今回は、小学生や中学生を対象としてスクールカウンセリングの経験を持つ臨床心理士(りんしょうしんりし)から見た栄養療法とその関わり方の可能性についてご紹介します。

思春期の子供を持つ保護者として、子供の体調不良を改善するために分子整合栄養医学を学び・実践したいと考えている人は参考にして下さい。

臨床心理士とは

臨床心理士とは、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会よる心に取り組む「心理専門職」の資格をいいます。協会が認める心理系の大学院修士課程修了者に受験資格が与えられます。

筆記試験と面接試験に合格することによって臨床心理士資格を得ることができますが、5年ごとに更新が必要です。

臨床心理士と近接する職種との違いは、下記の表現がわかりやすいと思います。

お医者さんの場合、人(医師)は人(患者)にかかわり、病んだ状況をもとの元気な姿に戻すことによって、その専門性を人(患者)にもたらす、病気を治す専門家です。

学校の先生は、人(教師)が人(児童生徒)にかかわり、教育目標である読み書き算数や、人間のあるべき姿(正直で、誠実で、優しく、勇気と正義を尊ぶなど)を、こどもの学ぶ権利として教える義務があります。

臨床心理士は、人(クライエント)にかかわり、人(クライエント)に影響を与える専門家です。

しかし、医師や教師と異なることは、あくまでもクライエント自身の固有な、いわばクライエントの数だけある、多種多様な価値観を尊重しつつ、その人の自己実現をお手伝いしようとする専門家なのです。

日本臨床心理士資格認定協会HPより引用

臨床心理士の役割

臨床心理士の仕事は、心の問題を抱えたクライアントと向き合い、その人にあった臨床心理的技法を用いることで問題解決へと導くことです。

臨床心理士は民間資格であるため、人々のメンタルを支えるという一貫した使命はあるものの、複数の方法論や流派、専門分野などが存在します。

・医療分野(病院・保健所など)
・教育分野(スクールカウンセラー・学生相談員など)
・産業分野(企業の健康管理室・相談室など)
・福祉分野(児童相談所・児童養護施設など)
・司法分野(家庭裁判所・少年院など)
・独立カウンセラー(起業・開業)

その中で、私のような「スクールカウンセラー」と呼ばれる人たちは、小学校や中学校、高校などの教育機関で、生徒の問題行動や学業放棄、不登校、いじめなどを解決するよう取り組みます。

こうした取り組みは、子供たちだけでなく、教師や保護者らとも積極的に関わることで適切な助言や支援を提供することが可能となり、生徒の生活をより良いものへと導いていくことができるようになります。

臨床心理士のカウンセリングは千差万別

心理カウンセリングや心理療法には種々の流派があり、類似した流派を含めると30流派になります。臨床心理士がそのすべてに精通し、現場に応用しているというわけではなく、取り入れている数は多い人でも3流派ほどです。

各流派に加え、臨床心理士の世代、性別、キャラクター、クライエントとの相性がかけあわさると、提供される支援は多様であるといえます。

臨床心理士が提供するサービスが多様であることは、クライエントにとってメリットになると思います。その理由は、「どこかに必ずクライエントに一致したアプローチとそれを支援する臨床心理士が存在する」からです。

私自身は、暗示やイメージの力を援用するブリーフセラピー、身体志向のトラウマセラピー、行動の前後の環境変化に着目する応用行動分析などをクライエントのニーズに応じて適宜実践しています。

クライエントに対する3方向からのアセスメント

私はクライエントの主訴の解決のために、A:本人の体質B:トラウマの影響C:現状の人間関係、の3方向から立体的にアセスメントしています。

クライエントの悩みは、上記のどれか一つの要因で生じていることはまれで、多かれ少なかれこれらのすべての要因の影響を受けています。

具体的には、下記の方法に即して提案、実施、効果検証していきます。

A:本人の体質→薬物療法、分子整合栄養医学治療、食事栄養指導
B:トラウマの影響→トラウマセラピー、環境調整
C:現状の人間関係→環境調整、コミュニケーションスキルの獲得

