ビル・アンドリュース博士による「テロメアセミナー」が虎ノ門ヒルズで開催されました。

会場には沢山の聴衆が集っていました。
ゆうに500名は収納できる会議スペースでした。

宮澤賢史先生の冒頭あいさつ。

 

ビル・アンドリュース博士 

アンドリュース博士は、1981年からがんの研究に携わっており、分子生物学の第一線で活躍してきました。

2009年にテロメラーゼの解明に対して他の科学者がノーベル賞を受賞していますが、その後、「ヒトのテロメラーゼ」を最初に発見したのはアンドリュース博士です。

今回は、「最先端、テロメアレンスニング施術の現状と今後」というテーマで、テロメアを伸長する「エロメアーゼ」に対する期待と展望について講演されました。

テロメアとは?

テロメアとは、ギリシャ語で「末端(telos)」と「部分(meros)」から作られた造語です。染色体の末端に存在し、DNAの分解や復習から染色体を保護し、安定化する役割を担っています。

ヒトの細胞は分裂を繰り返すたびに、どうしても複製できない部分が残り、エラーが生じてしまいます。

このとき、エラー部分のDNAが短くなるために、末端にテロメアのDNA配列が重複してあることで、細胞分裂に伴うエラーを修復する働きがあるとされています。

ところが、テロメアは、細胞が分裂するたびに短縮していきます。そして、テロメアが一定のサイズよりも短くなると、染色体が不安定になり、老化現象が出現します。

一般的には、細胞分裂が50‐60回繰り返されると細胞は老化し、テロメアも短くなって、それ以上の細胞分裂は起こらなくなります。

テロメアを人為的に伸ばすことで若返りと寿命の延長を試みる

テロメアが長ければ長いほど、細胞分裂の回数が増えるので、寿命が延びると考えられています。

しかし、染色体の末端にある、テロメアの長さは生まれたときの「遺伝」によって既に決まっています。

白人よりもアフリカ人の方がテロメアが長く、また、女性よりも男性の方がテロメアが長いという傾向が知られています。

ヒトのテロメアDNAは10,000基ほどあり、加齢と共に数が減少します。生まれてから80歳を迎えるまでには、テロメアのDNA塩基の数は5,000にまで減ってしまうそうです。

年齢と共に現象するテロメアの数

こうした状況の中、いかにして「テロメア」を伸ばすかが、長寿や若返りを実現するための重要なカギになっています。

アンドリュース博士のように、テロメアを伸ばすための研究に日夜取り組んでいる医師や科学者は世界中にいますが、一般患者に(適正価格)で提供できる体制はまだ整っていません。

今回の「テロメア・セミナー」では、テロメアを静脈注射し、「活性化されたヒトテロメラーゼ遺伝子を細胞内に導入する」ことで、ヒトのテロメアを人為的に伸ばすという最新研究のおおまかな理論が紹介されました。

テロメアが短縮しないロブスター

ロブスターでは、テロメアを伸長させる「テロメラーゼ」という酵素が生産されています。この酵素の主たる機能は、テロメアが短くなると染色体の端にDNA塩基を付加しているそうです。

よって、ロブスターは、生後間もないときも、成人してからもテロメアの長さは変わらないんだそうですね。

カメや二枚貝、魚、クジラもテロメアが短縮せず、がんにもならないということした。

しかし、我々ヒトは、日々生きていく中でテロメアが短くなっていきますし、それに伴って、加齢や老化、がんなどの病気になります。

 

テロメア短縮で生じる病気

テロメアはヒトの長寿に大きな影響を与えているほかに、疾患リスクとも深い関わりがあるそうです。テロメアが短縮することで生じる病気に、下記があります。

  • 循環器系疾患
  • がん
  • 老化
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)
  • アルツハイマー病
  • エイズ
  • 肝硬変
  • 加齢黄班変性症
  • 骨粗しょう症
  • 間接リウマチ
  • 皮膚の老化
  • 筋ジストロフィー
  • ダウン症
  • 先天性角化不全症 など

