江部先生や釜池先生、山田先生らが提唱してブームになった糖質制限。

糖質制限の効果を解説した書籍やダイエット体験談、糖質制限レシピなどが相次いで出版され、世間からも広く認知されるようになりました。

ちょっと前までは職場のランチで白米を抜いていると「なんで、ご飯食べないの?」としつこく聞かれたという人も、今では「糖質制限中なの」とか「ライザップでトレーニング始めた」と言えば、すぐに「あ~そうなんだ」と納得される時代になりました。

色々と詮索されるのが嫌な人には、アレコレ説明しなくても良いので有り難い時代になりましたね(笑)

いまだ賛否両論はあるものの、予防医学や健康維持、ダイエットの手法として根強い人気を誇っているのが糖質制限です。
雑誌では特集が組まれ、糖質制限と検索すれば物凄い数のウェブサイトがヒットします。

 

かたや、私たちが実践している「分子整合栄養医学」の状況はどうでしょうか?
あんまりパッとしないというのが、率直な印象です。

栄養療法に従事している医療関係者なら「最近は栄養療法も徐々に広まってきた」と感じるかもしれません。
ですが、いち一般人として私が感じるのは、「全然浸透してない」ということです。

 

糖質制限は、栄養療法の一部と言えます。

しかし、日本中に糖質制限という言葉が周知され、様々な業界の人か乗り出して大きな経済効果が働いているにも関わらず、栄養療法は未だ一部の医師だけが実践するだけに留まっています。

本来なら「栄養療法→糖質制限」の順番で浸透してもよさそうですが、完全に糖質制限に軍配が上がっています。

どうしてこういう状況になるのか解説します。

世の中に認知され、人気が出るための条件

ダイエットや健康管理に限らず、世の中で流行るものには原則があります。

1. 明確である
2. 簡単である
3. 意外性がある

これがヒットする商品の条件です。
糖質制限は登場したときから、この3つのメッセージが明確に消費者に伝わりました。

だから、人々は直感的に「糖質制限」というものを理解し、受け入れることができたのです。

一方で、栄養療法やオーソモレキュラー医学には、この3つの要素がありません。

要素がない…というか、学問の性質上、とても打ち出しにくいのです。

糖質制限にあって、栄養療法に欠けている3つの要素についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

明確である

糖質制限は、文字通り糖質を制限する食事法です。

どうして糖質(炭水化物)を控えると痩せるのか。

医学の難しい話は聞いてもイマイチわかんない!って人でも、
「とにかく、ご飯やパンを抜けば痩せられます」という話ですから、非常に分かりやすいのです。

人々の頭の中には、「炭水化物は太りやすい」という漠然とした知識が元からあります。

だから、糖質制限でこんなにやせましたよ。炭水化物を抜くだけで10キロ痩せましたよと言われ、
ビフォア-アフターの写真が掲載されていれば、もうそれだけで信頼に値する情報になります。

糖質の厳格が定義が分かっていなくても、ご飯やパン、麺類、ケーキ、お菓子、イモ類を食事で摂らないようにすればいいんです。

糖質を制限する=炭水化物を抜く

この方程式さえわかれば、余計な説明は不要。

糖質制限はこれ以上ないくらいに分かりやすさを追求したネーミングです。

簡単である

人は面倒くさいことを嫌います。

特に、自分が知識のないことや苦手なことは、見たくもないし、覚えたくもありません。

たとえは、家電量販店にいって20種類位あるデジカメの機種を見て混乱した経験はありませんか?
機種変更するのにスマホの種類を選ぶのが面倒だと思ったことはないですか?

