分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を実践する人の中には、様々な職業やサービスに従事している人がいます。今回は、理学療法士(りがくりょうほうし)から見た栄養療法とその関わり方の可能性についてご紹介します。

病院や訪問看護ステーションなどに勤務する理学療法士として、分子整合栄養医学を学び・実践したいと考えている人は参考にして下さい。

※本文中で、「クリニック」は主に外来を行う施設を指し、「病院」は手術や入院のための設備がある施設を指します。

理学療法士(PT)とは

理学療法士とは、歩行訓練などの運動療法や電気治療といった物理療法を用いて、患者の機能や動作能力の回復を支援する職種です。いわゆる「リハビリ(リハビリテーション:社会復帰)」を支援する専門家になります。

たとえば、大腿骨を骨折した後に、歩行が困難になった患者がいたとします。そうした人に対して、「なぜ歩けないのか?」「どうしたら歩けるようになるのか?」ということを考えて、理学療法プログラムを立案し、実施するのです。

その他にも、変形性ひざ関節症や肩関節周囲炎(五十肩)といった整形外科的な疾患で痛みや関節可動域制限などに悩まされている人に対しても、痛みの軽減や関節可動範囲の拡大などを目的とした理学療法を行います。

さらに、以下のような患者のリハビリテーションにも理学療法士が関わる機会が多いです。

・呼吸器疾患(COPD:慢性閉塞性肺疾患など)
・循環器疾患(心筋梗塞など)の術後
・脳梗塞後の運動麻痺による動作障害
・生活習慣病の予防
・高齢者の転倒予防
・糖尿病の進行予防

このように、理学療法士は幅広い人たちを対象に、社会復帰を支援する役割を担っているのです。

理学療法士と作業療法士の違い

理学療法士と似た職種に作業療法士(OT:さぎょうりょうほうし)があります。作業療法士は理学療法士と非常に混同されやすいのですが、求められる役割は明確に異なります。

理学療法士が、「起き上がる」「立ち上がる」「歩く」といった基本動作の回復をサポートする専門家です。

その一方で、作業療法士は「箸を使って食事をする」「洋服のボタンを留める」「歯ブラシで歯磨きをする」といった細かい応用的な動作の獲得を支援する専門家です。

また、理学療法士が徒手的な治療や動作訓練を用いて身体機能の回復を図るのに対して、作業療法士は園芸やレクレーション、手工芸など、さまざまな作業活動を使って動作回復を促します。

さらに、理学療法士が精神疾患の患者に関わることはほとんどありませんが、作業療法士は精神疾患の患者に対するリハビリテーションにも関わる機会が多くあります。

このように、理学療法士と作業療法士は、一見すると役割の違いが明確ではありません。しかし実際には、それぞれに求められる役割は異なるのです。

ちなみに、病院の中には「理学療法士が股関節やひざ関節などの下肢疾患、作業療法士が肩関節や肘関節などの上肢疾患に対するリハビリ」という区別をしているところもあります。ただ、これは各病院が独自に区別しているだけであり、「共通認識としてもたれている理学療法士と作業療法士の役割の違いではない」ということを知っておいてください。

理学療法士に対する誤解

理学療法士は、以前と比較すると世間的な認知度は高まっていますが、まだまだ誤解されていることが多い職種です。

たとえば、介護保険施設などでは、理学療法士も集団体操やレクリエーションだけでなく、介護業務なども行います。そのため、利用者様などから「健康運動指導士」や「介護士」などと混同されていることも多々あります。

また、接骨院や整骨院を開業することができる柔道整復師(じゅうどうせいふくし)と混同されていることも多いです。

柔道整復師とは、骨折や捻挫、脱臼といった外傷後の応急処置やその後の治療を専門とする職種です。そして、実際に行うことは理学療法士と似ている部分もあります。

しかし、理学療法士が医師の診断がなければ理学療法を実施できないのに対して、柔道整復師は医師の診断がなくても応急処置などを行うことができます。こうした理由があるために、柔道整復師は接骨院や整骨院を開業することができるのです。

ただ、理学療法士は医師の診断さえあれば、脳梗塞後や呼吸器疾患、整形外科疾患の患者など、幅広い疾患の人に関われるのに対して、柔道整復師は骨折や捻挫、脱臼といったように対応できる疾患が限られています。

このように、理学療法士と柔道整復師は混同されやすい職種ですが、求められる役割や実施できることに明確な違いがあるのです。

また、理学療法士や作業療法士と同じリハビリ職種として言語聴覚士(ST:げんごちょうかくし)があります。言語聴覚士は、脳梗塞などの脳血管疾患や加齢、その他の病気などによって、障害された言語機能や嚥下機能、摂食機能に対して言語聴覚プログラムを立案、実施する職種です。