テロメアを伸ばすための方法

テロメアを伸ばすための「魔法の薬」はないものの、日頃の生活で注意できることはあります。

  • ストレスを溜めない
  • 運動をする
  • 減量し、適度な体重を維持する
  • 禁煙
  • 悲観的にならずに楽しく暮らす
  • オメガ3系脂肪の摂取
  • 低脂肪の食事の実践
  • ビタミンDの摂取
  • 抗酸化物質の摂取
  • astragalus root(アストラガウス:おうぎ)

テロメアの不活化と再活性

ヒトでは生殖細胞や幹細胞、がん細胞以外の細胞では「テロメラーゼ遺伝子」が不活性な状態にあるそうです。

こうした細胞ではテロメラーゼが発現していないため、細胞が分裂するたびにテロメアが短縮します。

このとき、テロメラーゼ遺伝子に接触するDNAに、特定のタンパク質が結合すると、細胞にテロメラーゼ遺伝子が発現されなくなることが分かりました。

そこで、アンドリュース博士は、テロメラーゼ遺伝子を不活化させるタンパク質(リプレッサー)がDNAに結合しないようにすることで、テロメラーゼ遺伝子を活性化することを思いつきました。

このときに使用するのが、DNA結合を防ぐ特別な化合物なのだそうです。

また、ヒトの皮膚細胞でテロメラーゼを発現することができる物質として40万種もの化学物質を調査した結果、TAM-818という物質に行きついたそうです。TAM-818は、テロメラーゼの誘導を活性化させる最も強力な物質とのこと。

TAM-818を含有した世界でただひとつの最新エイジングケアクリームは、18万円だそうです(^_^;)

テロメアを伸ばすとがんのリスクは上昇するか

テロメラーゼによってテロメアを伸長することで、細胞分裂の回数が増えます。

これによって、若返りや抗加齢、長寿が実現すると期待されているのですが、同時に「不要な細胞分裂」を促進する可能性も秘めています。この現象に関しては、未だに科学者の間でも見解が分かれているそうです。

折しも、今日のテロメアセミナーが開催される直前に、NHKクローズアップ現代で「生命の不思議“テロメア” 健康寿命はのばせる」が放送されました。

クローズアップ現代では、ノーベル生理学・医学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーン博士にインタビューを行っています。

ブラックバーン博士は、テトラヒメナからテロメア配列を同定し、テロメアを伸長する酵素・テロメラーゼを発見したことで、2009年にノーベル賞をしています。

ですから、彼女はテロメア研究における「重鎮」です。

NHKに対してブラックバーン博士は、
「テロメラーゼは心臓病や認知症などの病気のリスクを低下させるのですが、残念ながら(過剰になると)逆に、特定のがんのリスクを高めてしまうのです。」
と延べています。

写真:NHK ウェブサイトより

ブラックバーン博士がテロメアの存在を「生態の在り様を解明したい」というスタンスから研究しているのに対して、アンドリュース博士は、抗加齢やがん治療に応用しようと非常に熱い意欲を見せています。

アンドリュース博士は、1981年からがん研究にも従事してきたため、ブラックバーン博士が「テロメアを長くするとがんのリスクを高める」ということに対して、様々なデータを用いて反論を試みていました。

「テロメアを伸ばすことで、がんのリスクが高まる」ことはなく、むしろ、「テロメアが短いと、がんをはじめとする疾患リスクが高まる」というのがアンドリュース博士の主張です。

つまり、(テロメアを伸ばす酵素である)テロメラーゼが欠如するとがんになるという考えを支持しているのです。

これまでは、テロメアを伸長することががんのリスクを高めるというのが業界の主流だったようですが、アンドリュース博士は、従来の常識を覆すべく研究に邁進しているということでした。

