなどの低下)によって、貧血であることが容易に判明します。

鉄欠乏性貧血が深刻になると、髪の毛や爪、皮膚などの組織成分になっている「組織鉄」やチトクローム、カタラーゼなどの「酵素鉄」までが減少し、最悪の場合は死に至ります。

フェリチンの低下によって起こる様々な症状

フェリチンは体内に常に一定量存在し、必要な場合には速やかに鉄を供給できるように管理されています。しかし何らかの原因によって血清フェリチン(同時にヘモグロビンなど)が不足すると、鉄欠乏性貧血になるリスクが高まります。

鉄欠乏性貧血になると、全身に様々な自覚症状が現れることは既に述べました。

しかし、冷えや抜け毛、立ちくらみ、肌荒れといった「一般的な貧血の症状」以外にも、あらゆる体調不良やメンタルへの影響が出ることが臨床で確認されています。

例として下記の症状があります。

免疫力の低下、寝起きが悪い、風邪をひきやすい、浮腫(むくみ)、便秘や下痢、食欲不振、吐き気、胸が痛む、頭痛、頭重、・月経の異常、注意力低下、イライラ、歯茎の出血、アザが良くできる、耳鳴り、肩こり、腰痛、背中の痛み、気分の落ち込みなど

血清フェリチン値は高いほどよいのか

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学で実施される血液検査は、一般的な血液検査(約15~20項目)とは異なり、約50~70項目もの項目を測定します。

血液検査の項目には「基準値」が書かれていますが、分子整合栄養医学の観点に基づいて検査データを解析する場合は、「一般的な検査基準」とは異なる視点から、患者の体の状態を読み解くことがあります。

「血清フェリチン値」もそのひとつです。「血清フェリチン値」は「基準値」に収まる範囲が広い上に、健康な人であっても、個人によって数値にばらつきが見られる項目です。

一般的に、「血清フェリチン値」は女性よりも男性の方が高いです。閉経後の女性では、閉経前の女性に比べて「血清フェリチン値」は高い傾向にあります。

しかし、「血清フェリチン」の「正常範囲」や「最適値」に関しては、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する医師の間でも見解が分かれています。

その一方で、国内における分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学の世界では、「血清フェリチン」が1桁になると、「完全な鉄欠乏性貧血」だというコンセンサスが得られています。(医師によっては、20以下で貧血と判断する場合もあります。)

こうした状況において、血清フェリチン(貯蔵鉄)は「高ければ高い方が望ましい」という声も聞かれます。

しかし、血清フェリチン値の理想値は医師によって解釈が異なります。また、患者自身の性別や年齢、体質、既往、ライフスタイルなどを鑑みた上でそその人にとって「ベストな数値」を探っていく必要があります。

たとえば、分子整合栄養医学を実践する医療機関の中には、女性における血清フェリチン値の目標値を「100ng/ml以上」として掲げているところがあります。

しかし、一般的な血清フェリチン値は、20~70ng/mlと言われています。そのため、医師の中には、血清フェリチンが80ng/mlだと「体内の鉄分が過剰になっている」と考える人もいるようです。

こうした中で、各自が最適と思えるような血清フェリチン値を見つけるための手段として、定期的な血液検査を行うことが役立ちます。継続的に治療によって貧血の症状が改善されているかを確かめながら、客観的なデータに基づいて、患者の「理想値」を探ることことは意義のあることといえます。

仮に、食事やサプリメントの摂取による貧血の治療を行っているのに、血清フェリチンが目に見えて上昇していなかったとしても、症状が改善され、治療の効果が体感できているのであれば、「大きな一歩」といえるのではないでしょうか。

血清フェリチン値はあくまでも血液検査の「結果」でしかありません。「いかにして患者の病気や不調を取り除くか」に注力することが、治療の本質だと思います。

血清フェリチンが高値のときは「炎症」の有無を確認する

血液検査の結果、血清フェリチン値が上がったとき、食事やサプリメントなどからの鉄分の補充により、体内の鉄が増えて貧血が改善したと解釈することが可能です。

しかし、このときに注意しなければいけないことがあります。

先に述べたように、血液検査で測定する血清フェリチンは、「組織や臓器から血液中に漏れ出たフェリチン」を測定しています。

そのため、場合によっては、肝臓や脾臓、骨髄、心臓、肺、小腸といった「フェリチンを蓄えている組織や臓器」に何らかの炎症が起きており、そこから血液中にフェリチンが漏れ出ていないか確かめることが必要になります。

