11月20日(日)に分子生物学者 福岡伸一「医科のための特別アカデミー」を開催します。

本アカデミーの参加資格は「医科の先生」です。
高野から個別の案内は貰っていないけれど、アカデミーに参加してみたいという方は直接ご連絡下さい。


第2回目のアカデミーでは、「トリプトファン → キノリン酸」の代謝機構について、生物学者の福岡先生に詳しい解説と国際学会での最新動向を行って頂きます。



キノリン酸なんて聞いたことない…

難しい用語が出てきたのでびっくりした人も多いと思いますが、
自分では気がつかないうちに「キノリン酸」について勉強していたり、この項目を測定する検査を受けている可能性は高いです。

これについては、後で説明しますね。

「キノリン酸」はトリプトファンから作られる物質です。
「キノリン酸」のことは知らなくても、「トリプトファン」…と、
聞いてピンときた人はいると思います。

「トリプトファン」は、セロトニン・メラトニンといった
神経伝達物質や睡眠ホルモンが合成される際の材料でしたね。

「キノリン酸」や「キヌレニン」はメチレーションやエピジェネティクスの治療に関わりの深い代謝物質ですから、上級者向けの勉強をしているコアな方にとっては他人事では済まない情報です。

本メールは「福岡アカデミー」のメンバーに送っている
「限定メルマガ」から一部を抜粋したものです。

予習・復習も兼ねて読んでみて下さい。


キノリン酸とは

キノリン酸は必須アミノ酸であるトリプトファンが異化されて出来る物質です。

トリプトファンは調節系の神経伝達物質である「セロトニン」に代謝されることは有名ですが、それとは別にトリプトファンからナイアシンを生合成する経路があり、これを「キヌレニン経路」と呼んでいます。

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キノリン酸はナイアシン(NAD)に変換される前の物質で、神経毒ですが、遺伝子や酵素反応に異常がなければ、通常は即座に無毒化され、ナイアシンへと変換されます。

しかし、ヒトによっては無毒化する力が弱いために、「キノリン酸」により細胞が死滅し、アルツハイマー病、自閉症、ハンチントン舞踏病を発症してしまうとする文献もあるようです。

エイズ患者の脳ではキノリン酸のレベルが上がっていることが確認されています。


こうした一連の代謝機構に関しては、メチレーション治療や遺伝子多型、エピジェネティクスの治療で知られるエイミー・ヤスコやベン・リンチの講義を受けられたことのある先生なら既にご存知だと思います。

エイミー・ヤスコの代謝図
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ベン・リンチの代謝図
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ウィリアム・ショーが開発したの「有機酸検査」検査項目にもありますね。
36.キノリンサン 37.キヌレン酸 38.キノリン酸/5-HIAA比率

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これを読むと、
「あ~、メチレーションの代謝図に出てきたんだ!」とか
「有機酸検査の項目にあったんだ。」という感じで
自分が知らず知らずのうちに「キノリン酸」を学んだり、検査していたことに気がついたかと思います。

まあ、そうは言っても、有機酸検査を受けた時に
「キノリン酸」について詳しく解説してくれたドクターはほぼいないんじゃないかと思います。


上の代謝図を見ても分かるように、ナイアシンに代謝される前の「キノリン酸」とは別に、「キヌレニン」という中間代謝物質(アミノ酸)があります。

こちらの物質もチック症との関連が指摘されるほか、白内障、うつ病、ADHD、統合失調症といった精神疾患の原因物質である可能性がいくつかの文献で示されています。


さて、アミノ酸であるグルタミンとキノリン酸の構造は似ていて
両方とも「官能基」を持っています。(COOH)

類似した構造のために、キノリン酸はグルタミン酸の受容体に結合します。
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…と、ここまでは福岡先生の著書「世界は分けてもわからない
の冒頭に書かれていますので、前回のアカデミーに参加したり、動画を購入された際の特典でゲットされた方は読んでみて下さい。


残念なことに、トリプトファンの詳しい代謝経路は、生化学の教科書には殆ど掲載されていません。

福岡先生が監修した「マッキ―生化学」にすら載っておらず、
索引には「キノリン酸」 の頁はありません。

トリプトファンからのキノリン酸代謝経路は非常にマイナーな分野であり、それについて書かれた教科書や専門書はほぼ存在せず、
各種文献から最新情報を収集しているというのが実状のようです。

科学者が「超マイナー」と呼ぶくらいの代謝経路ですから、
我々がアクセスできる情報というのはごく一部の限られたものなのでしょう。

アマゾンで「キノリン酸」とか「トリプトファン代謝」と検索すると
古い書籍や分厚い洋書しかヒットしません。


そして、このトリプトファンの代謝には、キヌレニン経路、セロトニン経路以外に、グルタル酸経路、NAD経路、トリプタミン経路、インドール経路、たんぱく質合成…など、いくつもの代謝経路が存在していてかなり複雑です。