しかし、テロメア―ゼとがんリスクに対する明確な論争は、未だ決着していません。

「テロメラーゼの誘導によってがんのリスクが高まる」ことを証明する大規模な研究には、誰も着手していないからです。

現状出回っている文献は、「テロメアの長さと疾患リスクの関連性を示唆する」程度に留まったものばかりだからです。

そこで、アンドリュース博士は、今年の2017年の12月にフィジーに研究施設を設立し、テロメラーゼとがんの関連性を調査する研究に着手するそうです。ここで様々な新薬の開発やテロメラーゼを用いた臨床研究を行うと共に、がんとの関連性を調査する研究を勧めたいとのことでした。

エリザベス・ブラックバーン VS ビル・アンドリュース

ノーベル生理学・医学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーンとヒトテロメラーゼを誘導する薬品の開発に取り組んでいるビル・アンドリュースの主張は真っ向から対立しています。

両者のテロメアに対する見解や、科学研究への向き合い方、最新の研究内容は、下記の書籍から読み取れると思います。

細胞から若返る! テロメア・エフェクト (エリザベス・ブラックバーン著)

 

Telomere Lengthening (ビル・アンドリュース著) 
※こちらは間もなく最新著書が日本語版でも出るようです。

「テロメア」に関して勉強したい方は、いくつか書籍が出ています。こちらを参考にしてみて下さい。

テロメアセミナーを受けて感じたこと

今回の「テロメアセミナー」は、半日という短いであったため、テロメアに関するほんの触りの部分だけに言及するに留まりました。

クリニックでアンチエイジングやがん治療などに従事されている現役のドクターにとっては、もっと突っ込んだ話を聞きたいと思った方も多かったのではないかと思います。

ここからは、私の個人的な感想や疑問ですが、セミナーを受講して感じたことや疑問を備忘録として残しておきます。

・テロメアを静脈注射することで「活性化されたヒトテロメラーゼ遺伝子」を細胞内に導入するとありますが、異物が体内に入り込んで拒絶反応が生じないのかと思いました。肝臓で分解されないのかな?

・30年来テロメア研究一筋のアンドリュース博士。「ヒトテロメラーゼ誘導の薬品開発」という、iPS細胞にも匹敵するような偉大な研究をしていることは事実だと思いますが、これほど有望な研究ならベンチャーキャピタルやファンドによる巨額の投資やスポンサー支援があってもいいのになあ~と、つい余計な勘繰りをしてしまいました。

楽天の三木谷社長なかは、がんの新薬開発を行っている海外の企業に投資をしてるみたいですし、「テロメア」という魅力的な商売ならグーグルなどの巨大IT企業からの資本投入があってもよさそうですけどね。

・テロメアが短縮しないと、理論上は130歳くらいまで生きられるそうです。
でも、1世紀以上も生きる必要性はあるのかなあと思いました。健康なまま80歳くらいで、ぽっくりいった方がいいな~と個人的には思います。

・同時通訳の内容があまりにもひどかったので、途中から通訳マイクを外して英語で直接講義を聞きました。聞き漏れた箇所は少しくらいあったかと思いますが、主要ポイントは抑えられたと思います。

総括

「テロメア」に関しては全く知識がありませんでしたが、今回のセミナーで最新の研究内容を知ることができて、学びを得ることができました。

 

昨今の科学研究においては、「商業的な成功」や「実利に直結すること」を念頭においたものが評価されがちです。

その一方で、「人間や自然のあり様を知りたい」「この世の成り立ちを純粋に解明したい」といったエリザベス・ブラックバーンの研究に対する姿勢は、とても大切なことだと感じます。

役に立つかどうかは別にして、純粋に「研究が好きだから」という気持ちは、科学の世界に限らず、あらゆる教養を養う意味で重要だと思います。

テロメアに関しては、機会があれば、分子生物学者の福岡伸一先生にも聞いてみたいと思います。

以上、テロメアセミナーの感想でした。