肉や魚、乳製品などの動物性たんぱく質を摂取した際の代謝(たいしゃ)は、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を学ぶ上で押さえておくべき知識のひとつです。

代謝とは、生命維持に必要なエネルギーを作り出したり、摂取した食品を消化・吸収したり、毒素を体内に排泄したりするために体内で行われる「生化学反応」の事を言います。

ここではタンパク質の代謝(消化・吸収)のメカニズムとタンパク質の合成要素である「アミノ酸」について、「アミノ酸プール」の概念を引き合いに出しながら解説します。

YouTubeによる動画や勉強に役立つ書籍も紹介していますので参考にして下さい。

 

尚、ここに記載しているイラストを学会やセミナー等で使用されたい場合、「栄養療法.jpからの引用」であることを明記頂ければどなたでも自由にお使い頂けます。
(管理人への連絡は不要です。他記事に掲載している文章やイラスト図も同様です。)

タンパク質の代謝システム

食事から摂取されたタンパク質は、胃液に含まれる胃酸とペプシンという消化酵素で分解されたのち、十二指腸でトリプシン、更に小腸でペプチダーゼによって最終的にアミノ酸まで分解されます。

タンパク質がバラバラになったアミノ酸は、小腸の上皮細胞から取り込まれ、毛細血管から門脈を通って肝臓に運ばれます。

肝臓に運ばれたアミノ酸は、体内で再び必要なタンパク質合成に利用されます。

体内では食事から摂取したタンパク質を分解して得たアミノ酸の他に、体タンパクの分解から生じたアミノ酸も存在します。

つまり、食事由来と体タンパク由来のアミノ酸は、互いに区別されることなく利用されます。

摂取した食品と今まで自身の肉体にあったタンパク質が融合するというわけですね。

ヒトはアミノ酸を材料として、心臓、肝臓、脳などの臓器や筋肉、神経伝達物質、抗体、ホルモン、酵素やヘモグロビンなど、生命活動に必要な様々なタンパク質を合成します。

生体では、食事の摂取と体タンパクの分解から得たアミノ酸をもとに、その量に応じた分だけ、新たにタンパク質が合成されるということを繰り返しています。

体内で合成されるタンパク質の総量(体重60kgの成人で180g/日)は、食事によって摂取されるタンパク質(成人男子の所用量で70g/日)よりも多い。

成人では見かけ上、(身体を構成する)タンパク量は日々変わらないと考えられるので、新たに合成されるタンパク質のかなりの部分が、体タンパク質の分解によって生じたアミノ酸を再利用して合成されている。

オリジン生化学研究所 引用

 

アミノ酸スコア」の記事では、ゆで卵から摂れるタンパクの量について言及しましたが、ヒトの身体機能を維持するには、ゆで卵を20個食べたところで到底少なすぎる量であることが理解できます。

 

アミノ酸プールとは

さて、ヒトタンパクを合成するのには20種類のアミノ酸が必要ですが、身体を維持するだけの量が不足してしまったら一体どうなってしまうのでしょうか?

アミノ酸が辿る運命は2つです。

  • 非必須アミノ酸(11種)が不足した場合
    ヒト細胞の中にある材料を使って必要なアミノ酸を作り出す


  • 必須アミノ酸(9種)が不足した場合
    食事から摂取量が不足したら必須アミノ酸からタンパク合成をする道は閉ざされる


食事から9種類の必須アミノ酸がまんべんなく摂取することができなければ、我々のヒトの生命活動は成り立ちません。

必須アミノ酸は1種類でも欠けると、正常なタンパク質を作ることができないとされているからです。


しかし、我々は毎日9種類のアミノ酸をきちんと摂取できているかと問われると、必ずしもそうとは言い切れません。

日常生活において、タンパク質(アミノ酸)を摂取できないシーンはたくさんあるからです。

  • 風邪をひいて食事ができない
  • ファスティング(断食)をしている
  • ケーキとチョコレートを食べる日々

こういった状況であっても、私たちは生命活動を何とか維持できています。

これを裏付ける概念的な論拠として引き合いに出されるのが「アミノ酸プール」です。

別名「アミノ酸の桶の理論」とも言われます。

アミノ酸プール

 

 

アミノ酸プールはどのように利用されるのか


ヒトには身体に「アミノ酸」の貯蔵庫で予備を備蓄しておくことで、体内でアミノ酸が不足した時の為に素早く使用できる機能が備わっています。

「アミノ酸プール」は、タンパク代謝に利用される遊離アミノ酸のことで、血液および各組織に存在します。

遊離アミノ酸は食事由来や体タンパク(たいたんぱく)由来のアミノ酸としてプールに貯蔵されつつ、遊離の状態になっているので細胞の中や血管の中を巡り、必要に応じてプールを行き来しています。

