天才と分裂病の進化論
デイヴィッド ホロビン

 

 

 

 

 

 

 

本書が出版された2002年は、「精神分裂病」が「統合失調症」という名称へ移行する過渡期であったため、当時一般的に普及されていなかった「総合失調症」という言葉は敢えて使わず、「精神分裂病」と表記しています。

独特の内容構成や高い専門性が障壁となり、この分野に詳しくない人が内容を理解するには時間を要しますが、人類の進化と分裂病の原因解明に関し、多分に示唆に富む内容だと感じられました。

私自身、生化学や栄養療法の知識は浅いですので、正しく理解しているか分かりません。
しかし、本書の骨子として、「チンパンジーと人間を隔てたものは皮下脂肪と脳への脂肪供給であり、特に、脳への栄養素である必須脂肪酸(オメガ3,6)の代謝物であるアラキドンサン、EPA、DHAがヒトの知能を高度化・複雑化させ、その過程で起きた突然変異が分裂病の起源となった」と捉えています。

必須脂肪酸(脳を発達させるためのアラキドンサン、EPA、DHA)は、体内では作れず食物から摂取する必要があるため、ヒトは微細藻類からの食物連鎖を通じて、主に水棲食物から取っていたようです。

チンパンジーも必要な脂肪を摂取するため、白アリを捕まえて食べるほか、残酷にも猿を襲って頭蓋骨を割って食べるのだそう。

脳の発達に伴う突然変異は、人類の文化的、宗教的、政治的、経済的発展に大きく寄与しました。分裂病を発症した本人や家系には、人類の発展に貢献した著名な人も多いそうです。(ジャンヌダルク、ニュートン、ベートーベン、ジョン・ナッシュなど)

分裂病は、いかなる地域、人種においても発生率の差異がなく、地理的分布は人口当たり0.5%~1.5%と一律の割合を示すことが知られています。

精神分裂病患者は、工業国に居住しているものほど症状が重く、必須脂肪酸の摂取量が多い発展途上の国の場合は比較的穏やかだとも明示されています。

著者曰く、精神分裂病の患者は、『リン脂質からアラキドンサンが遊離されない、或いは、アラキドンサンがプロスタグランジンに変換されない』のだそうです。こうした異常体質も栄養素(脂肪)で改善が期待できるのかもしれないとしています。

新宿溝口クリニックの溝口先生始め、精神疾患に栄養療法を導入される医療機関も増えていますが、正にこうした治療法の有効性を裏付ける、貴重な研究データなのでしょう。

残念ながら著者のデイヴィッド ホロビンは2003年に逝去しています。
彼が仮説立てた、分裂病における栄養素の確たる効用やそのメカニズム、チンパンジーとヒトを隔てた遺伝子的構造は完全には解明されていません。

核心に迫るまでのストーリーや背景が読み手をグイグイと引き付ける一方で、精神疾患に対する栄養素(脂質)適応の明確な効果や結果が記載されていなかったのが残念でした。

人によっては理解しながら読み進めていくのは結構大変かもしれませんが、栄養療法おける脂質の働きや、代謝経路をひととおり学んだ人であれば、この書籍の本当の面白さを理解し、著者の鋭い洞察力や先見性に感嘆するはずです!

分裂病の発生メカニズムや治療法という観点以外にも、人類の進化過程、農耕文化の影響、ヒトの食習慣の変遷など、様々な領域にヒントを与えてくれる一冊です。

チンパンジーがコロバス猿を仕留める動画

Chimps vs red colobus monkeys – BBC wildlife

追記:
この本を最初に手に取ったのは2013年頃でした。2015年の今、改めて同じ書籍を手に取ってみると、栄養療法や生化学的メカニズムをより詳しく理解できようになったと感じられます。
本書が意図する内容への理解も以前より一層深まっており、自分の成長を再確認できた瞬間でした。