たとえば、脳梗塞で脳の血管が詰まると、言葉が上手く出ない「失語(しつご)」という症状が出現するケースがあります。そうした際に、発声や発語訓練を行い、言語機能の獲得をサポートするのが言語聴覚士になります。

脳梗塞などで、運動麻痺だけでなく言語障害なども伴って出現した場合には、理学療法士と作業療法士、言語聴覚士の3職種が協力して、リハビリテーションプログラムを立案・実施することになります。

このように、理学療法士は、さまざまな職種と混同されることが多い職種だといえます。

理学療法士が活躍している分野

既に述べたように、理学療法士が関わる分野は多岐にわたります。そのため、理学療法士はさまざまな場所で活躍しています。

たとえば、整形外科病院では、理学療法士は変形性ひざ関節症や骨折に対する手術を行った患者に対して理学療法を実施しています。また、循環器専門の病院であれば、心筋梗塞後の手術を行った後のリハビリテーションに関わっています。

さらに、老人保健施設や訪問看護ステーション、デイサービス、デイケアなどの介護保険関連施設で働く理学療法士もいれば、理学療法士養成校や大学の教員として活躍している理学療法士もいます。

その他にも、以下のような分野で活躍している理学療法士も存在します。

・整形外科クリニック
・総合病院
・大学病院
・医師会病院
・放課後等デイサービス
・社会福祉協議会
・スポーツクラブ

基本的に、理学療法士は医師の診断がなければ理学療法は実施できません。ただ、理学療法士の知識を生かすことで、さまざまな分野で活躍している理学療法士が多く存在します。

それぞれの施設(環境)で異なる仕事内容の特性・必要な知識

ここまで述べたように、理学療法士はさまざまな分野で活躍することができます。そして当然ながら、それぞれの分野によって仕事の内容や特性・求められる能力は異なります。

たとえば、私は整形外科クリニックで勤めた経験がありますが、整形外科クリニックで働く場合には、とにかく「体力」が必要になります。

整形外科クリニックでは、1人の患者に対して20分しか対応する時間がありません。そのため、20分という短時間で患者の状態を把握して、理学療法を実施しなければいけません。

そして、昼休み以外はほとんど休憩することなく患者に対応することになるため、1日で20人前後の患者に対して理学療法を実施します。

こうした仕事は、想像以上に体力が必要になります。極端な話をすると、トイレに行く時間もないくらいにバタバタしている日が多々あります。さらに、そうした業務が終わった後には、カルテ記載や書類の作成などを行う必要があります。

また、訪問看護ステーションなどの介護保険関連の施設になると、介護保険に関する書類作成作業もこなさなくてはなりません。

当然、病院などの医療保険分野でも書類は作成する必要があります。介護保険分野においては、医療保険分野以上に書類を記載することが煩雑になるため、そのことに苦労する理学療法士は多いです。

さらに、年々大きく変化する介護保険に関する知識を学ばなくてはいけません。これも、介護保険分野で働く上で欠かせません。

このように、一言で理学療法士といっても、活躍する場によって求められる役割やスキル、苦労するポイントは異なるのです。

施設によって関わる他の職種の人たち

それぞれの職場によって、理学療法士が関わる職種の人たちも異なります。

たとえば、整形外科クリニックであれば、クリニックのドクターや看護師(ナース)との関わりが主になります。

それに対して、訪問看護ステーションであれば、各利用者の「担当医」「担当ケアマネージャー(ケアマネ)」「他に利用している介護保険施設のスタッフ」など、さまざまな職種の人と関わりをもつようになります。

また、入院施設がある病院であれば、患者の退院後における生活をマネジメントする「社会福祉士(ソーシャルワーカー)」や、夜勤をしている「介護士」などとも連携を取る必要があるのです。

さらに、患者の栄養状態に問題があるような場合には、管理栄養師と協力することも多々あります。

その他にも、地域における介護予防事業などに関わる場合には、市役所や社会福祉協議会などの地域福祉課のスタッフと連携して、事業を行っていくこともあるのです。

このように、さまざまな職種の人たちと関わっていくゆえに、理学療法士には幅広い知識が求められます。

キャリアアップ・チェンジ

理学療法士は、安定した職業だと認識されていることが多いです。実際に、周囲の人からは「理学療法士は、手に職がある上に、患者がいなくなることはないから安心ですね」とよく言われます。