炎症が生じているか否かによって、血清フェリチンの上昇が「貯蔵鉄の増加」によるものなのか、「炎症による影響で漏出したものなか」を評価することができます。

このときに、評価する指標のひとつが高感度CRPです。オーソモレキュラー医学を実践する新宿溝口クリニックの溝口徹先生は、高感度CRPの適用に関して言及されています。

これまでCRP<0.3mg/dl であれば炎症はなしと判断されていました。ところが高感度CRPという測定方法が知られるようになると、従来の評価では炎症がないという結果でも全身に炎症があることが知られるようになりました。

高感度CRPは従来のCRPの1,000倍の感度で計測しています。その感度でCRPを測定すると、動脈硬化や心筋梗塞、さらに大腸がんなどのがんとの関係、そしてうつなどの精神症状も従来のCRPでは炎症無しという状態でも高感度CRPでは上昇していることが知られるようになったのです。

そのため、オーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)では、CRPは出来るだけ高感度CRPで測定し、さらに炎症と関係する項目をいくつも追加して、かすかな炎症も見逃さないように血液検査項目を選択するようにしました。

そうすることによって、フェリチンが上昇しているときに、それが貯蔵鉄の増加によるものなのか炎症によるものなのか、それとも以前にお伝えした鉄の利用ができないためにフェリチンだけが上昇しているのかを正しく評価することができるようになりました。

とくに小腸の粘膜にはフェリチンが存在していることから、腸粘膜の炎症でもCRPは反応することが考えられます。体内に炎症があると、血清フェリチンは本来の貯蔵鉄の量を反映するのではなく、炎症によって高値になっていると推察できます。

オーソモレキュラーを学んだ方々は、このような状態を「炎症によってマスクされた血清フェリチン値の上昇」と表現することが多いので覚えておくと良いかもしれません。

 

炎症を引き起こすものには、様々な原因があります。外傷や打撲、ウイルス感染、化学物質刺激、脂肪肝、高血糖、高血圧などによる代謝異常で炎症が生じます。

また、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学で話題にされることが多い炎症の原因として、グルテンやカゼインの摂取による腸管粘膜(ちょうかんねんまく)の慢性炎症があります。実際に、リーキーガット症候群の人では、強い炎症が見られることが臨床現場で多数確認されています。

加えて、カンジダ感染による腸機能の低下でも、炎症が生じていることが考えられます。

さらに、SIBO(シーボ:小腸細菌異常増殖:Small Intestine Bacterial Overgrowth)も、腸粘膜に慢性炎症を引き起こす要因となり得ます。

炎症マーカーとしての血清フェリチン

一般的な医療機関では、血清フェリチンは「腫瘍マーカー」として認識されています。血清フェリチンが標準範囲と大きくかい離している場合、がんの可能性を疑うことがあります。

また、白血病や骨髄腫(こつずいしゅ)などの造血系の疾患がある場合も、血清フェリチンは高値を示すことがあります。

がん以外にもヘモクロマトーシスやヘモジデローシス、心筋梗塞などでも高値を示す場合があります。

血清フェリチンが「標準範囲」を逸脱して高値になっている場合は、複数の腫瘍マーカーの検査を受けることをお勧めします。必要に応じて主治医に相談しましょう。

実際の血液検査のデータ-鉄欠乏性貧血(重度)

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、詳細な血液検査を実施し、複数の検査項目の結果を参照することで貧血を診断すると述べました。

赤血球数(RBC)、ヘモグロビン濃度(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)、MCV、MCH、MCHC、フェリチン、血清鉄、網状赤血球数などがその例です。

下記は実際の検査データです。この方は女性(有月経・出産経験なし)で、重度の鉄欠乏性貧血と診断されました。

鉄剤の副作用と酸化ストレスリスク

貧血と診断された場合、鉄を補わなければなりません。そのとき、一般的な病院では鉄の補給手段として「鉄剤(てつざい)」が頻繁に用いられます。

たとえば、がんや潰瘍(かいよう)、過多月経といった病気と診断された場合や成長期の子供、妊娠中の女性が鉄不足になっていると判断された場合は、一般的な病院では鉄剤が処方されます。

