私たちの細胞の中に存在するミトコンドリアは、栄養素を使ってたくさんのエネルギーを生み出しています。タンパク質や炭水化物(糖質)、脂質を利用して、TCAサイクル(クエン酸回路)を回すことで、生命活動に必要なエネルギーを生み出します。また、TCAサイクルで作られた水素を電子伝達系(でんしでんたつけい)と呼ばれるシステムに引き渡すことで、さらに大きなエネルギーを作り出しています。

ここでは、ミトコンドリアの働きを見ていくことにしましょう。

ミトコンドリアでのエネルギー生産の仕組み

ミトコンドリアは、タンパク質、炭水化物(糖質)、脂質、ミネラル、ビタミンを利用してエネルギーを合成しています。ミトコンドリアでエネルギー生産する際には、ビタミン群や鉄などのミネラル、コエンザイムQ10などの酵素を必要とします。

タンパク質、脂質、糖質(炭水化物)の3大栄養素には「生命活動を維持するためのエネルギーを生産する」という共通の働きがあります。エネルギーを生産する際に、ヒトの生命活動に役立てられているのがATP(アデノシン三リン酸)という物質です。

ATPという高いエネルギーを持つ物質によってヒトは生命を維持しているので、ATP生産がストップしてしまうと、私たちは生きていくことができず、死んでしまいます。

体内にはATPの合成経路が複数あります。ここでは代表的なTCAサイクルと電子伝達系を見ていくことにします。

タンパク質から分解されたアミノ酸(タンパク異化)、中性脂肪から切り出された脂肪酸(β酸化)、糖質から分解されたグルコースは(解糖系)は、それぞれアセチルCoA(アセチルコーエー)という物質になりミトコンドリアの中に入っていきます。

アセチルCoAは、ミトコンドリア内でTCAサイクルの輪の中に入っていき、次から次へと化学反応を起こしていく過程で、ATPを作っていきます。TCAサイクルの途中で発生した水素を電子伝達系と呼ばれるシステムに移行することで、生体内では更に多くのATPが作られていきます。

TCAサイクルがミトコンドリアの中で行われるのに対し、電子伝達系はミトコンドリアの内膜(ないまく)の上で行われます。

電子伝達系

電子伝達系では、TACサイクルで作られた物質に含まれる水素が、ミトコンドリア内膜に埋め込まれている酵素複合体(こうそふくごうたい)によって酸化され(電子が奪われる)、そこから発生した電子が酵素複合体の間を移動していく間に、電子が奪われてプロトンになった水素イオンがミトコンドリアの内膜と外膜の部分(膜間スペース)にどんどんと溜められていきます。

ミトコンドリアの内膜と膜間スペースの間に水素イオンの濃度差が生まれるので、濃度の濃い方から薄い方へと一気に移動するエネルギーを利用して、より多くのATPが作られる仕組みになっています。

また、トコンドリア内膜に埋め込まれている酵素複合体には、ヘム鉄を含有するタンパクから構成されているシトクロムや、鉄と硫黄が複雑に結合したFeS(鉄-硫黄クラスター)が内部に組み込まれるなど、鉄が補酵素に対する補因子として関与することで電子のやり取りがなされています。

ビタミンやミネラルの働き

3大栄養素が体内で消化・吸収され、そこから分解されたできた化学物質は、ATPというエネルギーの源になります。では、ビタミンやミネラルはこうしたエネルギー合成にどのように関わっているのでしょうか?

TCAサイクルを例にすると、ビタミンは下記で示した経路での化学反応を介在しています。このとき、TCAサイクルで利用されるビタミン群は、摂取したそのままの形状では利用されません。ビタミン類は体内で酸化されたり、還元されたりして、体内での化学合成に使用できる形に活性化されることで利用可能になります。

下記の表では、通常のビタミンの名称の下に、活性化されて使える形状になったビタミンの名称を記載しています。
(例:ビタミンB1の活性型1はTTP:チアミンピロリン酸)

補酵素として活躍するビタミン・ミネラル

ビタミンはTCAサイクルの中で、Aという物質をBという物質に変える触媒の機能を果たす酵素を補助する補酵素(ほこうそ)として働きます。

例えば、TCAサイクルのαケトグルタル酸は、αケトグルタル酸デヒドロゲナーゼという酵素によってスクシニルCoAとなります。このとき、αケトグルタル酸デヒドロゲナーゼは酵素単体では動くことができず、補酵素となるビタミンに手伝ってもらわなければ、円滑に化学反応を進めていくことはできません。

酵素が触媒反応(しょくばはんのう)する相手を基質(きしつ)と呼びます。 基質と酵素と補酵素は各々がぴったりと結合し合わなければ、ATPを合成したり、生体機能に必要な物質を生み出し、次から次へと続く化学反応を滞りなく進めることはできなくなってしまいます。すると、身体に様々な障害が生じることになります。

基質と酵素と補酵素がそろっていれば、然るべき代謝は行われるように感じるかもしれません。しかし、酵素はタンパク質からできているのでDNAの設計により個人差があると考えられています。そのため、個人によって酵素の形が異なったり、体内での酵素の働きにも違いを生じたりする可能性があります。

すると、本来であれば、基質と酵素と補酵素が確実に出会い、ぴったりと結合して化学反応がおきるべき所で、酵素反応がスムーズに行く人とそうでない人に差が生じることになります。

そこで、酵素機能が不十分であることの穴埋めをすべく、ビタミンを通常の何十倍から何百倍使うことで病気を治したり、
身体の機能を高めたりすることを狙うのが栄養療法の考え方です。これが、ライナス・ポーリングによって提唱された「メガビタミン療法」の根幹です。

神経伝達物質の合成にも関与しているビタミン・ミネラル

タンパク質から摂取したアミノ酸を材料として神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)L-グルタミンGABA(ぎゃば)ドーパミンノルアドレナリンセロとロンなどが作られます。

神経伝達物質は、脳の細胞同士が集まっている空間に放出されることで、私たちの気分や認知、記憶、学習をコントロールする物質です。神経伝達物質は、神経を刺激して奮い立たせる興奮系(こうふんけい)と興奮した気分をしずめる抑制系(よくせいけい)の神経伝達物質が絶妙なバランスを取ることで、精神を安定的に保っています。

神経伝達物質を作り出す過程で、その化学変化を仲介しているビタミンやミネラルが不足すると、神経伝達物質がきちんと作られなくなります。すると、精神状態に悪影響が及び、うつやパニック、統合失調症を引き起こすと考えられています。

例えば、ビタミンB6不足に陥っていると、左側の赤色で示した攻撃性のL-グルタミン酸から、抑制系の物質であるGABAへの転換がうまくいかずに、Lグルタミンが体内で過剰になります。Lグルタミンが過剰になると、睡眠障害や神経症・幻覚、絶え間ない緊張、神経細胞の異常な興奮、多動やそう状態、痙攣を起こすことが知られています。

また、右側の緑色で示したセロトニンは、ビタミンB6不足によって5-HTPから変換されないと合成することができません。セロトニンが体内で合成されずに濃度が低下すると、睡眠障害、イライラ、不安、恐怖、攻撃性、ぼんやりした気分、無気力、低体温などが生じる場合があります。人によっては明らかなうつ症状やパニック症状として現れる場合があります。

このように、ヒトが生きていくために欠かせないエネルギーであるATPを合成するには、材料となる三大栄養素だけではなく、化学反応を仲介するビタミンやミネラルも大事な栄養素となるのです。