しかし実際には、理学療法士は安月給である上に、需要に対する供給も過多になっているため、安定した職業だとはいえません。いつ解雇されるかわかりませんし、当然ながら診療報酬が下がれば減給される可能性が高いです。

しかも、キャリアアップを実現できるのはほんの一握りである上に、キャリアアップしても大手企業などと比較すると待遇は非常に悪いです。

そうした中で、キャリアアップではなく「キャリアチェンジ」をしている人が増えています。

たとえば、整体師として独立して整体院を開院する人は多いです。また、「○○研究会」などの勉強会組織を立ち上げて、収入を得ている人もたくさんいます。

その他にも、理学療法士として見に付けた知識や技術を活かして、「ダイエットジム」「ボディメイクジム」を開いたり、「ヨガインストラクター」「ピラティスインストラクター」などとして活躍したりしている人も少なくありません。

さらに、株式会社を設立して、デイサービスや訪問看護ステーションといった介護保険分野に経営者として参入する人も多いのです。

このように、理学療法士の中にはキャリアチェンジをする人がたくさん存在します。

医療分野(クリニック)における理学療法士の仕事内容

理学療法士が働く職場の中でも、医療分野における理学療法士の仕事内容も、それぞれの職場によって異なります。

たとえば、整形外科クリニックであれば、変形性ひざ関節症や腰椎椎間板ヘルニア、肩関節周囲炎(五十肩)といった整形外科疾患をもった患者の、痛みやしびれ、関節可動域制限(かんせつかどういきせいげん)といった症状を緩和することが理学療法士の役割です。

そのため、マッサージなどの徒手療法(としゅりょうほう)や、筋力増強訓練といった運動療法などをメインに実施します。

また、痛みなどの症状に対しては、状況に応じてアイシング(寒冷療法)やホットパック(温熱療法)、低周波などの電気療法を行うこともあります。さらに、スポーツ選手などに対しては、テーピングを実施することもあります。

それに対して、脳神経外科病院に勤務する場合は、脳梗塞後の麻痺で動作が困難になった人に対して、日常生活を少しでも楽に行えるように、起き上がりや立ち上がり、歩行などの動作訓練を行います。

また、自宅での介護が必要な場合には、家族に介護方法を指導することもあります。

その他にも、自宅での生活をスムーズにするために、自宅内への手すりの設置や段差の解消など、住宅改修を提案することもあります。

このように、一言で医療分野といっても、理学療法士が求められる役割は多岐にわたります。

クリニックに勤務する際に求められるスキル

医療分野の中でも、クリニックに勤める理学療法士には、治療的なスキルが求められる傾向にあります。つまり、痛みやしびれなどの症状を改善させる知識や技術が強く求められるのです。

たとえば、手術後の患者を担当する整形外科病院などであれば、理学療法士には「とにかく退院できるように、痛みがあっても自宅で生活できるように動作を獲得させる」ということが求められます。これは、基本的に入院期間が決められているためです。

その一方で、整形外科クリニックに来院される患者は、基本的に日常生活を送れる人たちになりますが、痛みやしびれによって、生活に支障をきたしています。?

理学療法士はこうした痛みやしびれといった症状を薬ではなく、徒手療法(としゅりょうほう)や運動療法によって軽減させます。そのために、学校で習った以上に細かい解剖学や生理学に関する知識、徒手療法の技術などが必要になります。

また、整形外科クリニックの患者に頻繁に見られるしびれなどの症状は、「睡眠や食事といった生活習慣」や「服用している薬」などの影響が関与していることが多いです。

そのため、理学療法士の養成校では習わないような知識も、現場の仕事を通じて勉強する必要があります。

さらに、病院ではなくクリニックで担当する患者に関しては、カルテから得られる既往歴や現病歴などの情報が非常に少ないです。そうした状況から患者の訴える症状の根本的な原因を見つけるためには、問診能力が欠かせません。

限られた時間の中で、的確に問診をしていかなければ、症状の根本的な原因を見つけることは不可能です。

このように、「治療的な側面」が求められるクリニックでは、一見すると理学療法士には必要のないような生活習慣や薬といった「専門知識」や「高い問診スキル」などを身につけていることが大切になります。

クリニック勤務の実状

整形外科のクリニックでは、筋力や可動域だけではなく、生活習慣や薬の影響など、総合的な知識から患者が訴える症状の根本的な原因を見つけなければいけません。

こうした高い技術は、通常であれば「医師」に求められることです。しかし、現状としてドクターはレントゲンやMRIといった画像、血液検査のみから、患者の状態を判断する傾向にあると感じます。