鉄剤の代表的なものは、フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)です。保険が適応されるため、患者の経済的負担が少なく、気軽に処方することができます。

フェロミアは、
・鉄の吸収を阻害するタンニン(お茶やコーヒーに含まれる)の影響を受けにくい
・ビタミンC(鉄の吸収を促進)を一緒に摂取せずとも比較的吸収率が高い
・胃切除後でも比較的吸収されやすい
といった観点から、処方する側の医師にとっても使い勝手がよいため頻繁に用いられることが多いです。

しかし、フェロミアをはじめとした保険で処方される「経口鉄剤」は「非ヘム鉄」です。非ヘム鉄は、胃粘膜を刺激するため、吐き気やムカつきなどの胃腸障害を起こす場合があります。

また、鉄剤の静脈注射や点滴も強い酸化ストレスを引き起こすため、様々な疾患の原因になると考える医師が存在します。鉄剤によって酸化ストレスが増大すると、細胞に損傷を与える危険性があることが指摘されています。

静脈注射や点滴によって体内の鉄が過剰になると、トランスフェリンに結合していない「自由鉄」が生じます。自由鉄がフェントン反応を介して、ヒドロキシラジカル(OH•)などの活性酸素を発生させます。

こうしたことから、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する医師の多くは、貧血に対して食事やヘム鉄のサプリメントによる鉄補給を指導する人が多いです。

また、慢性潰瘍性大腸炎(まんせいかいようせいだいちょうえん)や消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)などの持病がある場合は、鉄剤の服用は禁忌です。

もし、あなたが治療手段として非ヘム鉄の鉄剤を摂取したり、鉄剤の静脈注射や点滴をしたりすることを検討している場合は、メリットとデメリットを主治医に確認した上で実施するようにしましょう。

ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収経路の違い

食品やサプリメントから摂取できる鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。

ヘム鉄は、鉄単体としてではなく、二価鉄(Fe++)の鉄原子とタンパク質からなっています。
非ヘム鉄は、三価鉄(Fe+++)でタンパク質と結合していません。

ヘム鉄は動物性食品に多く含まれ、吸収率は10~20%と高いです。非ヘム鉄は植物性食品に多く含まれている栄養で、吸収率は1~6%とヘム鉄よりも低いです。

ヘム鉄は、ヘム(タンパク質)に包まれた形状をいているため、食物繊維やタンニン酸など、鉄の吸収を妨げる要因の影響を受けにくいとされています。

ヘム鉄はそのままの形で腸から吸収することができますが、非ヘム鉄はそのままでは吸収できず、ビタミンCや消化酵素によって、三価鉄(Fe+++)から二価鉄(Fe++)に還元されて吸収されます。

鉄のサプリメント摂取による鉄過剰への考え方

ヘム鉄
ヘム鉄を多く含んだ食品を摂取する場合やヘム鉄のサプリメントを服用する限りにおいては、鉄の摂りすぎによる過剰症は心配ないと考えられています。

体内でのヘム鉄の代謝は厳密に調節されています。ヘム鉄が過剰になった場合は、小腸の粘膜から「必要な量の鉄」のみが吸収され、余分な鉄は便や尿として排せつされます。よって、食品やサプリメントからのヘム鉄の吸収が抑えられ、鉄が過剰になるのを防ぐことができます。

しかし、医師によっては、ヘム鉄のサプリメントであっても過剰な鉄摂取に繋がるとして、鉄の投与には慎重になっている人もいます。詳細は次章で説明します。

非ヘム鉄
鉄剤や非ヘム鉄のサプリメントを大量に摂取すると、鉄が過剰になる場合があるため注意が必要です。

非ヘム鉄は「小腸の上皮細胞(じょうひさいぼう)」にある二価金属輸送タンパク質であるDMT1(divalent metal transporter 1)から吸収されます。DMT1は鉄以外に、同じ二価陽イオンである亜鉛やカルシウム、マンガン、コバルトも吸収するため、非ヘム鉄と拮抗(きっこう)します。