クライエントには、自分が変えやすいところから変えるようにアドバイスしています。

分子整合栄養医学を知るようになったきっかけ

私が社会人として就職した精神科クリニックで、栄養素と精神疾患の関わりについて初めて学びました。そのクリニックに勤める精神科医は、私たちに下記を教えてくれました。

  • 過呼吸などのパニックを誘発するコーヒー等のカフェイン飲料はやめて、代わりに水を飲む。
  • 一時的な安心を得られたとしても、チョコレート等の甘いものはやめる。血糖値が急激に低下した際に、さらに強い不安感や焦燥感を招くため。
  • PMS(月経前症候群)にコーヒー、チョコレートを避けることは有効である。
  • 空気が読めないなどのコミュニケーションの問題には、小麦製品や乳製品除去を追加することが有効である。
  • うつ症状をみたら「うつ病」とすぐに判断しないこと。うつ病は甲状腺機能異常症(こうじょうせんきのういじょうしょう)などの身体疾病と鑑別される場合がある。

また、事例検討会にて、先述の精神科医は、私にこう教えてくれました。

悪夢があったり、中途覚醒があったり、眠りの質が悪い人には、ナイアシンがすごく効く。栄養を整えることで、これまで薬物療法と心理療法を併用しても打開できなかった状況を打開できる。

ほとんどの事例で、睡眠薬や治療薬を減薬できる可能性が出てくる。保険診療では実施しない詳細な血液検査結果を新しい栄養学の視点から検討し、個人の理想のパフォーマンスを実現する分子整合栄養医学というものがある。

 

しかし、精神科クリニックでの臨床の教えとは対照的に、私が学生だった頃は、臨床心理士の養成課程で、「精神・心理症状と食べ物、飲み物が関係する」なんて講義は一度も聞いたことはありませんでした。

学内での事例検討会で、精神状態と食べ物が関係しているなどとは、一度も触れられることはありませんでした。

私は、精神科クリニックの職場で、「落ち込んでいたクライエントが、診察室や面接室から晴れやかな表情で退室してくる姿」を何度も目にしています。

クライエントの症状の出現頻度と強度が軽減・解消されていくのを認識していたので、「心と飲食物に因果関係が本当にあるのか?」という疑問は全く浮かびませんでした。むしろ「心と飲食物の関係」は、クライエントの悩みの解決のための、重要なファクターなのだと捉えていました。

精神疾患と栄養素に深い関わりがあることは知っていたものの、実際に「分子整合栄養医学」という言葉を耳にしたのは、それから5年後のことです。

分子整合栄養医学は、クライエントを救い、彼らの夢を実現するための重要な選択肢の1つになるだろうと、とてもワクワクしました。

分子整合栄養医学に関心と期待を抱いた私は、新宿溝口クリニック 溝口徹先生が主催するセミナーに参加し、認定ONPの資格を取得しました。

分子整合栄養医学は、臨床心理士としてクライエント本人の体質を理解する視点を深め、栄養という新たなアプローチ方法を教えてくれました。

そして、子どものパフォーマンスが思わしくないときに、その原因を「子ども本人の意志の弱さ」や「努力不足」のみに言及することがいかに「的外れ」であるのかを私に示してくれました。

分子整合栄養医学を取り入れている臨床心理士はいない

ほとんどの医師が分子整合栄養医学を知らないと言われています。

それと同様に、臨床心理士の養成課程(大学、大学院教育)での講義や事例検討会で、心理状態と栄養の関係に触れられることはまずありません。

唯一、栄養素を用いた心理療法を目にしたのは、「臨床心理学(金剛出版)」という学術雑誌で、2013年7月から2015年5月までの全12回にわたって連載された 精神科医 功刀浩先生による「こころの栄養学」のみです。