たとえば、ひざの痛みを訴える患者がいたときに、レントゲン所見で変形が見られれば「加齢による筋力低下で変形が進んでいるから、これ以上変形しないように筋力をつけましょう」というような指示をします。

しかし実際には、加齢のみが原因で筋力低下をするわけではありませんし、筋力が落ちたからといって必ず変形するわけではありません。ましてや、関節が変形していても、痛みが出現しない人は大勢いるのです。(少なくとも、私の個人的な経験からはそう言えます。)

そうはいっても、多くのドクターは検査所見を中心に診断しているという印象を受けます。

そのため、整形外科クリニックの現場では、理学療法士に生活習慣なども含めた幅広い視点で患者の状態を把握する能力が求められます。ただ、全ての理学療法士が「患者の状態を総合的に把握するように意識している」わけではありません。

既に述べたように、クリニックにおいて、一人の患者に対応できる時間はわずか20分です。これほどの短時間で、患者の状態を総合的に把握することは非常に難しいのが実情です。

そうした背景があるために、理学療法士の中には、患者さんの症状に対して対処療法的な対応をしている人は少なくありません。

たとえば、ひざ関節が痛いといった人に対して、ひざ関節周りの筋肉に対してマッサージをしたり、深く原因を考えずに筋力トレーニングを指導したりするのです。

これらの対応が間違っているわけではないのですが、「痛い → マッサージ」「関節痛 → 筋力低下 → 筋力トレーニング」という短絡的な思考に問題が潜んでいると思われます。

クリニックに勤める理学療法士には、幅広い知識が求められる一方で、時間的な制約などが関係して、「その場しのぎの対応」をしている人が多いという傾向があるように思います。

一般の人が外からはなかなか見えにくい理学療法士の仕事

既に述べたように、理学療法士の仕事は一般的に認識されているように、安定した仕事でもありませんし、待遇も決して良くありません。またその上、医療従事者であるために求められる能力や期待は高く、苦労することが多いです。

たとえば、理学療法士は一般的に見て給与水準が低い傾向にあります。新卒者であれば、月の手取りが20万円を下回るような職場がたくさんあります。

その反面、理学療法士は学校を卒後して社会に出た後も、多額のお金と時間をかけて新しい知識やスキルを学び続けなければいけません。どんな職業であっても同じだと思いますが、国家試験を通る程度の知識では、実際の現場では通用しません。

実際、理学療法士が臨床に必要な知識や技術を学ぶためには、多額の費用が必要になります。

たとえば、理学療法士が参加する勉強会には、1日で数万円するものが多くあります。そして、人気がある講習は、関東や関西などに集中しているため、地方に住んでいる人は講習会費に加えて交通費や宿泊費が必要になるのです。

私も理学療法士になりたての頃は、10万円以上かけて1回の講習会に参加していました。月の手取りが20万円を切るような状態で、10万円以上を講習会費として捻出するのは非常に大変です。

また知識や技術を高めるためには、講習会に参加するだけではなく、参考書なども購入します。理学療法士が買うような専門書は、1冊当たり1万円以上する本がたくさんあります。実際に私は、毎月のように2~3万円は書籍代に費やしていました。

ただ、どれだけお金と時間をかけて勉強しても、給料にはほとんど反映されないのです。

このように、理学療法士にはお金や時間をかけて勉強することが求められます。ただ、十分に勉強にかけられるお金がないことや、勉強しても給料に反映されにくいという現状があるのです。

医師と同等レベルの知識が求められる理学療法士

既に述べたように、理学療法士は卒後して社会に出てからも学び続けなければいけません。さらに、活躍する分野が広い理学療法士は、学ばなければいけない範囲が広い上に、非常に深い知識も必要になります。

たとえば、先述したように、整形外科クリニックに勤めている理学療法士は、関節や筋肉などの解剖学的な知識はもちろんのこと、生活習慣や薬に関しても把握しておく必要があります。

さらに、生活習慣を実際に指導するためには、患者に指導できるほど広範囲で、確実な知識をもっていなければいけないのです。

たとえば、背中の痛みには睡眠不足などが関係しています。ただ、一言で睡眠不足といっても、眠れない原因はたくさんあります。その中で、患者の身体所見や訴えなどから問題を特定して、なおかつ患者の性格や特性、生活様式を考慮した上でアドバイスしなければいけなりません。

また、当然ながら睡眠薬などを飲んでいる場合には、医師に相談しながら生活指導や理学療法を進めていく必要があります。

このときに、薬に対する知識がなければ、医師と有意義な意見交換をすることができません。薬に対してもしっかりと学び、理学療法士の立場から医師に対して意見を言えるようにならなければいけないのです。