デジカメやスマホのようなガジェットが好きだという人以外は、
細かい仕様なんてどうでもいいから、さっさと決めたいはずです。

色々な機能が付いたスマホやデジカメ、ブルーレイレコーダーなんて、
いちいちマニュアルを見て操作するのが面倒で仕方がないと感じている。

現代人は物凄い情報に囲まれているし、やることが沢山あってどうでもよいことには時間を割きたくないのです。

だから「簡単に実践できる」ことには、自然と興味や関心が向きます。

自分がやるべきことが一発で分かることがいいのです。

事実、世に溢れるダイエット方法や食事療法なんかも、簡単にできることばっかりです。

・朝バナナダイエット
・巻くだけダイエット
・ミキサーに全部突っ込む簡単スムージー

名前を見ただけで「簡単そう」って分かりますよね。

・朝にバナナを食べるだけで減量できる
・腰やお尻にバンドを巻くだけで痩せる
・ミキサーに果物を入れてスムージーを作る

超簡単です。

「こんなに簡単でいいの?」「これだけで終わりなの?」と思わせることがポイント。

頭を使わなくていいので、どんな人でも始めやすいし、実践するために大きなエネルギーを費やすこともありません。

 

これを糖質制限に当てはめると、「炭水化物を抜けばいい」という簡単さがあります。
面倒なカロリー計算とか分量計算とか必要ありません。

糖質さえ取らなければいい。

買い物の時に困ったら、パッケージの裏を見て「糖質量」をチェックすればいいのです。

小学生でも中学生でもすぐできる。

これが、糖質制限の「簡単」なところです。

意外性がある

多くの人に興味・関心を持って貰うためには「意外性」を持つことが欠かせません。

書店に並ぶビジネス書籍のタイトルなんかを見て貰えば分かりますが、タイトルで売上が決まる出版の世界では、意外性を打ち出すことで、いかに消費者にインパクトを与えて購入に誘導させるかに重点が置かれています。

・クビでも年収1億円
・可愛いままで年収1000万円
・非常識な成功法則

こういうタイトルは、すべて「意外性」を前面に出しています。

「クビになったのに1億ってどういうこと?」
「かわいいままで1000万円とかふざけたこと言うな!」
「非常識なのに成功するの?」

と…言った具合に、消費者の意識をこちら側に向けさせることができれば大成功です。

 

では、糖質制限の場合、どんな要素が「意外性」に該当するかというと

好きなだけお肉を食べていい

という点につきます。

これは、従来のダイエットで言われていた、「肉を食べると太る」という概念を覆しました。

特に、糖質制限の場合は、中高年の男性から大きな支持を得ましたが
その理由のひとつが「好きなだけ肉を食っていい」という事でした。

ダイエットをするには、食事の量を減らしてカロリーコントロールしなくてはいけないという定説があったのに、
糖質制限では肉を好きなだけ食べられる。

しかも、ブランデー、ウイスキー、焼酎などの蒸留酒は、含まれている糖質が少ないので
ほどほどに(場合によっては結構飲んでも?)大丈夫だと言われています。

ダイエット中なのに、肉も食べられて、お酒もOKときたものですから、
世の男性はすっかり驚いて、糖質制限に夢中になったのです。

糖質制限がブームになるのは必然だったのです。

 

以上が、糖質制限がブームに沸くきかっけを作った3つの要素です。

糖質制限のブームを後押しした他の要素

上記の3つの要素以外に、糖質制限は効果が短期間で現れやすいというメリットもあります。

糖質を食べないと、みるみるうちに体重が減少していきます。(個人差はありますが)
目に見えてその効果が分かるので、減量中のモチベーションも下がりません。

人によっては肩こりや腰痛、頭痛からも解消されたという人が続出したため
糖質制限は良いこと尽くめと言うイメージが定着しました。

また、糖尿病の人が血糖を良好にコントロールできる手段としても脚光を浴びました。

面倒なカロリー計算は不要で、肉や少量の酒は摂取することができます。
血糖を上昇させない甘味料を使えば、デザートも楽しめます。

食事から十分な満足感が得られるので、患者としても大きなメリットを享受できます。

健康な人、治療中の人、病気予防をしたい人、ダイエットしたい人、アンチエイジングをしたい人など
あらゆる層を巻き込めた事も、糖質制限ブームを後押ししたと言えます。

栄養療法はどうよ

翻って(ひるがえって)、栄養療法には糖質制限が結果を出したような「ブームになりうる素質」があるのでしょうか?