そのため、非ヘム鉄が過剰に存在すると、他の金属ミネラルの輸送を邪魔するために、他の重要なミネラルが不足してしまうことにもなります。

反対に、他の金属ミネラルによって、非ヘム鉄の吸収が邪魔されるために、鉄吸収の効率性が下がる可能性もあります。

鉄剤の服用や静注用鉄剤
鉄剤の服用や静注用鉄剤の投与により、血清中のトランスフェリンに結合できる量を超えた自由鉄が急増することがあります。すると、自由鉄が活性酸素を発生させ、細胞のタンパク質やDNAを損傷させてしまうリスクが高まります。

鉄過剰や炎症時に鉄の吸収と放出を抑制するヘプシジン

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する医師や歯科医師の中には、「性急に対処すべき極度の貧血症状」や「明らかな出血が認められる」などの緊急事態を除いて、サプリメントによる鉄の補充は極力控えるのが望ましいと考える人もいます。

前章で「ヘム鉄のサプリメントによる過剰摂取の可能性は低い」という主旨の文章を書きましたが、実際には医師によって考え方は異なる部分があるようです。

特に、慢性炎症に伴う貧血がある患者に対しては、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の種類に関わらず、鉄のサプリメントは差し控えるべきというスタンスを取る医師や歯科医師が存在します。

このような医師たちは、体内で過剰になった鉄が酸化ストレスを増大させ、ヒドロキシラジカル(OH•)という活性酸素を発生させることを懸念しています。ヒドロキシラジカル(OH•)は細胞を傷つけ、更なる炎症を起こします。

また、感染性胃腸炎やリーキーガット症候群、クローン病、虚血性大腸炎(きょけつせいだいちょうえん)、脂肪肝、肥満、糖尿病、がん、リウマチなどの病気になっている場合、サプリメントによる鉄の投与によって、返って炎症が進んでしまうことが示唆されています。

ここで、体内の鉄代謝を乱す要因となっているヘプシジンについて解説したいと思います。

体内の鉄が過剰になったり、炎症が生じたりすると、炎症性サイトカインのインターロイン6(IL-6)に呼応して、肝臓でヘプシジンというタンパク質(ペプチドホルモン)が作られます。

ヘプシジンの働きによって、体内では下記の変化が起こります。

  • 鉄輸送蛋白フェロポルチンの発現が低下する
  • 腸管からの鉄吸収を抑制する
  • マクロファージの鉄放出を抑制する
  • 貯蔵鉄(フェリチン)が増加する
  • 網内系で捕らえられる鉄が増加する
  • 血清鉄が減少する
  • 造血で利用可能な鉄が減少する、

ヘプシジンは、細胞の鉄輸送体であるフェロポルチンの働きを抑制します。フェロポルチンは、肝臓や脾臓などの網内系(もうないけい)の細胞内に取り込まれて貯蔵鉄(フェリチン)となった鉄を細胞外へ放出する働きをしています。

他にも、フェロポルチンは消化管上皮細胞からの鉄の放出、母体から胎児への胎盤を介した鉄の輸送、貪食されたマクロファージから鉄の汲み出しなどを行っていると考えられています。

しかし、炎症によってヘプシジンが増えると、フェロポルチンが抑制されるため、正常な鉄利用のサイクルに異常が出ます。

ヘプシジンが合成されると、肝臓や脾臓での鉄の貯蔵が促進されます。このとき、ヘプシジンが鉄を溜め込もうとする作用が強いため、蓄積した鉄を利用することができなくなってしまいます。

その結果、鉄の輸送タンパク質であるトランスフェリンは減少し、それに伴って総鉄結合能 (TIBC) も低下します。

トランスフェリンの産生は肝臓の細胞内の鉄(貯蔵鉄)によって調節されています。貯蔵鉄が少なければトランスフェリンの産生は増加し、反対に貯蔵鉄が過剰にあればトランスフェリンの産生は少なくなります。

鉄欠乏性貧血では貯蔵鉄が減少しているためトランスフェリンの産生が増加し、総鉄結合能 (TIBC)は上昇します。しかし、炎症が生じてヘプシジンの合成が進んでいるときには、貯蔵鉄が増加するためにトランスフェリン産生は低下し、総鉄結合能 (TIBC) は低下します。