このような意味では、理学療法士には医師よりも広い知識が求められるといえます。

そのため、理学療法士の多くは、日々さまざまな情報源から学び続けています。私自身、「患者の体の痛みの根本原因に食事が関係している」と感じたことから、分子整合栄養医学に興味をもって勉強するようになりました。

何となく患者が訴える痛い部位をマッサージしたり、筋力トレーニングを指導したりして、適当に仕事をするのであれば勉強する必要は感じないと思います。ただ、日々患者の訴えに向き合っていれば、常に勉強をし続けることが必然となるのです。

理学療法の現場で必要とされている分子整合栄養医学

私が分子整合栄養医学を学び始めたのは、患者の痛みに食事が関与していると感じたためです。ここでは、実際の経験に基づいて、理学療法士がどのように分子整合栄養医学の方法論を現場に取り入れられるかについて述べたいと思います。

内臓の不調が背骨、四肢のトラブルにつながる

たとえば、食べすぎなどで胃に負担がかかると、体では「内臓-体性反射」と呼ばれる反射が起こります。内臓の不調が背骨を硬くして、背骨の硬さが手足の関節痛に影響しているためにこの反射が生じます。

内臓は、背骨から出ている自律神経によって支配されています。そして、それぞれの内臓によって、神経が出ている背骨の部位が異なります。たとえば、胃の不調は肩甲骨の間(6番目の胸椎)辺りから神経が始まっているのです。

そして、内臓に何らかのトラブルが生じた場合、内臓を支配している自律神経が背骨にその状況を伝えるのです。

具体的には、トラブルが生じた臓器に対応する背骨の部位に、関節の硬さや痛み、過敏性(軽く押しただけでも痛みが生じる)が起こります。たとえば、胃に問題が発生した場合、肩甲骨間に痛みや重だるさなどを感じることになるのです。

内臓のトラブルによって体の中心を支える背骨の運動が制限されていると、末端にある手足の関節に大きな負担がかかります。

背中を丸めた姿勢のときと伸ばしたときでは、バンザイをしたときにどちらが肩に負担を感じるでしょうか。おそらく、背中を丸めて手を挙げたときの方が、肩につまりを感じて挙がりにくいと感じたはずです。

これは、姿勢を悪くしていることで、背中の動きが制限されてしまい、その分だけ肩関節に過剰な負担がかかってしまったために起こっている現象になります。

股関節やひざ関節といった下肢にも同じように、このような背骨とのつながりがあります。

こうしたことから、ひざや肩といった四肢の関節痛の患者に対しても、内臓のトラブルまで考える必要があるのです。

内臓トラブルは食事の不摂生が原因であることが多い

理学療法士が対応する患者によく見られる四肢関節のトラブルは、内臓のトラブルに起因するものであることが多いです。

そして、内臓のトラブルは食事の不摂生から起こっていることがほとんどだといえます。ストレスや睡眠不足などの影響で内臓に不調が生じていることもありますが、食生活の問題であることが多いです。

しかし、こうした内臓のトラブルは、一般的な血液検査などでは発見できないレベルの現象です。つまり、検査などを行っても異常として捉えることは難しいです。

また、食生活に問題があるといっても、的確な食事指導を行える職種の人は周りにいません。たとえ食生活に対するアドバイスを受けたとしても、医師から「カロリーを抑えましょう」「油をとり過ぎないようにしましょう」「アルコールを控えましょう」といったレベルの指導を受ける程度です。

こうした表面的な対応では、アドバイスが曖昧なだけでなく、「どのような食事が、なぜ、どのように症状につながっているのか?」ということが全く説明されていないため、患者側としても容易に納得することはできません。

漠然とした一般論ではなく、その人に応じた具体的なアドバイスが必要だと感じます。

私が患者に接するときは、下記のように説明しています。

「背中のこの部分が押したら痛いですよね? ここは○○という臓器に負担がかかっているときに硬くなります。背骨のこの部分の動きが悪くなると、今痛みが出ている肩にも悪影響を与えます。そして、○○に負担がかかる食生活としては××などが考えられるのですが、思い当たるふしはありませんか?」

こうしたやり取りを行い、患者自身が自分に当てはまると腑に落ちれば、自然と患者は理学療法士のアドバイスを聞いてくれるようになるのです。

しかし、こうしたアドバイスをするためには、内臓から背骨のつながりを理解している上に、各臓器の機能が低下する食生活などについて把握しておくことが前提になります。

特定の疾患を理学療法の治療の裏付けとする

このように私が食事の重要性について考えているときに学んだのが分子整合栄養医学です。

分子整合栄養医学は興味深い学問であるものの、扱っている内容が非常に細かく、理学療法士レベルの知識では全く理解できません。また、血液検査や毛髪検査、便検査などを元に治療方針を決定するため、直接理学療法に応用することは困難です。

