私たちの細胞を取り囲んでいる油の膜を細胞膜(さいぼうまく)といいます。細胞膜は細胞の中と外の環境を厳密に仕切る役割をになっています。細胞の中には、必要とされる物質が、必要なタイミングで、適切な量だけ入っていくことが許されます。もし、細胞の中に不要な物質が入り込んでしまったり、入り込む量が多すぎたりすると、私たちの体は正確に機能しなくなってしまいます。

その結果、思うように体が動かなくなったり、体調が悪くなったり、病気になったりしてしまいます。ここでは細胞膜について詳しく見ていくことにしましょう。

細胞膜は油で構成されている

細胞膜は脂質という油の成分でできています。そのため、私たちの細胞は柔軟性と流動性に富んだ性質を持っています。細胞膜は油でできているためにフニャフニャしているので、外部から衝撃が加わったときでも、粉々になって壊れたり、傷ついて形が崩れたりしにくい特徴を持っています。

細胞膜は脂質、タンパク質、コレステロール、糖という物質から構成されます。この中で、細胞膜の大部分を占める脂質はリン脂質から成っています。

細胞膜のリン脂質二重層

リン脂質には、水に馴染みやすい頭部(親水性:しんすいせい)と水に馴染みにくい尾部(疎水性:そすいせい)があります。リン脂質の親水性の部分が、細胞の外と内側にある液体部分にそれぞれ頭を向けて並ぶため、細胞膜は二重の構造を取ります。

つまり、親水性の頭の部分は水分が多い細胞の外側と細胞の内側に向かって並びます。反対に、水に馴染まない尾の部分は、しっぽ(尾の部分)同士が結合することで、水分が比較的少ない場所におさまります。

これがリン脂質二重層です。リン脂質二重層があるお陰で、私たちの細胞は、内側と外側がきちんと区切られ、内外で違う環境を維持することができます。

細胞膜が油でできているために、とても柔らくてフニャフニャした構造をしていることは先に述べたとおりです。

このリン脂質で形成された柔らかい細胞膜の表面から、必要な物質が行き来したり、情報伝達されることで、私たちの体が正常に機能するようしっかりとコントロールされています。細胞膜による厳格なコントロールの下で物質の往来、情報伝達が行われているのです。

細胞膜の役割

細胞膜の役割には下記のようなものがあります。

  • 内側と外側を仕切る(細胞の内部環境を一定に保つ)
  • 必要な物質の輸送を行う(選択的透過性)
  • 自己と非自己を区別する
  • 老廃物の排出
  • 細胞の外からの刺激に対する反応(受容体)

細胞膜が何らかのダメージを受けて機能不全に陥っていり、脂質で構成されている膜が酸化ストレスによって酸化されたり、損傷されたりすると、細胞の働きが悪くなってしまいます。その結果、下記のような問題が生じます。

  • 体力がなくなって、元気が出なくなる
  • 病原菌やウイルスに対抗する力が弱まり、風邪や病気にかかりやすくなる
  • 病気が中々治らずに長期化してしまう
  • シミやシワ、たるみ、吹き出物など肌トラブルが生じる

したがって、栄養療法では細胞膜を強化したり、油でできている細胞の膜が酸化しないような手立てをほどこします。そうすることで、ヒトが本来持つ自然治癒力を高め、生命活動に関わる能力を最大限に引き出せるようにします。

多価不飽和脂肪酸とエイコサノイド

細胞膜の構成成分であるリン脂質を形づくっている脂肪酸は2種類あります。飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん)不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)です。飽和脂肪酸は、炭素が水素で飽和されて二重結合が無いものをいいます。不飽和脂肪酸は、二重結合を持つものです。

飽和脂肪酸の例として、バターやラード、生クリーム、チーズなどがあります。飽和脂肪酸は、常温で個体になっているものが多いです。不飽和脂肪酸の食品として、魚油やオリーブオイル、ごま油などがあります。不飽和脂肪酸は、常温で液体になっているものが多いです。不飽和脂肪酸のうち、炭素の二重結合が2個以上あるものを多価不飽和脂肪酸(たかふほうわしぼうさん)といいます。多価不飽和脂肪酸は、体内で合成できないため必須脂肪酸(ひっすしぼうさん)とされています。

細胞膜が外部から何らかの刺激を受け取ると、細胞膜を構成するリン脂質から多価不飽和脂肪酸が切り出され、エイコサノイドという物質が合成されます。

エイコサノイドは、不飽和脂肪酸から作られる生理活性物質で、生体機能の調整する役割を持っています。エイコサノイドには、プロスタグランジントロンボキサンロイコトリエンといった種類があり、炎症を誘発するものもあれば、炎症を抑制するもの、血小板を凝集させたり、凝集抑制に働いたりと正反対の作用を持つものがあります。

エイコサノイドは体内でごく微量のみが合成され、作られた場所で作用し、すぐに消失するという特性(局所ホルモン的作用)を持っています。こうしたエイコサノイドの作用は、癌や動脈硬化、アレルギー、炎症に深く関与しているといわれています。

エイコサノイドの代謝

細胞膜を構成する不飽和脂肪酸の種類ごとに合成されるエイコサノイドを表した図です。

オメガ6系脂肪酸であるリノール酸を食品から摂取すると、γリノレン酸(がんまりのれんさん)という物質に変化します。そして、ジホモ‐γリノレン酸アラキドン酸へと物質が体内で化学的に変化していきます。ジホモ‐γリノレン酸やアラキドン酸からは、プロスタグランジンのグループ1やグループ2に属する生理活性物質が作られます。

オメガ3系脂肪酸であるαリノレン酸(あるふぁりのれんさん)から代謝されるEPA(エイコサペンタエン酸 )からはプロスタグランジンのグループ3のエイコサノイドが作られます。

オメガ6系と3系の脂肪酸は互いに転換しあうことができず、両者が持つ作用は互いに相反し合うので、オメガ3系と6系を最適なバランスで維持することが大切です。

しかし、現代の食生活ではオメガ6系のアラキドン酸の摂取量が多いため、炎症を引き起こすエイコサノイドが過剰に生成されてしまう傾向にあります。その結果、動脈硬化やガン、高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、喘息、リウマチといった慢性疾患や生活習慣病が引き起こされると考えられています。

オメガ6系からオメガ3系が多い食事にシフトする

体内で過剰な炎症や免疫反応、血栓(けっせん:血管内にできる血液の塊)を生じさせないよう、アラキドン酸が多い食事から、オメガ3系脂肪酸を積極的に摂る食事に切り替えることが望ましいとされています。

栄養療法のみならず、健康的なダイエットでしきりに言われる
「良質の油を摂りましょう」
「オメガ3のオイルが身体にいいです」
「EPAで血液サラサラに!」
といった宣伝文句は、オメガ3系脂肪酸による炎症や血栓を抑制する効果をうたっているものが多いです。

また、オメガ3系脂肪酸は脳や神経組織の発育や機能の維持に欠かせない成分でもあり、抗うつ作用や脳の活性化、記憶力の向上、認知症の予防にも効果的だとされています。「DHA、EPAを摂ると頭が良くなる」というのはオメガ3系の脂肪酸が脳の機能を高めることにも効果的であることを表現しているのです。