さらに、ヘプシジンによって鉄の貯蔵が亢進すると、血中に鉄が放出されなくなるため、血清鉄も低下します。鉄がないのでヘモグロビンの合成障害が起き、骨髄での赤血球産生は減少します。

こうした生体内の鉄代謝異常(鉄回転の休止)を網内系鉄ブロックといいます。

 

上記で示した、慢性疾患に伴う貧血(ACD:anemia of clronic disorders)と鉄欠乏性貧血の鑑別は、下記の指標に基づき判断されます。

慢性疾患に伴う貧血 鉄欠乏性貧血
原因 鉄不足(共通)
機序 ヘプシジンによる利用障害 消化管出血・月経などによる鉄喪失
検査 血清鉄↓
TIBC↓
血清フェリチン↑
血清鉄↓
TIBC↑
血清フェリチン↓

えさきちより引用・一部改編

慢性的な炎症によって貧血になっている可能性を疑う場合は、鉄の利用障害を念頭に置いた上で、血清鉄、TIBC、フェリチンなどの数値からヘプシジンの状態を想像しつつ、身体状況を読み取ることが求められます。

炎症に伴うヘプシジンの亢進を考える際に、注意すべき点があります。

ヘプシジンは肝臓で作らるため、脂肪肝や慢性肝炎などの「肝機能が低下している人」では、へプシジンを合成することができない場合があります。そのため、こうした人がヘム鉄のサプリメントを大量に摂取すると、鉄が過剰吸収されてしまう可能性が指摘されています。

鉄のサプリを用いる場合は腸内環境を整える

鉄はカンジダ菌や悪玉菌悪のエサになります。そのため、カンジダ症になっていたり、腸内環境が悪化していたりする場合は、鉄のサプリメントを投与は見送るべきだとと考える医師もいます。

どうしても鉄のサプリメントを摂取する必要がある場合は、ラクトフェリンのサプリメントを併用したり、「腸内環境を改善させ、腸の炎症をしずめる治療」を同時に行うことが検討される場合があります。

ラクトフェリンは、鉄と強く結合する性質を持った糖タンパク質です。

ラクトフェリンには、鉄の吸収性を高めてくれる作用があります。また、生体に鉄が十分に存在しているときは、鉄過剰にならないよう、体内に吸収する鉄の量を調節してくれます。

また、ラクトフェリンには悪玉菌の増殖を抑え、善玉菌を増やす働きがあるため、腸内の環境を整える効果もあります。

つまり、ラクトフェリンを併用することで、鉄が悪玉菌の増殖に利用されないようにすると共に、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を改善する効果を狙います。

貧血の改善においては、「患者の腸内環境が悪いまま鉄のサプリメントを大量に投与しても、胃腸での正常な消化・吸収が行えないため、吸収しきれなかった鉄が便や尿に排せつされてしまう」ことを経験している医師は数多くいます。

そこで、鉄のサプリメントを飲んでいるにも関わらず、貧血の症状が改善していないと感じた場合は、便の状態を確認してみましょう。真っ黒い便が出ている場合は、鉄がきちんと吸収されずに、流れ出てしまっている可能性が高いです。

もし、「貧血と腸内環境の悪化が同時に発生している」場合は、拙速に鉄のサプリメントに手を出す前に、腸内環境の改善を念頭においた治療が可能か、主治医に相談してみましょう。

腸内環境が改善し、普段の食事から十分な鉄分が吸収できるようになれば、サプリメントに頼る必要がなくなることもあります。

ただし、貧血に対する治療法やヘム鉄のサプリメントの使用に関しては、医師によって考え方や治療アプローチが異なることは予め理解しておきましょう。

「ヘム鉄」に対する向き合い方は、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学の観点に基づく治療の中でも、多様性に満ちた議論がなされているテーマのひとつとなっています。