しかし、それでも分子整合栄養医学を理学療法の現場に応用することはできると思います。

先ほど述べたような内臓の自律神経支配について考えたとき、副腎(ふくじん)と呼ばれる臓器のトラブルは、背骨の肩甲骨の下半分から腰上辺りに影響します。

つまり、腰の上の方に硬さや痛みが生じた場合には、副腎に何かしらのトラブルが起こっていることが予測されます。これは、理学療法士でも考えられるレベルです。

そして、副腎のトラブルというと「副腎疲労症候群(ふくじんひろうしょうこうぐん)」が挙げられます。副腎疲労候群とは、ストレスなどによって副腎に過剰な負担がかかり、副腎が疲弊してしまっている状態です。

理学療法士の視点から考えると、副腎疲労症候群になると、肩甲骨下半部から腰上にかけてトラブルが発生する可能性が高いといえます。

また、副腎疲労症候群にはいくつかの特徴的な症状があります。たとえば、「立ちくらみ」や「朝が起きられない」「塩分の渇望」などは、副腎疲労症候群に特徴的な不調です。そのため、私が患者と接するときには、背骨の状態と合わせてこれらの症状を聴取します。

身体所見と訴えが副腎疲労症候群のそれと一致すれば、その患者のトラブルに副腎疲労症候群が関わっていることが予測されるのです。

もちろん、そのときに副腎疲労症候群に理解があるドクターが近くにいれば、そのドクターに紹介すれば良いでしょう。ただ、誰もが回りにそうしたドクターがいるわけではありません。

そうしたときに、分子整合栄養医学の知識があれば、この人はとにかく「ビタミンC」や「マグネシウム」が不足している可能性があるということを予測できます。

必要な栄養素を豊富に含む食品を摂取するようにアドバイスしたり、栄養素を体内で消耗してしまう要因を取り除くようにアドバイスしたりすることができるのです。

このたとえは、非常に短絡的からもしれませんが、分子整合栄養医学の知識を深めれば、理学療法の様々な現場に応用することができます。

理学療法の現場では慢性炎症が問題視されている

理学療法の現場では、なかなか治らない「慢性炎症」が問題となることが多いです。その際に、理学療法士として関与できることは限られています。

このとき、分子整合栄養医学を学んでいれば、「食事」という側面から慢性炎症について考えることができます。

たとえば、「日常生活で無理をしていないのに関節の炎症が治まらない人」がいたとします。このようなケースに向き合ったとき、分子整合栄養医学を学んでいれば、食事という視点からも慢性炎症に対してアプローチできます。

具体的には、食事で肉類ばかりを食べて、炎症を強めるオメガ6系脂肪酸を過剰に摂取していないかを確認します。さらに、青魚や亜麻仁油(あまにゆ)などが豊富に含まれている、オメガ3系脂肪酸の摂取状況についても確認します。

オメガ3系脂肪酸は、炎症を抑える作用を持っています。

普段の食事でオメガ6系脂肪酸の摂取が多く、オメガ3系脂肪酸の摂取量が少なかった場合、こうした栄養の偏りが慢性炎症に関与している可能性があると推測されます。

そこで、オメガ6系脂肪酸の使用を避けて、オメガ3系脂肪酸を豊富に含んでいる食品の摂取を心がけるようにアドバイスすることができます。

このように、理学療法士が頻繁に遭遇する慢性炎症に対しても、分子整合栄養医学の知識を活用することができます。

細胞の活動が悪いと理学療法の効果は発揮されない

理学療法士が実施する理学療法は、徒手療法にしても運動療法にしても、患者の体の細胞が元気であって、はじめて効果を発揮します。

そのため、細胞レベルでの栄養状態を考える分子整合栄養医学の知識は非常に重要です。

たとえば、筋力が落ちている人に対して筋力トレーニングを指導したとします。ただ、その患者の筋肉細胞における栄養が不足している状態では、いくら正しい運動を行っても筋肉量は増えません。

また、痛みに関しても同様です。痛みが出現しているところは、細胞が傷ついている可能性が高いといえます。細胞が損傷した後、治る過程で炎症性物質が発生して、その物質が元で痛みが発生します。

その痛みが治るためには、当然ながら「細胞の傷」が治らなければいけません。このときに、栄養素不足で細胞における代謝が上手く行われていないと、傷の修復は遅くなります。