1. 明確である
2. 簡単である
3. 意外性がある

この観点から栄養療法を見てみると、見事なまでにポテンシャルが欠如しています。

栄養療法という言葉は不明確

栄養療法は、言葉だけを聞いてもまったくピンときません。

栄養療法とは介護職や病院食のことと思われているかもしれません。

では、栄養療法という言葉を、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学、
分子矯正栄養医学と言い換えてみたらどうなるでしょうか?

ますます、正体不明の言葉になります(笑)

だいたい、分子整合栄養医学とか分子矯正栄養医学っていう名称は、漢字が多すぎます。
日本語じゃなくて、中国語みたいです。

漢字は読めたとしても、意味を読み取ることはできません。
何のことだかさっぱり分かりません。


私たち人間は「自分が知識がないことには興味を持たない」という傾向があります。

例として、下記の単語を読んでみて下さい。

  • フィンテック
  • 大乗仏教
  • ディープラーニング
  • 長渕剛

さーっと文章を読んだとき、多くの人の頭には「長渕剛」しか印象に残らなかったと思います。

フィンテック、大乗仏教、ディープラーニングという言葉に興味を持ってくれた人ってどのくらいいるでしょうか?

ほぼゼロに等しいかもしれません。

これらの言葉を全く聞いたことがない人には、意味不明の言葉です。

・フィンテックとは、ファイナンス・テクノロジーの略。
・大乗仏教(だいじょうぶっきょう)とは、 1世紀頃に興った仏教の二大流派の一つ。
・ディープラーニングとは、人工知能の機械学習手法のこと。

よほどこの分野に興味がなければ、ほとんどの人には認知されていないでしょう。

だから、皆さんの頭には「長渕剛」しか残らなかった。

他の3つは「どーでもいい存在」として処理されてしまったんです。

 

因みに、長渕剛は、清原和博の引退試合で「とんぼ」を熱唱した歌手です。

“おーおーおーおーおおーおおおおおー♪ とんぼ~♪”

 

さて、話を戻しますが、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学はとても「不明確」な言葉です。

とにかく、分かりづらい。

この学問を説明するには、最低5分は必要なのです。

 

あなたがフィンテック、大乗仏教、ディープラーニングという言葉をスル―したように
世の中の人も分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学という言葉をスル―します。

こんな状態ですから、栄養療法はまったく流行りません。

栄養療法が簡単なわけがない

栄養療法が簡単に実践できないものであることは、既に皆さんもご承知でしょう。

治療を受けるとなれば全て「自費」です。

専門クリニックに行って血液検査をして、数日後に再び来院して結果を聞かなくてはいけません。
血液検査を正しく解釈し、患者に伝えるための知識も必要となります。
それを聞く患者自身も、一定以上のリテラシーが求められます。

人によっては、さらに便検査、毛髪検査、ホルモン検査、有機酸検査、アレルギー検査、遺伝子検査、メチレーション検査など、検査のはしご酒状態になります。

また、栄養療法では「体のしくみ」を覚えることも必要です。

副腎疲労症候群では、まず「副腎」という臓器の役割を理解し、体のどこに位置しているかを知る必要があります。

うつ病や自閉症などでは、脳の神経伝達物質について学ぶ必要がありますし、リーキーガット症候群では腸の粘膜細胞のことや免疫細胞の働きも把握しておかなくてはいけません。

食事にしたって、五大栄養素がどうやって消化・吸収・利用されるのかを勉強する必要があります。

体の代謝活動を支えるための酵素反応だって、難しい化学式が出てきたりします。

重金属や有害物質、カンジダで代謝が阻害されている場合は、どの代謝経路が乱れているかを見るのですが、複雑な「代謝経路」を見た時点で、普通の人は拒否反応を示すでしょう。