体内で最も大きなアミノ酸プールは骨格筋で、全アミノ酸プールの 50%以上を占めるとされています。骨格筋1Kg重量あたり3~4gの遊離アミノ酸を貯蔵しています。


アミノ酸プールは一定量を越えると過剰分は分解されエネルギーとして使われたり、グリコーゲンや脂肪として貯蔵されます。

グリコーゲンとは、筋肉と肝臓にあるエネルギーの一時保管所の事です。

余剰のグルコース(ブドウ糖)を一時的に貯蔵しておくための場所と考えると分かりやすいです。

 

エネルギー保管庫のグリコーゲン

グリコーゲンは、多数のブドウ糖が複雑に繋がった多糖類(たとうるい)で、骨格筋で筋収縮のエネルギー源となるほか、肝臓のグリコーゲンは血糖値を一定に保つために使われるなど様々な役割を担っています。

 

グリコーゲンの図

 

グリコーゲンは空腹時や絶食などで血糖値が下がった際にグルコースを放出し、活動に必要なエネルギーを供給するよう働きます。

しかし、肝臓中にあるグリコーゲンの量は意外に少なく、ブドウ糖のストックとして大人でも約60g程度と言われています。

12~18時間絶食すると、肝臓のグリコーゲンはほぼ枯渇するとされています。

筋肉のグリコーゲンは運動負荷後にのみ消費されます。

 

グリコーゲンの材料はグルコース(ブドウ糖)ですが、グルコース以外に、糖原性アミノ酸からもグリコーゲンが作られます。

糖原性アミノ酸には、アラニン、アスパラギン酸、メチオニン、スレオニン、バリン、グルタミン酸などの種類があります。

糖原性アミノ酸はTCA回路のATP合成やオキサロ酢酸から糖新生に入り、グルコースに転換されます。

グルコースを生成し、血中に放出して血糖値を上昇させる役割も担います。

 

アミノ酸はバランスが悪いと効率的に利用されない

食事から摂取したり、身体から分解されたアミノ酸ですが、そのすべてがヒトのタンパク質に生まれ変わり、再利用されるわけではありません。

ヒトのアミノ酸の再利用率は、一説には50~70%だとされています。

タンパク源を全く摂らなかった場合、1日に30g以上ものタンパク質が利用することが出来ない形のまま分解され、身体から排出されるとも考えられています。

下記、アミノ酸プールの図のように、特定のアミノ酸が十分だとしても、別の種類のアミノ酸の量が不足すればプールの水は低い方の高さまでしか入りません。

例えば、リジンが不足すると、他のアミノ酸がいくら沢山あってもプールの中の水は漏れてしまいます。

 

 


アミノ酸プールに関して、分子生物学者で青山学院大学の教授である福岡伸一先生は「動的平衡2」の中で次のように述べています。

9種類のアミノ酸をバランスよく摂取しなければ、体は少ないものに合わせてタンパク質を合成する。
一種類でも不足すれば、他の余分なアミノ酸は捨てられる。

福岡伸一


ここまで読み進めていくと、タンパク質の摂取において最も重要なことは「20種類すべてのアミノ酸をアミノ酸プールに準備しておくこと」という結論に行き着きます。

多種多様な食品からまんべんなくタンパク質を摂取して、バランスを取るのが最も効率的であることは異論の余地はないように思えます。

しかし、アミノ酸プールに対する目下の問題は、

  • 今自分の身体の中でどのアミノ酸が不足しているのか
  • プールから水がじゃぶじゃぶ漏れている原因が何なのか

を把握するのが簡単ではない事です。

アミノ酸を片っ端から摂取すれば自分の身体を思うようにコントロールできる…という訳でもないので、一筋縄ではいきません。


タンパク不足であることは自分の身体のコンディションから何となく推察できるものの、「自分はロイシンとメチオニンとトリプトファンが足りない…」といった具合に、個々のアミノ酸不足まで言い当てることは、現代科学を持ってしても不可能です。

また、非必須アミノ酸は生体内で合成できるので摂取を怠るなど、油断していいものかと言えば、そうでもないような気もします…

遺伝子の振る舞いやエピジェネティクスの観点から、自分はグルタミン酸を合成・代謝する力が弱い…という事実があったとして、その一つのピースが欠けていることが、全身に大きな問題を生じさせているのかもしれないと考えることもできるでしょう。

タンパク質やアミノ酸の事を勉強すると、色々なクエスチョンが頭に浮かんできて想像は尽きません。

 

動画で学ぶタンパク質代謝

タンパク質の消化・吸収(異化と同化)をYouTubeで説明しています。

 

タンパク質代謝について学べる書籍

タンパク質の代謝やアミノ酸に関してもっと勉強したい場合は、下記の書籍を参考にしてみて下さい。

分子整合栄養医学やオーソモレキュラー医学を学ぶ上で必須知識となる「生化学」を理解することができるようになります。

ポケットアトラス栄養学
ハンス・コンラート・ビーザルスキ

 

トコトンわかる図解 基礎生化学
池田 和正

 

動的平衡2 生命は自由になれるのか
福岡伸一