主治医の治療方針を理解した上で、互いに納得のいくような治療計画を立てるようにしましょう。

ヘモクロマトーシスに鉄のサプリメントは禁忌

ヘモクロマトーシスとは鉄代謝に異常が生じることで起こる病気です。全身の臓器の細胞に鉄が蓄積して、組織障害や臓器の機能不全をもたらします。

ヘモクロマトーシスは、主に原発性と続発性(大量輸血、鉄剤・食事鉄の過剰摂取、無効造血、アルコール多飲、肝硬変など)に区分されます。

一般的な治療方法は、臓器に沈着した鉄を除去する治療と、臓器障害に対する対症療法に分けられます。鉄の除去治療には、瀉血(しゃけつ:体内から血液を大量に抜く方法)と鉄キレート剤投与の2つの方法があります。

ヨーロッパでは常染色体の劣性遺伝による「遺伝性疾患」のひとつとして、発生率は高くなっています。北欧系の人では、約215人に1人の割合で発症しているとされています。

ヘモクロマトーシスの患者はもともとの鉄貯蔵量が多いため、鉄剤や鉄のサプリメントを摂取すると「鉄中毒」を発症する危険性があり、命に関わる場合があります。そのため、ヘモクロマトーシスの人が鉄のサプリメントを摂取することは禁忌です。

実際、海外のサプリメントには、鉄の成分が含まれていない「アイロンフリー(鉄なし)」のマルチミネラル・サプリメントなどが販売されています。

こうした背景があるために、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する海外のドクターに対して「日本人の患者はヘム鉄のサプリを積極的に飲んでいる」と伝えると、驚かれることがあります。

このような場面に出くわしたときは、「日本人にはヘモクロマトーシスが極めて少ない」そして、「貧血になっている女性が多い」ことを説明してあげましょう。

貧血は精神に大きな影響を及ぼす

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学では、「心の病気」も全身症状のひとつとして考えます。

うつ病やパニック障害、引きこもり、不安、恐怖、情緒不安定などのメンタルで問題を抱えている患者の検査結果から、貧血を認めることが多くあります。

また、こうした心の問題を抱えている患者は、「疲れやすくやる気が起こらない」という共通の症状を持っていることがあります。この原因に、貧血が関係していることが考えられます。

鉄分不足で貧血になると、ヘモグロビンが作られないために全身への酸素供給量が低下します。すると、身体の中で最も酸素を必要とする脳も酸素不足に陥り、ブドウ糖を利用してエネルギーを作ることができなくなってしまいます。その結果、脳の機能低下を招いてしまいます。

鉄は神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)であるドパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンが代謝される際に、補酵素(ほこうそ)として使われます。脳の神経細胞での情報伝達を行う化学物質です。

そのため、鉄が不足するとドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを規則的に作ることができなくなってしまいます。その結果、うつ病などの精神神経症状を引き起こす原因になります。

貧血による精神症状としては、うつ病や引きこもり、震え、パニック、不眠、不安などがあります。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する精神科や心療内科の医師の中には、「貧血の症状は動悸、息切れ、めまい、易疲労性などがあるが、これらの症状はパニック発作などの症状と似ている」と指摘する人もいます。

また、対人恐怖症や引きこもりの人では、菓子やインスタント食品などを食べることが多く、バランスの良い食事をする機会がないため、栄養不足になっていることが多いです。こうした生活パターンは、貧血を助長することになります。

さらに、また、貧血によって食道の粘膜が萎縮して食道内が狭くなるために、食べ物を飲みこむのが困難になる人もいます。よって、摂食障害や嚥下障害が見られることがあります。このような状況では、海外製の大きなサイズのサプリメントは、飲みこむのが非常に難しくなります。

また、「鉄欠乏性貧血の人は、副腎疲労症候群(ふくじんひろうしょうこうぐん)や機能性低血糖症(きのうせいていけっとうしょう)を併発していることが多い」ということも、臨床現場から報告があがっています。

貧血になって疲れやすく、思考力や判断力が落ちている上に、副腎疲労症候群や機能性低血糖症を併発して、血糖のコントロールやホルモンバランスが乱れると、安定的な気分を維持することはできなくなります。

その結果、様々な形で精神症状が表れると考えられています。

副腎疲労症候群についての詳しい内容はこちらを参照して下さい。
機能性低血糖症についての詳しい内容はこちらを参照して下さい。
栄養素としての「鉄」の基本情報はこちらを参照して下さい。

監修:桑島内科医院 桑島靖子