過剰なグルタミン酸が神経興奮と細胞死をもたらすメカニズム

こんにちは。奥田です。

先日、「福岡先生との対談音声」をお送りしました。
音声の内容は聞いて頂けましたでしょうか?

後半のVol2は講義テーマの「キノリン酸」について語っています。
アカデミー申込者のみに音声公開しています。

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グルタミン酸(キノリン酸)は神経毒になり得る

グルタミン酸が細胞や生体機能に悪影響を及ぼしてしまう機序については、既にご存知のドクターも多いかと思いますが、復習を兼ねてまとめてみたいと思います。

キーワード

イオンチャンネル型グルタミン酸受容体:
AMPA型、NMDA型、カイニン酸型の3種類がある。

NMDA:
N-メチル-D-アスパラギン酸のこと。
つまり、NMDA受容体はメチル化されたアスパラギン酸で構成されている。

リガンド:
特定の受容体に特異的に結合する物質。
リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。

アゴニスト:
受容体に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す物質。
生体内で作られる神経伝達物質と似た化学構造を持つことで、受容体と結合して神経伝達物質と同じような反応を引き起こす、外部から投与された化学物質も指す。

神経伝達物質の代わりに投与することで、神経伝達物質の放出時と同じ作用を人工的に起こす「作動薬」として用いられることもある。

以上をまとめると、『グルタミン酸はNMDA受容体のアゴニストとして特異的に結合するリガンド』ということができます。


グルタミン酸は興奮性アミノ酸

グルタミン酸は、中枢神経の主要な興奮性神経伝達物質であるため、記憶や学習などの脳機能に深く関わる物質であることが知られています。

正常な生体活動では、適度に神経を興奮させ、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇をもたらし、望ましい程度での神経伝達を引き起こします。

しかし、このバランスが崩れると、脳虚血やアルツハイマー病などの脳神経疾患やてんかん、精神疾患の原因になるとも考えられています。

グルタミン酸や受容体、それらの結合から生じる生理機能を解明することは重大な課題となっていますが、詳しいメカニズムに関しては未だ解明されていません。


グルタミン酸とキノリン酸の拮抗

さて、今回のアカデミーのテーマは「キノリン酸」です。

キノリン酸はグルタミン酸と拮抗することが知られています。
事実、キノリン酸はグルタミン酸よりもNMDA受容体への親和性が高いのです。

これは、福岡研究室での、キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(QPRT酵素)による実験から明らかになったそうです。

NMDA受容体

下記は、NMDA受容体の図です。
画像の説明

NMDA受容体上にはグルタミン酸やNMDAなどが結合する認識部位の他に、グリシン結合部位が存在すると考えられています。

このグリシンはNMDA受容体を介するグルタミン酸の反応を著しく増強することが知られており、さらにグリシンの存在がNMDA受容体の活性化にとって必須であることも示されています。

NMDA受容体にグルタミン酸(または、キノリン酸)が結合すると、カルシウムイオンチャンネルの開口に伴って、細胞外から内容内へカルシウムイオンが流入します。

興味深いことに、同じ2価イオンでもマグネシウム(Mg2)+イオンはNMDA受容体のイオンチャネルを透過せず、逆にチャネルを塞いでしまうことが知られています。


キノリン酸のNMDA受容体結合

脳神経細胞シナプスにおいて、NMDA受容体にキノリン酸が結合した場合のことを考えてみます。

画像の説明

画像の説明

脳神経細胞のNMDA受容体にはグルタミン酸(緑色)が結合しますが、
上記の図ではキノリン酸(黄色)を追記しています。

因みに、キノリン酸が、グルタミン酸と同じような細胞内小胞に乗って放出されるのかどうかはわかっていないそうです。

なんらかの理由で、シナプス間隙付近にキノリン酸があるレベル以上にやってくると、キノリン酸はNMDA受容体に結合します。

キノリン酸はNMDA受容体のアゴニストで、しかも親和性がグルタミン酸より強いので、過興奮させてしまいます。

・グルタミン酸=正常な興奮刺激
・キノリン酸=異常な興奮刺激

これがさまざまな神経疾患の原因となっているのではないかという「キノリン酸仮説」です。



細胞内へのカルシウムイオン流入

キノリン酸がNMDA受容体に結合した後、細胞内のカルシウム濃度を上昇させます。(図では紫色で示したCa2+)

細胞内のカルシウム濃度は100nMである一方、細胞外のカルシウム濃度は1mM程度です。
つまり細胞膜を隔てて、その濃度差は1万倍以上の差があります。

神経細胞はカルシウムを細胞内のメッセンジャーとして利用するために細胞膜上にカルシウムチャンネルという機構を持っています。

細胞に何らかの刺激が加わると、このチャンネルは一瞬だけ開きます。

この時、細胞外液中には細胞内の1万倍以上の濃度のカルシウムイオンがあるので、チャンネルが開くと、細胞外のカルシウムは一気に細胞内に流入し、細胞内カルシウム濃度が上昇します。

このチャンネルは通常すぐに閉じます。

そして、細胞内に流入したカルシウムはAPTを利用したカルシウムポンプという機構により再び細胞外に運び出されます。

細胞内にはカルシウムに反応して活性化するプロテアーゼなどの酵素がありますが、受容体から細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)が大量に流入したり、チャンネルが閉じないままでいると、汲み出し用のポンプがうまく作動せず、神経の細胞が死んでしまうことになります。

しかし、細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の上昇から神経細胞死に至る経路は単一ではなく、多くのメカニズムが絡んでいると考えられています。



カルシウムの過剰流入により生じる細胞死

代表的な死因は下記です。

1. ミトコンドリア障害
2.プロテアーゼ活性化
3. リパーゼ活性化
4. アラキドン酸遊離

カルシウム(Ca2+)により、様々な酵素が活性化されることが知られていています。

タンパク質分解酵素やホスホリパーゼなどの脂質分解酵、エンドヌクレアーゼなどの核酸分解酵素は、必要以上に活性化されると細胞骨格や膜脂質、核酸を破壊し、細胞死に直接的に関与するようになります。

また、一酸化窒素合成酵素の活性化やアラキドン酸の遊離により、細胞毒性の高いフリーラジカルの生成増加が起こり、細胞死が導かれる可能性も考えられています。

さらに、プロテインキナーゼなどのタンパク質リン酸化酵素についても、その過剰な活性化が、細胞の死につながることが示唆されています。


画像の説明
分子生物学者 福岡伸一 特別アカデミー
日時:2016年11月20日(日曜) 15:00~17:00(2時間)
場所:東京駅周辺を予定(八重洲)
会費:40,000円(税抜)
資格:医科の先生のみ

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・福岡伸一 プロフィール → こちら
・第1回目のアカデミーの様子 → こちら