功刀浩先生が寄稿していたのは、統合失調症や双極性障害、アルツハイマー病と食生活、栄養素との関係についてです。

ですから、統合失調症や双極性障害などの治療に関わっていない臨床心理士は、ほぼ全員が分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学のことは知らないでしょう。

以前、臨床心理士として優秀な方に分子整合栄養医学の話をしたら、私は「変な人」だと思われてしまいました。

しかし、クライエントの利益になり得るかもしれない情報提供は、精神科医療機関をご紹介することと同じであると私は考えています。

もちろん、誰彼かまわずに分子整合栄養医学を実践している医療機関を紹介しているわけではありません。

自死、自傷他害の危険性が強い場合や、重度の不眠がある場合、はじめから精神科を利用することを検討された方が経過良好になりそうな見通しが立つ場合は、クライアントに対して精神科受診をお勧めしています。

子供たちを取り巻く環境

小学校や中学校、高等学校でカウンセラーとして働いている私が注目していることがあります。

それは、学業成績下位の子どもと、心身の不調を訴えて保健室を高頻度で利用する子どもとが、かなりの確率で一致しているということです。そして、その数は学年全体の子どもの数の3分の1にも及んでいるということです。

勉強が苦手だから、ストレスを感じて心身に不調をきたす子どもが多いとらえる専門家もいるでしょう。しかしながら私は逆に、心身の不調が効率的な学習意欲と集中力を子どもから奪い、学業成績を低下させていると捉えています。

つまり、心身の不調から子どもが解放されるのなら、子どもの学業成績のさらなる向上が期待できると考えました。

実は、この3分の1のグループの中には、アスリート級の能力を持ち合わせている子どもたちも含まれていました。心身の不調に対して適切なアプローチがなされるなら、彼らのスポーツ・芸術分野における成績は、今よりもさらに飛躍することが期待されるでしょう。

現在、子供たちの健康状態を把握するための方法として、小学生では毎朝、子供たちに心身の不調があるかないかを確認する「健康調査」の時間が設けられていることがあります。

しかし、中学校以降は、毎朝の「健康調査」は実施されません。生徒が何等かの体調不良を訴え、保健室に来室しなければ、心身の不調を把握することができません。

私としては、不登校を予防し、運動や音楽などの能力を伸ばしていくためには、子ども全員の状態を把握しておく必要があると強く認識しています。

そこで、私が中学校で毎月1回のペースで実施しているのが、「パフォーマンスマネジメント」と題した独自アンケートです。アンケートは下記4つのカテゴリーで構成されています。

  1. 学習・部活動・友人関係・家族関係のそれぞれにおいて、自身が理想通りにパフォーマンスできているのか「4段階」で評価する。
  2. ○○痛などの身体症状の有無と睡眠の質について記録する。
  3. 1日に食べるおかずと甘いものの量をそれぞれ3段階で評価する。
  4. 振り返りや感想を自由に記述する。

これまで行ってきたアンケートの結果を踏まえると、「頭痛を抱える子どもたち」の多さは際立っています。1クラスに30人が在籍しているとすると、その中で2・3人の生徒が「頭痛」にチェックしていました。

驚きだったのは、1年を通して毎月、頭痛にチェックをしていた生徒が複数名いたことです。

その中の1人に担任を通じて、「頭痛について誰かに相談したことがあるのか」と尋ねてみると、下記のような答えが返ってきました。

母親に相談して、一度、一般内科の病院に行って全身の精密検査をしたことがある。けれど、特に異常はないと言われた。
私と同じく母親も片頭痛持ち。母親からは、「あなたは頭痛と一生付き合っていかないといけない。仕方がないね。」と言われたから、そうだと思っている。

こうした生徒の慢性的な体調不良は、アンケートによって存在を把握することができました。しかし、中学・高校では基本的に保健室に来室する子どものことしか把握できません。