このように、理学療法の効果を十分に発揮するためには、細胞が活発に活動していることが必須です。そのため、細胞レベルでの栄養状態を評価してアプローチする分子整合栄養医学は、理学療法を行う前のベースとしても欠かせないものだといえます。

理学療法士の観点から見る分子整合栄養医学のメリットとデメリット

理学療法士が分子整合栄養医学の知識を学ぶことは非常に有効です。これまで行ってきた理学療法を、より深くすることにつながりますし、新たな視点から理学療法を考えるきっかけにもなります。

しかし、まだまだ理学療法士業界では、分子整合栄養医学を本格的に学んでいる人は少ないです。それにはいくつかの理由があります。

必要性を感じていない
理学療法士の中には、栄養学について学ぶ必要性を感じている人が少ないです。患者の栄養状態まで考えなくても、ある程度の結果が得られるためです。

たとえば、整形外科クリニックであれば、理学療法の対象となる患者さんのほとんどは、「痛み」という症状に悩まされています。そして、そうした痛みの多くは、体の柔軟性や筋力を改善することで軽減します。

既に述べたように体の柔軟性低下には、根本的な問題として食事や栄養状態があることは多いです。ただ、全ての人が食事や栄養に問題があるわけではありません。

仮に、栄養状態の悪さが痛みの根本的な原因であったとしても、マッサージやストレッチなどで体の柔軟性を高めることで、「痛み」という症状は一時的にですが解消できます。もちろんこうした対処は、薬などと同じで「対症療法」でしかありません。

一方で、マッサージやストレッチなどの対処療法で症状が軽減することで満足している理学療法士は多いです。加えて、根本的な原因に栄養状態の問題があることに気付いている理学療法士は少ないと思います。

このように、理学療法士には、そもそも栄養について学ぶ必要性を感じていない人が多いことが、分子整合栄養医学が認知されていない原因だと感じています。

臨床の現場で活かせない
理学療法士の中には、分子整合栄養医学を本格的に学んでいる人も存在します。ただ、そうした人たちには、「得た知識をどのように活かせば良いのか」悩んでいる人が多いです。

分子整合栄養医学では、血液検査や毛髪ミネラル検査、便検査などから、その人の栄養状態を把握します。しかし、理学療法士が検査の解釈方法を学んでも、自分が勤めている病院の医師が分子整合栄養医学について学んでいなければ、患者の検査結果を得ることはできません。

また、検査結果がなくても、身体所見や訴えなどからある程度の栄養状態を予測して「○○と××と栄養素が不足している」と判断しても、サプリメントなどのアドバイスをすることは難しいです。

理学療法士は、医師の診断の元でしか理学療法を実施できません。そのため、病院で分子整合栄養医学を推奨している、もしくは、治療の一環としてサプリメントの処方を行っているようなところに勤めていなければ、患者に対してアドバイスすることはできないのです。

このような現状を踏まえ、理学療法士として行えることは、「身体所見などから問題点を予測し、それに合わせた食事に対するアドバイスを行う」ということになります。確かに、これだけでも理学療法士が分子整合栄養医学を学ぶ価値はあります。

しかし、分子整合栄養医学を学んだ理学療法士の多くは、「物足りなさ」を感じています。つまり、「あれほど深く学んだのに、実践できることが限られている」というジレンマをもっている人が多いのです。

こうしたことも、理学療法業界に分子整合栄養医学が波及していない1つの要因だといえます。

理学療法士の立場から見る分子整合栄養医学の将来像

いくつかの課題はあるものの、理学療法士の立場からすると、分子整合栄養医学の考え方はどんどん広がっていくと考えています。

以前と比較して、患者自身が健康に興味をもって勉強しており、「食事による根本的な病気の予防・改善をしたい」と考えている人は増えてきています。

患者から受ける相談の中には、「○○というサプリメントは効きますか?」「××という食べ物は体に良いですか?」という個別の質問に及ぶものがあります。それほど、患者自身が食事や栄養に興味をもっているということです。

ですが、既に述べたように、分子整合栄養医学の考え方は、理学療法士をはじめとするコメディカル(医療従事者)にはまだそれほど普及していないという事実があります。

そのため、今後さらにコメディカルに分子整合栄養医学の考え方が取り入れられていけば、そこから患者にも広がっていくのではないかと考えています。

そのためにも、分子整合栄養医学を学び・実践する医師が増えたり、コメディカルが理解して応用できるレベルまで学習する内容を簡素化したりすることが必要ではないかと感じています。