一部のドクターが実践しているメチレーション治療では、
キヌレニン経路とセロトニン経路だけに注目が集まっていますが、
実際の我々の身体では、想像を絶するような煩雑な回路が同時多発的に進んでいて、現代科学が認識できているのはごく一部なのです。


メリット・デメリット

トリプトファンは、セロトニンやメラトニンの材料になるので、
食事やサプリからの積極的な摂取が推奨されることも多いです。

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しかし、文献によってはトリプトファンを大量に摂取してしまった場合の弊害も報告されています。

トリプトファンはBBBを通過したのちにキヌレニンやキノリン酸へと変換されます。

キヌレニンやキノリン酸はそれぞれ酵素によって無害化されればいいですが、酵素活性が弱かったり、遺伝子変異によって酵素が上手く合成できない人もいるかもしれません。

特に、キノリン酸はグルタミン酸に拮抗して受容体に結合し、細胞を過度に興奮させてしまう可能性があります。

興味深いことに、キヌレニン経路は炎症性サイトカインで活性が亢進することも知られています。

ですので、こうした悪条件が重なると、前述のように様々な疾患を発症させてしまうリスクが出てくるのです。

上の図では、キヌレニンが無害化されて神経保護作用のある「キヌレン酸」なると書かれていますが、増えすぎた「キヌレン酸」が、精神病症状の発症期間と正の相関関係にあるとした文献も存在します。

トリプトファンは体内で作りだすことができない必須アミノ酸であると共に、神経伝達物質である「セロトニン」や睡眠ホルモンの「メラトニン」の材料になるので積極的な摂取は問題ないように見えますが、
実はトリプトファンからセロトニン・メラトニンへの変換は
代謝全体のわずか3-5%に過ぎないのだそうです。

これは、酵素活性のKm(ミカエリス定数)から把握できるとのことでした。

ですから、摂取したトリプトファンが確実にセロトニンやメラトニンに代謝されているかどうかはよくわかっていません。


因みに福岡先生は「国際トリプトファン研究会」の会員ですが、
その学会からも何本か論文が出ています。


2014年9月 統合失調症におけるキヌレニン経路の不均衡
国際トリプトファン研究会

Imbalanced Kynurenine Pathway in Schizophrenia

International Journal of Tryptophan Research
Magdalena E Kegel,1 Maria Bhat,2,3 Elisabeth Skoghら。

【サマリ】
いくつかの文献では、統合失調症の病態生理学上、キヌレン酸が何らかの役割を果たしていることが示されており、キヌレン酸が増加するとキヌレニン経路への加速が進み、統合失調症患者の脳内でキヌレニン酸の合成が亢進し、別の経路であるキノリン酸への代謝は抑制される。

当該文献では、統合失調症患者と健康な対照群での脳脊髄液中のキノリン酸濃度を測定し、キヌレニン酸及び他のキヌレニン経路の代謝物質との関連性を調査した。



福岡先生が青学で研究室を開いていた頃には、
キノリン酸代謝に関わるQPRTとACMSDの酵素遺伝子を
世界に先駆けて分子クローニングし、リアルタイムPCRによる
脳内微量定量法を確立しました。

その結果、この酵素遺伝子の発現レベルが栄養状態や
環境ストレスなどに左右されることを証明されたのだそうです。


更に、実際にQPRTノックアウトマウスを作り、キノリン酸が速やかに除去ができない個体を誕生させました。

この遺伝子ノックアウトマウスは一体どうなったのでしょうか?

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研究者と臨床医の観点

トリプトファンの代謝経路に関しては、
基礎研究に携わる人々と臨床医の立場にある人では、
現象に対する解釈や効果に対する捉え方が違うかもしれません。

ですが、いずれにしても、トリプトファンからのキノリン酸代謝に関しては、現在でも解明されていないことが多いです。

アカデミーではノックアウトマウスから明らかになった事象や最新の科学で解明できている事について、基礎研究に携わる人のお立場から講義をして頂く予定です。


また、先日ノーベル賞を受賞した大隅教授の「オートファジー」についても解説があると思います。
(10月4日 朝日新聞 朝刊 15面に、受賞直後の大隅教授と福岡先生の座談会のもようが掲載されています。)


アカデミーに参加申し込みの医科の先生は、高野まで個別にご連絡下さい。
既にご案内をお送りしているドクターは、メルマガをご覧下さい。

アカデミーの収録動画は後日一般にも販売予定です。