頭痛はあるけど、保健室に行くほどではないと我慢したり、辛抱強い性格の子どもは、「ひたすら痛みに耐える」という選択肢しかない状態になっているのかもしれません。

また、医療に救いを求めても、一般的な医師には「栄養素を用いて体調を改善する」という視点がありません。そのため、「特に異常なし」とみなされて、なんのアプローチもされずに我慢を強いられている子どもがたくさん存在する可能性も見受けられます。

・痛みに耐えながら学力を伸ばす。
・痛みに耐えながらスポーツや文化活動に打ち込む。
・痛みに耐えながら人間関係を育む。
・痛みによって本来の能力を発揮することができない。

こうした選択肢しか残されていなければ、子ども本人にとっても、社会にとっても、大きな損失となることは間違いないでしょう。

栄養療法によるカウンセリング事例

現在の私は、小学校や中学校、高等学校でカウンセラーとして働いています。ここでは、思春期の子供たちと関わる中で実際に起きた事例を書きたいと思います。

中学3年生女子:リストカット衝動とPMS、集中困難

中学3年生の冬休みを目前にした12月に担任を通じてカウンセラーに紹介される。特に友達とけんかがあったとかではないが、2学期に入ったくらいから自身が友達から浮いているような気がしてモヤモヤしてくる。

モヤモヤしてくるといつの間にかリストカットしてしまっている。
生理前は特にそのモヤモヤがひどくなっている。初潮は中学1年生の時。

このような事例の場合、まず検討を要するのは、要因Cのいじめや虐待のような関係性に今さらされていないかどうかということです。

彼女はとしては心あたりがないと述べています。しかし、いじめや虐待の被害者は被害にあっていることを認めたくない心理(否認の心理)が働くため、彼女のいうことを鵜呑みにしてはいけません。学校側にはアンテナを張っておくように伝えました。

要因Bトラウマについては、彼女の生い立ちからこれまでの暮らしぶりから探りました。こちらについてもトラウマを示唆するエピソードはこの時点では見つかりませんでした。もちろん、面接の経過の中で思い出されるエピソードもあるので注意しておく必要があります。

彼女のコメントから明らかだったのは、生理前にモヤモヤが通常時よりも激しくなるということでした。

これは要因Aに当たります。ここにポイントを絞ってカウンセリングを行います。

私が「そんなにモヤモヤしていたら甘いものでも食べないとやっていられないのでは?」と尋ねると、「そうそうチョコレートが止まらないの。毎日一袋全部食べちゃう。」と彼女は答えたのでした。

さらに彼女の好物は、「パスタ」と「総菜パン」でした。これでは糖質過多でタンパク質不足が明らかでした。

そこで、彼女に対して食事栄養指導を実施しました。3食の糖質はOKだが、野菜→たんぱく質→糖質というように食べる順番に気を付けてもらうようにしました。

また、おやつはチョコレートなどの甘いものとジュースは禁止し、するめやナッツなどのタンパク質とお水をすすめました。食事については家族の協力と理解が必要でした。本人に同意を得て、家族には、本人の状態と食事、おやつの注意点を伝えました。

冬休みが明けてからのカウンセリングでは、彼女はシャープな容姿になっていました。

そして、「なんでリストカットしたくなっていたのか、今から考えるとかわからない。」と言えるくらい回復していました。「その後リストカットは一度もしなかったし、冬休み中に迎えた生理も、今回は痛みやイライラもなくてすごく楽だった。」とのこと。

「実は、モヤモヤがあった頃は、勉強に集中しようとしても3分しかもたなかったのだけれど、今は3時間も集中できるようになったんだよ。エッヘン!!」と自慢げに好調ぶりをアピールしてくれました。