近年は、特に病気の予防がますます重要視されています。理学療法士の立場から考えても、分子整合栄養医学の必要性を感じる人は増えてくるのではないかと思います。

理学療法士の仕事を通じた栄養療法にまつわるエピソード

私はこれまでに、本などから学んだ分子整合栄養医学の知識を臨床に応用してきました。

私が分子整合栄養医学を知ったきっかけは溝口徹先生の書籍でした。そこから、分子整合栄養医学や「機能性低血糖(きのうせいていけっとうしょう)」といった概念を知ったのです。

そして、わずかな知識ながら、どうにかして臨床に応用していきました。

理学療法の現場においても、機能性低血糖であろうと思われる症状に悩まされている人は多いです。倦怠感や脱力感といった原因がわからないような不調に苦しんでいる人たちです。

そうした患者に対しては、いくらマッサージなどの徒手療法や、エアロバイクなどの運動療法を実施しても、ほとんど効果が得られません。

ところが、「甘いものを減らしてみましょう」や「もう少し炭水化物を少なくしてみたらどうでしょうか?」とった簡単なアドバイスを行ったところ、元気になっていく人がたくさん出てきたのです。

また驚くことに、「食事を変えることで、これまで長年悩まされていた関節痛などの、食事とは全く関係ないような症状が改善していく」ことが多々見られるようになりました。

中には、徒手療法や運動療法を行わずに、食事に対するアドバイスを行っただけで、痛みなどが改善した患者もいたのです。

こうした経験から、私は患者の栄養状態や食事がいかに大事であるかを実感することになりました。

分子整合栄養医学を学ぶ理学療法士からのアドバイス

理学療法士が分子整合栄養医学を学ぶときには、誰でも多少の抵抗を感じると思います。既に述べたように、理学療法士にできることが限られているのが一つの原因だと思います。

私からのアドバイスとしては、分子整合栄養医学の知識をそのまま使おうとするのではなく、「どのようにして理学療法に応用できるのか?」ということを考えながら分子整合栄養医学を学ぶと、勉強したことが活かせると思います。

これを意識することで、抵抗なく勉強することができますし、実際の臨床にも活用できるようになります。

私なら、まずは背骨の状態から「どの臓器にトラブルが発生している可能性があるか」ということを予測します。

その上で、分子整合栄養医学で学んだ、「栄養素の不足で起こりやすい症状」などを問診で聞き取り、身体所見(背骨の状態)などと総合して体の状態を把握します。つまり、身体所見に加えて、分子整合栄養医学的な要因も含めて、総合的に患者の状態を予測するのです。

このようにして、分子整合栄養医学の理論の学習と臨床への応用を繰り返すことが、治療の判断の妥当性を高めることにつながりました。

分子整合栄養医学を学ぶ前は、副腎レベルで背骨の硬さが顕著になっている患者に対して、「副腎機能に問題があるのかな?」という曖昧な推測しかできませんでした。

それが、分子整合栄養医学を学ぶことで下記のような仮説を立てることができるようになりました。

・副腎疲労症候群が原因で背骨が硬くなっているのでは?
・もしそうであれば、この患者には朝起きられなかったり、夕方などに疲労感が強くなったりといった症状があるのでは?
・睡眠不足やストレスなどの問題も抱えているのではないか?

関連する症状について問診をすることで、私の判断の妥当性を少しでも高めることができるようになっていると感じています。

たとえ検査やサプリメントの処方ができなくても、分子整合栄養医学の知識を、理学療法の現場に活かすことは可能です。

理学療法士が分子整合栄養医学を学ぶときには、「どのように現場に活かせるだろうか?」ということを考えながら、勉強することをお勧めします。

そうすることで、得た知識を実際の臨床に応用することができるようになるはずです。

分子整合栄養医学の普及に向けて

個人的な意見として、もっとコメディカルに分子整合栄養医学を広げていきたいと感じました。

そのためには、私自身がもっと分子整合栄養医学について勉強しなければいけませんし、コメディカルが理解して実践できるように、解釈して応用しなければいけません。

もちろん、臨床の現場における食事の指導などで活かしていくことは可能です。しかし、分子整合栄養医学の必要性をコメディカルに広げていければ、結果的に多くの患者の健康につながるのではないかと感じました。

以上、理学療法士である自分が考える分子整合栄養医学の有用性や限界、栄養療法を活用した臨床応用やスキルアップに関してご紹介しました。

私の書いた記事が、「分子整合栄養医学を学び・臨床に応用することで自身の技能向上に役立てたい」と考える理学療法士やコメディカルの方の参考となれば幸いです。

記事協力:理学療法士 富永康太

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