もー、とにかく難しいし面倒臭い!!!というのが実情。

こんなに手間がかかって、難解な学問に取り組もうとするなんて、よっぽど変態じゃなきゃできません(笑)

生化学の教科書とか代謝図を見て「楽しいなあ」とニヤニヤ笑っている私のようなマニアックなオタクしか集まらないのです。

意外性に勝るきな臭さ

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学は「サプリを飲むこと」だと誤解されています。

栄養療法=サプリを飲むこと だと勘違いされていることに、一言物申したいと考えているドクターは大勢いると思います。

しかし、事実として医療行為の中で栄養素を補充するにあたりサプリメントを使う場面は多いです。

そのため、結果的に「サプリを飲んで病気を治す」のが基本的な治療スタイルになるのですが、
これは人々に対して「意外性」というよりも「マユツバ物」という印象を与えます。

栄養療法には「病気の根本的原因に迫る」という至上命題はあるものの
サプリという手段に隠れてしまい、「なぜ栄養素が大切なのか」が訴求しにくいことが多いです。

まっとうな治療法であったとしても、
何か大きな病気をしたことがきっかけで知人が大量のサプリを買い込み始めたら
誰がどう見たって怪しいと思うはず。

栄養療法の世界を知らない一般人が、サプリメントを全力で否定するのは自然なアクションなのです。

栄養療法が市民権を獲得する余地はないのか

こうして考えてみると、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学は、市場性が薄い分野だと言えます。

学問形体のひとつとして、あるいは、根本的治療のひとつとしては優れた価値がありますが、
だからといって、一般大衆にまで広く認知される保障はありません。

この世界には、価値があっても世の人々に知られていない事は、星の数ほどあるからです。

私が考えるに、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学は、
これまでと同じように「ニッチな市場のみで展開される医療サービス」であり続けると思います。

治療において、一般化できるところは一般化して汎用性を持たせられると思います。
しかし、ほとんどが個別対応になるため、サービスをパッケージ化したり、業務を効率化するのは難しいかもしれません。

また、一部のドクターが、自分の興味の赴くまま、小さな縦穴をずっと掘り続けていくことが考えられます。

すると、栄養療法が今以上に細分化・複雑化して、
ますます外部の人にとって「実態が見えずらい存在」になっていくのではと個人的に予測しています。

 

もし「栄養療法で糖質制限なみのブームを起こしたい!」と思うなら、少しやり方を変える工夫が必要です。

糖質制限のように「明確で、簡単で、意外性がある」打ち出し方をする必要があるでしょう。

 

ただ、それを実現するとなると、一種の割り切りが必要になるんじゃないかと思います。

よく女性誌の特集にあるように

「○○を食べれば綺麗になる」
「○○で願いが叶う!」

とかいうキャッチフレーズがありますが、
こういう伝え方をしないと、残念ながら世の中では認知されないんですね。

 

たとえば、

  • 1日3回マルチビタミンのサプリを飲むだけで疲労知らず
  • マイナス5歳の美肌には高濃度ビタミンC点滴がお勧め
  • グルテンフリーの生活でお肌ツヤツヤ。愛され女子の新生活習慣!

みたいなことを言わないといけない(*´Д`)

 

このあたりは、ビジネスと割り切らなければいけないし、
個人の納得感や美学を犠牲にしなくてはいけない側面もあるでしょう。

もっと効率的に市場を広げていくのでれば、
影響力のある芸能人が栄養療法を実践していることをアピールするという強硬手段も
考えようによっては有効なマーケティング手法です。

 

果たして栄養療法が糖質制限のようなブームを巻き起こせるか。

わずかな可能性ですが、この業界をけん引していきたいと考える方は是非チャレンジしてみて下さい。