高校2年生男子:重度の貧血と血糖調節障害、不登校

夏休み明けの9月に教育相談を通じて紹介される。すでに本人は不登校状態になっており、保護者のみとの面接になった。

生徒本人は、中学生時、内申点45点、学力テストでも470点以上をとっていた。スポーツでも県大会で優秀な成績をおさめていた。

高校1年生は無難に過ごした。2年に進級してから、部活内での人の目を急に気にするようになり、人間関係について考えこんでいる様子であったとのこと。そのうちに、朝に起床を促しても目は開くが動かずそのまま寝てすごすようになり、学校を休むようになった。

親と本人とは食事は一緒に食べていて話もするが、学校の話題になると急に表情が曇って自室にこもるような状態であるとのこと。

この事例においても要因Cいじめ、虐待の有無は最初に検討されるべきポイントです。

スポーツでも優秀であったので、部内の同じ2年生から嫉妬されていやがらせを受けていないかなどを検討しましたが、学校も注意して観察してみたものの、そのような様子はなかったとのことでした。

要因Bトラウマについても、これまでに命に係わるような事故や手術を受けたことはないし、家庭内に暴力や暴言に及んでしまう人、アルコールの問題で豹変してしまうような人はいないということでした。

ところが、要因Aについては気になる情報が保護者から得られました。

母親は「献血を断れられるほどの重度の貧血」を妊娠・出産前の若いころから患っていたのです。しかし、母親は貧血に対して何ら改善の手を打っていませんでした。さらに、父親には糖尿病の傾向があるということでした。

そこで私は生徒の保護者に、下記のことを伝えました。

息子さんのように人の目が気になって不登校になった場合、サポートする主な専門家は精神科医やカウンセラー(臨床心理士)になると思うのですが、実はこの2つの専門家が見落としがちなポイントは1つあるのです。それは精神、心理症状をもたらす身体要因の鑑別です。

たとえば、甲状腺機能の低下や栄養の相対的な不足、もしくは、利用障害でも同じような症状がおこるのです。そこで、可能ならばクリニックでの血液検査をお勧めします。

「精神科で採血された」というような話をお聞きになられたことは少ないと思います。まれに血液検査をする精神科も存在しますが、大抵の場合は、薬物療法によって肝臓などの臓器機能に副作用が出ないかどうかをみるためベースラインをとっておくためです。

あるいは、血中濃度を一定以上保たないと効果が出ない薬物を使用したときのチェックとして実施されることがほとんどで、身体要因の鑑別のためには利用されていないのです。

私が血液検査をお勧めするのは、精神症状の原因が重度の貧血と副腎疲労(ふくじんひろう)だったクライアントが過去にいたからです。

その生徒は、精神科での薬物療法と臨床心理士による心理カウンセリングを受けており、なんとか1年は進級できました。しかし、その翌年には欠席、欠課時数の上限が来てしまい退学してしまったのです。

私はその生徒に対して分子整合栄養医学を実践する医療機関で、詳細な血液検査を受けてもらうようアドバイスしました。

すると、その生徒は、「重度の鉄欠乏性貧血」「副腎機能の低下」が認められました。そして、適切な治療を行ったことで、体調を改善することができました。

心の病気を引き起こしている身体的な不調の鑑別は、本来は治療の最初になされることが望ましいです。そして、その鑑別は、分子整合栄養医学の知識がある医師によって見つけることが可能です。

実際に治療に取り組むかどうかは、検査の結果が出たときに本人と相談した上で決めて下さい。

 

私のアドバイスを受け、生徒は両親と共に分子整合栄養医学の医療機関を受診し、血液検査と5時時間糖負荷検査を受けてきてくれました。

そして、1か月後に結果が判明しました。その男子生徒は、食後90分後に1度低血糖になりその後、再び3時間半から4時間半まで低血糖状態でいるという「乱高下型低血糖症」と診断されました。

加えて、成長期にも関わらず、血清フェリチンの値が10しかなく、「重度の鉄欠乏性貧血」と診断されました。治療として糖質制限とヘム鉄、ビタミンB群のサプリメント摂取がなされました。

私が予想した通り、男子生徒の心の不調の背後には、明らかな栄養不足と代謝異常があったのです。

しかし、分子整合栄養医学による治療は思うように進まず、その後は、保護者のみのカウンセリングが続きました。カウンセリングは進めているけれど、息子は学校に登校はしたくないということでした。

男子生徒の欠席日数、欠課時数(授業を欠席した時間)の上限を超えたある日、保護者と話をすると、学校から今後についての説明があるとのことで、男子生徒が別室に登校しているとのことでした。

母親は私が男子生徒に会うことを希望していました。私も本人に会って話をした方がよいと判断したので、母親を伴って本人に会いしました。

入室すると、男子生徒の緊張が伝わってきました。そこで、彼の緊張を和らげるために声をかけました。

「低血糖や鉄欠乏がわかっても、やっぱり自分の意志や努力不足でこうなってしまったのだと自分自身を責めているの?」と私が訪ねると彼は大きくうなずきました。

話をしながら確認してみると、男子生徒は、中学から高校での変化について語り始めてくれました。

もともと朝の起床が苦手だったのが、自宅から遠方の学校への通学で時間がかかるため、起床時間がとても早くなった。部活を精一杯やってから帰宅するので、帰宅時間もかなり遅くなったとのこと。そこから高校の勉強の予習復習や宿題をこなすと深夜1時を過ぎるのは当たり前になった。

また、高校1年生の夏に、部活でトップアスリートの食事を習いそれをすぐに実践した。それは、炭水化物6割、肉2割、野菜2割を摂るというもので、おやつには「おにぎり」を推奨された。

その食事を実践するようになってから、疲れがとれない睡眠(中途覚醒)が続くようになった。そのうちに、日中にもひどい眠気を感じて、授業中に居眠りしてしまうようになった。

授業中に眠るなんて先生に失礼だから起きていなくちゃいけないと思っているのにも関わらず、どうしてもまぶたが閉じてしまう。

帰宅後も眠気で宿題がこなせなくなってきている。勉強への焦りが湧いてくるのだか授業に集中できない。なんて自分は頑張れないダメな奴になってしまったのだろう。

そう考えているうちに、部活で人の目が気になるようになった。皆、同じように練習メニューもこなしていて疲れているはずなのに、勉強もしっかりやっている。

でも自分は頑張っているのにどんどんだめなやつになっていく。いや、そうなるのは自分が頑張っていないせいなのかもしれない。そうこうしているうちに、起床時間に目を開けることができても、体が動かせない状態になってしまった。

 

男子学生の話を受けて、私は彼に言葉をかけました。

高校入学後の生活の変化によるストレスと部活でのハードトレーニングによる疲労に対して、回復が追い付かなくなってしまったのだと思う。

日中も帰宅後も常に睡魔に襲われたのもその一方で夜に浅いに眠りになってしまったのも、低血糖症による血糖値の乱高下による影響が大きかったと思う。

友達も同じように部活の後におにぎりを食べていたと思うけど、君はたまたま血糖調節の苦手な体質であったからその影響が出てしまった。

さらに鉄欠乏とビタミンB群欠乏による症状も加わって、疲労が回復されずにどんどん蓄積していってしまうようになってしまった。つまり、体質の要因が大きかったわけで、君の意志の弱さや努力不足のせいではないのだよ。

だから今続けている分子整合栄養医学による治療を続けて、この体質を改善してくことを一番に考えていけばよいよ。

 

私の話を聞いて、彼は少し笑顔を見せてうなずいてくれました。

現在、男子生徒は、医療機関からの指導のもとで、現在も分子整合栄養医学による治療を続けています。睡眠の質の悪さと起床後の動きづらさは、糖質制限とサプリメントの摂取によって、だいぶ回復しているとのことでした。

臨床心理士から見る分子整合栄養医学のメリットとデメリット

学校で多くの子供や保護者と関わる中で感じた、分子整合栄養医学のメリットとデメリットについて記載したいと思います。

分子整合栄養医学のメリット

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学は、脳や身体における生化学的な問題を解消し、知覚(目、耳、皮膚などの感覚受容器からの情報)を修正してくれるものと期待できます。

知覚が修正されるのなら、標準的な臨床心理面接で扱うことの多い認知(物事の受け取り方や意味づけ)の修正もより効果的に行うことができます。

学校生活では、子どもたちの授業中の居眠り、頭痛、集中力欠如、宿題忘れなどは、「本人の意志の強さや努力によって克服・改善するもの」であり、自らコントロール可能だとしか理解されていません。

これに対して、分子整合栄養医学は「自分の意志や努力だけでは対処できない要因が関係しているかもしれない」という視点を与えてくれます。

つまり、子どもの理解や支援方法に新たな選択肢を提供してくれるのです。

分子整合栄養医学の限界とデメリット

分子整合栄養医学の検査も処方されるサプリメントも現在は保険適用外です。患者は全額負担する必要があるため、治療費は高額になる傾向があります。

よって、家庭の経済力によって、利用者を必然的に選抜してしまう医療であると言えます。貧しいがゆえに分子整合栄養医学医療機関への通院を継続できず、自己流で糖質制限やサプリメント摂取をされて体調をかえって崩される方もまれですがいらっしゃいます。

分子整合栄養医学が医療保険適用になるかというと、おそらくならないと思います。

高価なサプリが3割や1割で購入実施できるようになれば、おそらく国民全員が利用することが見込まれます。そうなれば医療費が膨れ上がって日本が破たんしてしまうでしょう。

医師、特に精神科医からの認知度も低いので、「分子整合栄養医学?民間療法、代替療法でしょ。ダイエット?勝手にやって」と医師からバカにされたように言われ、クライエントが傷つくことがあります。

通院したとしても分子整合栄養医学を実施する医療機関がまだまだ少なく、遠方から通院すると通院時間に何時間もかける必要があり、継続は困難になります。

現状の精神科領域に思うこと

溝口徹先生の著書「診たて違いの心の病―実は栄養欠損だった!(2006)」に詳述されていることに、とても共感します。

私としては、精神・心理症状をもたらす身体疾患の視点から患者の状態をチェックすることは、他のコメディカルの人にも広がって欲しいと思っています。

そこに、分子整合栄養医学による生化学的検査や解釈の方法も加えていくことで、より幅広い選択肢や治療方法が提供されるのではと考えています。

また、エピジェネティクスの観点から精神疾患を治療しているウィリアム、ウォルシュ博士(アメリカ)は、著書「Nutrient Power(栄養素のチカラ)」で、統合失調症やうつ病を各バイオタイプ(生化学的分類)に分けて治療を行うことで成果を上げていることを紹介しています。

人それぞれの代謝システムに即した治療が、日本でも展開されるといいなと思っています。

不登校や引きこもり、体調不良で悩んでいる生徒と保護者の方へ

あなた(お子さん)の「困った」の原因は「意志の弱さや努力不足」ではない可能性があります。あなたの意志や努力ではコントロールできないところに原因があるかもしれません。

「困った」はあなた(お子さん)から、時間や集中力、そして希望を奪っていきます。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学による治療だけで、すべての「困った」が解決するわけではありません。しかし、この治療法は、解決の歩みを一歩、二歩と進めてくれる可能性を秘めています。

詳細な血液検査だけでも試してみる価値があると私は思います。分子整合栄養医学による検査を希望される場合は、実践医療機関を受診なさってみて下さい。

あなた(お子さん)が笑って暮らせる日が来ますように願いを込めて。

記事協力:臨床心理士 傍島史聡(そばじまふみさと)

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